「全てのビジネスは社会課題解決」は本当か?社会課題解決の定義を考える

昨今頻繁に耳にする”社会起業家”とは何なのか。全てのビジネスは何らかの課題解決であり、「わざわざ”社会課題を解決する起業家”を区別する必要はない」、という意見も存在する。一方、実際に社会課題に取り組む起業家からは「”社会起業家”と言われたくない。儲からないと言われるから」という声もある。今回、株式会社talikiと京都リサーチパーク株式会社の共同事業、社会起業家支援プログラム『COM-PJ』の説明会イベントを開催した。全4回の説明会のうち第1回の今回は、taliki代表・中村多伽が改めて”社会課題”とは何か、そしてそれらを”解決する”とはどういうことなのかを話した。

【プロフィール】

中村 多伽(なかむら たか)

2017年に京都で起業家を支援する仕組みを作るため、talikiを立ち上げる。創業当時から実施しているU30の社会課題を解決する事業の立ち上げ支援を行うプログラム提供の他に、現在は上場企業のオープンイノベーション案件や、地域の金融機関やベンチャーキャピタルと連携して起業家に対する出資のサポートも行なっている。

株式会社taliki代表取締役・中村のインタビュー記事はこちら:

経済的成功はgiveの精神から【前編】

社会課題はいかにして生まれてきたか?

本日はよろしくお願いします。

今回「社会課題解決って何なの?」というテーマで話をしていくのですが、まずは私たちの社会で、社会課題がいかにして生まれてきたか歴史を踏まえておきたいと思います。18世紀の半ばくらいから産業革命が起こり、人類は資本を増殖させるということを覚え始めたわけですが、資本の増殖は色々なものを搾取することによって成り立ってきました。例えば資本家が富を蓄える一方で貧富の差は拡大してきたし、技術発展の影で環境は汚染されています。ただ当時そんなことには誰も気づかず、資本を拡大してみんなが豊かになったら良いじゃないか!という全体最適の考え方のもとに物事が推し進められてきたので、今の社会課題につながってきているわけですね。

ちなみにこの頃日本は「超サステイナブル」なことをやっていて、近江商人の理念「三方よし*」があったり、talikiが拠点にする京都には創業1000年を超えて持続しているような老舗企業もあったりします。ところが明治時代に西洋化がどんどん進んだことで、自然や環境を搾取するようなビジネスモデルが日本でも当たり前になってしまったんです。

やがて、環境問題や人権問題が意識されるようになってきたのが20世紀後半くらいでした。NIKEの委託先の工場が、途上国で子供に奴隷のような労働をさせていたことが批判を集めたり、日本でもイタイイタイ病などの公害が問題になったりした頃です。必要以上に資源を使ってビジネスを伸ばそうとした結果、誰かが困るということが明らかに見えるようになり、企業は課題を生むことに対して責任を持つのが普通ではないかという意識が生まれ始めたわけです。2000年にはMDGsという途上国が発展するための開発目標が定められて、一部の目標は達成されました。一方で達成できなかった項目も存在し、また気候変動や人権問題など、途上国だけの問題ではないことも認識され始めました。そこで先進国向けにも目標が設定されたのがSDGsでした。2018年にはグレタ・トゥーンベリさんがスウェーデン議会の前で「気候のための学校ストライキ」を始めたことで話題になりましたよね。こういった経緯があり、昨今は特に現役世代に「社会課題を解決しないとヤバいんじゃないか?」という感覚が浸透しつつある状態です。

*三方よし・・「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方。(参考:伊藤忠商事

例えば気候変動を例に挙げると、1750年から1960年までの210年間と、1960年から2000年までの40年間で大体同じくらいの温室効果ガスが排出されているんです。地球環境の回復スピードを明らかに上回るスピードで資源の搾取を行っている状態なんですよね。

このように、早急に課題解決をしなければならない状況の中で、私たちはビジネスで課題解決をする仕組みづくりに取り組もうと考えました。社会課題解決において、課題が細分化・多様化しすぎていて、ボランティアやNPOだけが取り組むのでは間に合わないという問題があります。もちろん寄付モデルのプレイヤーも必要な役割を果たしているというのは前提です。その上で、やはりビジネスは寄付モデルよりも多くのリソースが集まりやすいんですよね。なぜならある種「儲かるから」「自分の生活が楽しくなるから」という短期的なインセンティブを消費者や資本家に与えるからです。そうして消費者が主体的な行動をして、結果的に社会課題の解決につながったよね、という世界観を作ろうとしています。

余談ですが、この数年で「サステイナブル」「エシカル」のような言葉が急速に浸透しているように感じます。それくらい消費者や企業の意識が変化しているのは喜ばしいことです。一方でその流れによって、「サステイナブル」「エシカル」というワードを表層的にプロモーションとして使い、実質的にはそれが課題解決に全く繋がっていない、もしくは課題を増やしている事例も見受けられます。”Green-washing”、”Woke-washing”なんて言葉がありますが、エコを謳っているけど実はゴミを増やしているだけとか、人権問題をテーマにCMを作っているけど課題を正しく理解せずそれっぽく人々を喚起させるプロモーション要素として活用しているだけ、というケースが身近に溢れています。

これの何が問題かというと、社会が「サステイナブル、エシカルを謳っているものを選択したのに、世界は全く良くならないじゃないか。サステイナブルなんて意味ないんだ」と誤った学習をしていまい、課題解決が遅くなることです。なので、消費者はもちろん、企業はより真の課題解決を選択していく目が大事になってくるし、私自身も社会課題解決の事業者としてその啓蒙をしていかなくてはいけないのだろうなと感じています。

