2,800本の竹割り箸が美しいアップサイクル家具へ。TerrUPが目指す「気がついたら社会に良いことをしていた」と思われるブランド作り
使用済みの竹割り箸でできたテーブル。そう聞いてどんな商品をイメージしただろうか。
アップサイクル製品に対し、「サステナブルだとわかっていてもデザインが微妙」そんな気持ちになったことのある人もいるのではないか。そんな人に知ってほしいのが、インテリアブランド「TerrUP」のプロダクトだ。
幾何学模様の美しい天板に、個性的な脚で作られたテーブルやスタンド。一見、竹割り箸からできているとはわからないデザイン性の高い製品を生み出している。代表の村上勇一さんが「TerrUP」の立ち上げに至った経緯や、製品に込めた思いを伺った。
TerrUP代表 村上 勇一(むらかみ ゆういち)
1992年生まれ。4年間会社勤めをしたのち、海外大学院でマーケティング、会計などのビジネス全般について学ぶ。帰国後、飲食店で働く中で、大量に捨てられている竹割り箸を見て、TerrUPの事業を構想し始める。2023年8月より「TAKEZEN TABLE」の発売を開始。
もくじ
「儲からないからやめた方がいい」と言われても……
ーー村上さんはどんなきっかけで起業を決められましたか?もともと環境問題に興味があったのでしょうか?
環境問題への興味というよりは、起業してみたいという思いの方が先にありました。大学生の頃から自分の会社を作ってみたいと思ってはいましたが、当時は何をしたいのかが具体化できていなかったので、一度就職しました。その後、ビジネスを学ぶために海外の大学院へ留学しました。
大学院の授業の中で、イギリスで有名なアパレルブランドを立ち上げた方の講演を聞き「自分にもできるかもしれない」と思ったんですよね。起業家というとなんだか「すごい人」というイメージだったのですが、登壇された起業家さんが良い意味で「普通の人」で、刺激を受けました。
ーーそうだったんですね。ではその後、竹割り箸のアップサイクルというTerrUPのアイデアにはどのようにたどり着きましたか?
大学院を卒業して帰国する前に、ある程度練っていたビジネスアイデアがありました。知る人ぞ知る飲食店を紹介するグルメサイトのようなものだったのですが、いざやってみると全然ダメで。練ってきたアイデアは一度白紙に戻して新しいアイデアを考えつつ、生活のために飲食店でのアルバイトを始めました。
そのアルバイトの中で、宴会後に大量に捨てられる竹割り箸を目にしました。竹は中国で3〜4年かけて成長し、加工されて日本にやってくるのに、わずか数時間でゴミに捨てられてしまうんですよね。木の割り箸はトイレットペーパーなどにリサイクルされることもありますが、竹の割り箸は繊維が硬く紙の原料にならないためただ捨てられるだけです。少しでも長く使うことはできないかと思い、アイデアが浮かびました。
ーー竹割り箸のアップサイクルというアイデアは斬新だと思います。周りの人からはどんな反応がありましたか?
最初の商品を考え始めた段階で、色々な人に相談をしましたが、「儲からないからやめておけ」「手間ばかりかかる」と言われることが多かったですね。「ダイヤを売るならいくらでも売れるだろうけど、割り箸でできてるのに、誰が高い金出すの?」と言われたこともあります。確かにそうかもしれないなと悩んだこともありましたよ。
ただ、経験を積まれてきた経営者の方々と僕らの世代が育ってきた環境は大きく違います。一昔前は大量生産大量消費の時代でしたが、今は多少お金がかかってもすでにあるものを長く使うことを大切にする。それに、手間も生産工程を工夫すればどうにでもなると思います。なので、周りからの反対は受け止めつつも、まずは自分の思うように進めてみようと思いました。
ーーTerrUPの商品として最初に売り出されたのがワークテーブル「TAKEZEN TABLE」ですね。なぜ、テーブルにしようと思ったのでしょうか?
最初はコースターなど、簡単に作れるものを考えていました。ただ、コースターのような小さいものを作ってもやはり商売にはならないんですよね。もっと大きいものを作らなければと考えたときに、テーブルや家具などが良いのではと思いました。
素材を切ったり組み合わせているうちにアイデアが湧いてきて、竹割り箸の素材が生きるアイテムの一つとしてワークテーブルに辿り着きました。
2,800本の竹割り箸から生まれる1つのテーブル
ーー竹割り箸でワークテーブルを作ろうと考えてから、苦労されたことはありますか?
まず、竹割り箸を集めるところに苦労しました。たとえば奥行き60cm・横幅100cmのテーブルを作るには2,800本くらいの竹割り箸が必要です。飲食店を回って竹割り箸を集めようとしたのですが、なかなか思うようにはいきませんでした。「テーブルにするので、竹割り箸をください」と言っても、「なんだそれ?」となるのも無理はないですよね。「夜中に置いておくから、毎日朝までに取りに来てくれるならあげるよ」なんて言われて困ったこともありました(笑)。
その後、なんとか知り合いのお店にお願いして3つの飲食店から竹割り箸を提供していただけるようになりました。現在は自分で飲食店に訪問するのに加えて、飲食店向けに割り箸の卸をされている企業から使用済みの竹割り箸を提供していただいています。
ーー集めた割り箸をテーブルの天板に加工するのも難しそうです。
そうですね、最初はかなり苦労しました。調べたところ、竹割り箸を固めるには樹脂が良さそうだというところまではわかったのですが、電話をかけても個人向けに樹脂を提供してくれるメーカーがあるはずもなく……。それから2か月間かけて樹脂を提供してくださる企業を探しました。
そして、見つかった樹脂を使ってどうやって竹割り箸をプレスするのか、さまざまなサンプルを作成し試行錯誤しました。
オーブンの温度、保管時間、樹脂の種類などによって仕上がりが変わり、ベトベトになってしまったり割り箸が真っ黒になってしまったりすることもありました。
樹脂探しから4か月ほど経った頃でしょうか。ブラシなどで汚れを落とした割り箸を樹脂に絡め、100度以上のオーブンで1時間ほど熱する方法に落ち着きました。樹脂がうまく固まるだけでなく割り箸の殺菌も可能になるんです。
ーー割り箸を集め、固め、カットし、脚を付け……とたくさんの工程がありそうですが、生産体制はどうなっているのですか?
