300円で通える塾。込められた思いとは?
自己肯定感を養える場としての「学習教室」
―具体的にはどんなことを?
子供たちに対しては、先ほど言った通り質問できる自習室をしています。
勉強できる場所って少ないな、と思ってるんですよね。
図書館は誰にも聞けないから一人でやることになっちゃう、家だと集中できない、塾は高くて行けるわけじゃない。
それに加えて、僕やメンバーの塾講師の経験からして、勉強する場所が欲しいから、塾に行って自習室を使っている生徒が多いと感じたんですよね。ただ、親の所得があるからそういうことができるわけで、ないとできないんです。
なので、経済状況、学力関係なく誰でもふらっと訪れて、自分のペースで目標決めて勉強も質問もできる場所を作っています。
ただ、僕はさっき言ったような、子供たちの自己肯定感の低さを改善する、というのが一番したいと思っていることです。
日本の自己肯定感は他国と比べても統計的に低いんですよね。それが良い悪いという話は置いておいて、学校教育というのは偏差値で輪切りになっているというのが理由の一つにあると思っています。
自分もそうだったけど、中学校まで勉強ができた時期はすごくかわいがられた、けど高校に入って落ちこぼれていた時期は完全にはみ出しものだった。僕の中で変わったのは成績だけなのに、結局勉強できたら受け入れられて、勉強できなかったら排除される教育になってしまっていると肌で感じたんですよね。
カタリバでも何百人もの高校生と話してきたんだけど、結構共通して自信がないな、自己肯定感低いなと感じたんです。なんでだろうと考えたら、やっぱり勉強にいきつく。
価値判断基準が「勉強できるかできないか」の一つしかないところが、自己肯定感の低さにつながっているんじゃないかなと僕たちは仮説を持ってるんです。
自己肯定感というのは、
①「できた」という成功体験
②「こんな自分を受け入れてくれるんだ」という、つながり
③自分を絶対評価するマイペースさ
の掛け算だと考えています。
①の成功体験でいうと、うちの自習室では、「今日はこれぐらい勉強する」「このワーク何ページする」「今日はここの質問をして理解する」みたいなを目標を毎回たてて、小さい成功体験として積み重ねてもらっています。
②のつながりでいうと、毎回3〜5人ぐらい中高生中心に来ていて、それぞれがほとんど知らない人同士なんですけど、コミュニケーションを通して関われる場になっています。他校のこどもたちや、運営している僕たち大人や、僕たち以外の関係のない大人とつながりができる。なんか知らない人だけど、ちょっと話して受け入れられるような新しい関係を築いていくと。
③の絶対評価ですが、「ここまでやる」って決めて、そこまでやること、もしくはできないことが、(他者と比べての相対評価ではなく、自身の)絶対評価に繋がると思っています。「誰かと比べて」ではなくて、「自分の目標と比べて」だから。
だからコアなターゲットとしては、自分に自信がない、かつ、それが勉強に起因している場合の中高生です。実際は勉強したい気持ちがある人全員に入り口を広げています。
―塾講師をしているスタッフの方が見てくれて、1日300円で使える自習室って、とても安いと思うんですけど、こういうのってどうやって決められたんですか?
僕たちがサービスをやっている場所が尼崎なんですよ。
尼崎って生活保護世帯の割合が比較的高くて、所得が低く、勉強の質も傾向として低くなっていたんですね。そのときに、経済的なハードルは下げたいなと。
でも勉強するときにお金を払うって大事で、お金払ったし勉強しなきゃって責任感が多少はうまれるのかなと。また、僕らサービスを提供する側も「ボランティアではなく、対価を受け取って学びの場を作っている」という責任が生まれる。そのような、「責任のやりとり」の額を考えたとき、300円が妥当かなと。
―どうやって運営されているんですか?
基本学生が運営しています。
あったらいいなと思ってくれる人は実は地域にいっぱいいるんです。ただ、やらない。面倒臭いし、利益にもならないですから。
今は3人で運営していて、3人とも教育関係の道を志しているので、利益が自分たちに直接的にはなくても、教育経験は積めるので良いですね。
―生の『本当にこういう場所が欲しかった』みたいな声を割と聞いてきた?
そうですね。大人の方々が「あったらよかったと思うから、場所かすよ」とまで言ってくださることもあります。だから場所代がかかってないんですよ。
―ドリンクももらえる!(名刺を見ながら)
そうなんです。いろんな地域の方から差し入れをいただいて、「高校生お腹すくでしょ」ってスープはるさめくれたりとか、おにぎり作ってきてくれたりとか。
―素敵!その時点でコミュニティづくりの起点になっているんですね。
→定時制の高校で出会った、「自分を受け入れること」を知らない女の子
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