古き良き喫茶文化を継承したい。京都の人気喫茶店・市川屋珈琲が紡ぐ想い
インタビュー

古き良き喫茶文化を継承したい。京都の人気喫茶店・市川屋珈琲が紡ぐ想い

2020-11-07
#地域・まちづくり #食

「お客さんに喜んで帰ってほしい」と語る市川屋珈琲オーナーの市川陽介。5年前にオープンした市川屋珈琲は様々な世代に愛される京都屈指の人気店になった。より多くの人に愛されリピートされるようになった理由や、喫茶店経営を通して実現したいことを聞いた。

【プロフィール】市川陽介(いちかわ ようすけ)
市川屋珈琲オーナー。18年間京都の老舗であるイノダコーヒーで修行した後、清水焼職人の祖父が工房として使用していた町家を改築し開業。「お客さんに喜んでほしい」という想いを第一に京都・東山区で5年間喫茶店を経営している。

コーヒーで人を喜ばせたい

—お祖父さんとお父さんが清水焼の職人という家系に生まれながら、コーヒーの道を選ばれたのはなぜですか?

昔から人に喜んでもらうのがすごく好きで、コーヒーはその手段の一つでした。学生の頃、自分で淹れたコーヒーを友達に出して「美味しいなあ」って喜んでもらえるのがすごく嬉しかったんです。これを仕事にしたいと思ったのがきっかけとなり、いつか自分で喫茶店を開くことを決意しました。大学4年生のとき、喫茶店開業のためにはお金が必要だと思い、就職活動をしていましたが、ただお金を稼いだところでお客さんに伝わるものを作れるだろうかとふと思ったんです。そこでもらっていた内定を全て辞退して、京都の老舗であるイノダコーヒーの門を叩きました。

 

—18年間修行された後、独立されたきっかけは何だったのでしょうか?

イノダコーヒーに入ったのもいつかは自分で開業するためだったのですが、なかなかタイミングを掴めずにいました。この市川屋珈琲の建物は実は私の祖父の家なんですが、その当時私が住んでいて雨漏りがひどかったので、屋根修理を依頼しました。そうしたら屋根だけ直すのは無理で根本から直す必要があると言われたので、町家専門の建設業者さんにみてもらったところ「これはなかなか立派な町家ですよ」って言っていただいて。その話を聞いたときに初めて長年持っていた喫茶店開業の想いをこの建物で実現したいと思ったんです。

私自身この家にすごく思い入れがあったので、立て直しではなく改築を選びました。また、この地域が陶芸の町であるという背景や私が陶器屋で育ったことから、祖父が工房としても使っていたこの建物を残すことで私なりに伝統を継承していきたいという思いもありましたね。

清水五条駅から徒歩7分くらいのところにあります。

 

「調和のとれた」空間や商品

—商品へのこだわりを教えてください。

喫茶店っていうのは、きちんとした素材をお出しすることが継続して来てもらえるポイントになると思っています。うちは「全て調和がとれている」ということを求めていて、お店の雰囲気、接客、コーヒー、器、サンドウィッチ、どれをとってもお客さんに喜んでもらえるようなものを提供することを最優先に考えています。例えばコーヒーだったらクオリティと原価率のギリギリのラインっていうのがあるんですが、うちはそのラインを全部超えて原価率が高くなっていますね(笑)。店舗が持ち家で家賃がかからないからこそ出来ることかもしれません。その分お客さんに美味しさで還元しようと思っていて、質の高い素材を出すことを心がけています。今月のフルーツサンドはマスカットなんですが、「市場に入ってくる中で一番良いマスカットをください」って必ず言ってます。

他にも、今は変わってしまったんですがすぐ近くにあるパン屋さんのパンを使ったり、五条にあるお肉屋さんからベーコンを仕入れたり、なるべく(喫茶店が位置する東山区周辺で)地産地消にしようとしています。喫茶店って情報発信地のような役割も持っていると思っていて、地域の食材を使うことで「東山区ってこういうところだよ」っていうのをお客さんに伝えるということも意識しています。

 

—メニューにはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

メニュー構成はすごく考えましたね。ちょっと自慢できることなんですけど、開業してから5年間一度もメニューを変えてないんですよ。コーヒーは市川屋ブレンド、青磁ブレンド、馬町ブレンドの3種類があります。食べ物はフルーツサンドに加え、たまごサンド、ベーコンとみぶ菜のサンド、野菜とハムのミックスサンドなどがあります。お昼時にはオムライスも人気です。素材は無添加のものを使い、オムライスのデミグラスソースは大きな鍋で仕込むところから作っているのがこだわりです。メニューは全てコーヒーに合うものを選んでいますね。

青磁ブレンドのコーヒーと季節のフルーツサンドをいただきました。

 

全ての人に愛され、リピートしてもらうために

—どのようなお客さんが来られるのですか?

