森に命を還す埋葬サービス「循環葬®RETURN TO NATURE」。資金調達とブランドづくりから感じる、新たな文化をつくる覚悟
インタビュー

森に命を還す埋葬サービス「循環葬®RETURN TO NATURE」。資金調達とブランドづくりから感じる、新たな文化をつくる覚悟

2024-08-14
#環境 #カルチャー #ウェルネス

世間一般に「終活」という言葉が聞かれるようになって約15年。生前に、自身の葬儀やお墓の準備をする人が増えている。しかし、いざ死にまつわるあれこれを調べ始めると、想像以上に不思議な“ルール”が多いことに気づく。

妻は夫の家のお墓に入るもの。お墓は長男が相続するもの。法的な婚姻関係にないパートナー同士は同じお墓に入りにくい。ペットと一緒に埋葬できるお墓は少ない。

そんな暗黙のルール・慣習に疑問を投げかけ、「循環葬®」という新たな埋葬のスタイルを提案する人がいる。墓石を立てず、森に埋葬する循環葬®「RETURN TO NATURE」を立ち上げた、at FOREST株式会社の代表・小池友紀氏だ。これまでにないコンセプトのサービスを実現するにあたってどんな壁があったのか、事業づくりや資金調達の裏側を聞いた。

 

▼プロフィール

at FOREST株式会社 代表取締役CEO 小池友紀
アパレル業界を経て、広告クリエイティブの世界に入り、2007年独立。商業施設やホテル、コスメなどさまざまなサービスや商品のコピーライティング・コンセプトメイキングを手がける。2020年、循環葬®「RETURN TO NATURE」を創案。経済産業省近畿経済産業局が推進する「LED関西2021」のファイナリストに選出され、2022年at FOREST株式会社を設立。2023年7月、北摂の霊場・能勢妙見山にて循環葬®のサービスを開始した。

 

お墓にまつわる悩みと、森林保全の課題を同時に解決

ーー循環葬®︎RETURN TO NATUREは、どんなきっかけで生まれたサービスですか?

数年前、お世話になっていた仕事の先輩が亡くなられたことをきっかけに、お葬式について考えるようになりました。その方のお葬式は、喪服禁止、お香典禁止、お花禁止で、案内状には「普段の私に会いにくるように来てください」と書いてあったんです。実際に行ってみると、よくあるお葬式とは違った、泣き笑いの溢れる本当に素敵なお別れパーティーでした。こんなスタイルがあるんだと驚いて、私自身も人生の閉じ方について考えるようになったんです。

その後しばらくして、私の祖父母が連続して亡くなったことをきっかけに、「樹木葬」(※1)というものを知りました。ご遺骨が自然に還るのが素敵だと思ったのですが、いざ見学にいってみると、シンボルになる木が1本植えられており、その周りに石板が埋まっているだけ。実際にはご遺骨は土に還らず、石板の下のスペースに保管されるというものでした。(※2)

もっと自然な埋葬の方法はないかと探すなかで、海外で行われている「自然葬」を知りました。これは、骨壷などを使わずご遺骨を直接散骨するスタイル。「日本でもできるのではないか?」と思い、RETURN TO NATUREの企画書を書いたのが始まりでした。

※1 樹木を墓標とし、その樹木の周りに遺骨や骨壷を埋葬する。国内では1999年に始まったと言われ、シェアが拡大しているが、墓地により遺骨の収蔵方法にばらつきがある。

※2 樹木葬が考案された当時は、土中に遺骨を埋葬して自然に還す形式だったが、普及するにつれて民間企業による効率的な形式が確立されていった。

サービス開始前に描かれた「RETURN TO NATURE」のイメージ図

 

ーーサービスの中身について教えてください。

大きな特徴は、墓標がないことと、森の中に埋葬することです。ご遺骨は専用の機械で細かくして、森の土と混ぜて埋葬します。人骨は樹木の栄養となる成分がほとんどなので、土壌に負荷をかけることなく、森の肥やしとなる。自然から生まれた人が、森へ還り、森の一部となって循環していくというコンセプトです。

