【前編】10歳の社会人を育てる。教育のブルーオーシャンへ

「10歳の社会人を育てる教育」をコンセプトに、国語や算数といった科目を教えない教室を運営する川村哲也。科目を教えないことで教育のブルーオーシャンに飛び込む姿は、保護者や教育関係者の間で注目を集めている。前編では、子どもと接する上でのこだわりと、教室の運営に込める思いを聞いた。

【プロフィール】川村哲也(かわむら てつや)
株式会社COLEYO代表。立命館大学を卒業後、(株)リクルートコミュニケーションズに入社。1年間勤務した後、2016年に京都にて「放課後教室studioあお」を立ち上げ、10〜14歳向けに社会と教育のギャップを埋めるための社会教育を行う。その他、企業向け事業として教育コンテンツの開発や、教育事業立ち上げ支援にも取り組んでいる。

 

積極的に社会に関わろうとする子どもを育てる

―株式会社COLEYOが運営する教室、「studioあお」では10歳からの社会教育を掲げています。10歳という年齢にはどのような意味があるのでしょうか?

10歳はどういう年齢かと言うと、小学校で分数を習い始めるタイミングです。分数って、手で触って理解しにくい、概念的な部分なんですね。そうした概念的な物事を理解できるようになるのが、10歳前後だと言われています。

僕らが教室として何を教えたいかと言うと、社会の中で生きていくために必要な考え方や世の中の捉え方。極端に言うと、経産省的なものの考え方をしてほしいです。文科省的に22歳まで育ち、急に社会に出されて経産省ベースの価値観になると、「今までと言ってたことが違う」ってみんなしんどくなるんですよ。
どっちかと言うと、社会のスタンダードは経産省的な考え方ですよね、長い期間で見たときには。だから早いうちから、経産省的なものの考え方を知ってほしいなと思っていて。そういう概念的な考え、例えば他者意識や株といったことを理解できるようになるのが10歳前後なので、10歳から生徒を受け入れています。

 

―教室に通うにあたり、何かテストや審査などはあるのでしょうか?

基本的にはないですね。もともと1教室20名に限定して生徒を募集していたんですが、ありがたいことに入会依頼が増えて…。現在は1教室50名として、合計7つの教室を運営しています。教室も移転して広くなりましたが、1教室50名以上は生徒を取らないと決めています。

 

―studioあおに通う生徒の保護者は、どんな人が多いのでしょうか?

科目を教えないという少し変わった教室なので、自分で意思決定できる親御さんは早い段階で価値を理解してくれていると感じていますうちの教室って、子どもにとって楽しいんですよ。教室で何かやりたいと声を上げたら、「それまじでいいね!」って周りの大人がめちゃくちゃ応援してくれる環境があります。投資も出るし、知識人にも接続できるし…と、なにかやろうと思ったときに、子どもにとってハードルになるものを全部取り除いているんです。子どもはその拡張感が単純に楽しいと思います。
そこで子どもがやりたいって言ったときに、親御さんのリアクションはそれぞれです。「それよりも受験に必要な科目の勉強をしなさい」という意見を持つ方もいらっしゃるので、そうした場合はただ価値観が違うだけだと考えています。

うちの教室をいいねと言ってくれる方は、中小企業の代表や、店長、研究職といった、普段から意思決定しなきゃいけない立場にある人たちが多い気がしますね。あとは、シングルマザーや不登校の子どもを持つ親御さんも多いです。不登校の場合は、一度学校のレールを外れているからこそ、親が意思決定しなきゃいけないという背景があるように思います。「自分で決めて、自分で考えて何かをやるってめっちゃ重要」と感じている親御さんに、価値を理解してもらっています。

最近は保護者の間で口コミでstudioあおの存在が広まっているようで、嬉しいですね。京都市後援のイベントや、メディアの露出で知名度が上がることもありますが、入会にあたっては口コミの力が大きいです。

 

―studioあおに通う生徒は、教室に通う前と比べてどのように変わったと感じますか?

