日本の水産業を再生したい。”漁師ファースト”で作る、新たな水産物流通の仕組みとは
インタビュー

日本の水産業を再生したい。”漁師ファースト”で作る、新たな水産物流通の仕組みとは

2021-07-15
#農林水産

「日本の水産業にとって、新たな流通を作る」を掲げ、全国の産地と連携して漁獲情報の配信や、インターネット上でスーパーや水産会社が魚を買い付けられるサービスを展開する株式会社ウーオ。代表の板倉一智は、漁業従事者に囲まれて育った自身のバックボーンを活かし、新参者が入りづらい水産物流通の業界で奮闘している。多様なユーザーに寄り添ったサービス作りについて聞いた。

【プロフィール】板倉 一智(いたくら かずとも)
株式会社ウーオ代表取締役CEO。鳥取県出身で漁業従事者に囲まれ、魚が身近な幼少期を過ごす。大学卒業後は地元を離れ、流通会社に就職。日本の水産業を再生したいという思いで2016年に起業。広島在住。

インターネット上に新たな水産物流通を

—起業されたきっかけは何ですか?

鳥取県出身で、親族の多くが漁業従事者という環境で育ちました。幼少期から魚が身近で、学生時代には魚を船から降ろして港に並べるアルバイトをしていたこともあります。就職で地元を離れた後も、多くの友人が漁業従事者だということもあり、地元に帰ったときは彼らの話を聞いたり港に行ったりすることがよくありました。その中で、船の数が減っていたり、競りに行っても港が使われなくなっていたりと、地元の水産業が衰退していく様子を目の当たりにしてきました。そこから地元、鳥取の水産業をどうにか再生できないだろうかと思い続け、結婚を機に広島に引っ越してきた際、起業を決意しました。本社は広島にありますが、鳥取にも拠点を構えています。

 

—現在の事業について教えてください。

全国の産地と消費地市場をインターネット上で繋げる流通の仕組みを作っています。現在の水産物流通の仕組みは、まず港で海産物が産地市場に水揚げされ、それを仲買人が購入して消費地市場に出荷し、そこでスーパーや水産会社が買い付けるという仕組みになっています。このような仕組みに対して、ウーオは九州から東北まで各地の産地と連携して、毎朝その日の産地相場、漁獲情報をアプリで全国のスーパーや魚屋、水産会社などの買い手に配信し、買い手はその情報をもとに、提携している全国の産地に注文を入れることが可能となり、既存の仲卸業者を通じて魚が届くという新たな流通の仕組みを構築しています。この仕組みによって買い手には、様々な仕入れ先の相場をひと目で確認することができたり、アプリ上で注文まで完了できたりするといったメリットがあります。加えて、鳥取の2つの港で競りに参加できるライセンスである買参権を所有していて、自社でも毎朝買い付けを行い、各地の消費地市場に出荷しています。

 

—なぜ流通に着目されたのですか?

漁業従事者と関わる中で見えてきた、彼らが抱える一番の困りごとは「魚を獲っても売れない」「やすく買い叩かれてしまう」ということでした。実際、魚の相場が上がっていかないことは水産業が衰退している大きな原因の1つです。地方の港で魚を買う人たちの販売先は地元のスーパーや飲食店などかなり限定的なのが現状で、これでは人口減少に伴って魚の消費量も低下してしまいます。そこで、県外に向けた流通を作り、産地で競争を生み出せば魚の価格を適正価格に導くことができるのではないかという仮説の元、流通に着目しました。水産流通全体も時代の流れに伴い、ITを活用して、情報をより早くニーズのある人たちに届けられるような仕組みにアップデートしていく必要があると感じています。

そしてもう1つ、水産業が抱える大きな課題に継承者不足があります。昔は、漁業って命の危険などそれなりにリスクがあるけど、その分儲かる仕事だったんです。しかし、今は魚の相場が下がっているために、リスクもあるし儲からないから誰もやりたがらないという状況に陥っています。この雇用の問題も、流通を整えて魚の相場を高めることで解決に近づくのではないかと考えています。

 

新参者が入りづらい業界での挑戦

—ウーオのサービスはそれらの課題に対してどのようにアプローチしているのでしょうか?