循環葬の埋葬イメージ

 

また、墓標がない分、ご遺族による管理の負担が軽減されます。一般的なお墓って、維持するにもお金がかかるし、お墓じまいするときにも数十万円のお金がかかる。それに対してRETURN TO NATUREでは、数十万から100万円程度の費用で、その後の管理までお任せいただけます。さらに、契約金の一部を森林保全に使わせていただくことで、人の死を、未来にとって価値あるものに変えているんです。

 

ーー森林保全に活かそうという想いはどこからきたのですか?

私は里山が近い神戸の北部近辺で生まれ育ちました。子どものころから自然が近くにある生活を送ってきたことと、日本は自然が豊かなはずなのに「暗い森が多い」と感じていたことが、いまにつながっています。

また、現在の日本の森林面積全体の約4割は、スギやヒノキなどの人工林でできています。

戦後、そして高度経済成長期に人工的に植えられたのですが、林業の衰退などにより管理が行き届いていないことが課題になっています。

このまま森林の管理ができなくなっていくと、森の生態系が崩れてしまったり、土砂崩れなどによって私たちの生活が脅かされたりします。大切な人が埋葬されている、もしくは自分が将来眠る「森」ができることで、豊かな森林を未来につないでいこうという気持ちを自然と醸成したいと思っていました。

 

ーー現在はどのくらいの方が利用されているのでしょうか?

2024年6月時点で22名の方にご契約いただいて、すでに5名の埋葬を行いました。RETURN TO NATUREには、ペットと一緒にお墓に入ることができるプランもあって、すでに10件ほどお申し込みをいただいています。

年齢層は40代半ばから70代半ばくらいで、7割近くが生前契約。「前々からお墓を探していたけれど気にいるものが見つからなかった」という方が多くいらっしゃいます。

 

ーー契約者の方々やご相談に来られる方々は、既存のお墓のどこに不満を感じていらっしゃるのでしょうか?

墓標を立てなければならないことに不満を持っていらっしゃる方が多いですね。シニア世代の方に話を聞くと「周りに迷惑をかけたくない」という声がよく上がります。自分たちも親世代のお墓の世話を経験してきたからこそ、同じ思いを次の世代にさせたくないとのこと。

それから、ペットとの合葬はできる場所が限られています。そもそも動物禁止のお寺があったり、「ペットと一緒に眠れます」と謳うお墓でも、実際には埋葬される場所が人間とペットで分けられていたりする。今の時代、動物も家族だと考えられている方も多いので、そういった場合に当社のサービスに辿り着かれるようです。

多くのお客様は一度見学に来られたら「やっと理想のお墓に出会えた」と言ってくださいますね。

RETURN TO NATURE「憩いのデッキ」

 

実際に埋葬も行われたとのことですが、ご遺族の方からはどんな反応がありましたか?

埋葬の際には、ご遺骨と森の土を混ぜる作業があって、ご遺族の方々自身でやっていただくことが多いです。結構時間がかかるのですが、みなさん瞑想のように集中して作業されていて、終わった後は「お母さんが森に還っていくと実感できた」「清々しい気持ちになった」と言ってくださった方もいらっしゃいました。

また、一般的なお葬式はバタバタしますが、循環葬®️の埋葬は急ぐことなくみんなで日程調整もできます。だから、ゆっくりと自然の中でお別れをしたいという方々にも喜んでいただけるんです。

 

RETURN TO NATUREは、人生と森をつなぐ「ライフスタイルブランド」

 

