世界中に「頼り合い」の基盤をつくる。「子育てシェアリング」のサービスとは

「子育ての不便を解決したい」という想いで、「子育てシェア」サービスを全国で展開してる株式会社AsMamaを2009年に創業した甲田恵子。インターネットの仕組みとオフラインでの機会創出の両軸でサービスを運営してきた。「ユーザーからお金をとらない」という事業のこだわりやサービスを通して作りたい社会について聞いた。

【プロフィール】甲田恵子(こうだ けいこ)
株式会社AsMama創業者兼代表取締役社長。子育てシェアリングのサービスを運営する傍ら、一般社団法人シェアリングエコノミー協会理事、ひとり親支援に取り組む一般社団法人ハートフルファミリー理事を兼任。総務省地域情報化アドバイザーも務め、地域課題の解決や産業振興に携わっている。

「子育てシェア」で誰もがより働きやすく

—事業について具体的に教えてください。

子育てを「支援したい人」と「支援してほしい人」をつなぐCtoC、子育てを支援したい企業や自治体と生活者をつなぐBtoGtoCという両輪で事業をしています。AsMamaのアプリを通じて、ユーザーは知り合い同士で子どもの送迎・託児等を頼り合うことができ、現在は約8万人に使っていただいています。それだけではなく、実際にマッチングするためにオフラインで出会える・知り合える機会を日本全国にいる認定サポーターと共に年間1500件以上作っています。インターネットの仕組みの実装と、地域人材の発掘・育成という両輪で地域課題の解決と経済の発展を支援しているのが大きな特徴となっています。

 

—この事業を始められた背景を教えてください。

この事業を始めようと思ったのは私が子育て当事者だからというよりかは、社会の不便を便利にする仕組みを考えるのが私の特技かつ趣味みたいなところが大きいと思います。これからどんどん少子高齢化していき生産労働人口が減っていく中で、子育てを頼れないことで仕事をやめてしまうという環境が連鎖すると、経済的な理由で2人目3人目が産めない人たちが増え、その結果さらに少子高齢化が進んでしまう。最低限、共働きを維持することがこの少子高齢化の歯止めになるんじゃないかって考えた時に、安心して子どもを預けられる環境が必要だと思ったんです。また、今後フリーランスや在宅ワークなど多様な働き方が進む中で、保育園や学童保育に預かってもらうだけでなく、大人も子どもも安心できるような頼り合いの仕組みがないと、共働きで働ける環境ってできないなって10年前にすごく強く感じました。これらの気づきが、気の合う友達や知り合いと頼り合うというAsMamaのサービス構想に至ったきっかけです。

 

—AsMamaのアプリは具体的にどのように使われているのでしょうか?

まずユーザーは新規登録をした後、アプリ内で知り合いと繋がっておく必要があります。知り合いの利用者が少ない場合は、アプリ内の地域コミュニティに参加したり、近くに住んでいるAsMama認定のコミュニティリーダー「ママサポ」と繋がることができるので安心です。アプリ内で繋がりができると、子どもの送迎・託児、物の貸し借り・譲り合いなどが可能になります。例えば、「うちちょっとお買い物行けないので、お買い物行ってきてもらえますか?」とか、「キャンプ行くんですけど、誰か一緒に行きたいですか?」といった発信をして、それにアプリ内で他の人が応じるという仕組みです。新型コロナウイルスが流行してからは、保育園や塾が休校し、それでも医療従事者の方は働かないといけない。そんな中で在宅ワークの方が代わりに子どもを見てくれたから、自分は安心して仕事にいけたという例もありました。子どもにとっても知らないところに急遽預けられるのではなく、お友達のところで過ごすという感覚なのでストレスになりにくいんです。同じマンションの中であれば、「どうしても子ども用のマスクが手にはいらないんですけど余っている人いませんか?」という発信に対して、「買ったものではなくて家にあるタオルで作ったものなんですけど、よかったら使ってください」という声があがり、マスクがシェアされるなんてこともありましたね。他にも、自治体や不動産会社と協働して、街の中での人の頼り合いやマンションの住人同士の頼り合いにも取り組んでいます。そこでは「除菌剤は〇〇のスーパーで10時から売ってますよ」という情報がシェアされていたり、「子どもが修学旅行に行くんですけど大きなスーツケース貸してくれませんか?」という発信に対して同じマンションの人が「よかったらうちの使ってください」と答える、そういった使われ方をしています。

 

 

—ユーザーからはどのような声が届いていますか?

子どもを預ける・預かるってすごく気を使うっていう人が多いのですが、私自身衝撃だったのが、預かる側が「預かったことによって自分の子どもの成長も見られた」とか、「子ども同士遊んでくれるからかえって助かった」というように、預かる側の満足度がとても高いんです。もちろん預ける側はその間自分が買い物に行けたり、仕事に行けたりするので「預かってくれてありがとう」と思う一方で、預かる側も「頼ってくれてありがとう」と、「ありがとうの等価交換」になっているのがとても素敵だなと感じます。

 

—認定サポーターについて具体的に教えてください。

現在、全国で約1000名の認定サポーターが活動しています。認定サポーターには情報発信のアンバサダー、イベントオーガナイザー、そして自らも送迎・託児を担当するサポーターの3つの役割を担ってもらっています。これらの活動量に応じた報酬やノウハウ、活動の中で何か事故が発生した時の保険適用などを無償で認定サポーターに提供し、私たちと一緒になって全国各地で頼り合いの基盤づくりに向けて活動してもらっています。

 

「頼り合う」文化を広げるために

—「ユーザーからお金をとらない」仕組みはどのように構想されたのでしょうか?