 

「社会課題解決」と「社会起業家」

次は本題の「社会課題解決って何なの?」という話に入っていきます。

まず私たちは「社会課題=全体最適の歪みのなかで解決が急がれるもの」と定義しています。例えば、皆が安心安全なように、野菜の流通規格が策定されてきたのは全体最適の流れですよね。一方で規格から外れた野菜が廃棄され、フードロスに繋がっています。このように振り返ってみると取り残されている部分があったり、歪みが生じていたり。これらに対して、個別にアクセスして不利益の解決をすることを「社会課題解決」と呼び、社会課題解決を行う起業家のことを「社会起業家」と呼んでいます。

では「解決が急がれる」とは何なのかという話になるのですが、地球環境のようにタイムリミットが迫っているものや、誰かが苦しんだり命を落としたりする状況が深刻化していくものを指しています。技術発展に伴って結果的に解決されていく社会問題もある一方で、個別にアプローチをしない限りは解決されないものが「社会課題」だと思っていただければいいと思います。

 

「全てのビジネスは社会課題解決」?

社会起業家支援をやっていると、「社会起業家と呼ばれない起業家も、誰かの課題を解決している。人を幸せにしている限りは、全てのビジネスは社会課題解決なのでは?」という意見を聞くことがあります。ただ私たちが支援する「社会起業家」の定義は、ここまでお話ししたことからもお分かりいただけると思うのですが、それとは明確に分けているんですよね。

どんなビジネスに取り組んでいる人が社会起業家なのか理解するためには、そもそも企業は何を目指すのかという観点に分けて考えるといいと思っています。例えば、「課題解決」「売上・利益」「技術・ノウハウの活用」の3つが企業の目的とします。どれか1つしかやらないというわけではなく、ほとんどの企業はこの3つの側面を併せ持っていて。例えば自動車メーカーのトヨタは低燃費で良い車が欲しい人たちに向けて「課題解決」を提供していて、それによって「売上・利益」を上げています。そして車を作るには培ってきた「技術・ノウハウの活用」は欠かせませんよね。このように各企業は独自の3要素のバランスの上に成り立っており、「課題解決」の優先度が特に高く、その「課題」が全体最適の歪みにあるのが社会起業家であるというわけです。

逆に、あらゆる起業家がアプローチしている課題や痛みが、全て社会全体に通じる課題や痛みとも限りません。例えばFXの取引を扱うビジネスが好例だと思っていて。既にある程度儲かっている人を更に儲からせるモデルになっているので、成長は早いのですが、「誰かが苦しんだり命を落としたりする状況が深刻化していくもの」かと言うとそうではないですよね。元々社会課題というものは、資本の増大などある人にとっての幸せを追求した結果、取り残されたり歪みが生じたりした部分を指しているとお話ししましたね。ですから、「これは社会課題か」ということを考える場合、「その課題は社会の多くの人にとっての痛みか」という観点は重要だと思っています。またあまりに広い分野を「社会課題解決」としてしまうと、本当に緊急性が高く解決すべき分野に分配されうるリソースを減らしてしまうことにもなりかねません。社会課題解決を加速していくためにも、線引きは重要だと考えています。

 

怒りに訴えるよりも、課題解決に取り組む仲間を増やす

社会起業家の皆さんからよく聞く悩みとして、「社会起業家と言われたくない。儲からないと言われるから」というものがあります。確かに、今までの経済活動と逆行しているので、従来の手法ではビジネスになりづらい側面はあるんです。ただ、昨今の事業環境だとそれをハックすることが出来るようになっています。例えば社会起業家さんはファンの力が強い印象があって。社会課題解決に至るストーリーが明確であればあるほど、ユーザーやクライアントの賛同や共感を集めています。このように「ロイヤリティの高さ」を生かしてグロースハックに成功している起業家さんからは学ぶことが多いですね。

最後に、まとめに入りたいと思います。ここまでの話から分かるように、社会課題の多くはこれまでの経済活動から生まれてきていました。今も、経済活動の中でプラスチックを使ったり、温室効果ガスを排出し続けたりしています。ただこれらの課題を生む行動を、今すぐ全てやめるというのは現実的ではないですよね。過去には産業革命で不幸になったと訴える人が機械を破壊した「ラダイト運動」が起こりましたが、怒りに訴えたところで変化は起こせなかったんです。それよりも今は、選択肢を見つけるタイミングだと思います。例えば身の回りで自分の取り組みたい課題を見つけて起業している人は多くいますし、そのような人を応援するなどいろいろ手段は見つけられるはずです。

今回説明会に参加していただいている人の中には、社会課題の解決に積極的でない、「自分たちが生きているうちは大丈夫だからそれでいい」という考えに遭遇したことのある人もいるのではないでしょうか。そうした考えに出会った時、怒りを表明したところで世界は変わってくれないんですよね。ではどうすればいいかというと、「仲間を増やす」ということが近道なのではないかと思っています。私もtalikiを創業した頃は、怒りや絶望を覚えたりしてきたんですけど(笑)。その頃はしばらくは無理だろうと思っていた世の中の動きが、意外にも2年くらいで訪れたりしていて、社会は着実に変わっていることを感じているんです。それはここ2年で社会課題に取り組んできた人たちがいるからですよね。これからは、皆さんとも仲間となって、更に課題解決を加速していきたいです。

 

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    writer

    掛川悠矢

    メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

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