ーー循環葬®︎RETURN TO NATUREのウェブサイトを拝見すると、他の葬儀・埋葬サービスとは違った印象を受けますね。

そうですね。最初から、既存の葬儀・埋葬サービス業界の雰囲気を脱却したいと考えていました。色々なお葬式やお墓のサイトを見ましたが、既存のものは情報過多で、割引キャンペーンや実績数で訴求するなど、商業的なアプローチをとっていることが多くあります。生と死ってとてもセンシティブなものだし、感情を強く動かされる出来事なのに、違和感がありました。

それに、サイトのデザインも同じようなものばかり。本当はもっと最後まで自分らしいセンスで選びたいと考えている方も多いはずなのに、画一的なものを押し付けるのは失礼じゃないか、と。実際、私もお金を払いたいと思えませんでした。

そこで、いわゆる「シニア向け」はやめて、年齢や性別、宗教でも区切らずに、ライフスタイルにフィットすると思った方に選んでいただけるようなデザインを目指したんです。

 

ーーお葬式を選ぶ、というよりはライフスタイルを選ぶという感じなんですね。

はい。私たちは「お墓のブランド」ではなく、「ライフスタイルブランド」として捉えています。森と関わって生きること、後世を思って選択するということ、そして最後は森に還るということ。自然と共に自分らしく生き、最後には未来のために循環するという、未来志向な生き方そのものを支えるブランドになりたいな、と。

 

だからこそ、埋葬のサービスだけではなく、人がこれからも森と関わっていけるようにする取り組みにも力を入れているんです。生前契約してくださった方々や、そうでなくとも森に関心のある方々と一緒に、間伐などの森の整備をする仕組みづくりをしています。

 

文化をつくる仕事だから、資金調達はあえてエクイティで

ーー2024年5月にはシードラウンドの資金調達を実施されていました。事業内容から見て、エクイティで資金調達をされているのは意外に思いましたが、なぜそうしたのでしょうか?

たしかに、「なぜエクイティなのか? デットでいいのでは?」という指摘は複数のVCさんからありました。

私としては、投資家さんをはじめとする事業づくりやファイナンスのプロフェッショナルの方々とチームになることで、早く事業が成長し、文化として定着すると考えていました。なにより、全国に存在する、今のエンディングサービスに違和感を持った方々に早く届けることができる。

それに、お墓はご遺族の方々がいつでも訪れることのできる場所として守っていく必要もあるので、継続性が大切です。それならエクイティで強い味方をつけ、基盤を固め、次世代にバトンを渡せるような事業作りがしたいと思いました。

 

ーー味方を探すにあたっては、どんなことを重視されましたか?

まずは、ビジョンへの共感を重視していました。ストレートに、私たちが感じている課題や事業をしている理由を伝え、共感していただける方に投資していただきたいと思っていました。

また、私たちのサービスは2〜3年で急成長するようなタイプのサービスではないので、時間軸を理解していただくことも大切です。これからやろうとしていることは、今までの習慣や文化を変えることになるので、ある程度の時間がかかります。

とはいえ、もちろん私たちも事業としてやっているので、このサービスはきちんと事業成長が望めると思っていますし、それは投資家の方々にもお伝えしています。

 

ーー投資家に対して、事業性はどのように伝えていましたか?

いろいろな面からお伝えしていましたが、ひとつは市場の大きさと世界的な死に関する時流についてです。今、ヨーロッパやアメリカでも少子高齢化が進み、多死社会に突入する中で、ご遺体の処理や葬送のあり方を提案しているスタートアップが増えています。それに対して、日本を含むアジアではまだ取り組みがほとんどないので、チャンスだということをお伝えしました。

そして、この5年で樹木葬の利用者数が倍増していて、注目が集まっていることについても伝えました。樹木葬へ関心を持つ方は、循環葬®︎にも関心を持ってくださる可能性が高いからです。

その他には、シニア世代を対象にしたインタビューの結果をお伝えしたりして、一つひとつ事業性の根拠を積み重ねていきました。

 

ーー小池さんのように、新しい文化をつくる事業にチャレンジしたいと考える起業家は、どんなことを大切にすべきだと思いますか?

