いじめの報告・相談クラウドサービス。IT系のキャリアを強みにオープンな仕組みづくりを

子どもがいじめで悩まない社会を目指して、事業を展開するくまゆうこ。IT業界での経験を生かし、子どもがパソコンやスマホから先生に相談できる仕組みを提供している。いじめ問題に取り組むきっかけや、想いを聞いた。

【プロフィール】くま ゆうこ
青山学院大学卒業。大手メーカーやDeNAでのコンテンツ企画、マーケティング職を経て独立。中高生向けサービス、ワーキングマザー向けメディア立ち上げ等に関わる。子どもや保護者と接する中で、いじめの問題に課題意識を持ち、株式会社マモルを設立、代表を務める。

いじめが与える影響の大きさ

ー現在の事業について教えてください。

子どもがいじめで悩まない社会を目指して、学校向けにいじめ防止プラットフォーム「マモレポ」の開発、運営をしています。学校ごとの契約になっていて、子どもが「マモレポ」を通していじめの相談や報告をすると、その内容が学校側に届くようになっています。相談や報告が届いたら、学校側が内容に応じて様子を見たり、子どもに話を聞いたりします。支援が必要な場合には、マモルが学校をサポートすることもあります。

 

ーいじめの問題に注目したのはどうしてですか?

IT企業で働いていた時に、中高生向けのスマートフォンのサービスの企画に関わっていたことがあるのですが、いわゆるネットいじめや誹謗中傷を目の当たりにして、問題意識を持ったのがきっかけでした。その後、働くお母さんをターゲットにしたメディアに関わったのですが、お母さんたちの中にも、子どもの学校での人間関係に悩んでいる人がたくさんいて、いじめって誰にでも起こりうるし、関係しうる問題だと感じました。また、学校でのいじめが原因で、大人になってから他人との関わり方がわからない人や、就職する事、働く事が怖い人もいます。いじめが人生に与える影響の大きさを考えると、子どもたちが多くの時間を過ごす学校でのいじめを無くしたいなと思ったんです。

 

ー起業されたのには、どのような背景があったのでしょう?

2015年くらいに、海外で匿名でいじめを報告できるWebサービスができたことを知って、日本にも同じようなサービスがあった方がいいんじゃないかと思ったんです。元々ITが自分の得意分野だったし、まだ日本には類似サービスがなかったので、それなら私がやろうと思って始めました。最初はフリーランスで取り組んでいたのですが、問い合わせなども増えてきて、法人格がないと事業が進みにくいと感じたこともあり、2018年に起業しました。私自身、育児もしていますし、会社を持つことに対する迷いもあったのですが、自分の中で「今ならできる」と思ったタイミングが2018年でした。

 

サービスを使う人の心持ちが重要

ー従来のいじめ相談や報告には、どういった課題があるのですか?

先生に直接相談しに行く子もいるのですが、学校の先生ってすごく忙しいので、なかなか捕まえることが出来なかったり、ゆっくり話す時間が取れなかったりします。子どもからいじめのことを聞いた保護者が学校に電話をするという場合もありますが、保護者・先生ともに時間が合わず、結局ほとんど話すことが出来ない例もあります。保護者が入って、大事になるのを嫌う子どもも多いですね。また、いじめを見ている第三者が先生に報告することも多いのですが、先生と話しているところを誰かに見られて、次はその子がいじめの被害者になってしまうというケースもあります。

 

ーいじめに対応する学校側が抱えている問題はありますか?

これは私が今、いじめの問題で一番課題に感じている点でもあるのですが、情報が先生間で共有されておらず、1人の先生だけが情報を持っていることですね。いじめが起きたクラスの担任だけが背負って対応していく。でも、それじゃ解決しないと思うんです。会社だって、何か問題が起きたら、チームで共有して組織で対応していくじゃないですか。学校も同じで、クラスの先生だけでなく、色んな先生がみんなで対応を考えていく必要があると思います。マモレポでは、情報を一元管理できますし、時系列も追えるので、情報の共有と組織対応に課題感を感じてらっしゃる学校には、ぜひ使っていただきたいですね。

 

ーマモレポの導入には、何か基準があるのでしょうか?

私たちのサービスを上手く活用していただくには、学校の雰囲気が良い必要があるんです。例えば、生徒と先生の間に信頼関係がないと、マモレポを導入しても「先生に相談したら何とかなるんじゃないか」とは思えないですよね。なので、教員研修や学校の雰囲気作りに取り組んで、良い空気感が醸成された学校と今は取り組んでいます。すでに起こっているいじめを解決していくことももちろんですが、深刻な状況になる前に、マモレポを使って相談できる。そして、子どもから何か連絡が来たら、学校が素早く対応する。いじめに発展する前の段階で、マモレポが上手く使われるとさらに良いですね。

あとは、先生方がいじめ問題に熱心に取り組む姿勢があるかどうかですね。子どもたちが相談してくれても、その後の対応をきちんとしていかないと、いじめは解決しないので。マモレポの導入が決まったら、学校側と一緒に責任者を決め、もしいじめが起きたらどう対応していくか話し合っています。マモレポはあくまでツールで、実際に使うのは子どもと先生ですからね。

 

ーマモレポの仕様でこだわっている点はありますか?