私は欲張りで、ターゲットを絞りたくなかったんです。全ての方に来てもらいたいという思いで作ったので、若い女性、親子連れ、ご年配の方、外国人など様々な方が来られます。どんな方でも来ていただけるように、コーヒーは産地で選ぶのではなくブレンドにすることで初心者の方も選びやすいようにしたり、飲みやすいまろやかなブレンドにしたりと工夫しています。やっぱり私はこの喫茶文化を若い世代にも知ってもらいたいという思いがあって。近くには京都女子大学があるので学生さんが一人でモーニングを食べにきてくれたりするんですけど、そういうのを見て私としては「喫茶店楽しんでくれてるな」ってすごく嬉しいんですよ。喫茶店の楽しみ方を知ってもらいたいという思いが伝わって、若い世代の方たちも来てくれているのかなと思います。

 

—お客さんはどうやって市川屋珈琲を知って来られるんですか?

この前若い方に「市川屋珈琲知ってはります?」って聞いたら、「インスタで有名なお店だから知ってます」って言われたんですよ。毎日タグ付けなどしてくれる方がたくさんいるんですが、私が戦略的にSNSを利用しているとかでは全くなく、自然に広まっていったんですよね。私たちとして意識していることは、ただ間違いのないことをしていれば絶対に人は来るということです。創業時からずっと、1回目に来てもらうことではなく、2回目も来てもらうにはどうしたらいいかということをものすごく考えてきました。今、市川屋珈琲ですごく人気になっているフルーツサンドも狙ってSNSで流行るようにしたわけでは全然ないです。でもやっぱりお客さんを飽きさせないように、そして京都の四季の豊かさを感じてもらいたいという思いから季節のフルーツを使っています。「次は柿なんや」とか「イチジクの季節がきたんやね」とかいってもらえたら面白いじゃないですか。四季の変化を感じられるフルーツサンドならお客さんもまた来ようって思えるのかなって。他にもコーヒーを3種類用意しているのにも意味があります。230円でおかわりできるようになっていて、コーヒー好きな方は結構おかわりされるんですけど、2種類飲んでもまだ1種類余るんですよね。これもまた来たいと思える理由付けになるかなと思っています。

築200年の重みを感じる造りです。

 

フルサービスのおもてなし

—市川さんが考えるオールドスタイルな喫茶店の良さとは何でしょうか?

今は例えば機械を導入して人を減らすとか、削減されていく世の中じゃないですか。私たちは効率を求めるのではなく、フルサービスでお客様をおもてなしをしたいと思っています。コーヒーはあえて時間のかかるネオドリップという方法で淹れるし、サンドウィッチのパンはご注文があってから切り始める。座席にもあたりハズレがないように窓際は窓際で楽しいし、カウンターでは私たちがコーヒーを淹れているところを見ていただける。お客様一人ひとりに丁寧に対応できるようにスタッフの人数も多くしています。一つ一つの丁寧なこだわりを空間、接客、コーヒーなど全てを通して感じていただけるのではないかなと思います。

この雰囲気作りはイノダコーヒーで学んだことです。くつろげるけれどもだらけない場所。家とは違った特別感。お客さんが何を好んでいるかをカウンターで観察しお話しすることで学んだり、忙しい中でもきちんとしたサービスを提供する技術を身につけたりしました。

 

喫茶店の温かみを紡ぎたい

—今後目指していることを教えてください。

喫茶文化の継承を目指しています。現代であれ過去であれ、安らげる場所、日常の中のオアシスのような場所として喫茶文化は守られるべきだと思っています。その喫茶文化にはフルサービスできちんとしたものを提供し、お客さんに喜んでもらうことが絶対に必要です。そのような技術を今働いているスタッフに継承すること、そして古き良き喫茶店の温かみを若い世代に伝えていくことに今後力を入れていきたいです。

 

<ライターのひとこと>

築200年の重厚感とおしゃれな雰囲気がマッチした素敵な喫茶店でした。今回は市川屋ブレンドのコーヒーと季節のフルーツサンド(取材時はマスカット)を注文。コーヒーはとてもまろやかで、普段あまりコーヒーを飲まない私でもブラックで美味しくいただくことができました。

フルーツサンドはクリームとフルーツのバランスが絶妙…!とても美味しかったです。世代を超えて喫茶文化を楽しんでほしいという市川さんの思いが、味、空間、接客全てから伝わってくるような体験でした。市川さん、ありがとうございました。

 

コーヒー豆ご購入は https://ichikawaya.thebase.in/

店舗情報等は https://www.facebook.com/ichikawayacoffee/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

     

    writer
    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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