作り手に寄り添い、本質を濾(こ)す。地場産業に込めた持続可能な社会への想い【後編】

「文化ビジネスコーディネーター」として長年、日本各地にある地場産業に寄り添ってきた北林功。地場産業こそが「持続的で豊かな暮らし」のカギだと考え、その魅力をより引き出す事業を行っている。後編では彼がどのように本質的な価値を見抜いているのか、そして新事業に込める想いについて聞いた。

【プロフィール】北林 功(きたばやし いさお)
COS KYOTO株式会社代表取締役/コーディネーター。一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会代表理事。COS KYOTOでは、日本全国にある地場産業のエッセンスをモノの輸出や文化交流事業を通じて海外へ発信している。また、DESIGN WEEK KYOTOでは、京都の様々な職種の人が交流し、コラボレーションが生まれるようなコミュニティを創っている。全ての活動において「地球環境を良くし、持続的で楽しい社会を作る」という目標を掲げている。

前編はこちら。作り手に寄り添い、本質を濾(こ)す。地場産業に込めた持続可能な社会への想い【前編】

 

その土地に受け継がれる想いを感じる

—伝統産業に出会ったとき、その本質の価値を見極めるために意識していることはありますか?

産地では必ず民俗資料館などに行くようにしています。そこでこの街の産業がどのようにして生まれたのか、その土地である必要性などについて、現地に行かないとわからないような詳しい歴史を学んでいます。また、地元に根付いた飲食店でご飯を食べることもよくありますね。その地域の人たちがどのような文化の中で生きているのかということを知るためです。お客さんや店員さんに「ここってこういう文化ありますけど、いつからこんなんになったんですかね?」と聞いてみるんです。
産業の作り手本人にあえて聞かないことで、客観的にその土地や産業のことを知ることができます。そのような下調べを経た上で、職人さんに色々と質問を投げかけていくと、より多くのことを引き出すことができます。

あと神社に行ったり、お祭りに参加したりすることもあります。どのような神様が祀られているのか、祭りにどんな伝統が残っているのかなどを通して、その土地の歴史を知ることができます。例えば、福井県の越前にある日本一の和紙の産地。ここにある大滝神社に祀られている女神様が産地に和紙を伝えた人だとされていて、女神様が現地の人に和紙づくりを教えている様子は祭事の際の舞踊として残されています。
このような歴史を知ると、ぶらしてはいけないところがわかるんです。その土地の大切にしているものを知るだけではなく、感じに行くことが大事だと思います。

職人さんの中には伝統産業を新しい商品やサービスにすることに反対の方もいますが、その土地の方々が大切にしていることはぶらさないという姿勢を伝え続けることで、想いが伝わっていくことが多いです。

丹後訪問

 

日本の地場産業からラグジュアリービジネスを

—様々な事業を行う中で、今特に力を入れていることはなんですか?

ラグジュアリービジネスを地場産業から生み出していくことにチャレンジしています。20世紀的な大量生産・大量消費の価値観から、地場産業が培ってきた、「自然の恵みを生かして限られた資源の中で豊かな文化や生活をつくる」という価値観へのシフトを目指しています。文化というのは精神的な豊かさなので、資源が少なくても文化的豊かささえあれば楽しく暮らせると思っています。

例えば、茶道。言ってしまえば、茶道の茶碗は泥をこねて焼いたものです。この茶碗が、戦国時代には茶碗一つで国が買えるほどの価値を持っていました。それは、当時の人が茶碗にそれだけの精神的・文化的価値を見出していたから。しかもお金を積んだら買える高級品というだけではなく、その茶碗を持つのにふさわしい人かどうか判断されて、ようやく茶碗を手にできるわけです。これは、精神の豊かさはお金では買えないということを象徴する文化だと思っています。

こうした文化は、世界的にはラグジュアリービジネスと言われています。例えば、エルメスの「バーキン」という最も高いバッグは200万円払ったら誰でも買えるわけではなくて、エルメスの人にふさわしいと選ばれた人しか買うことができないんですよ。他にも、5千万円のフェラーリは選ばれた人しか買うことができないという例もあります。「あなたはこれを持つ資格があります。」と作り手が選んだ人しか買えない商品。こういうものがラグジュアリービジネスです。

これは上から目線というわけではなく、お客さんと一緒にブランド価値を育てていくということです。そして僕は、これがまさしく地場産業にとって大事なことだと思っています。地場産業の持つ「限られた資源の中で、美しくて心が豊かになるものをつくる」というサステイナブルな仕組み。これが世界中の人に伝わったら豊かで楽しく、かつサステイナブルな暮らしに近づけるのではないでしょうか。

 

このような想いから、アクセラレータープログラムの実施を考えています。日本全国にある地場産業従事者に、ビジネスの基礎を学んでもらいながら、ラグジュアリービジネスを作っていくというプログラムです。

イタリアにBrunello Cucinelliというファッションブランドがあります。シンプルなデザインで、「100年着続けられる服を作る」をコンセプトにした1978年創業のブランドです。ソロメオ村というイタリアの小さな村に本社があるのですが、財団を創って、売り上げの何%かを村の修復などに当てています。街の景観を阻害している建物を取り壊してオリーブ畑を作るなど、地域の中で自然と人間が共生する居心地のいい場所を作るということを、地域に根付いた会社の責務として行なっています。
僕はこういうことを日本の地場産業ももっと考えていかないといけないと思います。いいもの作ったら売れるだろうだけでなく、いいものであるということを憧れられる、共感されるようなプロモーションの仕方なども考えていく必要があります。

そしてもう一つはクラフトソンを企画しています。今まではクラフト(地場産業)の付加価値を上げていくことに注力してきましたが、テクノロジーを活用して、クラフトを全く新しい分野にしようという試みです。
テクノロジーと聞くと冷たいようなイメージがありますが、そこにハンドメイドの暖かさや手作りの心の潤いのようなものを融合させた、クラフテック(クラフト×テクノロジー)をもっと広げていきたいです。

ワークショップ

 

次世代を育て、未来に繋げる

—今後、どのように事業を展開されるのでしょうか?

現在取り組んでいるラグジュアリー事業やクラフトソンで実績を作り、まずは京都の中に広げていきます。その後、京都以外で僕と似たような事業をしている人たちと連携しながら全国に展開し、お互い学びあっていけたらと思います。

事業を展開していく上で、次世代を育成することは強く意識しています。行政の方々には「予算をケチらないでほしい」とお願いしています。僕の会社だけでやるなら1000万円で済むところをあえて1500万円つけてほしいと。それは僕が儲けたいからではなく、僕の会社だけでやっていたら5年後、10年後に同じことを誰もやらなくなってしまうからです。
だからこそ上乗せしてもらった費用で、まだ経験や能力はないけれどやりたいという方をプロジェクトのアシスタントや現地スタッフとして雇い、関わる中で学んでもらいます。そして5年間その事業をやったら、現地に僕と同じようなことができる人が育っているという状態をつくる。やっぱり一人ではできないことなので、次世代を育成することが今後さらに重要になっていきます。

僕がやっていることは金銭的に儲かる仕事ではありません。でも地元のために貢献し地元が元気になることで、みんなが笑顔で生き生きと暮らせるようになる。そういうことに心の豊かさを感じられるような社会にシフトしていきたいと思っています。

 

COS KYOTO株式会社 https://www.cos-kyoto.com/
DESIGN WEEK KYOTO https://designweek-kyoto.com/

 

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interviewer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

 

writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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