事業づくりを通じて自己成長する。3ヶ月の社会起業家支援プログラム『COM-PJ』の魅力とは?

2023年7月から10月にかけて開催された社会起業家支援プログラム『COM-PJ(コンプロジェクト)』。本メディアを運営するtalikiと京都リサーチパークが共催するこのプログラムは、なんと今期で4回目。社会課題の解決を目指し起業を志す30歳以下(創業2年未満、起業準備中など)を対象とした取り組みだ。

社会課題を解決しようと集まった起業家は20名にも及んだ。スピード感と実践を重視し、3ヶ月で2度のプロトタイプ検証を実施。最後はtalikiが主催するソーシャルイベント『BEYOND2023』でのピッチによる最終発表でプログラムを終えた。

今回は、ピッチにおいて見事、COM-PJ賞*を受賞した株式会社omochiの庄子実桜氏に、プログラムを通じて得られた学びや成長、参加者やメンターとの関わりが「自分自身」や「事業づくり」にどう影響していったか詳しく伺った。

*COM-PJ賞・・・プログラムの三原則である「giverであろう・とにかく出してみよう・妥協しない」を体現された方に授与される賞

【『COM-PJ』とは?】

「あなたの優しさが、社会に接続される3ヶ月」

talikiと京都リサーチパークが共催する、社会課題の解決を目指し起業を志す若者を対象とした起業家支援プログラムです。 第4期は2023年7月から3ヶ月間開催し、仲間たちとの毎週の進捗報告会の他、先輩経営者やVCなどメンターによる講演やフィードバックを行いました。

公式HP:https://talikikrp.work/

【プロフィール】 庄子 実桜(しょうじ みお)
管理栄養士。間借り出店や食育ワークショップなどの取り組みを通して食に携わってきた。教育機関での食育授業の実施や、参加者にとっての”おいしい”を研究するおいしい研究所ワークショップの企画や実施、読めて出会える食体験エンターテインメント「食の思考記録」の運営などを担当。
夫婦で会社を経営し、「食の豊かさにふれられる機会をひろげる」というミッションのもと、兵庫県神戸市を拠点に活動している。
お餅は焼くより茹でて食べる方が好み。

 

子どもたちが豊かな食にふれられる世界へ

ーーまずは庄子さんが所属している株式会社omochiの取り組みについて教えてください。

omochiでは「食の豊かさ」をテーマに、主に教育機関へ出張授業をしています。郷土料理などの食文化に関する授業や、食と探究学習を結び付けてフェアトレードに焦点を当てた授業を提供しています。食育の授業と一口に言っても、その内容は幅広く展開されています。

 

社会の発展に伴い、日常がますます忙しくなりつつある中で、食事は手軽で時間をかけずに済ませる傾向が強まっていると感じます。それでも生きていくことは可能ですが、みんなで一緒に食べる温かさや手作りのおいしさなどの食の豊かさが失われ、食事をすることの楽しさを感じることができなくなってしまうことを危惧しています。私たちは、そうした失われつつある食の豊かさに触れられる機会を提供しています。

 

ーー庄子さんは社内でどのようなお仕事をしていますか?

土井さん(omochi代表)と共にomochiを経営しており、私はNo.2のポジションで参画しています。

管理栄養士の資格を持っているため、学校での食育授業の実施や教材作成、食に関する執筆なども担当しています。アルバイトや業務委託で関わってくれている方もいますが、ほとんどの業務は二人で担当しており、全般的な業務を手がけています。

 

課題だけでなく、自分自身と向き合いながら事業をつくる3カ月間

ーースタートアップのNo.2として参加された庄子さんは、どのようなことを期待してCOM-PJに参加されたのでしょうか?

私は代表と同じ目線に近づけるような成長を期待してCOM-PJに参加しました。

会社のNo.2として代表と同じ目線で考えることを日々求められますが、応えきることができず悩んでいました。そんな中で、スタートアップのNo.2として昨年のCOM-PJに参加していた方の参加レポートと出会いました。その方も私と同様の悩みを抱えていましたが、COM-PJに参加することで事業づくりに対する理解度や判断力を高めることができたそうです。代表と同じ目線で話せるようになったと書かれているのを拝見し、私も参加を決めました。