1つ目は、インターネットさえ繋がれば誰でも相談できるように、ダウンロード等が必要なアプリではなく、ブラウザ上で使えるWebサービスの形にしたことです。2つ目は、小学生が使っても、問題を整理して伝えられるように、わかりやすいイラストを使っているところですね。何かを整理して喋るのって、意外と難しいんです。文章で書くとなると尚更難しくて、伝えたいことが上手く伝わらない状況も出てきてしまいます。選択肢をタップしていく方法を取ることで、伝える側と受け取る側の認識のズレを小さくできるよう工夫しています。

 

ーサービス利用者の声を教えてください。

埼玉県のある小学校では、児童ではなく保護者が相談できる形で導入しました。いじめに限らず、学校生活のことを相談できるサービスとして開始したんです。小学生だと、スマホを持っていない子もいるし、学校のことに保護者が関わる機会も多いということで、この形での導入が決まったのですが、保護者の方から「こういう相談の仕組みがあってよかった」と言われました。
実は保護者って、子どもの学校生活や教育に関する悩みを打ち明けられるところが少ないんです。学校の先生に電話すると大袈裟になっちゃうし、市役所や教育委員会に言うのもハードルが高いじゃないですか。かといって、ママ友にも言えることと言えないことがあるだろうし。でも、マモレポがあることで、悩みを気軽に相談できるし、不安なことを先生に簡単に共有できるんです。

 

違う専門を持つからこそ、できること

ー学校や保護者へのヒアリングを大切にしていると伺いました。

現場の声をたくさん聞くようにしています。学校の先生やお母さん方との繋がりが強いので、そこも生かして一次情報を得るようにしています。一次情報というのは、「〇〇が言っていたらしい」というような、出所がわからない情報ではなく、その本人に直接聞くということです。マモレポは外部に委託せず自社で開発しているので、柔軟にユーザーのニーズに対応できるようになっています。サービス導入前の学校や、これから導入しようという学校へのヒアリングはもちろんですが、導入の話が出ていたけれど上手くいかなかった場合のヒアリングを特に重要視しています。何がネックだったのかはっきりさせることで、サービスの改善に繋がるからです。これまでに「外部のサービスを導入するなんて、これまでにやったことがないから不安だ」とか「スマホやタブレットを持っていない子もいるから不平等になる」といった意見がありました。後者は、コロナの影響もあり、学校から子どもたちに1人1台パソコンが支給されはじめてきているので、解消されつつあります。

 

ー社内には、IT業界出身の方が多いのですか?

私だけでなく、メンバーやエンジニアもIT企業出身者が多いです。いじめとITって、一見結びつかないのですが、だからこそ新しい事ができると思っていますし、逆にそれが強みでもあるのかなと思っています。ITを駆使していじめ問題に取り組む事例ってこれまではあまり多くなかったので、その強みを活かした視点や角度から問題を捉え、解決策を提案していきたいです。

 

運に左右されない仕組みづくりを

ーいじめ問題に地域差はあるのでしょうか?

統計上、比較するのは難しいのですが、いじめの問題に対して「何とかしなきゃ」と熱心な地域もあれば、あまり前向きではない地域もあります。ただ、地域差というよりは、学校差が大きいですね。良い雰囲気の学校風土が醸成されている学校もあれば、そうでない学校もある。いじめが起きたら、早期発見して悪い方に行かないようにしなきゃという姿勢の学校もあれば、いじめが放置され続けている学校もある。
でもこれって、子どもたちにすると、運の要素が強いと思うんです。「たまたま自分の校区の学校が良い雰囲気だったからいじめがなかった、ラッキー」「たまたま担任がいじめ問題に熱心な先生だったからすぐに助けてもらえた、ラッキー」みたいな。そうじゃなくて、どの学校に通っていても、担任の先生が誰でも、みんな同じ水準で対応してもらえる仕組みを作りましょう、そのために私たちはマモレポを通して、情報の一元化・共有化をお手伝いします、という想いで事業をしています。マモレポでは、子どもが連絡するだけではなく、いじめの予防に関する読み物も掲載しています。予防と対策が一緒に行えて、「それぞれが、個々に存在するだけでなく、根っこのところが共通していて、全体的にみるとトータルコーディネートされているところがいい」と言っていただいてます。今後は、子どもたちの役に立つコンテンツの提供や、サイトをさらに充実できたらと思っています。

 

ー今後の目標を教えてください。

将来的には、学校の雰囲気といじめの相関関係のようなデータを、何とかして数値化できないかなと考えています。インフルエンザなどの病気を例に出すと、いつごろ患者が増えるとか、どうすれば早く治るとか、これまでの情報から分かりますよね。同じように、いじめに関してもデータを集めていくことで、未然に防ぐところに繋がらないかなと思っています。

また、子どものいじめだけでなく、パワハラやセクハラといった大人のいじめに関わる方面にも、サービスを広げていきたいです。事業を始めた当初は、「子どもを救いたいから」と大人のいじめに関わる話は断っていたのですが、ふと「子どもが大人になるんだし、いじめ問題に年齢は関係ないよな」と気づいたんです。なので、子ども・大人関係なく、社会全体としていじめ問題を解決していきたいです。「自分がやる意義」をすごく感じているので、これからも頑張っていこうと思います。

 

株式会社マモル HP https://mamor.jp/

 

読者アンケートご協力のお願い
いつもtaliki.orgをご愛読くださりありがとうございます。
taliki.orgは、2020年5月のリニューアルから1年を迎えました。
サービスの向上に向けて読者の皆さまへのアンケートを行っております。

3分程度でご回答いただける内容となっております。ご協力よろしくお願いいたします。

 

アンケート回答はこちら

 

interviewer
河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

talikiからのお便り
『taliki magazine』に登録しませんか?
taliki magazineのメーリングリストにご登録いただくと、社会起業家へのビジネスインタビュー記事・イベント情報 ・各事業部の動向・社会課題Tipsなど、ソーシャルビジネスにまつわる最新情報を定期的に配信させていただきます。ぜひご登録ください!