女性の悩みに寄り添う。更年期症状への理解が、個人や社会の更なる成長につながる

更年期という言葉を聞いたことがある方は多いだろう。ホルモンバランスの乱れによって心身に不調が出てしまう時期である。更年期の症状が原因で、キャリアや家族関係に影響が出てしまう女性も多いようだ。そんな女性の悩みに寄り添い、自分の状態を可視化し周囲のサポートを受けれるようにするサービスが『よりそる』だ。事業代表の高本玲代に、更年期症状による個人・社会への影響や、事業化の経緯などを聞いた。

【プロフィール】高本 玲代(たかもと あきよ)
株式会社uni’que、女性のココロとカラダの見守りサービス「よりそる」事業代表。大手企業2社を経て、スタートアップヘルスケア2事業を手がける。その中で更年期を発病。その経験が原体験となり、パートナーも巻き込み更年期女性の心身をサポートするサービス「よりそる」を開発。現在ではtoC展開だけでなく、企業向けのプログラムも提供したり、神戸市のSDGsプログラムに採択されたりしている。また、日経xwoman・ヨガジャーナルなどで執筆活動も行なう。2015年に米国MBA取得。

多くの女性が悩まされる更年期症状

ー『よりそる』は更年期の方を対象としたサービスですが、そもそも更年期とは何ですか?

ホルモンバランスの乱れから自律神経がやられてしまって、心身が影響を受けてしまうのが更年期の特徴です。更年期は一般的に45歳から55歳を指すと言われています。閉経が50歳くらいなので、その前後5年ですね。ただ、初潮と同じで早い人がいれば遅い人もいます。更年期になると女性ホルモンの分泌がだんだん低下していって最終的にはほとんど出なくなってしまうんですけど、その減少の仕方が一定ではなくて、上下しながら少なくなっていくので、ホルモンバランスの乱れにつながるんです。生理痛やPMS(生理前症候群)と同様にその症状の重さも人それぞれなので、そこがまた周囲の理解の難しさに繋がってきます。

主な症状としては、疲れやすくなる・睡眠障害・肩こりなどの痛みが挙げられます。「ちょっと疲れが溜まっているんだろうな」と見過ごされがちなのですが、実は疲労ではなく更年期が原因だったということはよくあります。あとは暑くもないのに汗が出る”ホットフラッシュ”なんかも有名です。

 

ー更年期の症状が理由で、仕事や家族関係にも影響があるのでしょうか?

働く更年期女性に行なったアンケートでは、通常時のパフォーマンスを100とすると更年期のパフォーマンスは57に落ちたと感じるというデータも出ています*1。さらに、更年期が原因で離職する方が約2割もいたり*2、企業側から昇進の提案があっても半分の人が更年期の辛さを理由に断ったりする*2というデータもあります。なので、女性のキャリアという面から考えると結構深刻だと思っています。

離職となると家庭の収入にも影響するので、家庭内の問題に繋がる可能性もあります。更年期で夫婦の関係が深刻になったという方は約2割*3に上りますし、夫婦間の関係が悪くなると親子関係にも影響する場合があるでしょう。このように仕事にも家庭にも影響を及ぼす可能性があります。

*1:ホルモンケア推進プロジェクト
*2:Financial Times
*3:日経Premie 更年期を快適に過ごす本

 

ー高本さんご自身の経験が事業立ち上げのきっかけになったと伺いました。

スタートアップにいたこともあって、いずれは自分も起業したいなという気持ちは昔からありました。そんな中、自分も更年期の症状が酷くなってきたんですね。同時に、Twitterなどで調べてみると更年期の症状で辛いという発信をしている方が結構多くて。自分自身もなんとかしたいことだし、これは世の中的にもニーズがあることだなと思って『よりそる』を始めました。

 

