給付型奨学金の拡大を目指す。生まれた環境に関わらず、等しく教育の機会を

奨学金プラットフォームのMy奨学金を運営する高瀛龍。自身も奨学金を借りて大学に通っていた。多くの学生が、奨学金としてお金を借りて教育を受けなければならない現状に課題を感じ、起業。現在取り組んでいるサービスや、将来的な展望を聞いた。

【プロフィール】高 瀛龍(コウ インロン)
中国生まれ。小学生の途中で来日し、以降は日本の学校に通う。大学卒業後はアクセンチュアを経て独立。エンジニアとしてフリーランスで活動したのち、キャンプファイアにて金融系サービスの立ち上げなどに関わる。退職し、2018年に株式会社Crono(クロノ)を創業した。慶應義塾大学卒業。

可能性を秘めた「給付型奨学金」マーケット

―現在の事業について教えてください。

給付型の奨学金データを集めた奨学金プラットフォーム「My奨学金」を運営しています。奨学金というと貸与型のイメージが強いと思うのですが、実は給付型も全国に4,300件程度あるんです。金額規模は貸与型に及びませんが、合計すると430億円くらいが運用されていて、年間7%ほど成長している市場です。だけど、学生も保護者もほとんどそのことを知らないんですよ。数がたくさんあるし、所得や成績といった条件があるものも多く、自分が応募できるものを探しづらいんです。そこでMy奨学金では、ユーザーがプロフィールを入力すると、すぐに自分が応募できる奨学金がわかるという仕組みを作りました。

 

―日本の奨学金制度はどういった課題を抱えているのでしょうか?

日本の奨学金は「借りる奨学金」がメインです。大学生の2.7人に1人*、専門学校や短期大学になると2人に1人が奨学金を借りて学校に通い、卒業後に返済するという状況になっています。そんな中、借りたお金を生活しながら返せるのかという問題があります。僕も奨学金を借りて大学に通っていましたが、卒業後は月6万円を返済しています。そもそも就職先が見つかるのか、見つかったとして生活しながら返済できる額なのかという現状です。奨学金の返済が滞ってしまいブラックリストに載るといった話もあるのですが、「教育って借金して獲得しなきゃいけないものなんだっけ」という疑問があります。

また、進学以外にもお金が必要なシーンはたくさんありますよね。留学や資格取得のための通学です。日本の大学生のうち40万人ほどが長期留学を希望しているが、実際に行けているのは1.5万人しかいないというデータもあります。このように、人材を育てるという意味でも奨学金の規模が足りていないのではないかと思っています。

*独立行政法人日本学生支援機構 理事長ご挨拶(参考:https://www.jasso.go.jp/sp/about/organization/message.html

 

―給付型の奨学金だけでも4,300件あるとのことですが、どうやって探したのですか?またMy奨学金に掲載する基準を教えてください。

大学や地域などさまざまな奨学金があるので、現役の大学生や教育現場の方々にお願いして、地道に情報を収集・集約しました。My奨学金に掲載する基準は、給付型の奨学金であるかどうかを一番重視しています。最終的には全部カバーするつもりですが、今は対象者が広いものを優先的に掲載しています。例えば特定の市区町村に住む方を対象にした奨学金よりは、より範囲の広い地域の人が利用できる情報を提供するようにしています。

 

β版での意見をもとにより良いサービスへ

―2020年中は、β版のMy奨学金を提供されていたと伺いました。

そうですね。5月末くらいにリリースして、11月の末に一度クローズしています。その半年ほどで5,000名ほどの登録がありました。現在は5月中旬の正式リリースに向けてユーザーヒアリングを終え、準備をしている段階です。

 

―β版を利用した方からはどんな反響がありましたか?

「奨学金を自分で探すのは大変だったので、自分に合った奨学金が検索できて嬉しい」という声をいただきました。一方で、「対象ではないものが出てきてしまう」という情報精度面での厳しいご意見もあったので、正式リリースに向けて出てくる改善していこうと思っています。

 

―その他にβ版から大きく変わるところはありますか?

