「創業と子育ては似ている」。創業から10年を経た経営者が今伝えたいこと
インタビュー

「創業と子育ては似ている」。創業から10年を経た経営者が今伝えたいこと

2021-04-03
#子育て・家族 #エコシステム

「子育ての不便を解決したい」という想いで、「子育てシェア」サービスを全国で展開するAsMamaを2009年に創業した甲田恵子。インターネットの仕組みとオフラインでの機会創出の両軸でサービスを運営してきた。創業から10年経過したからこそ見えてきた困難の乗り越え方や、若手起業家に伝えたいことを聞いた。

【プロフィール】甲田恵子(こうだ けいこ)
株式会社AsMama創業者兼代表取締役社長。子育てシェアリングのサービスを運営する傍ら、一般社団法人シェアリングエコノミー協会理事、ひとり親支援に取り組む一般社団法人ハートフルファミリー理事を兼任。総務省地域情報化アドバイザーも務め、地域課題の解決や産業振興に携わっている。

「AsMama」のサービスに関する記事はこちら。https://taliki.org/archives/3461

創業から10年が経過して

—10年前は「シェアリングエコノミー」という言葉も浸透していなかったと思うのですが、サービスを始められた時周りからはどのような反応がありましたか?

私は前職が投資会社だったこともありそのギャップもあってか、「子育てを頼り合うことによって誰もが育児も仕事もやりたいことも実現できる会社を立ち上げます」と言ったときに、誰一人として信用してくれなかったですね(笑)。心配されたり怪しがられたりするのが普通で、「面白そうだね」とか「大きな事業になりそうだね」っていう人は一人もいませんでした。それでも会社を作った時には、上は北海道から下は沖縄まで、そしていずれかは世界中に「頼ろうと思えばちゃんと頼れる人がいる」という基盤整備をするという大きなビジョンを掲げていたので、これを私一人で自分が生きている間に叶えられるのかっていうと到底難しいな、と。さらに大阪と東京ってだけでも地域性が全く異なるので、地域にフィットした頼り合いの基盤を作ろうと考えると、それぞれの地域をよく知っている仲間を集うというのは必要不可欠な思考でした。そこで最初はSNSなどでたくさん発信をして共感してくれる人を集め、市民活動的に始めたという感じです。

 

—10年間の間でメンバーとの関わり方に変化はありましたか?

メンバーは創業時から全国リモートワーク可で定年も設けないという事業体制でやってきていて、そこは変わらないです。一方で、創業時は社員や認定サポーターといった違いもなく、全員横並びのサークル感覚だったのですが、事業が大きくなるにつれて今日誰が働けて誰が働けないみたいなことを管理するオペレーションコストがかかるようになってきました。そこで原則フルタイムで働く正社員と地域に限定して得意を活かした地域貢献という立場で関わる認定サポーターに大きく分けました。さらには、プロジェクトベースでパート的に働ける人などの雇用枠も用意し、今では一人一人の働きたいスタイルや働ける時間を加味した組織体制になっています。

 

10年間、様々な困難を乗り越えてきた

—創業期はどのような困難がありましたか?

創業時は、自分が思い描いているものと実際やってみてうまくいかないっていうことのギャップに日々悩んでいました。自分としてはこういう社会的背景があるからこのビジネスは絶対に上手くいくはずだと確信を持っているのに、周りから不可思議な目で見られたり、いいねと言ってくれた人にでさえもっと掘り下げ「こんなことをやろうと思っている」と伝えると、「それはやりたくない」と言われてしまったり。人を巻き込む、お金を集めるというところで思ったより上手くいかなくて、「なんでうまくいかないんだろう」と悩んだり、すごく理解してくれていると思っていた人から「やめたい」と聞くたびにすごく落ち込んだりしていました。創業時は自分の熱い想いでヒトモノカネを集めていく段階なので、なんで伝わらないんだろう、なんでうまくいかないんだろうみたいな葛藤はどんな起業家にもあることだと思います。しかし、みんなが「いいね」とか「おもしろそうだね」と言うのではなく、「それ大丈夫?」と言われるのであれば、逆に誰もやりたがらないブルーオーシャンを狙っているということなので、非常にチャンスだと今となっては思うんです。さらに言えば、思いついたことをパッとやって上手くいって何の苦労もなく大きな会社になりました、10年続きましたっていうような会社を私は見たことがないので、起業するってそういうものだと思っていた方がいいのではないかとこれまた後になって気づきました。起業って子育てと似ていて、産んだ瞬間って無条件に可愛いんですよ。そこから楽しさもあるけど戦いが始まる。夜寝ないとか毎日授乳生活とか0歳には0歳なりの大変さと可愛さがあります。次に2歳、3歳になってやっと喋るようになったらそれはそれで可愛いけれど今度はイヤイヤ期になって。10歳超えたら楽になるのかと言われたら今度は思春期がやってくる。子育ても創業も成長と共に楽しさと大変さは変わってくるものなんだけれど、産んだら最後育てないという選択肢はないんです。やめたくなる1000回があっても、「本当にそれやめていいの?」って自問するっていうのは創業者にとってのミッションなのではないかなと思います。

 

—拡大期にはどのような困難があったんでしょうか?