周りの人の話をよく聞くことですね。独りよがりでは文化をつくることってできないと思うんです。文化って、多くの人が実は思っていたけれど表層化してしていない「気持ち」みたいなものが、ブワッと盛り上がってできるものな気がしていて。

何かを変えようと思うと、つい「引っ張っていこう!」と思いがちですが、それをやり過ぎると周りを置き去りにして、一部の人しかアクセスできないものになってしまう。それでは文化にはならない。だから、いろいろな人に話を聞きながら客観性を持って事業を進めていくことが大切だと思います。エクイティによる資金調達を選んだ背景には、そうした考えもありました。

社会福祉士として長年対人支援をしてきた、共同創業者・COOの正木雄太さんと

 

「地球の1アクター」として循環の中に生きるための、選択肢のひとつでありたい

ーー循環葬®︎RETURN TO NATUREの今後の展望を教えてください。

大きくは3つあります。1つ目は、第一拠点である「能勢妙見山の森」をより良い森に育てること。ご契約を考えられている方やご遺族の方たち、森に関心ある方たちが、森に来てくださったときの体験価値を向上したいです。

人が入れる森にするためには、ある程度のお手入れが必要です。まだ整備しきれていないところもあるので、間伐をし、光を入れて風通しの良い森にしていきたいですね。また、トレイルウォークなどのイベントを実施して、その収益を森を整備するための費用として活用したいと思っています。

2つ目はマーケティングの強化です。ありがたいことに創業当初から多くのメディアに取り上げていただいたことで、これまではPRを中心に認知を広げることができました。ただ、さらに事業を加速させていくためにこれからは、マーケティングにもリソースを割いていこうと思っています。

そして、3つ目は採用。今は6名のチームで働いているのですが、事業拡大に合わせて組織も大きくしていければと考えています。関東にも拠点をつくる予定なので、関西・関東ともに仲間を募集中です。

私たちの仕事は森を拠点としていて、パソコンに向かうときもあれば、自然の中で体を動かして働くときもあります。森での活動は頭のリフレッシュにもなりますし、そういったバランス感を持って働きたいという方はぜひご連絡いただきたいです!

※at FORESTの採用に興味ある方はこちらからご確認ください

 

ーーさらに多くの地域で循環葬®︎ができるようになっていくんですね。

そうできるといいなと思っています。ただ、拠点づくりは私たちにとって一番のハードルでもあって。森のあるお寺が見つかっても、宗教を問わないことやジェンダーフリーであること、ペットもOKであることなど、私たちの目指すサービスとお寺の想いが必ずしも一致するとは限りません。守るべき森の価値も大切なポイントです。

焦ることなく、コンセプトをきちんと実現できる拠点を地道に探して、最終的には全国各地域に2箇所ずつくらい拠点の森をつくれたらと思っています。

 

ーー循環葬®︎RETURN TO NATUREが広がり、文化として根付いた先の社会をどのように描いていますか?

「人と自然が共生できる社会」が実現していたらいいですね。当社に環境アドバイザーとして参加してくださっている鈴木武志先生は「人間も地球の1アクターだよね」とよくおっしゃるのですが、本当にその通りだと思います。人間は地球の唯一の主役ではありません。自然から様々なものを受け取り、人も自然に何かを与えるといった生き方が広がるといいなと思います。そのひとつの選択肢としてRETURN TO NATUREが存在できたら嬉しいです。

 

at FOREST株式会社:https://atforest.co.jp/

 

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    企画・編集

    佐藤史紹

    フリーの編集ライター。都会で疲弊したら山にこもる癖があります。人の縁で生きています。趣味はサウナとお笑い芸人の深夜ラジオ。

     

    取材・執筆
    白鳥菜都

    ライター・エディター。好きな食べ物はえび、みかん、辛いもの。

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