「共に歩む、再分配のはじまり」BEYOND2025 総括と未来への展望
調査レポート

「共に歩む、再分配のはじまり」BEYOND2025 総括と未来への展望

2026-03-23

本レポートは、「再分配のはじまり」をテーマに開催されたソーシャルカンファレンス『BEYOND2025』を起点として編纂されたものである。

『BEYOND2025』は、経済成長が必ずしも富の再分配をもたらさない現代社会を前提に、「いかにしてリソースを必要な場所へと届け直すことができるのか」という根源的な問いから構想された。

なお、本章に通底する思想的背景および全体像については、以下のレポートを参照されたい。

▶︎https://taliki.org/archives/8756

1. はじめに

ソーシャルカンファレンス「BEYOND2025」の最終セッションとして開催された「共に歩む、再分配のはじまり」では、社会課題解決の現場で先駆的な取り組みを続ける実践者たちが一堂に会し、資源の新たな循環モデルと今後の展望について議論した。登壇者は、「儲からないけど意義がある」事業に取り組む非営利スタートアップの創業期を支援する久田哲史氏(一般財団法人Soil代表理事)、行政の支援が届かない子ども支援を続ける白井智子氏(こども政策シンクタンク代表/社会起業家)、沖縄で地域発のインパクト投資を手掛ける比屋根隆氏(株式会社うむさんラボ代表取締役CEO)、そしてモデレーターを務めた中村多伽氏(株式会社taliki代表取締役CEO)である。彼らは各々の立場から「再分配」の現状と課題、そして未来へのビジョンを語り、セッション全体を通じて重要な示唆が提示された。本レポートでは、当該セッションの議論の要点と示唆を整理し、併せて今後のBEYONDの展開や次年度に向けた展望について分析する。

2.「共に歩む、再分配のはじまり」セッションの概要と議論の要点

資源配分の現状と新たな仕組み: 久田氏は、自身が起業家として事業の成功を収めた経験から、「社会にはお金が十分にあるのに、本当に必要な社会課題の現場に届いていない」という現実を指摘した。実際、日本にはIPOで成功した起業家の潤沢な資産や、大企業が毎年計上する社会貢献予算など“眠っているお金”が大量に存在するにもかかわらず、社会起業家らによる感動的なピッチでさえ資金がほとんど集まらない現状がある。このギャップを埋めるため、久田氏は2023年に財団法人Soilを立ち上げ、起業家や企業が少額からでも継続的に寄付・出資できる仕組みづくりに挑戦している。彼は、「起業家コミュニティにおける『かっこよさの基準』を、派手な成功ではなく『社会にお金や時間を再分配すること』へと転換したい」と述べており、企業家・富裕層の資金を社会課題解決へ向ける新しい文化の創出を目指している。これは営利・非営利の枠を超えた資源循環を模索する取り組みであり、資本主義の次の姿を問う本カンファレンスのテーマにも合致する。

白井氏もまた、社会的資源の偏在に警鐘を鳴らした。彼女は長年にわたり不登校支援など子ども・若者支援の現場に携わってきた経験から、「本来は公(行政)が責任を持つべき領域」をNPOが肩代わりして支えている実態を指摘した。例えば日本には約34万人の不登校の子どもがいるが、本来国が資金を拠出すべき活動に対してさえ、社会は他人事のように「頑張って」と眺め、十分な再分配が行われていないという。白井氏は、社会起業や投資でリターンを見込める領域がある一方、ビジネスだけでは成り立たない不可欠な活動領域が存在すると強調した。そうした経済的リターンを期待しづらい領域にこそ「休眠預金」「企業の寄付枠」「財団からの助成」等の多様な資金源を組み合わせ、無限にお金が流れ続けるエコシステムを構築する必要があると提起したのである。現場の担い手が資金繰りに追われるのではなく課題解決そのものに専念できるようにすること──そのための資金循環を創り出すのは、当事者を取り巻く私たち周囲の社会の役割であると彼女は訴えた。この指摘は、行政・企業・市民それぞれのリソースを持ち寄り社会課題に再投資するという「新しい公共」「新しい再分配」の思想とも通底する。

