ゲストハウスから生まれる社会起業。社会にいいことをして稼げる人を増やす

社会起業を実践し、広めていくための発信基地としてゲストハウスを運営する森悠汰。社会性を持たせた様々なイベントを開催する彼に、目指すコミュニティの姿や今後ゲストハウスを通じて成し遂げたいことを聞いた。

【プロフィール】森 悠汰(もり ゆうた)
神奈川県出身、23歳。19歳で社会現象や社会問題を需要と捉えビジネスを展開していく社会起業*が世の中に必要だと考え、社会起業を実践する場として大阪・中崎町にBAR&ゲストハウス「Uvillage」をオープンする。様々なイベントを開催しながら、主体性を持って社会問題に参加できるコミュニティを生み出している。

*社会起業…ソーシャルビジネス。経済産業省では、3つの定義として①現代社会の課題を解決する社会性を持つこと、②事業継続のため利益を追求すること、③新たな社会的価値を生み出す革新性を持つことを挙げている。

 

寝食をともにするゲストハウスから生まれるコミュニケーション

―Uvillageのコンセプトを教えてください。

Uvillageは、Urban Villageの略で「都会村」という意味です。大阪の梅田から歩いて10分の都心にある、村みたいに人の距離が近いコミュニティを作れたらいいなと思っています。そこで生まれたコミュニティを土台に、社会起業に関連した方向性を持たせることが、Uvillageで一番やりたいことです。

―Uvillageを通して、コミュニティや場を提供するのはなぜですか?

まず、自分が社会起業に向けた実践の場が欲しかったんです。場を提供するのもありだし、自分自身が仲間が欲しいというのもあって。
19歳の頃に社会起業したいと思ったんですけど、最初は何からやったらいいか全然わかんなくて。社会起業って大きすぎてよくわからないから、まず手の届く範囲から始めてみようと思いました。バーやゲストハウスだったらやってる人を知っていたので。まずコミュニティづくりをやってみて、次のステップとして社会起業があると捉えています。

―Uvillageを訪れる人は、どんな人が多いのでしょうか?

20代〜30代がメインで、社会課題に対して何かしらの意識を持っている人が多いように思います。単純に旅が好き、海外が好きな人もいますね。
あとは、変わったもの好きな大人も多いです。普通のコミュニティや馴れ合いじゃなくて、もっとやばいことするのが好きな人が来てくれますね。Uvillageでは文化体験をテーマにしているので、虫を食べてみるとか少し変わった経験が好きな人はけっこういます。

最初はTwitterなどのインターネットでの集客に力を入れていましたが、今は紹介の方が多いです。最初来てくれたお客さんが紹介してくれて、1人から3人、5人と増えていったり、グループ同士で友達になったりというパターンが今はほとんどですね。

イベントを通じて、社会起業の実践の場を提供する

―バーだけでなく、ゲストハウスも併設しているのはどんな理由からですか?

Uvillageで、より長い時間を過ごしてもらいたかったからです。滞在時間によってコミュニケーションの総量が変わります。バーで1,2時間過ごして終わりではなく、ゲストハウスで生活を共有することで新しいコミュニケーションが生まれることを期待しています。
長く滞在する人だと、1週間とか1ヶ月滞在する人もいます。それぐらいいたら絶対仲良くなりますよね。自分も旅を経験したので、宿泊を通じて新しい出会いを作りたいと思っています。

 

―Uvillageで行うイベントは、どんな人が発案して開催されるのでしょうか?

自分たちで発案するものと、外から持ち込んで開催されるものの両方があります。いろんな人が実験できる場でありたいので、「こういうことをやってみたい」という提案があれば一緒にやろうとなることは多いですね。

自分たちで発案する場合は、社会起業につながるような試みが多いです。近所の銭湯でお風呂バーを開催して、地域の銭湯を残すための使い方を話し合ったり、HIVの陽性患者とHIV専門のお医者さんによる対談で、予防医療についてしゃべったりとか。イベントを通じて、自分たちから社会起業につながる発信を続けています。

―過去に開催したイベントで、印象に残っているものを教えてください。

3年前に開催した、ヒューマンライブラリーというイベントは一番力を入れてやりました。「人間の図書館」という名前のとおり、生き方の多様性をテーマにしたイベントです。
大阪のとあるキャバレーを会場に、マイノリティな生き方をしている人をゲストに呼んで、各テーブルを30分×4ターンで回ってもらうというものです。1テーブル10人ぐらいで、総勢150人の参加になりました。元風俗嬢やお坊さん、統一教会の夫婦の間に生まれてアルバニアへ布教に行った経験を持つ人など、いろいろな生き方をする人を呼びました。