僕らは漁師さんに還元することを絶対的な基準に置いています。しかしそれは魚をなんでも高くするということではなく、良い魚には良い価値をつけたいと思っています。そのためにも、ウーオが直近の産地相場、漁獲量、漁法など網羅的な情報を買い手に早く届け、それによって買い手が素早く判断して買い付けることができれば、新たな流通が生まれ、魚価をあげることに貢献できると考えています。加えて、その先の消費者の皆様が魚を買い続けてくれることが重要なので、ただ魚を売るだけでなく、スーパーや水産会社に対して販促支援も行っています。具体的にはスーパーに対して魚のレシピカードを作ったり、POP作成などを含め売り場のブランディングをサポートしたりしています。僕らが漁師さんを助けることができるのは、魚の価格の向上でしかないと思っているので、そのためにできることを進めています。

実は、今まで水産物流業の改革に取り組む人ってほとんどいなかったんです。漁業って昔から残っている商習慣の元で行われていて、外部の人にとっては漁業のどんな情報を持っていればそこでどんな事業が成り立つのかわかりづらいんですよね。さらに、利害関係などが複雑化しているので、網羅的な事業の構築が難しくなっていると思います。また、昔から付き合いがある人じゃないと売らないとか買わないとか、そういった旧態依然とした部分も事業を構築しづらい要因かなと思います。

 

—そんな新参者が入りづらい水産物流に、ウーオが参入できたのはなぜだと考えていますか?

僕自身のバックボーンが大きいと思います。魚や漁業と身近な環境で育ってきたこと、今でも親族や幼馴染に漁業従事者が多いことなどがなければこの事業はやっていなかったですし、僕らだからこそやる意義があると感じています。鳥取から事業を始めたときは、地元は基本的にみんな知り合いだったので、「あ、板倉か」という感じで、受け入れられやすかったですね。また、完全にテクノロジーチックな会社だったら、「魚なにも知らんくせに何ができるんや」と言われかねなかったと思いますが、競りの買参権を持って魚を実際に取り扱っているので、皆さんにとっても受け入れやすかったようです。

買参権っていうのは 、周りの仲買さん(買い手と売り手を繋げる人)からの承認がないともらえないんです。僕自身にすでに漁業のつながりがあったとはいえ、実際に仲買ができるのかというところは懐疑的に思われた方が多かったようです。だから僕たちがどれだけ本気かを示すために、何度も港に足を運び多くの人に会って何度も話をしました。愚直に人の繋がりを作り思いを伝え続けたことで、理解いただき仲間に入れていただけました。

 

—ユーザーからはどのような声が届いていますか?

買い手の方からは、ウーオを通じて新たな産地と出会うことができて安定的に仕入れられるようになったという声や、 新しい産地を通してこれまで取り扱ってきたのとは違う種類の魚を扱えるようになったことで新たなユーザーを獲得できたというような声をいただいています。一方で、産地の売り手からいただいたものでは、これまで売れ残っていた魚もウーオを通じて売れるようになったという声や、これまで売れていなかったエリアに魚を届けられるようになったという声が特に嬉しかったですね。ウーオが営業代行のような役割を果たすことで販路が格段に広がったことを産地から評価いただいています。

 

多様なユーザーに使われるサービスを目指して

—ウーオにはどのようなメンバーがいるのですか?

多様なバックボーンを持ったメンバーが集まっています。新卒でスーパーの鮮魚部に入り魚を扱ってきたというような人や、飲食店で魚を料理していましたという人もいます。一方でIT企業出身のメンバーや広報・マーケティングをやってきたという人も。なので、魚ど真ん中のメンバーもいればそれをどう売り出していくかという視点を持ったマーケターもいるし、実際にプロダクトに落とし込めるIT出身のメンバーもいて、一貫して自社でできるところがこのチームの強みですね。

 

—多様なユーザーが利用されていますが、それぞれに寄り添ったサービスを作るために意識していることはありますか?

誰に対して何の情報を伝えるかという点は重要だと思います。必要な情報というのはレイヤーによって異なるので、ただ全員にある情報を全て提供するのではなく、誰にどんな情報を伝えたら何が生まれるのかということを意識して、サービスを設計しています。
あとは、多様なステークホルダーがいますが、僕らはやはり漁師ファーストという基準をぶらさずに意思決定することを最も重視しています。

 

—多様なユーザーにとって使いやすい具体的な工夫はありますか?

水産業はとても忙しい業界なので、プラスアルファの作業を作ることはなかなか難しいんですよね。だから、これまでの作業の延長線上にウーオのサービスがあるということを意識して設計しています。例えば、産地の売り手は漁獲情報をただ簡単に入力するだけで良くて、それらをユーザーにとって綺麗にわかりやすい情報にしてから配信するというところはウーオが担っています。今までのオペレーションからユーザーの負担が増えないということを工夫しています。

株式会社ウーオのメンバー

 

水産業界になくてはならないサービスへ

—今後の事業展開を教えてください。

「日本の水産業にとって、新しい流通をつくる」というミッションは創業時から変わっていません。このミッションの達成のために、まずは国内における産地連携の網羅性を持っていきたいです。現在は西日本が中心なので、今後東日本での連携をより強化していきたいと思っています。そして、将来的には水産業の人たちになくてはならないサービスに成長させたいです。

 

株式会社ウーオ https://uuuo.co.jp/

 

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    interviewer
    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

     

    writer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

     

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