比屋根氏は、地域に根ざした再分配モデルの実践例を示した。沖縄で活動する彼は、伝統的な相互扶助の精神「ゆいまーる」に着想を得て、医療・介護・環境など公益性の高い領域に挑むスタートアップ企業へ投資するインパクト投資ファンド「カリーインパクト&イノベーションファンド」を設立した。このファンドでは琉球銀行等から1.75億円を調達し、社会課題解決に取り組む起業家に対し500万〜2000万円規模の出資を行っている。比屋根氏は「沖縄が良くなることには皆で応援しよう」という土壌が地域にあると述べ、まずは社会起業家を応援し課題も解決しつつ一定の経済的リターンも得られるモデルを沖縄から証明したいと語った。そうすれば次に続く第2号・第3号ファンドは今より容易に資金を集められるだろう、との展望である。さらに彼は将来的構想として、誰もが1人100円から参加できる「県民ファンド」の創設を掲げた。企業からの寄付や遺贈寄付も組み合わせることで、「県民一人ひとりの小さな投資で社会課題を解決する仕組み」を10〜20年かけて育てたいという。加えて比屋根氏は、お金の循環と並行して心のあり方(価値観)の育成にも投資する重要性を強調した。「ゆいまーる」と「十人十色」を掛け合わせた造語「ゆいといろ」を掲げ、平和や調和を育む“心の教育”分野に基金を通じて投資する計画を紹介した。具体的には、教育基金を通じて心の豊かさを育むリーダーシップを日本から生み出し、再分配の仕組みを長期的視野で共に創っていきたいと述べている。比屋根氏いわく、「成果が見える形で共有できれば『自分の財産を沖縄の未来のために遺したい』という流れも生まれる」。金銭の再分配と人々の意識・文化の変革は不可分であり、平和と調和の価値観が当たり前になれば、将来世代には自然と「地域や社会に還元しよう」と考える人が増えていくだろうとの信念を示した。

以上のように、各登壇者は立場こそ異なるものの、社会に必要な領域へ意志あるリソースを届ける新しい仕組みを提案した点で共通していた。それは「慈善 vs 利益追求」という二項対立を超え、産官学民の連携によって真に価値ある活動へ資金・人材・知見を流し込むビジョンである。また、議論を通じて浮かび上がった課題として、既存制度では支え切れない社会的領域への恒常的な資金供給の難しさ、寄付文化の未成熟、さらには評価指標の問題(社会的インパクトと財務リターンの両立の難しさ)などが挙げられた。これらの論点は、まさに「再分配のはじまり」というテーマが問いかける根源的な課題であり、従来の市場や行政だけでは解決できない領域での新たな合理性を探る必要性を示唆していた。各登壇者の提言は、そのための具体的アプローチ(継続寄付の場づくり、複合的資金源の活用、地域コミュニティ資本の醸成等)として極めて示唆に富むものであった。

挑戦者へのエールと「勇気の再分配」: 本セッションが他の議論と一線を画した点は、単なる資金論に留まらず社会課題に挑む人々への熱いエール(応援)が込められていたことである。約30年にわたり子ども支援に向き合ってきた白井氏は自身の歩みを振り返りつつ、「活動していて認められなかったり資金が集まらず、本当にきつい時もある。でもつらくてもやり続けることがすごく大事」と語りかけた。そして、「世の中に必要とされている事であれば誰かが絶対に助けてくれる。そう思えた瞬間から、すごく楽しくなった」と続けたその言葉は、会場に深い感動を与えた。実際、白井氏のこの発言の際には会場の多くの大人たちが静かに涙を流し、うなずき合う光景が広がったという。また久田氏も、「儲からないかもしれない。でも本当に社会にとって必要なことを他の誰でもなく『あなた』がやっている。それが社会起業家だと思うんです」と語り、経済合理性に翻弄され自らの活動価値を見失いかけている挑戦者に対し、正面からその意義を肯定し続けたいとエールを送った。彼は「今は理解者が少ないマイノリティかもしれないが、その価値がわかる人は必ず増えていく。一緒に頑張っていきましょう」と呼びかけ、地道に社会を変えようとする人々を力強く励ましたのである。さらに、比屋根氏は沖縄での人材育成の成果に触れつつ、「最初は大人になることに失望していたような子たちが、今は一緒に社会を良くする側に立ってくれている。こうして次の世代へバトンを渡し続けていける時代になっていると思う。みんなで社会を良くし続けていきましょう」と述べ、世代を超えた共創の連鎖に希望を示した。

モデレーターの中村氏は、こうした一連の言葉に胸を打たれ声を詰まらせながら、セッションを次のように締めくくった。「ここは『勇気の再分配の場ですね。自分が創りたい世界を諦めないために、一人ではなく仲間と出会うために来ている」。2日間にわたるカンファレンスの最後にふさわしいこの言葉に、会場は大きな拍手と高揚感に包まれた。

