衛星データ×AI×農業。衛星データを用いて、世界中の農業課題の解決へ
インタビュー

衛星データ×AI×農業。衛星データを用いて、世界中の農業課題の解決へ

2021-08-31
#農林水産 #テクノロジー

現在、衛星から様々なデータが取得できるようになっているが、その活用方法は未だ開発途上であると言われている。サグリ株式会社では、衛星から得られるデータと地上の現場におけるデータからアルゴリズムを構築し、農業分野を軸に地球上に暮らす私たち人類の営みをより良くするサービスを展開している。今回は、サグリが現在提供しているサービスである、農地状況把握アプリ『ACTABA』と農地区画データの 『AIポリゴン』について詳しく伺った。

【プロフィール】

坪井 俊輔(つぼい しゅんすけ)

1994年に神奈川県で生まれる。サグリ株式会社代表取締役社長。横浜国立大学理工学部機械工学科にて、土壌と機械の相互作用分野の研究を行っている。

大学時に、民間初の宇宙教育の会社、株式会社うちゅうの立ち上げを行い、学生起業を行う。

その後、衛星データ(Satellite)×機械学習(AI)×区画技術(GRID)を掛け合わせ、農業や、環境における課題解決を行うサグリ株式会社を設立。令和元年度における農林水産省デジタル地図を用いた農地情報の管理に関する検討会の委員を務める。インド・バンガロールにも子会社を設立。延べ15回の受賞実績がある。ダボス会議が任命する若手組織の一員であるGlobal shaperであり、iU専門職大学の客員教授。

宇宙から耕作地をAI分析する

ーサグリの現在の事業について教えてください。

現在は、耕作放棄地を発見するアプリ『ACTABA』と農地区画データ 『AIポリゴン』のサービスを中心に提供しています。農地状況把握アプリ『ACTABA』は、衛星データを解析し、耕作されている農地か、放棄されている農地かをAIに学習させることによって、目視でパトロールを行わなくても、衛星データから農地の状態を簡単に捉えることができます。これにより、行政が毎年行っている農地パトロールの負担を軽減することが可能です。農地区画データ『AIポリゴン』は、農地ごとに区画化することで営農管理*を効率化することができるサービスです。国内農地の区画情報を教師データ*としてAIの画像認識技術による自動化を行うことで、世界中の農地のポリゴン*化を目指しています。農地のポリゴンは、スマート農業によりデジタル化されていく中で、基盤となる情報として期待されています。将来的にはこのAIポリゴンがインフラとして、スマート農業におけるハードとソフト両面の様々なツールと連携することを想定しています。

 

*教師データ・・・機械学習の際に入力するデータに対してラベル付けを行い、それを学習していくことで機械に正解のデータを分類、もしくは数値を予想させる能力を持たせようとするもの。
*ポリゴン・・・多角形の平面データのこと。
*営農管理・・・​​圃場の状況、日々の作業、会計情報などを管理すること。

 

ー最初は『SAgri』というサービスから始められたんですよね?

現在はサービスを停止していますが、農家さんが自分の農地情報を記録することのできる『Sagri』というサービスを提供していました。衛星情報から、土壌の状態や収穫時期などをAIが分析し、農家さんに伝える仕組みです。『Sagri』を導入していただくことで、農作業を効率的に行えるというメリットがありました。バグの改善やユーザー利用の最適化などを考えて、もう一度リリースする予定です。

こちらはインドでも提供を行なっていたのですが、現地では農家さんの信用創出にも役立っていました。農業は農薬や農業機械などで莫大な費用がかかる一方、気候などの影響で収穫量が変わり収入が安定しません。このような状況を変えるために、日本ではJAバンクなどの公的機関がありますが、インドなどの外国ではそのような機関が少なく、消費者金融が多いため、農家さんが適切な利子で金融機関からお金を借りにくいという固有の問題があります。しかし『Sagr for microfinancei』では農地の状態と耕地面積から予想される収穫量を示すことができるので、これが農家さんたちの信用情報となりました。これによって現地では金融機関から農家さんへの融資の数も増やすことができました。

行政と農家の業務を軽減する

ー『ACTABA』と『AIポリゴン』はどのようにして生まれたのでしょうか?

そもそも日本では平成21年の農地法改正で市町村による農地パトロールが義務化され、これまでよりさらに詳しく耕作放棄地や農地の違反転用の実態を把握するために、毎年8月から10月にかけて市内のすべての農地を対象にパトロールが実施されています。このパトロールには、夏の暑い日に現地にわざわざ出向いて目視で確認するため、煩雑な業務工数がかかっています。そんな中、つくば市役所からパトロールを効率化させるために私たちの技術を使いたいという提案がありました。そこで衛星から得られる波長データをもとにAI解析によって耕作放棄地かどうかを判断できるようなサービスを開発し、これが現在の『ACTABA』に繋がっています。

また、『ACTABA』のサービスを応用させて日本全国の田畑をポリゴン化するサービスが『AIポリゴン』です。現在日本では、農水省が作成している筆ポリゴンデータは最新の高解像度の衛星データを用いた目視による手作業での区画の線引きを行うことで作られています。将来、衛星データを用いた農地状況のデータ管理などを想定した場合、農地区画データが存在していないとその情報を適切に表示することができず、マップ上での農地管理が行えないと共に、常に農地は分筆や合筆をしていくため、AI等を用いた線引きが必要となります。スマート農業化する将来の農業のあり方において、AIによって作られた農地データは必要なインフラ設備だと考え、提供しています。

 

ーユーザーの声はどのようなものがありますか?

