創業期の起業家へ贈る「0→1事業のつくりかた」

生物多様性の保全が人々の利益につながる社会を目指し、いきものコレクションアプリ「バイオーム」を展開する藤木庄五郎。2020年11月より実施している、taliki × 京都リサーチパーク主催の社会起業家支援プログラム『COM-PJ』の中で、プロトタイプの作り方やKPI設定の重要性などをお話しいただいた。

【プロフィール】藤木 庄五郎(ふじき しょうごろう)
株式会社バイオームCEO。京都大学大学院博士号(農学)取得。位置情報システムと画像解析技術を専攻し、大学時代にはボルネオ島(マレーシア、インドネシア)にて2年間以上キャンプ生活をしながら調査を続けた。

バイオームとは?

・事業内容

世界中のどこにどんな生き物がいるかという生物分布のデータベースを作り、そのデータを経済の中に組み込んでいくためのインフラづくりをしています。具体的にいうと、生物のデータを集めるために「バイオーム」というアプリを展開し、そこで集めたデータを分析・加工して幅広い事業に活用しています。

「バイオーム」は、ユーザーが動物や植物の写真を撮るとその生き物の名前がパッとわかる図鑑のような機能を持ちつつ、どんどん写真を撮ってコレクションしていこうという、ゲームとSNSを組み合わせたようなサービスです。国内に存在する約9万種の動物と植物をほぼカバーする、生き物の名前判定のAIを独自で開発しました。現在、22万人に使っていただいていて、膨大な量のデータがリアルタイムで集まってくる状態になっています。例えばタイワンタケクマバチという外来種は、国立環境研究所が出している分布の研究結果に比べて、現在はより分布が広がってきていることが、アプリにて取得しているデータから分かってきました。国よりも弊社の方が正確なデータを持っているような状況です。生物のリアルタイムデータの量に関していえば、国内ではトップレベルかと思います。

 

・データや人の移動を活用したビジネスモデル

アプリの中でちょっとしたゲーム機能として「クエスト」というものを用意しています。ターゲットの生き物を設定して、その生き物を見つけたらクリアです。このクエストを企業や団体に販売しています。環境省と一緒に「気候変動の影響を受けている生き物」を探す教育的なクエストを作ったり、「砂浜に生息している生き物」のクエストを作って日本自然保護協会と砂浜でイベントを行ったりしました。他にも、JR西日本・JR東日本・JR九州の3社と、生き物を探しながら旅をしようというコンセプトでイベントを開催するなど、大きなイベントを開催してきました。環境保全につながる案件しか受けないことが僕たちの唯一のこだわりです。こうやって生き物の価値をうまくサービス化することで、生物多様性の保全を促進しています。

 

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いきものコレクションアプリ「バイオーム」の画面

 

・起業のきっかけと事業の着想

もともと生物の絶滅や生態系の破壊に関心を持っていました。現在100万種類の生物が絶滅の危機に瀕していて、その50%以上が100年以内に絶滅すると言われています。この問題を何とかしたいなという想いが強くて、大学では衛星画像を使って広いエリアの生物の状態を観測する技術の開発や生物多様性を評価するという研究をしていました。ボルネオ島のジャングルの中に入り込み、キャンプ生活をしながらの研究です。食料がなかったのでヒゲイノシシを捕まえて食べたり、野戦病院のようにタンカを作ってそこに泊まったりする生活でした。

ただ島の中には、開発されて更地になり、熱帯特有の赤土が剥き出しになっている場所も多くて。本来は巨大な熱帯林が広がっているはずの土地なのに、地平線が見えるようなところもありました。これだけの広さを更地にしてしまうってもの凄いエネルギーですよね。そのエネルギーのもとはというと、基本的に経済です。「木を切ったら儲かる」というお金の力がこのエリアを支配しているなと感じました。とすると、経済の仕組みを変えていかないと生態系の課題も変わらない。環境を保全することがお金になる仕組みをつくれば、環境破壊がお金になっている今の社会を変えられるんじゃないかと思い、起業に至りました。

 

