「注文の多い料理店」から学ぶ上手な指示の仕方とは。

あなたはメンバーに対してこんな指示を出していませんか?

「会議で出た修正点を踏まえて資料を作り直しておいて」
(受け手側:修正点って具体化されていた?)

「Webサイトのバナーをいい感じに変えておいて」
(受け手側:色?文字フォント?サイズ?文言?何を変更すればいいの?)

「○○買ってきて!あっ××も!それに△△も!そういえば□□も!」
(受け手側:う~ん・・・覚えられない!)

「注文の多い料理店」を読んでいたら、ふと、猫が非常に適切な指示を出している事に気づいてしまった。ので、あらすじとポイントをまとめた記事を書きました。メインの対象はリーダーやマネジメント層の方としました。

あらすじ

(出典:Wikipedia)
イギリス風の身なりで猟銃を構えた2人の青年紳士が山奥に狩猟にやってきたが、獲物を一つも得られないでいた。やがて山の空気はおどろおどろしさを増し、山の案内人が途中で姿を消し、連れていた猟犬が2匹とも恐ろしさに泡を吹いて死んでしまっても、彼らは「二千四百円の損害だ」、「二千八百円の損害だ」と、金銭的な損失だけを気にする。しかし、山の異様な雰囲気には気付いたらしく、宿へ戻ろうとするが、山には一層強い風が吹き、木々がざわめいて、帰り道を見つけることができない。途方に暮れたとき、青年たちは西洋風の一軒家を発見する。そこには「西洋料理店 山猫軒」と記されており、2人は安堵して店内へと入っていく。

入ってみると、「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」という注意書きがあるのに気付く。これを2人は「はやっている料理店で、注文が多いために支度が手間取る」という風に解釈して扉を開けると、そこにはまた扉があり、「髪をとかして、履き物の泥を落とすこと」という旨の注意書きとともに、鏡とブラシが置かれていた。以後、扉を開けるごとに2人の前には注意書きが現れる。中には「金属製のものを全て外すこと」といった少し首をかしげる注意書きもあったが、「料理の中に電気を使用するものがあって危ないからだ」というように、2人はことごとく好意的に解釈して注意書きに従い、次々と扉を開けていく。

しかし、扉と注意書きの多さを2人がいぶかしんだ頃、
いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
もうこれだけです。どうか、体中に、壷の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。
という注意書きが現れ、二人は顔を見合わせ、これまでの注意書きの意図を察する。これまで、衣服を脱がせ、金属製のものを外させ、頭からかけさせられた香水に酢のようなにおいがしたのは、全て2人を料理の素材として食べるための下準備であったのだ。「西洋料理店」とは、「来た客に西洋料理を食べさせる店」ではなく、「来た客を西洋料理として食ってしまう店」を意味していた。

気付くと、戻る扉は開かず、前の扉からは目玉が二つ、鍵穴からこちらを見つめている。あまりの恐ろしさに二人は身体が震え、何も言えずに泣き出してしまう。すると、前の扉から誰かが呼ぼうとする声まで聞こえ、恐怖のあまり二人の顔は紙くずのようにくしゃくしゃになってしまう。

そのとき、後ろの扉を蹴破って、死んだはずの2匹の犬が現れ、先の扉に向かって突進していく。格闘するような物音が聞こえたあと、気付くと屋敷は跡形もなく消え、2人は寒風の中に服を失って立っているのに気付く。そこへ山の案内人が現れ、二人は宿へと、やがて東京へと帰っていったが、恐ろしさのあまりくしゃくしゃになった顔は、どうやっても元には戻らなかった。

このような話だ。(Wikipediaに感謝)

絵:辺境

幼少時代は親と一緒に軽い気持ちでこの童話を読み、青年時代はあらすじにはない時代背景や宮沢賢治が伝えたかった事は何だろうなどと考えながら読み進めたものだが、社会人になって改めて読むと、猫って素晴らしい配慮と指示ができるマネジャーだな、仕事に活かせるな、という気持ちになった。

では具体的に猫が人間に対しておこなった指示を見ていこう。

猫の人間に対しての文字での指示(抜粋)

「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」
「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」
「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」
「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください。」
「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」
「料理はもうすぐできます。十五分とお待たせはいたしません。すぐたべられます。早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振ふりかけてください。」

👉このコミュニケーション方法から読み取れること

①人は抽象的な指示をすると(受け手の理解度に依存するため)求めた行動をしてくれない
もちろん例外はある。一を言って十を読み取る人だ。しかし多くの場合適切な指示が適切な反応や行動に繋がる。例えば、綺麗な恰好になってください、危ないものは外してください、仕事進めておいて、のような抽象的であいまいな指示だと受け手によって解釈が異なってしまう。その点、猫の指示は具体的、かつ受け手視点で書かれており、指示を踏まえた行動が明確になるとても良い指示だと言える。

②人は大量の指示を覚えられない
宮沢賢治の没後の世界では、認知心理学の教授から人が短期的に記憶できる数について考案されている。皆さんも実感がある話かと思うが、実際に大量の指示が一気に走ると、抜け漏れが生じてしまう。そこで、指示を小分けにして、特定の指示が終わったら扉を進め次の指示を出す、という猫のやり方はとても良い指示だと言える。

③人は指示を間違える
「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか」これは壺の中のクリームを塗り終わり、大急ぎで扉を開けた時に目に入ってくるフレーズだ。山猫亭の猫は過去の経験から、クリームを耳に塗っていないケースが多かったためにこのフレーズを追加したのだろう。仕事や日常のコミュニケーションにおいても、特定の工程で得られなかった情報を再度聞きなおすことややり直す事ほど手間のかかることはない。この猫はその経験を踏まえてボトルネックをイメージし特定し、先回り解決をできている。非常に段取りの良い猫であることが伺い知れる。

④人は全体像が見えないと不安を覚える
「料理はもうすぐできます。十五分とお待たせはいたしません(略)」は、全体調理工程における進捗を人間に教えてくれた。時計がないと不安になるだろう。どこまでやっても終わりがみえないタスクを抱えていると、絶望的な気持ちになるだろう。ディズニーランドやレストランで、目安の待ち時間がみえるだけでも安心するだろう。それと同じで、猫は全体像を教えてあげることで、人間の不安を取り払っている。この心理をわきまえているのだ。

絵:辺境

目の前に相手がいなかったとしても、相手のタイミングや状況を想像し、適切な言葉で指示をすると、期待した行動をとってもらえるという話でした(結局、猫のねらいは途中で人間に気づかれてしまい、人間を食べることはできないのですが)。

リモートワークが拡大することで、より的確な指示の出し方が重要になってくるでしょう。
リーダーや経営者の皆さん、ぜひこの猫風の指示の出し方を使ってみてくださいね。

 

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書き手:辺境


大手IT企業で海外事業の経営企画・経営管理を8年勤めたのち、マーケティング系スタートアップにてバックオフィス全般を担当し、その後talikiにジョイン。世界一過酷なレースと呼ばれるサハラマラソン完走したほか、キリマンジャロ山登頂、ソマリランド訪問や南極訪問をしてきたアウトドア派。に見せかけて実はインドア。ドゴン族、読書、料理が好き。

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