更年期を知り、自分と向き合うためのサービス

ー『よりそる』の具体的な機能について教えてください。

『よりそる』は月々定額でカウンセリングを受けたり、この時期の夫婦の過ごし方をパートナーと決めてもらうことができるオンラインプログラムサービスです。まずは当事者やそのパートナーに更年期について知ってもらうことを目的とした情報発信を行い、2人でどうしていくか決めてもらうのです。更年期になるとメンタルが落ちてしまうことも多いので、最近はメンタルケアに役立つ情報なんかも配信してます。さらに、日々LINEで送られてくる質問にテキストや専用スタンプで返信することで、今の心身の状態を可視化できるようになっています。これによって自分で理解を深めたり、パートナーに共有して理解や協力を仰ぐこともできます。また、メンタルケアということでテキストベースでのカウンセリングとweb通話でのカウンセリングを合わせて月に最大5回行なっていて、更年期の女性やサポートする男性を総合的にサポートしています。現在は100名程度の方にご利用いただいています。

 

ーサービスはどのように着想を得られたのでしょうか?

自分の原体験として、更年期についてよく知らなかったという状況がありました。当事者である女性が知らないってことは当然男性も知らないんですよね。更年期に入って具合が悪くなったり、イライラしたり落ち込んだり。その原因が自分でも分からないし、パートナーはなおさら分からず夫婦関係が悪化してしまったんです。そこから私は、更年期について調べて、パートナーに共有して両者が知識を深めることを実践しました。また、自分の心身がどういう状態なのか相手に伝えることを徹底したのですが、そうすることで関係もかなり改善しました。こういった経験があったので、これをサービス化して再現性を持たせればいいのではないかと思っていたんです。実装の際には使いやすさを考え、日々使う方の多いLINEを用いようという風になりました。

 

ーテキストカウンセリングではどういったやりとりがされるのですか?

身体のご相談よりは、人間関係やキャリアとそこに付随する夫の対応といった悩みのご相談を受けることが多いです。そして初期は悩みを聞いてほしい、寄り添ってほしいという方が多く、次第に使っていく中での疑問点などを確認される印象です。体調が悪い時期に入って今まで出来ていたことが出来なくなってしまったとか、人付き合いが億劫になってしまったというご相談があります。イライラしてしまって夫婦関係が悪化してしまったというようなご相談もあり、最近では男性からの相談も多いです。そこをフォローするようなカウンセリングを行なっています。ネガティブ思考になってしまうことが多い時期なのですが、それって思考の癖なんですよね。思考の癖をすぐに矯正するのは難しいですが、それを認知して受け入れ、心を軽くしていくようなことに努めています。もちろん治療やキャリアなどについて具体的な解決策を求めている方もいらっしゃるので、そういった方に対して適切な医療機関や支援機関をご紹介したり、キャリアのご相談に乗ったりしています。

 

 

相談フォームからテキストで相談できる

 

ー女性がお一人で使う方法と、パートナーと一緒にお二人で使う方法があるそうですね。

1人用はまず自分の心に向き合っていただいて、ご自身が元気になることを目的としています。そして、最終的には2人で使えるまでサポートしています。2人用は、パートナーに心身の状態を知ってもらって、サポート役になってもらうことを目的としています。2人用の場合は、お二人で共有しておいた方が良いことを代わりに伝える役割も担っています。例えば、体調が悪いときはどうして欲しいか、何に一番ストレスを感じているかといったような質問です。

どちらも同じ料金なので、どちらを使っていただいても良いという形になっていますが、傾向としては夫に相談することに躊躇がある方はまずは1人用から始められる方が多いです。メンタルの深刻な状態をまずは1人用で回復させて、女性が自分のWILLを伝えられるように成った段階で2人用に移られることが多いと思います。

 

ー対女性と対男性で何か違いはあるのでしょうか?

配信される内容は同じですが、言い回しは変えるようにしています。これはあくまで傾向の話ですが、男性は女性がどうしてイライラしてしまうのか、更年期の症状はどうして起こるのかといった理由やメカニズムを知ることで腹落ちする方が多い気がします。そして、原因を知れば自分もコミットしようと思ってくれやすいです。なので、そういった部分を配信しつつ、男性のサポートが重要ですよとお伝えするようにしています。

 

ー利用者の方からはどのような声がありますか?