まず、「利用者からはお金を取らない」ということを一つの事業ポリシーとしており、AsMamaは登録料や手数料が個人の利用者には一切かからないのに、全員に保険が適用されているというのが特徴です。サービスとしてどのように収益化するかについては紆余曲折がありました。サービス利用者間については、会社としてはお金を取らないものの、子どもを預ける側にしてみると、何のお礼もしないっていうのは逆に気がひけますよね。実際、全国の子育て世帯にアンケートをしたところ、1時間でだいたい500円くらいのお礼が適当だということがわかりました。そこで、「御礼は1時間500円」というベースルールにしましょう、という推奨を設定しました。一方、マッチングサービスとしてはそこから手数料を取るのがよくあるビジネスモデルだと思うのですが、お友達にお礼をする時に手数料を取られるとしたら利用しづらいですよね。登録料も手数料もかからないのに保険も適用されているというのであれば、普通のSNSを使ったり、お家に出向いてお願いするよりも、この仕組みを使って頼り合う方が「知り合い同士の頼り合い」の文化がきちんと広がるんじゃないかなと思ったんです。

加えて、ちゃんとソーシャルビジネスとしてグロースさせていくことがより子育てしやすい環境整備だと思っているので、ボランティアでは駄目だとも思いました。そこで気づいたのが、「この頼り合える環境があるから優秀な従業員が働き続けてくれる」、「この環境があるからマンションの付加価値が上がる」というように、この頼り合いの仕組みが広がることこそが事業価値、地域価値に繋がると考えてくれる人がいるということ。さらに、生活者も自分たちの暮らしやすさ・働きやすさを応援してくれる自治体や企業を選択することができる。このように生活者と企業・自治体のマッチングによって企業や自治体からお金をもらうという収益モデルにたどり着きました。創業から5年間くらいは、全国の認定サポーターと連携しながら生活や子育てに役立つ商品を持つ企業さんとセミナーや交流イベントを協働し、PR支援やマーケティング支援を担うことが大きな収益の柱を確立してきました。しかし、企業の商品紹介をしているだけでは企業と生活者を繋ぐことはできても、生活者と生活者を繋ぐ「頼り合い」まではなかなか関係を深めることができなくて。そこで、同じマンションのコミュニティルームで企業の商品を紹介するようなイベントを毎月開催し、生活者の知識も向上させつつ、住人同士も仲良くなる。それによりコミュニティを形成するということを目指して、マンションや自治体との連携を始めました。今はそれが非常にうまくいっていて、社会課題解決ととビジネスの両立ができるようになってきたというのが直近5年間くらいの大きな変化ですね。

 

—10年以上サービスをされてきて、利用のされ方やユーザー層に変化はありますか?

日本はまだまだ「子育てを頼る、プライベートなことを頼る」ということに対して遠慮があったり悪いことをしているんじゃないかっていう気持ちがあったりして、それは10年経ってもあまり変わらない印象です。一方で、10年前は子育てはもっと女性が一人で抱え込むものだったと思うんですが、「会社として地域として子育てをもっと支援していかなきゃいけないよね」とか、「男性もできれば育休を取って女性に押し付けることなく協力して子育てしていかなきゃだよね」っていう声があがるようになってきて、子育てに対する意識は大きく変わってきたと思います。サービスリリース当初は基本的にママ中心に口コミで広がっていました。しかし今では、この仕組みをマンションに投入することで子育て世帯が働きやすい環境になるのではないかということをマンションデベロッパーさんが率先して考えてくれています。また、自治体が地方創生という枠組みで人口流入を増やすため、出生率を上げるために子育てしやすい環境整備をしようと取り組んでくれています。これは国全体で「子育ては一人で抱え込ませるものではない」という風潮ができてきたからなのかなと思います。私自身としても、「自分は子育てとは関係ない」と思っている人に対して「あなたにとっても自分事ですよ」ということを様々な媒体での取材や講演を通して発信することに力を入れています。

 

「育児か、仕事か」で悩まない社会環境を

—今後の事業展開について教えてください。

特に新型コロナウイルスが流行してからは、子どもを預かってもらえないと医療従事者を含むエッセンシャルワーカーが働けなかったり、小さい子どもがうろうろしている中で夫婦共働きでリモートワークできなかったりと、この1年間で頼り合いの需要が高まっているのを感じます。今後この仕組みをAsMama単体ではなく、自治体やマンションデベロッパーさん、商業施設や鉄道会社などと組みながらもっと広げていきたいですね。私がこの会社を創業した時はまだ子どもが3歳で「この子が将来結婚して子どもを産んだ時、育児か仕事かで絶対に悩まない社会環境を作ってあげたい」と思ったんです。彼女が結婚して子どもを産む頃にはそれが日本であれ海外であれ、頼り合うという基盤が当たり前にあるような社会を作っていきます。

 

AsMama HP http://asmama.jp/

株式会社AsMama HP http://www.asmama.co.jp/

 

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    interviewer
    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

     

    writer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。 

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