プログラムに参加した結果、代表の目線に近づくことができたと思います。

さらに、プログラムの中で仮説立て、実行、意思決定などのサイクルを積み重ねることで、今の事業に足りないものが何かわかるようになったのも成長の一つです。

私は創業者ではないため、最終的な意思決定権はいつも代表にありました。そのため、自分で何かを決めた経験がほとんどなく、自信もないままCOM-PJに飛び込んだんです。初めは毎日が小さな選択と決断の連続で不安ばかりが募りました。

しかし、プログラムを重ねるうちに意思決定の回数も増え、事業づくりに対する理解度もあがっていったんです。自分で仮説を立て、問いを明確にし、根拠をもとに自信を持って前進することができるようになりました。

 

ーー実際にCOM-PJに参加することで、事業はどのように変化しましたか?

中間発表がきっかけで、事業内容を大きく方向転換することになりました。

参加当初は、omochiがこれまでアプローチできていなかった大人をターゲットに、飲食店の紹介サービスを想定していました。金額や立地などのわかりやすい指標ではなく、お店の雰囲気や作り手のこだわりなど、わかりづらいけど素敵な魅力を持っている飲食店を知れるサイトがあれば良いと考えたのがきっかけです。このプロジェクトは、他者の課題から出発したものではなく、自身のやりたいことに基づくアイデアでした。

しかし、自分たちの事業について話す中で、「これは果たして誰かのためになるのか」という違和感が生じました。私たちが目指す社会や叶えたい世界を実現するために、もっとアプローチを変えるべきだと感じるようになりました。

COM-PJ中間発表の様子

 

そこで、ヒアリング方法を変更し、「3食食べているか」など、食に関する幅広い調査をしました。そうして出会ったのが、「食事を大切にしたいが、仕事が忙しいため疎かになってしまい、自己嫌悪に陥っている」という課題です。私自身も社会人になり、仕事に忙殺されることで食事を疎かにしてしまっていた経験があり、これに共感しました。この結果を踏まえて、その人が直面している課題や喜びに焦点を当て、副菜の宅食サービスに方針転換しました。

 

ーー事業をピボットさせるのは大変で、勇気が必要だと思います。プログラム内のどのようなコンテンツが事業の成長を加速させたと思いますか?

成長を加速させたコンテンツは、1~2週間ごとのメンターとの1on1ミーティングです。

最初の数週間、プログラムの最適な活用方法に苦慮していました。私は課題に直面したときにメンターに相談し、その都度指示を仰ぐというサイクルに陥り、事業も自己成長も停滞しているように感じていました。おそらく、他者に答えを求めて自分での意思決定を避けていたのかもしれません。この点に関してメンターに相談すると、「答えを求めるのではなく、自分の考えや実行結果を報告する場にすることで、意思決定の機会が増えて事業が前進しやすくなるかもしれない」とのアドバイスを受けました。

このアドバイス通り、自ら考えた行動とその結果に対してフィードバックを受けるようにしました。これにより、事業が進展し、同時に自己成長も加速したと感じています。運営側が参加者に寄り添い、プログラムの効果的な活用方法について細かくサポートしてくれたことで、前進することができました。

 

ーーCOM-PJでは三原則を掲げており、その中の一つが「giverであろう」です。参加者同士の知見共有や成長を大切にしています。実際に参加してみて他の参加者との関わりはいかがでしたか?

異なる分野の人が集まり、議論し合う場という特性から、多様な視点が混じり合う楽しさがありました。今まで、私は「食」という大きなくくりで課題を捉えていました。しかし、他の参加者の意見を通じて「子ども時代の食」や「夫婦関係における食」など、食が要素分解できることに気づき、新たな視点で食にアプローチすることができました。

また、事業づくりでは、どんなに計画を練っても壁にぶつかる瞬間が訪れます。私は幸いなことに頼れる仲間がいますが、COM-PJの参加者には一人で起業している方もいます。COM-PJメンバー以外で頼ることが難しい状況に直面した彼らに、「大丈夫だよ!とてもいいと思うよ!」などの積極的な声かけを意識していました。

何より三原則があるおかげで、お互いに励まし合いながら成長できる環境が整っていました。初めての事業づくりで不安なことが多い中でも、参加者同士がgiveし合うことできつい時期を乗り越えられました

 

最終発表も事業を成長させるチャンスに

ーーCOM-PJの最終発表はtalikiが主催する「BEYOND2023」というイベントのピッチで行われました。今年は参加者数が500人程のかなり大規模なイベントでしたが、ピッチをしてみていかがでしたか?