子どもが積極的に社会に関わっていこうとする姿勢が生まれた、という声はよく聞きます。特に、議論のところで褒められることが多いですね。学校のディスカッションや、意見を求められるときに、オリジナリティを持って人に伝わりやすいように伝える姿勢があるという話はよく聞きます。

学校や学級も一つの社会ですよね。そうした集団の中で自分が何らかの価値を発揮しようとする姿勢はよく褒められるようになったと言われます。

 

良質な即レスがモチベーションを促進する

―子どもの主体性を邪魔することなく、子どもがやりたいことのゴールへ導くためにどんなことを意識されていますか?

彼らが何かをやりたいとか楽しいというモチベーションを見せたとき、その瞬間に正のフィードバックをしてあげることが大事です。モチベーションとは、高い集中力と、長時間取り組めるだけの忍耐力のこと。今後の社会では、モチベーションが最も大きな価値を持つと思っていて。だからモチベーションを育てるべきなんですよ。

子どものモチベーションは、本当に足が早くて腐りやすいんです。子どもがやりたいと言ったときに「ごめん今忙しいから」と断ってしまうと、明日準備ができたときには「もうやりたくない」って言うのが子どもなので。僕の場合は、やりたいと言われた瞬間に「まじでいいね!よしやろう、今Amazonで必要なもの頼んだから」と反応しています(笑)。
スピードがめちゃくちゃ重要だし、子どもにとって心理的安全性が確保されていれば、子どもは「何かやりたい」って言えるようになるし、言いたくなる。それに対して正のフィードバックが返ってくれば、子どもは学習して、もう一回やりたいって言ってみようとなります。

 

―studioあおでは、子どもたちが多種多様な分野のプロジェクトに取り組んでいますが、専門性が高くなると指導する側は大変ではないですか?

先生が全て教えるという発想自体が間違っていますよね。僕はあんまり教えてないですよ、ただ「いいね!」って言うだけで(笑)。そもそも知識でサポートしようとは思っていません。

「じゃあ俺がわかるところ教えるけど、ここからは俺もうわかんねーよ」って、速攻わかんないところにたどり着くんですよ。だって今って情報が手に入りやすいので。ちょっとググったら最新の論文が出てきて、それを一生懸命単語とか一緒に調べて。で、すぐ行き詰まるんですよ。誰もわかんない領域に来るから。
そうなったら、
僕は「わからないことへの向き合い方」を教えます。「最先端の先生に聞いてみようよ、その問いをぶつけてみたら?」「問いがはっきりしてるなら、実験/販売してみたらいいじゃん」って、次のステップでどんな行動をすればいいかをちょっとだけ示しています。

 

科目を教えず、教育のブルーオーシャンへ飛び込む

―川村さんにとって、教育事業に取り組む上でのこだわりを聞かせてください。

絶対に人と違うことをやる、その1点です5科目を教えない教室を運営すると決めたとき、最初は正直びびってましたよ。科目を教える教室の方が、より多くのユーザーを見込めるので。それでも、他の人が普通にやっていることを「やらない」ことで、教育のブルーオーシャンに飛び込めるんです。

「こういう世の中になったらいいな」という思いをベースとして、ギリギリ世の中が受け入れてくれるラインを意識しています。確実に儲かるという観点は最初から範疇にありません。その上で、他の誰もやっていないことをやるのが自分の価値だと考えています。

 

―人と違うことをやる上で、アイデアや発想はどこから得ていますか?

SNSはけっこう触っていて、企画のタネになりそうなアイデアを溜めるようにしています。社内のチャットツールで「#いい企画」というハッシュタグを付けて、その企画のどんなところがいいのかスタッフと共有してますね。

スタッフとともに様々な角度で企画を取り上げることで、チームとしていい企画が生まれるための文化を作っているのかなと。あとは、お酒を飲みながら真面目な話をすることで、いいアイデアが出る気がしてます(笑)。

 

後編では、教育のオンライン化に対する考えや、自身を「企画屋」と捉えて事業に取り組む理由を聞きました。
後編記事はこちら 10歳の社会人を育てる。教育のブルーオーシャンへ【後編】

 

株式会社COLEYO https://www.coleyo.info/
studioあお ブログ http://stud-io.hatenablog.com/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


    writer
    田坂日菜子

    島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

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