 

社会にいいことをして稼げる人が増えてほしい

―森さんが社会課題や社会起業に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

大阪に来るきっかけになった先輩が社会起業をやりたいと言っていたんですけど、その当時は全然意味がわからなくて。人のために何かしたくないなとまで思ってたんですよ(笑)。

個人的に生物学が好きで、生物学によると人間の遺伝子って社会性の要素があるんです。人間の根本的な行動に表れるってことですね。今までは、人のためにってわざわざ言わなくていいのになって思ってたんですけど、それって逆に本能なんだって思うと納得がいきました。当たり前に理由なくやっていることなんだなって。生物学的な視点を持ってから、社会課題に取り組むことはもっとおもしろくなってきましたね。

イベントを続けているのも同じ理由です。楽しさとかおもしろさっていろんな要素があると思うんですけど、社会性がないと本当のおもしろさにはならないと思っていて。「楽しいこと、おもしろいことをしたい」って熱意が原動力だとしても、その先には必ず社会性があると思っています。

 

―2020年4月から実施されていたクラウドファンディングでは、「無料のゲストハウスを創りたい」と呼びかけていましたが、無料に踏み切ったのはどんな思いがあったのですか?

元々コミュニティづくりに重点を置いていたので、できるなら最初から無料にしたいと思っていました。でも最初から無料にするのは経営的に難しくて、3年経って余裕が出てきた今踏み切ったという感じです。

今、大阪のゲストハウスの価格競争ってすごいんです。西成区の再開発が進んで外国人向けの宿泊施設が増えてきて、大阪は価格崩壊とも言える状態になっています。そんな中、できるだけ安いところを探すお客さんばかりを相手にしていてもしょうがないなと思っていました。クラウドファンディングで料金の面にとらわれなくなった分、その余裕をコミュニティづくりに注ぎたいと思っています。

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―Uvillageのコミュニティに参加する人には、どんなことを期待していますか?

みんながいいことをして稼げたらいいなと思っています。社会にとっていいことをしてお金を回すのが社会起業だと思うんですけど、みんな儲からないものだと思い込んでますよね。社会課題に触れる=ボランティアみたいな意識は、けっこう強い気がします。
社会課題への関わり方は、お金を渡したり、自分が労働したり何かを作ったりといろいろな方法があります。好きなことをやって、そこに利益が生まれるって形になったらいいですよね。

コミュニティに参加しているのは、すでに社会課題に興味を持っている人が多いので、なんでそれを仕事にしないのかなって本音では思ってますね。Uvillageでは、そのための仕掛けづくりをしていきます。

 

先進国の社会課題として、予防医療の啓発へ

―森さんが今後Uvillageで取り組んでいきたいことについて教えてください。

今後は予防医療の啓発に力を入れていきたいです。なぜ予防医療かというと、先進国における社会課題って、ほとんどはマイノリティに関連するものになっていくんです。マイノリティの課題は、当事者かそれと同じだけの熱量を持てる人が本気で取り組んでいて。僕はそこに携われるほど本気にはなれないなと気が付きました。

ヒューマンライブラリーにゲストとして参加してくれた方に、ドイツ出身で日本で難民の支援をしている人がいました。彼が本当にすごくて。日本の難民の状況をなんとかしようと、自分自身もお金がないのに、ヤクザの事務所にフィリピン人のパスポートを取り返しに行くんですよ。それぐらい本気で取り組んでいる人を見ていると、そんな人たちが第一線で活動する世界には、自分がいるべきじゃないって思ったんですよね。間接的な支援はできても、当事者が関わるマイノリティの問題は、凄いものがあるなと。

 

「自分自身が当事者意識を持って関わることができるか」と考えたとき、健康や環境といったテーマに取り組みたいと思いました。今は、予防医療を取り扱うサウナをやろうと考えています。今までのイベントを通じて、お医者さんや鍼灸師、理学療法士の知り合いも増えてきました。代替医療と呼ばれる、西洋医学に代わる医療をしている人たちのアプローチと合わせて、公衆サウナのようなものを作りたいと思っています。

Uvillageを通じて、自分自身が様々な人とつながるのはもちろんですが、コミュニティに参加する人同士がつながることを目指しています。そのつながりから、何かが創造されて結果が生まれるのが楽しみですね。

Uvillage Facebookページ https://www.facebook.com/Uvillage415/ 

 

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interviewer
河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


writer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

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