人前に出て話すのが得意ではないので、とても緊張しました(笑)。

誰しもそうですが、大きい舞台に立って自分の想いを伝えるとなると、どうしても良く見られたい、失敗したくないというプレッシャーが頭をよぎります。そうではなく、私はあの場で何を話したいのかを常に自分に問い続け、未完成でも完璧でなくてもその現状を冷静に把握しながら挑みました。

BEYOND2023でのピッチの様子

 

ーーピッチでは豪華審査員によるフィードバックがありました。そのなかでも参考になったものはありますか。

審査員からいただいた全てのフィードバックが事業に活かされています

私たちはセントラルキッチンで大量に生産し、広範囲に提供するビジネスモデルを考えていましたが、味や質の維持が課題となっていました。ですが審査員からは、「大量生産を避けると赤字になるのであれば、味や質を妥協せざるを得ない」という意見がありました。この指摘により、自分の中での葛藤が打開され、気持ちを切り替え別のアプローチを模索するきっかけとなりました。

また、小さな町単位のモデルを構築し、地産地消にフォーカスする提案も有益なヒントでした。

 

ーー最終発表という場でもしっかりと学びを得られたことは素敵ですね。ピッチを通じて、周囲からの反響はいかがでしたか?

ピッチ後、多くの方から「私のことを言われているのかと思いました」「なぜ僕の悩みを知っているんですか」といった感想をいただき、非常に嬉しかったです。私以外にも食事に悩む人がいて、そのニーズが多岐にわたることを改めて実感しました

また、社内でも良い影響を与えることができました。ピッチを見に来てくれたメンバーのひとりが、「自分もCOM-PJに参加し大きな舞台で自分の想いを発表したい」と言ってくれました。さらに代表には「仮説検証など事業づくりにおいて大切なことは僕よりもできているから負けていられない」という言葉をいただきました。

 

ーー6分間という限られた時間の中でこれほどの影響を与えられることは素晴らしいですね。大きな舞台でのピッチを通して、何か学びや気づきはありましたか?

あのような場において、”なぜここに自分の原動力があるのか”を恥ずかしがらず、怖がらずにさらけ出せる力は人を巻き込むし、応援したくなるし、突き動かす。私自身は事業をつくる上で、まだまだ粗削りな部分もあるけれども、これをやりたいという気持ちが一番の原動力であると改めて感じました。具体的なマネタイズの方法や仕組みの詳細はこれから頑張りますが、この気持ちだけは絶対に絶やさずにいたいということはCOM-PJが終わってからも思い続けています。

 

人とのつながりを通じて課題を解決

ーーCOM-PJを経て、副菜ぷらすは今後どのような事業展開を予定していますか?

食を中心に、人と人のつながりを生み出すことを目指していきたいと考えています。ピッチでのアドバイスを参考に、地域のシェアキッチンでつくったものを、その地域のオフィスやコワーキングに届けるようなサービスを検討中です。まずは神戸から始めて全国の地域に展開していきたいと思っています。

そして、飲食店で働いていた経験がある人や料理を作って振る舞うのが好きという人など、誰かに料理を食べてもらいたい人と忙しいビジネスマンをつなげるような仕組みを作るために準備しています。

 

ーー最後に、今後COM-PJに参加したいと考えている人に向けて、庄子さんからメッセージをお願いします。

参加する前は、事業や自分自身の課題に対して不安なこともあると思いますが、迷っているのなら絶対に参加した方が良いと思います。プログラムを通じてそんな不安の一つ一つにもきちんと寄り添った上で、温かく的確なコメントをしてくださります。

また、私のようなNo.2の人も成長の良い機会になります。代表の元を離れて一人で飛び込み、意思決定をたくさんする3カ月になるので、経営者目線に近づくことができると思います

最後に、COM-PJに参加して一番良かったと思うのが、仲間ができることです。社会課題の解決に取り組む中で孤独を感じている人はぜひ参加してほしいです。

 

株式会社omochi  https://omochi-shokuiku.co.jp/

COM-PJ https://talikikrp.work/

 

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企画・編集
張沙英
餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

 

取材・執筆
大木さくら
人生の夏休みを謳歌中。アニメや漫画が好き。福祉や教育の分野に関心を持ち、学びを深めている。

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