データサイエンス×障害者雇用ですべての人が当たり前に働ける社会に

「資本主義の構造によって働くことができない人をゼロにしたい。」と語る、株式会社ミライジンラボの小林宏樹。自身の経験を活かし、障害者雇用事業に踏み出したきっかけや、彼の周りに人が集まる理由に迫る。

【プロフィール】小林 宏樹(こばやし ひろき)
株式会社ミライジンラボ代表。大手インフラ系企業で10年間ほどデータサイエンティストとして働いたのち、起業。現在は、データサイエンスの会社として障害特性を持つ人もその特性を理解した上で雇用し、障害者雇用の仕組み開発や障害特性を活かして仕事ができるサービスの開発を行なっている。

 

技術力が高いのに世の中で活躍できない人がいる

—ミライジンラボ ではどのような事業をされているのですか?

今の社会には、職場の人の付き合いが極端に苦手だったり、会社が規定する就労ルールに合わなかったり。圧倒的な技術へのこだわりを持つ一方で、そうした状況に耐えきれず職を失ってしまう人が多くいます。ミライジンラボ では、この課題を打破すべく、データ分析という高難度の案件をこなせるエンジニアの能力開発とマネジメントの最適解を探っています。

創業時から障害者雇用を意識していたわけではなく、データサイエンスの会社としてやっていく中で、一緒に働いている人の中に障害特性のある方が何人かいたんです。障害者雇用という世界が近いんだということを知り、偶発的に今の事業に至りました。

 

—障害者雇用について以前から関心を持たれていたのですか?

とある知人との出会いがきっかけで、日本の雇用制度に疑問を持ち始めました。知り合いの紹介により出会った彼は、一般企業で働くのが難しく当時自宅に引きこもりがちでした。しかし、実際に会って話しみると、前職ではデータサイエンスの分野で日本トップレベルに優秀な仲間に囲まれて働いていた私から見ても、彼の能力・技術力の高さは衝撃的でした。ぜひ私の仕事を手伝ってほしいと思いましたが、彼はなかなか家から出られないので大手インフラ系企業のような大きな企業で雇用するのは難しかった。これほど技術力が高い人が世の中で活躍できない雇用制度に対しての違和感が今の事業に繋がっています。

 

活躍できない人を生んでしまう資本主義の構造

—なぜ日本ではこのような問題が起こってしまうのでしょうか?

今の社会の仕組み上、仕方のないことだと感じています。この資本主義が発展した世界で生き残っていくためには、同じ価値を出すためにコストを下げないといけません。したがって、1つの大きなものを作るために、より多くの人が小さい管理コストで、一定数のパフォーマンスを出すという構造が必要です。そうなると、いわゆるコミュニケーション能力が高かったり、フルタイム労働ができたりといった求められる能力がセットで定まってきます。画一的な労働の仕組みに対応できる人だけが資本主義に参戦しているという構造があるのです。この構造は会社や組織の形、働き方、就業規則に反映されています。条件に当てはまれない場合、どれだけ個人としての能力が高くても資本主義の社会の中で生きていくことが難しい構造になってしまっています。私が大きな企業に所属していたからこそ感じていたことかもしれません。

 

—一般企業で働くのが難しいという方々がミライジンラボで働くことができるのはどうしてだと思われますか?

まず、人間が作ったルールは全部なくしています。働く場所だったり、時間だったり。同じコードを書くのにどこで書くかは関係ないですから。もう1つは、私も当事者と言えるので、仕事をするときにここでしんどくなるだろうなというのが感覚的にわかるんですよ。だから仕事を分解して、それぞれの特性に合わせて任せるようにしています。今ではメンバーも増えて、たくさんの個性豊かな仲間たちに囲まれて仕事をしています。

 

自分も周りもワクワクすることだけを

—大企業の一社員から会社の経営者になり、小林さん自身にはどのような変化がありましたか?

会社を始めてよかったことは、ワクワクすることをいくらでもできるようになったということです。やらないといけないからやる、やった方がよさそうだからやるという時間の過ごし方はしないようにしています。その結果、自分の個性にあった仕事になっていると思うし、集まってくれる人たちもそれぞれの個性を生かし、その人だからこそできることをやってくれていますね。

 

—小林さんのワクワクに色々なメンバーが魅了されてミライジンラボ に寄ってくるのだと思いました。

本当にみんな素敵な人ばかりで。とあるメンバーはホームページの改定を担当してくれているのですが、わたしの感覚とは全く違う独自のセンスを持っていて、いつも話していて驚かされるんです。だからホームページも私が作りたいものではなく、彼が作りたいものを作って欲しいとお願いしています。ただ一会社のホームページを作るのではなく、世界で初めての価値観を作ろうとしているような感覚で進んでいくのを見て、私自身もとてもワクワクしています。深夜に突然明日の朝一で打ち合わせしようって言ってきてくることもあって、会社に対して強い想いをもって働いてくれているのが本当に嬉しいですね。他にも以前テレビ局に勤めていたメンバーが動画配信をする企画を考えて突然企画書送ってきてくれたことがありました。たくさんの素敵なメンバーが集まってきてくれていて、ほんまに感謝しかないです。

 

—仲間がいるからできることがあるというのを強く実感されているのですね。

そればっかりですね。ミライジンの前身活動を始めて1年くらい経った頃に、自分は発達障害と呼ばれる性質をたくさん持っていることを知りました。発達障害と診断された友達よりも特性が強いと感じる行動も多くあります。大手インフラ系企業に勤めていた時は研究職だったので、総合職に比べるとやることの幅は狭かったんです。自分はたまたま研究職の業務との相性に恵まれていたんだなと、振り返ってみて思います。

今ミライジンラボ が会社として成立しているのは、会社への強い想いを持ってコミットしてくれているメンバーのおかげです。

 

誰もが当たり前に働ける未来へ

—これからミライジンラボ として未来のためにどのようなことを育んでいきたいですか?

直近で楽しみなことはたくさんありますね。今動き出しているプロジェクトが2つあります。1つ目は、新しい障害者雇用制度の実証実験です。日本では企業は雇用人数のうち2.2%の障害者を雇用しなければならないという法定雇用率が存在します。しかし実態として達成できているのは半数以下。達成できていたとしても、本人にあった業務を提供できる企業はほんの少しです。このプロジェクトでは厚労省・内閣官房と共にどんな企業でも障害者雇用を導入できるようにする実証実験です。

2つ目は、ADHD特性のある方に「スーパー営業マン」が多いことに着目した取り組みです。です。社内でも逸脱して良い営業成績をもつADHD特性のある営業マンは多い一方で、その特性から会社生活は辛く、うつ病を発症したり、転職を繰り返したりしている方もたくさんいます。「総合職」として様々な部署を経験することが求められる日本の採用制度の下では、苦手な分野を排除した働き方と経済性の両立は難しい。そこで私たちは、当事者の感覚を理解して特性を生かしながら経済性をおろそかにしない事業モデルを設計したいと考えています。

これらの先に見据えているのは、資本主義的な目的達成の中で人の都合によって働けなくなった人がいるという現状をなくすということです。50年後の未来に資本主義の構造のせいで働けなかった人がいるということが笑い話になっていたらいいなと思います。まずは、今の社会構造だと活躍が難しくなかなかスポットライトがあたらなかった、本当は面白い人たちとの取り組みを広げていくつもりです。その先には、人によって働けなくなった人たちがいるという現代の仕組みを変えていきたいと思っています。

 

ミライジンラボ https://mirai-jin.com/

 

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    interviewer
    田坂日菜子

    島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

     

    writer
    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

     

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