プロトタイプの作り方

・(計画)資料作りと営業活動

創業当初は、京大の先生に研究室の一角を貸してもらい、そこでずっと開発をしていました。とはいえ開発だけしていても何も進まないと思って、構想しているアプリの仕様やキャッシュポイントの作り方を資料にまとめて、いろいろな人に会いに行きました。まだ何もできていないサービスですけど、実際にあるかのようにパワポで資料にして、「どうですか?面白いでしょ?」とか言って持ち込むんです(笑)。ステークホルダーに理解してもらう・認めてもらう・わくわくしてもらうことが大事だと思っているので、資料を作る時もそういうことが伝わる資料になるように心がけていました。

また、個別の営業だけではなくて、ピッチにもよく出ていました。プレゼンできる機会があったら全部出る。全てのスケジュールを断らない。そういう戦略でやっていました。とにかくサービスを知ってもらわないといけないと思って活動していました。

 

・(開発)コンセプト設定とUI*・UX*設計

開発では、細かいコンセプトをもとにUI・UX設計をしていきます。なので、コンセプトの設定がすごく大事ですね。僕たちの場合は、コンセプトが時系列で変わることを目指しました。初期は、興味を持ってもらえるか、ダウンロードしてもらえるかが大切です。そこで、ゲーム性や楽しさを押し出して「いきものコレクションアプリ」という分かりやすくてキャッチーなコンセプトを設定しました。それを少しずつ生物の名前判定の機能を強化していくことで、日常に必要なツールにしていく。「バイオーム」が、生き物とのつながりを感じるために不可欠なものになって、生き物に関する情報は全てここにあると言える状態になれば、継続して使ってもらうことができます。そして最終的には、生き物を保全する大切さが根付き、世界を変えるツールという位置付けに持っていけることを目指しています。

こうやって設定したコンセプトを、メンバーと確認しながら開発を進めます。ユーザーにどんな体験を生みたいかというUXをひとつずつ詰めて、それを実現するためのUIを作っていく。例えば、最初は図鑑を作る感覚を重視し、そのための機能を肉付けしていくような開発の仕方をしていました。

*UI…ユーザーインターフェイス。人とモノ(主にデバイス)をつなぐもののこと。例えば、アプリやWebサイトの画面上で見られる情報(フォントやデザイン等)すべてがUIにあたります。
*UX…ユーザーエクスペリエンス。人がモノやサービスに触れて得られる体験や経験のこと。Webサイトを見たときの印象や使いやすさなど、ユーザーが感じる感想がUXにあたります。

ユーザー検証に関してですが、僕自身が生き物が好きなので基本的には自分が面白いと思えるかどうかという軸で作っていました。検証して、ユーザー側のニーズに寄せていくよりも、アプリを通して「生き物の多様性を保全することが当たり前になる」ようにユーザーの価値観や社会を変えたいという自分たちの想いを大切にしたかったんです。

 

・(リリース)ランキンング戦略

こうして2019年4月に正式版をリリースしたのですが、リリースのタイミングではとにかくランキングに載ることに全てを賭けていました。ランキングに1回入れば、アプリストアの急上昇などでピックアップされて、またダウンロード数が増えていく良い流れが作れます。なので、最初にランキングに載りやすいように公開する分野を教育に絞ったり、これまで話を聞いてもらった人にメールして手伝ってもらったりと、かなり泥臭くやりました。

この時期までに本当に多くの人に会ってきたことや、プレゼンにたくさん出てきたことが功を奏して、ランキングに無事入ることができました。他にも、テレビや記事で取り上げられたことも大きかったです。

 

KPI設定の重要性

・目標達成のために追いかける数値

一番大切なのはコンセプトで、その次にUX。それを実現するためのUIを考える。そしてそれらを細かく見ていくためのKPIという形で、KPIを設定していました。弊社では最優先で追っていくKPIと、それを測定するためのKPIという風に、2段階に分けてKPIを設定しています。実際の数字を見ながら、なんとか因果関係を分析し、ダメだったところを改善して新たなKPIを立てていくことを繰り返しました。

KPIって、目標とその指標になるのはもちろんなんですが、メンバー間の共通言語としても大きく機能するんです。例えば、開発の会議をしても「こうしたらいい」「ああした方がいい」と各々の意見って分散しちゃうんですね。そんな場合でも、KPIにどのくらい効くかを軸に意思決定をできれば、効率がいい。ということで、チーム内での共通言語を作る感覚でKPIを設定し、それを開発やリリースの軸にしていくことでリソースの選択と集中ができたことが重要だったかと思います。

