【前編】【桂大介×中村多伽】寄付が多様になった世界はおもしろい
対談

【前編】【桂大介×中村多伽】寄付が多様になった世界はおもしろい

2020-06-11
#エコシステム #ファイナンス

集団での寄付を実践するコミュニティ「新しい贈与論」を運営する起業家・桂大介、京都でU30の社会起業家を支援する株式会社talikiのCEOで、「新しい贈与論」の会員でもある中村多伽の2人を迎えた今回の対談。桂はこのコミュニティを通して何を表現しようとしているのか、新しい贈与論の実態に迫る。

【プロフィール】
桂 大介(かつら だいすけ)
2006年、大学2年次に株式会社リブセンスを共同創業。史上最年少で東証一部上場を果たした。現在は集団で寄付を行うコミュニティ「新しい贈与論」や、ポートフォリオを通じて寄付を行う寄付プラットフォーム「solio」を運営している。同時に、多数の非営利団体や株式会社へ寄付という形で支援を行なっている。


中村 多伽(なかむら たか)
2017年に京都で起業家を支援する仕組みを作るため、talikiを立ち上げる。創業当時から実施している、U30の社会課題を解決する事業の立ち上げ支援を行うプログラム提供に止まらず、現在は上場企業のオープンイノベーション案件や、地域の金融機関やベンチャーキャピタルと連携して起業家に対する出資のサポートも行なっている。

 

 自分の寄付観を振り返る

—まず、桂さんはどのような経緯で「新しい贈与論」を始められたのですか?

桂大介(以下、桂):寄付に限らずなんでも1人でやるよりみんなでやる方が楽しいじゃないですか。僕は今までNPOや株式会社、個人などに向けて寄付をよく行なってきたのですが、現状、寄付者間のつながりはほぼなくて。「どこに寄付する?」という会話ができる場所がほしかったんです。

※「新しい贈与論」公式HPより

 

—実際に2019年10月より半年ほど実施してみて、どのような気づきがありましたか?

桂:半分は予想通り、半分は予想以上に寄付先を選ぶのが難しいということです。新しい贈与論では、毎月3人の推薦人がそれぞれ団体を選んできて、会員全員で投票を行い、多数決で寄付先を1つに決定します。投票する際にみんなにコメントを書いてもらっているのですが、それを見る限り選ぶのがとても難しそうですね。4月の推薦団体は、ほぼ新型コロナウイルスに関連した活動を行なっている団体でした。

 寄付先を1つに決めるということは、優先順位をつけるということ。それはつまり、誰かを切り捨てるということでもあります。北九州で長年ホームレス支援をされているNPO法人抱撲代表の奥田さんが、活動の中での苦悩についてお話ししてくださったことがありました。ホームレスの方を収容する施設を運営していると、施設には定員があるので、どうしても切り捨てなければいけない人もいます。奥田さんは、そこに優先順位をつけることはとても罪深いことだとおっしゃっています。

僕らは罪人の運動を続けていく|奥田知志

誰にも寄付をしなければ、全員に対してフラットに接していることにもなります。新しい贈与論では、そこから一歩踏み出さなければいけないんです。

 

中村多伽(以下、中村):毎月ランダムに提示された寄付先を選択し続けていると、前回切り捨てたような団体を今回選ぶということが起きうるのではないでしょうか。例えば前回は子ども支援は選ばないことにしたけれど、今回は子ども支援を選んでみようといった感じです。回を重ねるごとに、心の変化が起きるのがおもしろいなと思います。そもそも切り捨てる判断軸って何なんでしょうか。それも確固たる正義じゃないこともありますよね。

桂:毎回なぜその団体を選んだのかということを言葉にするから、普段の寄付ではあまり起き得ない、自分の寄付観の振り返り、見直しが起きます。この点は新しい贈与論での寄付が普通の寄付と違ってきているなと思うことです。

 

共感の寄付には偏りが生じうる

桂:寄付先を選ぶ軸はいくつかありますが、短期と長期という軸はその1つです。「目の前の困っている人を助けなければ」という思いと、「目の前で今困っているわけではないけれど、長期的にみたら寄付した方がいい」という思いの葛藤です。一般的な寄付でも、環境問題のような緊急度が相対的に低い課題は寄付が後回しにされやすい傾向があります。「前回は緊急支援を選んだから、今回は緊急支援ではないものにしようと思っていたけど、目の前の団体をみたらやっぱり前者を選んでしまいました。」というようなコメントもよくありますね。


中村:緊急度を判断の軸として持っている人が多くいるんですね。


桂:やはり共感できるかという軸を持っている人が多く、支援の緊急度が共感とリンクしているということだと思います。しかし、先ほど述べたように、共感をベースにした寄付だけでは、寄付が偏ってしまうという議論もあります。

実際、支援の緊急度が高くみんながかわいそうと感情移入しやすい、子どもの貧困のような問題に寄付が偏りやすいと言われています。一方で、難民やホームレス、加害者家族といった課題はなかなか共感が集まりづらい。

新しい贈与論の会員は、このような寄付の偏りの問題についてわかってはいるけれども、やっぱり団体推薦者の推薦コメントを読むとみんな胸打たれてしまうんです(笑)。これは人間の難しいところだなと思います。


中村:私も団体の推薦を1度だけやりましたが、伝える側もプロモーションぽくなってしまうんですよね(笑)。どうしてもお涙頂戴できそうな文脈をあげてしまいます。

 

—中村さんはどのような基準で推薦団体を選ばれたのですか?