創業時はメンバー全員横並びというような組織体制だったので、会社の意思決定はみんなで相談して決めていて、その方が楽しかったし上手くいっていたこともあったんです。ただ拡大期になってくるとプロジェクトの数も増えるし、扱うお金も大きくなり一つ一つの責任が増してきました。そうすると、きちんとリーダーシップを発揮して決めるべきことを決める、工程を管理する、そこにチームを巻き込む、ヒトモノカネを引っ張ってくるという役割の人が必要になってくるんですよね。それを社長一人でできるケースもあれば、社長一人でやってしまわない方が良いケースもあって。

私の場合はみんなで仲良くやるのがすごく気持ちよかったのに、誰かが決断しなきゃいけないときに私がなんとかしなければって思い過ぎちゃったんです。それでなんとなくメンバーと私との間に心理的乖離が生まれてしまいました。拡大期だからこそ単純に売り上げをあげるというところだけでなく、社員、経営者一人ひとりの叶えたいライフについても考えなくてはならないのに、その二つが乖離していって、利益はあがっているんだけどなんとなく組織がギリギリの状態で回しているなっていう時期がありましたね。

その時期にやったことは2つあって、一つは私が裸の王様にならないように私のことを叱ってくれる立場の外部取締役を置くことで、ガバナンスとコンプライアンスが外からちゃんと効いている体制を整えることです。そしてとにかく数字を見ている経営陣とライフスタイルも大事にしたい社員との間に、「数字も見なきゃだけどライフスタイルも大事だよね」という中間層の人を採用したことです。直接話をするとお互いが言いたいことを我慢してしまうところを、中間の人が入ることでうまく咀嚼してくれる。この2つによって非常に良い組織体制になったと思います。

 

—事業をする中で、大きな決断はありましたか?

今までで一番大きな決断は、数十人を一斉に社員化するということでした。これによって当たり前ですが、固定費が大きく増えるんですよね。それまではそれまではプロジェクトベースのレベニューシェアだったので、月の売り上げがゼロだとしたらその月は誰も報酬がないっていうのが当たり前で。ただ、それでは収入が不安定になってしまうので、安定的なベースの収入を得るためにスーパーのレジで働きながらAsMamaでも働くという方もいました。そのように給料が不安定なためにAsMamaだけに集中することができないメンバーがいるというのは会社としてすごく大きな損失だとわかりつつも、毎月何百万円も固定費が上がるということが不安で、なかなか決断ができなかったんです。でもやっぱり組織が大きくなるにつれて、「会社は人ありき」ということを実感し、腹をくくって社員化したというのはとても大きな決断でした。

 

叶えたい未来を諦めないで

—最後に若手起業家へのメッセージをお願いします。

よく若手の起業家の方から「どうやったら上手くいきますか?」って聞かれるんですけど、「どうやったら上手くいくか」よりもピンチの時には「どうやったらやめずに済むか」、平時の時には「どんなチャレンジも、死ぬことはないから、先ずは考えるだけじゃなくてやってみることが大事」ってこたえます。不思議なことに、続けている限り人も縁も運もやってくるんですよ。フルタイムでコミットしようと思っていたけどお金が継続しないからやっぱり週末企業にしようとか、オフィスを維持できないからリモートワークにして家賃を抑えようとか、逆に投資を受けるとか融資を受けるとかのスタンダードな資金調達ではなく、クラウドファンディングや有志の集いで事業をやり始めたって良い。やり方はいくらでも変えて構わない。ただ自分が叶えたかった世界観、叶えたかった未来、そこを諦めてしまっていいのかっていうのは問い続けて欲しいんです。諦めたくなかったから起業したはずで、そこを諦めずにどうか続けて欲しいなと思います。

 

AsMama HP http://asmama.jp/

株式会社AsMama HP http://www.asmama.co.jp/

 

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    interviewer
    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

     

    writer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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