フードロスに計上されない“隠れた”食材廃棄を減らすために。Re.BooooN!は「美味しく、楽しく」消費行動を変えていく

環境省によると、日本のフードロスは年間約520万トン発生している。しかし、この数値には含まれない“隠れた”食材廃棄が200万トンあるという。色や形が流通規格を満たさず出荷されることのない食材の廃棄「隠れフードロス」だ。日本では出荷後に発生するものをフードロスと定義するため、隠れフードロスの数値は表に出ることはない。

この課題の解決に“Well-Food”というコンセプトを掲げて挑むのが、株式会社トリプルバリューが展開する隠れフードロス削減事業「Re.BooooN!(リブーン)」。事業責任者を務める出口健一氏(トップ画の一番右側)に、Well-Foodとはなにか、事業のこだわりや独自性、今後の展望について聞いた。

【プロフィール】出口健一(でぐち けんいち)

新卒で株式会社きちりに入社し、32店舗の統括や新店舗の開発に従事し上場を経験。その後、転職した企業で食品廃棄問題の解決を目指したプロジェクトや新規事業の立ち上げに従事。2018年には農家と地域の課題を解決するフードロス事業を展開する「株式会社FUNPANY」を創業。2022年に、ソーシャルビジネスに特化した環境でより社会価値を高めるために、フードロス事業を株式会社トリプルバリューへ売却。またサステナブル事業担当の役員として入社し、更なる拡大に向け活動中。

 

“Well-Food”が消費行動を変え、構造的な課題を解消する

ーーまずは、Re.BooooN!の取り組みについて教えてください。

Re.BooooN!は隠れフードロスを解消すべく、規格外品として捨てられている農作物を農家さんから適正価格で買い取り、加工食品にして販売しています。販路はECサイトに限らず、直営の店舗やふるさと納税でも展開。全国にお届けしているんです。

もともと、農作物の規格が設けられた背景には、効率化の観点から「均一な形状のほうが箱詰めしやすい」という理由や「見栄えの悪い食材は消費者に敬遠される」という理由があります。しかし、これらの規格から外れた食材の中には、味わいは変わらず美味しく食せるものがたくさんあるんです。

これまで、いちご・桃・みかん・ピーナッツ・枝豆など、農家さんから出る規格外農作物、約2トン分のロス解消に貢献してきました。現在、14の農家と取引があり、口コミによってお問い合わせが増えています。

 

ーー具体的にどのような商品を販売しているのですか?

ジャムやピーナッツバター、いちごバターやレモンカモミールバターなどがあります。すべて無添加で、商品の価格帯は1個あたり600円から1000円程度。購入者の大半は個人のお客様で、商品をまとめて購入して友人と分け合う方もいるようです。

 

ーー捨てられてしまう野菜を粉末にして肥料にしたり、雑貨に生まれ変わらせる解決策もあると聞きますが、なぜ加工食品の販売を?

雑貨や肥料などは、食べられない廃棄食品から作られています。僕たちが扱うのは「美味しいのに捨てられている食材」なので、適したアプローチが違うんですよね。また、規格外農作物を値下げして販売するソリューションも存在しますが、果物は傷むスピードが早く、生のままでは販売が難しい。そのため、加工食品開発に至ったという背景があります。

 

ーー他社商品も多く存在するなかで、どのようなアピールポイントを打ち出して販売しているのでしょう?

“Well-Food(ウェルフード)”という考え方を打ち出しています。ロスフードが「捨てられる食べ物」であれば、ウェルフードは「選ばれる食べ物」。

「捨てるのがもったいないから買う」のではなく、「美味しく、楽しく、選んでいたものが実はフードロス商品だった」という体験を届けたいんです。商品の味や見た目の楽しさをアピールすることで、買う側の意識変容を起こしていきたいと考えています。

 

ーーなぜ、買う側の意識変容に注目されたんですか?

先ほど話した通り、「形が揃っていて、見た目のきれいな農作物を買いたい」という消費者の意識が、食品の「流通規格」を創り出している側面があります。消費者がそう考えるから、小売店も見栄えの悪い農作物を仕入れようとせず、JAなど流通の担い手も規格を設けざるを得ない構造になっているんです。

だからこそWell-Foodによって買う側の意識に変化を起こすことが、隠れフードロス解決の第一歩だと考えています。

 

技術研究×アイデア力×農家のこだわりで、選ばれる商品を生みだす

ーー商品開発のこだわりや強みを教えていただけますか?