完全受注生産で、全て僕が手作りしています。でも、テーブル1つ作るのにかかる時間は3日程度で、同時進行で複数の製品を作れるので、皆さんの想像よりは早いのではないでしょうか?樹脂の種類や固め方を工夫して、できるだけ効率的に製品を作れるようにはしています。
受注生産には2つの理由でこだわりがあります。1点目は無駄を出さないこと。せっかくアップサイクルで作っているのに、売れない在庫を生み出してもまた不要なものが増えてしまうだけです。なので、注文を受けてから必要なものだけを作るようにしています。
もう1点は、まだ完全にはできていないのですが、カスタマイズ性を高くしたいからです。アップサイクルの製品はあまりお客さんに選択肢がない場合が多いように思います。でも、天板のデザインや脚のデザイン、サイズなどできる限りお客さんが選べるようになったらいいですよね。まだ実装できていないのですが、今後はECサイトにもそういった機能を付けたいと考えています。
ーーカスタマイズ性の高さは確かに魅力になりそうです。すでにデザイン性の高さでも注目されていると思いますが、工夫されていることはありますか?
竹の割り箸は白と茶色の2種類があるので、どう組み合わせたら面白い表現ができるかよく考えてデザインしています。また、小口(断面)をたくさん組み合わせて、割り箸ならではのデザインをすることもあります。ただ、私はもともとデザイナーではないので、今後他の方の手も借りてより面白いものができたらいいなと思っています。
脚に関しては、変わったデザインの天板に合わせて、どうせならクセの強いものがいいなと思って選んでいます。株式会社生田製作所で作っていただいているのですが、キャンプ用品など他にも面白い形のものをたくさん作られています。
ーー梱包材も他のインテリアではあまりない「ふすま紙」を使用されているそうですね。
そうなんです。生田製作所さんに伺った際に、紹介していただいた山﨑内装工業株式会社から提供いただいています。山﨑内装工業さんは、ふすま紙を使う際にどうしても最後に芯の部分が余ってしまうことに困っていらっしゃったので、使わせていただくことにしました。普通のダンボールで梱包するのもいいですが、より面白く、無駄のない梱包にしたいと思っていたので、ぴったりでした。
「竹割り箸だから」ではなく「たまたま竹割り箸だった」で買ってもらえる製品を目指して
ーー現在、TerrUPのビジネスにおいて課題に感じていることはありますか?
ここまでも苦労はありましたが、試行錯誤を重ね、製品は良いものができたと思います。ここからは、製品を手に取ってくださるお客さんをもっと増やしていくことが課題ですね。
「竹割り箸でできているんです」と言っても、普通の人は「すごいね」だけで終わってしまう場合がほとんどで、なかなか簡単には購入に至りません。それに対してどのように訴求していくのかは、今後もっと考えていかなければと思います。
また、そもそも「竹割り箸でできているから」という理由で買っていただくのではなく、「良い製品だと思って買ったら、たまたま竹割り箸でできていた」という流れを作ることが目標です。すでに環境問題に意識が向いている方だけではなく、そうではない層のお客さんにきちんと届くようにしたいです。
ーーアップサイクル系のビジネスをされている方の中には、同じような課題感を感じている起業家の方も多そうです。
そうですね。何気なく買ったものが社会に良い影響を与えられるものだった。これが一番いい形だと思うので、諦めずに愚直にやり切りたいです。儲かりやすいものやみんなが口を揃えていいと言うものは、すでにこの世にビジネスとして存在してるんですよね。「竹割り箸のアップサイクルでビジネスなんて無理」と決めつけてしまうのではなく、まだ解決されていない課題があるだけだと思って、良い商品を作り続けていければと思います。
ーー最後に今後の目標を教えてください。
今は京都を拠点に事業を運営しているのですが、今後は範囲を広げていきたいです。竹割り箸は京都以外にもありますし、京都だけでは社会に与えられるインパクトが少ないので。とはいえ、京都で生産して輸送してしまっては別の環境負荷をかけてしまうので、さまざまな地域に小さな工場を作って、工務店や内装デザインをされている企業と組んで、製品を提供していけたらいいなと考えています。
また、その延長上で、アップサイクルに取り組む人や企業を増やしていきたいです。今は「アップサイクルは儲からない」「アップサイクルは手間がかかる」といった意識が先行して、チャレンジする人が少ないと思います。でも、私たちがそういった意識を覆すような前例を作り、同じような取り組みをする人が増えてくれたらより良い社会につながるのではないかと期待しています。
TerrUP https://terrup.jp/
企画・編集
張沙英
餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。
取材・執筆
白鳥菜都
ライター・エディター。好きな食べ物はえび、みかん、辛いもの。
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