実際に藤木さんがコンセプト設計で使っていたもの(一部を塗りつぶしています)

 

創業期の起業家へ

・経営者の仕事

創業期の経営者って、企業が持つ全機能を担う必要があります。コンセプトからKPIまでの設計、広報戦略と営業活動、資金をどう集めるのか、あるいはいわゆる経理と呼ばれるお金の管理。法律やチームビルディングについても勉強しました。当時は、勉強して戦略を立てて開発してと、寝る時間やご飯を食べる時間さえ惜しいという感じでした。

そこから事業が拡大してきたことで、開発のコードを書くところなんかはメンバーに任せるようになりました。何を自分でやって、何をメンバーに任せるかは今でも悩む部分ではあるのですが、僕の手から離してメンバーに任せていかないと一定以上のスケールアップはできないので。なんでもやらなきゃいけなかった当初と比べて、今はチームビルディング的なところに僕の役割の必要性が高まってきているのを感じています。

 

・TTP「徹底的にパクる」

ベンチャーにとって、TTP「徹底的にパクる」というのは合言葉なんじゃないかと思います。経営者はもちろん事業を進めないといけないし、並行していろんなことを勉強しないといけないですよね。しかもフェーズによって求められるスキルが変わってきます。圧倒的に時間やリソースが足りない中で、パクれるものはパクる。実際、僕もキャッシュを生むビジネスモデルや、蓄積したデータの活用方法など、他のサービスや企業を参考にしながら進めてきました。その中でもUIは、むしろパクった方が良い場合が多いです。どういうことかと言うと、なるべくユーザーが慣れている仕様にした方が使いやすいんですね。なので、人気のあるアプリを参考にしつつ、独自性を組み合わせていけばいいんじゃないかと思います。

 

・アドバイスの捉え方

とにかく人に会ってアドバイスをもらうと思うんですけど、全部を聞き入れる必要は全くないです。僕もいろいろ言われましたが、基本的には自分の思う通りにやっていました。その方が納得できるし、なによりこの分野は自分が誰よりも詳しいという自負があったのもあると思います。。逆に言うと、自分の思う通りにやった方がうまくいく自信があるくらいにその分野に精通しておくと、大きな強みになるんじゃないでしょうか。

僕らも創業から1年半くらいは給料もなく苦労しながらやってきました。今でもすごくうまくいっている状態までは来ていないと思うんですが、それなりに自走できる状態にはなったかなと思います。今後みなさんが進めていくところで、今日の話と重なるところがあれば僕の話を参考にしていただければいいし、もちろん違うなと思ったら参考にしなくてもいいし。とにかく自分の好きなようにやるべし!ということで、応援しています。頑張ってください。

株式会社バイオーム HP https://biome.co.jp/

 

【『COM-PJ』とは?】

「あなたの優しさが、社会に接続される3ヶ月」
talikiと京都リサーチパークが主催する、社会課題の解決を目指し起業したい25才以下の方(創業2年未満、起業準備中など)を対象とした、起業家支援プログラムです。 2020年11月〜2021年1月の3ヶ月間で実施しており、仲間たちとの毎週の進捗報告会の他、経営者やVCなどメンターからの講演やフィードバックが行われています。

・最終発表会のお知らせ

1月24日(日)14時より、『COM[坤]-PJ』の最終ピッチイベントがオンライン配信されます。これまで奮闘してきたCOM[坤]-PJ参加者13名が、自身の想いや事業プランを発表します。ゲストに、アミタホールディングス株式会社 代表取締役会長・熊野 英介様、株式会社Monozukuri Ventures 代表取締役・牧野成将様をお招きし、ピッチへのフィードバックをいただきます。
また、参加者のピッチ後には、ゲストのお二方と弊社代表・中村によるトークセッション「社会起業家が考えるべきポイントと、地域機関との豊かな関係性とは」を行います。この貴重な機会を、ぜひご覧ください。

▼イベント詳細はこちら
https://taliki.org/archives/3100
▼お申し込みはこちら
https://taliki-compj.peatix.com/

COM[坤]-PJ公式サイト:https://www.talikikrp.work/
運営:
京都リサーチパーク株式会社 https://www.krp.co.jp/
株式会社taliki https://www.taliki.co.jp/

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。