作り手に寄り添い、本質を濾(こ)す。地場産業に込めた持続可能な社会への想い【前編】
インタビュー

作り手に寄り添い、本質を濾(こ)す。地場産業に込めた持続可能な社会への想い【前編】

2020-07-02
#地域・まちづくり #環境

「文化ビジネスコーディネーター」として長年、日本全国にある地場産業に寄り添ってきた北林功。地場産業こそが「持続的で豊かな暮らし」のカギだと考え、その魅力をより引き出し、伝える事業を行っている。前編では、7年間地場産業に向き合ってきたからこそわかる環境の変化や、創業時から変わらない想いについて聞いた。

【プロフィール】北林 功(きたばやし いさお)
COS KYOTO株式会社代表取締役/コーディネーター。一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会代表理事。COS KYOTOでは、日本全国にある地場産業のエッセンスをモノの輸出や文化交流事業を通じて海外へ発信している。また、DESIGN WEEK KYOTOでは、京都の様々な職種の人が交流し、コラボレーションが生まれるようなコミュニティを創っている。全ての活動において「地球環境を良くし、持続的で楽しい社会を作る」という目標を掲げている。

 

「文化ビジネスコーディネーター」という仕事

—事業の内容を具体的に教えてください。

1つ目は、日本全国の地場産業の職人さんが持っている技術や作っている素材を、海外の建築家やデザイナーなどに紹介するという事業です。MoonShine Materialsというwebサイトで、海外のクリエイター向けに和紙やテキスタイルなど日本の特徴的な素材を英語で紹介しています。
現在は新型コロナウイルスの影響で直接海外に行けないので、オンラインでの発信を強化するためにECサイトなどの活用を検討しています。

2つ目は、地場産業の会社や職人さんが自分たちでなにか新しいブランドやサービスを作りたいと思ったときに、事業のサポートを行っています。地域の会社というのはある商品の生産過程の一部だけを担っていたり、製造ライン以外のリソースを持っていなかったりするので、実現するためには、他の人や会社との協業が必要になります。そこで僕が間に入り、適切な人や会社を繋げる役割を担っています。
このように新しいビジネスをやる上で、戦略を考える部分と仲間をコーディネートする部分の両方を行なっています。具体的には、商品の企画・開発からホームページ制作、販路開拓まで、企業に伴走しながら全面的にサポートをしています。

 

—北林さんが一人でされているんですか?

基本的には一人でやっていますが、僕は考えることに注力して、できない部分に関しては色々な人をコーディネートしています。例えば今、京都にある家族経営の和菓子屋さんをサポートしているのですが、彼らには「日本一の甘納豆屋になる」という大きな夢があります。ただその方はお菓子を作る専門なので、依頼を受け、ビジョンやデザインなどを僕が一緒に考えています。そこでホームページを作るとなったら、webデザイナーやフォトグラファーを連れていくというように、「その時必要な人を連れてくる」というのがコーディネーターの仕事です。

スポーツチームで言うと、ファンがお客さんで、監督が社長さんだとしたら、僕はチームの戦略や選手の雇用を担うGM(ゼネラルマネジャー)みたいな感じですね。そして職人さんはプレイヤーです。職人さんの技術はとても素晴らしいのですが、客観的に自分たちの強みが何かということを把握するのが難しい。だから僕らには、「ここがすごいからもっとアピールしていった方がいいですよ」というのを伝える役割があります。

香港ギャラリーにて

 

伝統産業を取り巻く環境

—近年伝統産業の衰退が叫ばれるように、日本全国で地域に根付いた会社の多くが経営に苦しんでいたり、後継者不足により事業を継続できなかったりするという現状があると聞きます。100年続いてきた企業・産業が、意識的に経営のてこ入れをする必要が出てきたのはどうしてでしょうか?

まず1つ目に法律の問題があります。1970年代に制定された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」によって、「伝統産業」というものが法律で定義されました。この定義には、「手作りである」「昔ながらの素材を使っている」「組合に所属している」とか色々あるのですが、これを守らないと補助金などが受けられないんです。
この法律自体、本当は伝統産業をより普及、振興させるためのものであったはずが、伝統産業を定義してしまったことによって、進化を止めてしまったのです。これが伝統産業の衰退に繋がっていると思います。今も発展しているものづくりには、もう組合を抜けたためにこの法律の定義に従う必要がなくなったなどの理由もあったりします。

2つ目に慣習の問題として、手形取引があげられます。手形取引は、100万円の売り上げが上がったら100万円の手形をお客さんからもらいます。そして、その手形を半年後に銀行に持って行ったら100万円がもらえますが、3ヶ月後に持って行っても80万円しかもらえないという仕組みです。通常のビジネスでは支払いまでの期間が1ヶ月のところ、例えば着物関係の産業は180日になっているところが多いです。
この結果、職人さんは材料費などを払う必要があるのに、作ったものに対しての報酬が180日間返ってこないことになるので、経済的に苦しむことになります。この仕組み下では、設備投資もできないし、人件費も賄えないから後継者を雇うことも難しくなります。

3つ目は、分業が進みすぎたことです。例えば、着物の製造工程は多いところで40工程にも分かれてることがあります。昔は一つ、二つの会社で全部作っていたのですが、需要が拡大した時期に、一社では全工程まかなえなくなってしまったからです。このような分業化により、「下請けの下請けのさらに下請け」のように完全にピラミッド構造になってしまっています。
その中の一工程を担っている会社が自分たちで新しいビジネスをやっていこうと思っても、その上の仕事をくれる会社から、「下請けなのになんで自分たちで新しくビジネス始めようとしているんだ。もう発注しないぞ。」と反感を買ってしまうことになりかねません。今はそのような上からの圧力はほとんどなくなってきていますが、
なかなか新しいビジネスに踏み切れないという構造がいまだに残っています。

僕は法律を変えられる立場ではないので、「新しい仕組みのビジネスを考えましょう」という提案をしています。

亀岡の陶芸職人さん訪問

 

世の中に必要なことをやり続けてきた

—創業から7年間の中でCOS KYOTOの事業はどのように変わってきたのでしょうか?

周りの環境は変化していますが、創業の時から僕が言っていることややっていることはそんなに変わっていません。創業時からずっと、近い未来に世の中に必要とされるだろうと思うことを苦しくてもやり続けてきました。徐々に仕事が増えてきているのは、世の中のニーズが追いついてきたからだと思っています。COS KYOTOの事業は、その市場が大きく儲かる可能性があるからやっているのではなく、将来につながり、本質的でかつ僕がやりたいことだからやっています。

他の人がやっていないことをやるというのも心に決めていますね。最近は行政の方と一緒に仕事をすることも増えてきましたが、一般的に行政の仕事は提示された条件に対して何社か応募があり、そこから選ばれるという形をとります。ですが、うちの場合はうちしかやっていないことが多いので、ほぼ指名に近い形で仕事の依頼を受けています。
行政からも民間からも「『地場産業のコーディネート』と言えばCOS KYOTOだ」と思ってもらえるようになっていくと理想的ですね。今、苦しんでいるのは特殊なことに絞って事業をやってきたので、後継者を育てるのをどうしていこうか、ということですね(笑)。

 

COS KYOTO株式会社 https://www.cos-kyoto.com/
DESIGN WEEK KYOTO https://designweek-kyoto.com/

 

後編では彼がどのように本質的な価値を見抜いているのか、そして新事業に込める想いについて聞きました。
後編はこちら。作り手に寄り添い、本質を濾(こ)す。地場産業に込めた持続可能な社会への想い【後編】

 

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    interviewer
    田坂日菜子

    島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

     

    writer
    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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