女性は、必要以上にネガティブに捉えると言った思考の癖に気付けたことで、そこに向き合いながらより良く暮らしていくにはどうしたら良いか考えられるようになったというお声をいただきます。自分の状態を理解できるようになってQOLが上がったという方や、パートナーの協力を得られるようになってお互い生活しやすくなったというお声が多いです。

男性の意見としては、これまではパートナーがどうしてイライラしているか分からず何も出来なかったけど、『よりそる』では言葉として相手の状態がわかるのでどう対処したらいいかわかりやすくなったというものがあります。

 

テキストカウンセリングだからこその利点

ー悩みを相談することに抵抗を感じる方もいらっしゃると思います。相談のハードルを下げるために工夫されていることはありますか?

面と向かって相談となると抵抗を感じられる方も多いかも知れませんが、『よりそる』のカウンセリングは基本的にテキストベースなので、相談しやすいのかもしれません。webでのカウンセリングも実施していますが、そちらは使わずテキストのご相談だけという方が9割です。また、価格も大きいかなと思います。月々税抜き1,980円で5回のカウンセリングができるというのは、他のサービスと比較しても破格なんじゃないかと思います。低価格なので試してみようかなと思っていただきやすいし、辞めようと思えばいつでも辞められることでサービス利用のハードルが下がっているのではないでしょうか。

 

ー『よりそる』はどうして低価格が実現できているのでしょうか?

カウンセリングというと対面で行っているサービスが多いと思いますが、『よりそる』はテキストベースもしくはwebでのオンラインカウンセリングなので、低価格を実現できています。テキストベースであることは価格を抑えられること以外にも良いことがあって、それは利用者さんが文章を書くことで自分の気持ちが整理されることです。相談の内容を書いた段階で割とスッキリしたという方も多いです。自分の状態を俯瞰して文章化することで、こちらからお送りするアドバイスや情報を冷静に受け止められるというような効果もあります。

 

ー医者ではなく同じ悩みを持っている高本さんにご相談できること、カウンセリング費用が安いこと、テキストベースのカウンセリングでパートナーと利用することもできることが『よりそる』の特徴であり、強みになっているんですね。

 

女性の活躍を推進したい企業とともに

ー法人向けのサービスはどのようなものですか?

企業様に向けては、主に更年期の症状やそれによる女性のキャリアへの影響について研修させていただく形を取っています。そして最近多いリクエストが「職場の男性に理解してもらうこと」で、そちらにも取り組んでいます。それに加えて、企業様によっては『よりそる』のLINEサービスを導入いただいています。個人向けサービスは、自分の状態を知ってメンタルを回復させたりより良く暮らしていきましょうという部分が肝になってきますが、法人向けサービスは、更年期の女性への理解を職場全体で深めたり、ケアを企業として行うことが企業のメリットにもなりますよという設計になっています。これまでPOLA様やデロイトトーマツ様に導入いただいています。

 

ー今後どんな企業にどんな訴求をしていきたいか教えてください。

実際ご相談が多いのは、女性特有の健康問題をいかに男性にも自分事で考えてもらいたいかを課題にしている人事・D&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)の担当の方です。是非そういった企業様にぜひ使っていただきたいなと思っています。更年期の症状はやはり業務にも影響が出てしまう。そうなると本人や周りの方がその影響を知っているかどうか、またサポートできる体制であるかどうかでチームや会社としての結果も変わってくると思います。活躍したい女性がいるけれど体調面から難しかったり、D&Iの部署などをおいて女性活躍に取り組んでいるけどこれまでの仕組みではなかなか難しかったりした企業様に導入いただけると嬉しいですね。

女性活躍推進法が改正されて、企業は女性活躍に取り組む必要性がますます高まりましたが、そういった義務感からではなく、「これってうちの会社にものすごく影響あるよね」「部下や奥さんが更年期で動けなくなったら仕事にならないよね」と社内の方が熱い思いを持って取り組まれている企業様に使っていただくととても満足度が高いサービスではないかと思います。

 

フェムテックの中でもこれからの領域

ー近年フェムテック領域は成長が著しいですが、更年期女性向けのサービスも同様に増えているのでしょうか?