奨学金情報の抽出だけでなく、個別の相談を受け付けるよにしようと思っています。奨学金に応募する際に、役所で所得証明書を貰ったり学校で成績証明書を発行したりする必要がある場合が多いですが、初めて奨学金に応募する人にとってはよく分からないことがあります。情報提供だけでなく、申請までの間で不安な点もあるので、相談できる窓口を提供していきます。

 

―学生は無料で登録してサービスを利用できますが、無料にしているのはなぜですか?

インターネットを通じて平等に情報にアクセスができるようなっていても、奨学金の領域ではまだ情報の非対称性が存在します。「知らない」がゆえに学ぶ機会を諦めることにならないために、必要な方々に平等に情報が届く形でやっていきたいと思っています。そのため、無料で提供しております。

 

給付型奨学金は企業や社会にも利点がある

ー給付型の奨学金を始める企業が増えているそうですね。

SDGsが大きく注目されるようになった中で、環境問題などに取り組む企業さんは多かったのですが、教育分野への投資はそこまで多くありませんでした。しかし、企業側も人材確保や人材育成といった課題を抱え、徐々に奨学金制度に取り組み始めるところが増えてきました。貸与型奨学金による返済苦などのネガティブな面が報道され、課題に感じた方が返済義務のない奨学金を作っていこうとしている印象です。奨学金の財団を作りたいと思っている、という企業さんからの問い合わせが、僕たちにも届いています。

 

ー企業が奨学金に取り組む上での課題はありますか?

新しくできる奨学金は制度デザイン、運用の設計と必要な方への認知を広げることが難しい点だと思っています。とても素晴らしいことなのですが、震災以降、奨学金の制度数は何倍にも増えています。多くの新しい制度が出来上がっていく中で、それぞれの制度を必要な方々に届けることは容易ではありません。私たちは奨学金を提供される方々と、その制度を必要とする方々を結ぶサポートさせて頂いてます。それだけではなく、新規で奨学金を構築するための制度デザインの相談や運用の支援も含めて実施しています。

 

ーTechAcademyさんとコラボレーションして作られている奨学金*もありましたね。

弊社の独自調査では、学生の方々はプログラミングや資格を取りたいという学習ニーズが結構あるんです。でも「そこに払えるお金はいくらですか」というアンケートを取ると、1万円ぐらいしか払えませんという結果で。学びたい学生の方々に対して、プログラミングを学ぶ機会を提供したく、キラメックス社に声を掛けさせて頂きました。最終的に、社会課題解決をしたいと考えている学生を対象に、「TechAcademy奨学生制度」を設けることにいたしました。

*現在は募集終了 https://www.jasso.go.jp/sp/about/organization/message.html

 

生まれた環境に関わらず、学ぶ機会を平等に

ー今後の事業展開について教えてください。

My奨学金は5月中旬のリリースを予定しています。情報精度の向上や個別相談だけでなく、ゆくゆくは奨学生コミュニティの運営を行いたいです。学生の頃に設定できる目標や夢は、自分の周りを見て判断するしかないと思ってます。生まれた環境によっては、家族や学校の先生など、とても限定的になってしまいます。他の学生はどんなことを考えて何をしているか、先輩はどのような進路に進んだのかがわかるようにし、視野を広げていけるコミュニテイを作りたいです。

また、My奨学金だけでなく、奨学金を代わりに返済してくれる企業との就職マッチングサービスであるcrono Jobも広げていければと思っています。また、最近は財団数が増えてきたとはいえ、給付型奨学金の金額規模はまだまだ小さいです。企業としても人材を育てる意味で奨学金分野に投資頂けるように資金を必要とする若者の声を届けていきたいと思います。

 

ー最後に、高さんが目指す社会とはどういったものですか?

生まれた家庭や地域に関わらず、学ぶ機会が与えられる社会にしたいです。機会を平等に創出できればもっと多くの人がチャレンジでき、結果的として、エンジニアやグローバル人材などの人材不足の解消にも繋がると考えています。自分たちのサービスを通して奨学金を増やし、チャレンジしたい方の支援できるようにしていきたいです。生まれた環境によって支払える教育費は決まってしまう、地域によって提供されている学びにも差があります。そのような情報や経済的な格差を改善し、みんなが同じくらい機会を持てるような社会を作っていきたいです。

My奨学金 https://crono.network/
crono Job https://job.crono.network/
株式会社Crono https://corporate.crono.network/

 

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    interviewer / writer
    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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