行政の方からも好評をいただいています。つくば市役所から始まった業務改善ですが、今後は神戸市役所、名古屋市役所、加賀市役所など10以上の市町村で実証実験を始める予定です。この改善が業務の効率を上げ、また経費も大幅に削減しています。

農業というと従事者の平均年齢が高く、AIやテック技術の参入の障壁が高いように考えられます。でも、私たちは参入しにくいからこそチャンスがあると考えています。また、今まで『Sagri』や『ACTABA』を運営してきたことで、農家さんがどのような情報が必要としているのか、どのような設計にすれば使っていただけるのかということに関して知見が溜まっています。これらを生かして、農家さんや農業関係者の方に使っていただけるサービスをさらに展開していきたいです。

衛星データを用いたアルゴリズムができるまで

ーなぜ農業という分野を選択されたのでしょうか?

2016年に他の会社の宇宙教育事業の一環で、IT・ロボット教育をするためにルワンダへ行きました。元々は子どもたちの教育に関心を持っていたのですが、途上国では親は子どもが労働力になることを期待しているので、家の手伝いをしなくてはならず学校に通えない子どもがたくさんいました。ルワンダでは、教育だけでは子どもたちの夢を叶えられないんだと気づいたんです。また、そうした家庭のほとんどが農家だったので、子どもたちの夢を叶えるには現地の農家の状況を変える必要があると思ったことがきっかけでした。

ちょうどそのころ兵庫県丹波市の農家さんにヒアリングを行う機会がありました。農家さんによって農地の活用方や収穫などの時期が異なっていましたが、その判断には科学的な裏付けはなく、農家さんが自分の目で見て判断していました。だからこそ、農家さんの経験や専門性の差から収穫効率にばらつきが生じていました。また広大な土地を持っている農家さんにとっては、農地管理が大変なハードワークとされていました。そのような中で、農地をデータ化しAIが評価する仕組みを作ることでこれらの課題が解消されるのではないかと考えたんです。

 

ー衛星データを用いようと思ったきっかけはありますか?

私自身、宇宙にはもともと興味がありました。そんな中、政府の衛星情報を商用でも無償で利用できるようになったんです。また、地球上を周回した何百機もの有償衛星のデータを民間でも購入して利用できると知り、まさにこれだと思い、目をつけ起業を決めました。大学から、ずっと工学の領域でやってきた際のデータ解析の知識や経験があったことが強みになっています。

衛星データは、私たちの方で購入しアルゴリズムでデータ分析を行い、ユーザーに提供しています。年間の利用料でユーザーに使っていただいていて、農地面積の価格に応じて金額は変わってきますが、年間60万円から250万円ぐらいの値段で取引を行っています。

(衛星で農地を区画化している)

 

ー開発においてどのような苦労がありましたか?

開発は本当に大変で、その中でも特にアルゴリズム設計に苦労しました。衛星データから土壌をAI分析できるようにするためには、たくさんの教師データが必要でした。そのため、創業時から2000点の土壌サンプルを自らの足で集め解析しました。私たちは農業の知識がなかったので、データを集めた後にどの土壌にどのような効果・特徴があるのかということを一つ一つ分析する必要がありました。土壌のデータが増えることで、AIの分析精度は向上します。膨大な時間と労力を使い、やっとのことで衛星データから土壌を推定するアルゴリズムを作り上げました。

 

今後の展望と目指す社会について

ー今後はどのような事業展開を考えられていますか?

まずは『ACTABA』をもっと多くの人に届けたいと考えています。市町村に取り入れてもらうことで、行政の業務は効率化されコストも削減されます。また日本はもちろん、海外にも展開していきたいと思っています。やはりインドのように農家さんがお金を借りられない国はいくつもあります。私たちは、そのような国の農業にデータに基づいた「信用」を創造することを行っていきたいと思います。現在の海外事業はインドがメインですが、これからはASEANへの拡大を目指しています。

ー最後に、坪井さんが目指す社会について教えてください。

私が訪れたルワンダには、子どもたちが夢を諦め家族の生活を優先しなければないという環境がありました。私たちが事業を提供していくことで、一人でも多くの若者が中学高校に行けるようになって自分のやりたいことを見つけて欲しいと思っています。

また私は、いろんな人種の人や動物がお互いに共存し、否定しない社会が理想だと考えています。先ほど宇宙に興味があると言いましたが、私は小学生の時に宇宙飛行士になるという夢を持っていました。宇宙飛行士という大きな夢ゆえに否定されたり、周りの人たちから笑われるという状況を体験しました。せっかく素敵な夢を持っていても人目を気にして諦める人が多いのが今の日本の現状だと思うんです。だから私は、農業の問題を解決した後には、教育の課題に取り組みたいと考えています。子どもたちの進路選択の幅を広げること、彼らの夢に寄り添い応援することが目標です。それぞれが使命感を持って、自由な選択肢の中から自己実現を目指すことで、優れたリーダーが生まれ社会が発展していくと思っています。

サグリ株式会社 HP https://sagri.tokyo

 

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    interviewer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

     

    writer

    馬場健

    アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。

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