医者に更年期の症状について相談できるサービスや、自宅でできるホルモンバランス検査を提供しているサービスなどが日本でも出てきています。しかし、それでもその他のフェムテック領域と比べるとまだまだ少ない印象です。その理由は大きく2つあると思っていて。1つは、日本では女性の活躍に注目が集まり始めたのが比較的最近であるという点です。今や働く女性の4人に1人が更年期世代と言われていますが、更年期による離職や昇進の断念にはまだ関心が薄い現状があります。もう1つが、更年期世代の女性起業家が少ないという点です。起業家って原体験に基づいてサービスを作っていく方が比較的多いですよね。自分が経験していないことって事業化しにくいんだと思います。私みたいにこの歳になって事業を立ち上げる人が多くないことも影響しているのではないでしょうか。もう少し経って、国内外で更年期女性向けのサービスで上手くいくものが出始めたら、当事者以外の参入も増えるんじゃないかと思います。

 

ー更年期女性を対象としたサービスならではの難しさはありますか?

知らない問題を認知させる難しさがあります。特に法人に向けて働きかけるときは、決裁者が男性だと進みにくいような状況もあります。担当者の女性は「ぜひやりたい」と言ってくださっても、更年期症状とそれによる会社への影響が知られていないがために決裁いただけないような。あとは、その障壁を知っているからこそ、そもそも担当者が社内でこういったことに取り組むハードルが上がっているような状況もあるのではないでしょうか。個人向けでも同様で、最初にお話しした通り、この時期の疲労やメンタルの不調って本当は更年期のせいなんだけれど、それを知らないが故に当事者もパートナーも解決策に辿り着けないようなこともあります。だからこそ、更年期について広く知ってもらうことは最初のきっかけであり、同時に難しさでもあるのかなと思います。個人の問題だと思っているものは、実はみんな抱えている問題で、社会や会社も変わっていく必要があるよねという風に持っていくことがポイントだと思うので、個人と社会の両方にアプローチを続けていきたいです。

 

ー高本さんはSNSで更年期について発信することに力を入れておられますが、「まずは知ってもらわなければ」という背景があるからなのでしょうか?

SNSでの発信から更年期やサービスについて知ってくださる方も多くて。積極的に自分のビジョンや取り組みは発信していこうと思っています。発信において意識しているのは、当事者としての言葉で伝えることです。私は医師ではないので、医療の情報については一般的な事しかお伝えできませんが、自分がどういう治療をしてきたかや、医師と話すときに患者としてどういうスタンスで居たか、パートナーに理解してもらうために必要なことは何かということを伝えられると思っています。日々試している健康法や、メンタルのお悩みに寄り添うようなことを同じ目線で発信するようにしています。

兵庫県SDGsでお話しされた際のお写真

 

誰もが1人で悩みを抱えない社会を

ー今後の展開についてお伺いしたいです。

toBとtoCの両方をしっかりと進めていきたいです。toBは先ほどお伝えしたように、社内で女性特有の健康問題を女性の活躍の阻害要因と考えておられる熱量の高い会社さんにいかにして刺していくかが課題かなと思っています。toCは、これまでサービスを提供してきてある程度ターゲットと訴求方法が見えてきた段階なので、今後は早く・広く届ける仕組みをいかに作っていくかだと思います。また、現在はAIを入れて配信コンテンツのパーソナライズを進めているところなので、個別化の精度はどんどん高めていきたいですね。

 

ー事業を通じて実現したい社会はどのようなものですか?

1人で悩みを抱えない社会にしていきたいです。悩みが深ければ深いほど、どうしても他人に言えずに自分だけで抱え込みがちになってしまう。TwitterなどのSNSで悩みを発信されている方もいますが、炎上などのリスクもありますよね。友人に相談するにしても、内容によっては相談する側も相談を受ける側もどうしていいか分からないこともありますし。そういった状況に置かれている方が安心して相談できる場を提供して、やがてはうまくパートナーも巻き込んで1人で辛さを抱えなくて良い社会を目指して事業を続けていきたいです。

よりそるHP https://uni-que-inc.com/your/yorisol

 

 

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    interviewer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

     

    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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