中村:カンボジアで事業をされている方で、私の人生観に影響を与えた方がいて、その団体を選びました。どんな事業はやるべき、やらないべきという基準は自分の中にはなくて、切り捨てるのがとても難しかったので、最終的に「自分が関係したことがあるか」という基準で選びました。その中でも1番自分に影響を与えたという理由でその団体を選びました。


桂:たかさんが選んだ団体は惜しかったですね。僅差でした。


中村:投票でどこが選ばれてもいいとは思っていたものの、選ばれないと少し悲しいものですね(笑)。


桂:ぼくもほとんど知らない団体が推薦団体として出てくるし、寄付先の方からも驚いたという声や「地道な活動がこのように評価いただけて嬉しいです」というコメントをいただくことが多いです。

 

寄付を通して見え隠れする多様な正義感

—新しい贈与論にはどのような方が参加されているのでしょうか?

桂:第1期は完全クローズドで行なったので、僕の知人の経営者がほとんどです。第2期、第3期は少しだけオープン枠を設けました。寄付や贈与論に興味のある学生さんも参加していて、多様になってきていると思います。でも、多いのは経営者ですね。


中村:ベンチャー界隈の方が多いイメージです。


桂:そうですね。ベンチャーキャピタルの方もいます。これから人数が増えていく中でより多様になっていけばいいなと思っています。

 

—中村さんは参加されてみて、どのような気づきがありましたか?

中村:新しい贈与論には、「寺子屋」というのがありました。これは、会員が少人数のグループにわかれて、1つのトピックについて議論する場です。毎回、バレンタインやボランティアなど、贈与に関するトピックを運営の方があげてくださって、それについて議論しています。寺子屋に参加すると、寄付というのはある種自分の正義感の決め打ちでやる部分があるので、私とは全く違う人の正義感が見え隠れするのがおもしろいなと思います私のように合理的、論理的に正しいといった軸で判断する方もいれば、情動的、原体験をベースにした意思決定をされる方もいて多様です。

 私は寄付やクラウドファンディングをよくするのですが、今までそのような支援を一切したことがない方って会員の中にいるんですか?


桂:けっこういますね。ここで初めて寄付をしたという人もいます。


中村:そういう方が参加してみて何を感じたのか気になります。


桂:ほとんどの方が団体を推薦する際に、そもそもNPOを全然知らないし、探すのが難しいと言っています。株式会社だったら一般の人でも100個くらい思いつくとおもいますが、NPOを同じくらい知っている人ってなかなかいないですよね。

 

—今まで寄付をしたことがなかったという会員の方は、どのようなモチベーションで新しい贈与論に参加されているのでしょうか?

桂:もともと寄付をしたかったけれど、どこにしたらいいかわからないという声はたくさん聞きます。


中村:その寄付したいという思いは、ノブレスオブリージュ(=資産や地位などを有するものは、社会的責任を果たす義務がある)的な考えからくるものなんでしょうか。


桂:めちゃくちゃ寄付がしたいというわけではないけれど、ある程度お金を持っている方はなんとなくした方がいいんだろうなと思っているようです。でもきっかけもないし、有名な団体1つに寄付するのも違う気がする。そもそも団体をあまり知らない。だから例えば災害時のクラウドファンディングはやる、というような方が一定数いるように感じます。


中村:新しい贈与論は、行為自体は寄付なのですが、会員は対価として誰かが団体を推薦してくれたり、団体や寄付そのものに対しての知識が深まったり、というサービスを求めている気がします新しい贈与論にお金を払っているとは思っていなくても、そのようなサービスと一部交換しているという感覚はありますよね。

 

互助ではなく、集団贈与である

—新しい贈与論の寄付の形は、身近な例でいう町内会費やマンションの管理費と似ているのでしょうか?

桂:町内会費やマンションの管理費のようなものは互助と呼ばれるものです。みんなでお金を出し合って、みんなのために使う。一方で、新しい贈与論は集めたお金がどこかへいってしまうそれがわざわざ共同贈与と呼んでいる理由で、互助や互酬とは違う点です。互助では、集めたお金が返ってきているかどうかみんな気になりますよね。税金や年金はまさにそうです。共同贈与というのはもともと返ってこないものだから、それがちゃんと使われているのかというのは本来的には気になるかもしれないけれど、個人で寄付しているよりは気にならないようになっている。

そもそも集団で意思決定をしているので、投票で負けている人もいるわけです。その時点で自分の意思が切断されています。さらに3つの推薦団体の選択肢も限られている。投票先を選ぶときに、消去法で選ぶ人もいるとコメントを見て知りました。僕も始めた時はそんなこと考えてなかったんですよ。新しい贈与論では、「この3つのどれかの団体にあなたの財産を寄付しなければなりません」という状況が訪れます。個人的に寄付をする場合には、気に入らないなら寄付しなければいいので、このような状況は普通ありえないですよね。そもそも選択肢が不自由で、さらに投票で勝ったり負けたりするから、途中で自分のお金じゃないような感覚がしてくるんです。これはすごく贈与的な感覚です。

 

後編では、これから贈与や寄付が向かう世界、「新しい贈与論」を通して伝えたいメッセージを語ってもらいました。

後編記事はこちら 【桂大介×中村多伽】寄付が多様になった世界はおもしろい【後編】

 

新しい贈与論 https://theory.gift/
株式会社taliki https://www.taliki.co.jp/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

     

    writer
    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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