まさに金銭的資源だけでなく挑戦し続ける意志と希望を分かち合う場として、BEYOND2025は参加者一人ひとりの心に火を灯したと言える。こうして、「共に歩む、再分配のはじまり」というセッションは、社会課題に向き合う全ての人々に勇気と肯定を再分配し、「支援する/される」を超えた共感と共創のエネルギーを生み出したのである。

3. 今後のBEYONDの展開と次年度への展望

今回のセッションおよびBEYOND2025全体を通じて示されたビジョンは、今年限りの単発的な呼びかけではなく、長期的なムーブメントの「はじまりである。実行委員長を務めた中村多伽氏は、本イベントの背景に「社会課題に取り組む人たちに十分なリソースが集まっていない現状を変えたい」という思いがあったと述べており、今年掲げた「再分配のはじまり」というテーマには、ここから新しい資源循環モデルを社会に定着させていく第一歩との意図が込められていた。セッション中の発言や会場の熱気からも、そのムーブメントを次世代・次年度へと共に歩み続けていこうという強い意思が感じられた。

実際、BEYONDの主催者側はセッションの中で「この対話は来年以降も続いていく」との展望を語っており、次年度への意欲を示した。次回は、2026年10月30日(金)〜31日(土)に京都リサーチパークで開催予定であり、再び多様なセクターの人々が集い対話と共創の時間を共有する場が設けられる。

今年、新たな取り組みとして導入された参加者同士の支援制度「応援チケット」や各地でのプレイベント開催などは大きな成果を収めており、これらを踏まえた更なる企画が来年度も展開される予定である。

また京都市や京都リサーチパークとの協働による初の実行委員会体制で実施したBEYONDは、延べ1,000名以上を集めた。
この好循環を受けて、行政・企業・市民社会を巻き込んだソーシャル・イノベーションのエコシステムが京都を拠点に一層拡大していく展望が語られている。BEYONDは2025年で完結するのではなく、むしろここからが本当の始まりであり、翌年以降に向けた継続的な挑戦と発展の意思が明確に示されたと言える。

4. まとめ

「共に歩む、再分配のはじまり」セッションは、社会課題解決に取り組む実践者たちの知見と情熱を結集し、新しい資源配分モデルの可能性と挑戦者同士の連帯をさらに深めた。
議論を通じて明らかになったのは、政府や市場の既存の枠組みだけではカバーしきれない領域において、いかに多様な主体が協働して資金・人材・知恵を循環させるかという課題である。
同時に、セッション全体を貫いた「続けることの大切さ」「想いを分かち合うことの力強さ」というメッセージは、資本の再分配と並んで勇気や希望といった無形の再分配がいかに重要であるかを印象づけた。これは単なる会議上のスローガンではなく、今なお困難に直面する無数の現場で奮闘する人々にとって具体的な支えとなる価値観である。

本セッションのタイトルにある「はじまり」が示すように、ここで共有された議論と熱意は終着点ではなく出発点だ。
来年の「BEYOND2026」では、本セッションで蒔かれた種が芽を出し、より具体的な協働や制度変革へとつながっていくことが期待される。共に歩む仲間たちによる再分配の試みはすでに始まっており、その歩みは止まることなく次の時代へと受け継がれていくだろう。
社会課題解決への道のりの中で、BEYONDはこれからも人々をつなぎ、問いを共有し、そして希望のプラットフォームとして進化し続ける。

参考文献

1,京都市:共同記者会見(2025年9月8日)https://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000345980.html

2,挑戦者の心に火を灯す——BEYOND2025が示した“再分配のはじまり” | ホピアス
https://hopius.jp/article/5453

3,taliki、京都リサーチパーク、京都市による「BEYOND2025」共同記者会見を実施。「応援チケット」制度、京都市長の登壇などを発表 | 株式会社talikiのプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000036295.html

4,〖後編〗BEYOND2025「再分配のはじまり」を開催しました! | taliki org
https://taliki.org/archives/8570

5,BEYOND2025「再分配のはじまり」──taliki中村多伽が描く、誰をも救う新しい合理性 | HOPIUS
https://hopius.jp/article/4855

6,〖前編〗BEYOND2025「再分配のはじまり」を開催しました! | taliki org
https://taliki.org/archives/8541

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    執筆
    中澤 舟
    taliki シンクタンク事業部リサーチャー

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