まず、豊富な専門知識を持つメンバーで、無添加で美味しく、かつ見栄えも美しい商品を作っていることです。無添加で見た目のいい加工食品を作るのは、実はかなり大変です。

たとえば、りんごや桃は煮詰めると茶色く変色する性質があり、それを防ぐための酸化防腐剤を入れた商品はたくさんあります。でも、誰でも安心して食べられる商品を目指している僕たちは、それに頼るわけにはいきません。

そこで、バイオエナジーの研究開発の経験を持つメンバーと一緒に、無添加でも色や香りを最適な状態に保った上での商品開発を進めているんです。

 

2つ目のこだわりは、消費者のニーズを捉えた商品企画のアイデアです。僕自身、以前は飲食店のゼネラルマネージャーとして、経営企画やメニュー企画に関わっていました。飲食店のメニュー開発は、お客様の反応を直に見ながら素早くPDCAを回していきます。お客様がどんなものを求めているのか、いまの流行りはなにかなどを考えながら、さまざまなメニューを考案するなかで、鍛えられたものがありました。

Re.BooooN!がはじめて販売した商品は、社会的にも話題になっていた「いちごバター」。話題性を活かしつつ目新しい商品にすべく、ジャムに近い口当たりだった他社商品に対して、バターの濃厚さを強調した独自のいちごバターを開発したんです。この商品は発売以来ずっと売れ筋商品となっています。

 

ーー専門的な技術と経験を商品開発に生かしていると。

さらに、取引している農家さんの「こだわり」も、僕らの商品の強みです。

とある有田みかんの農家さんは、ミネラルやビタミンの豊富な「アルギット」という海藻を使って土壌改良を行なう「アルギット農業」を、データ的な裏付けをしながら進めています。また「Lacto Peach(ラクトピーチ)」という乳酸菌で育てた桃を作る農家さんは、大学から乳酸菌の共同研究の依頼を受けるほどの専門性を持っています。

その他にも、さまざまな専門知識や技術をもとにこだわりを持って農作物を作っている農家さんが取引先にはいます。彼らが丹精込めた野菜や果物の味は、誰もが知る有名ブランドと遜色のない味わいなのです。

 

ちなみに、こだわりを持った農家さんを選定する理由は、品質の確保だけでなく、別の側面もあります。それは、農家を「子ども達が憧れる職業」にしたいということです。子ども達にとって魅力的と思える、面白くてユニークな商品を開発している農家さんを応援していこうと思っています。

 

食育事業で200組の親子に「Well-Food」体験を提供

ーー規格外農作物を原料に商品を作る場合、安定した仕入れの確保の難しさが課題になるのではないでしょうか?

おっしゃる通りですが、僕らは仕入れ量を安定させなくていいと思っているんです。そもそも農産物の仕入れは気象条件などに左右されやすく、安定した供給が難しい。それなのに、同じ商品が通年で販売されている状況には違和感を感じます。

旬の食材を使った食品を無添加でお届けするならば、旬の期間以外はその商品が売り切れているのが自然なこと。それがRe.BooooN!が目指す姿です。

中長期的には、事前に商品の予約を受け付ける予約販売の仕組みを導入していきたいと考えています。

 

ーー消費者の当たり前を考え直す、重要な視点だと思います。

こうした視点を子どものときから養ってもらいたいと考え、今年から食育体験事業を始めました。新大阪に自社の工房を構え、「作って、食べて、楽しく学ぶ」をコンセプトにした食育体験を親子向けに提供しているんです。2023年3月からスタートし、半年で250組以上の親子に参加いただきました。

 

プログラム内容は、クイズ形式でフードロス・隠れフードロスについて学んだり、自分で作ったオリジナル瓶に手作りジャムを詰めて、実際にECサイトで販売してみたり、子ども達と一緒に、親も楽しみながらフードロスについて考えるものとなっています。

 

また、自社の工房に限らず、出張でどこでもイベントを企画・実施できる柔軟性もあります。企業や食育をカリキュラムに組み込んだ学習塾・学童や食品メーカー様などとのコラボレーションが増えているんです。年内には8社との協業を見込んでいて、事業の収益化を目指しています。

 

Re.BooooN!ブランドを確立し、農家さん自身が商品を製造する未来へ 

ーー子どもたちという未来の消費者にもアプローチしているんですね。今後の事業成長に向けて取り組まれていることはありますか?

まずは、商品ラインアップを増やしていきたいと思います。現在、9つの商品を販売していますが、今年中には、店頭で販売できるスムージーなども含め、新たに50種類の商品を展開予定です。

価格帯のバラエティーを増やしていくことで、「高級ジャムだけを売っているブランド」ではなく、規格外農作物を使ったユニークで多様な商品を販売するブランドとして認知してもらいたいと思っています。

ただ、ECサイトでの食品販売には検査や許可が多く存在し、商品の種類を増やすのには一定の難しさがあります。たとえば、フルーツジュースをパッキングした商品を作ろうとした場合、「人の手が一切触れないように製造しないといけない」というルールがある。各商品ごとに高額な設備投資を行うのは現実的ではないので、OEMでの開発を検討しています。

 

ーーブランド認知が広がった先に描くビジョンを教えてください。

「各農家ごとのオリジナル商品」を作りたいと考えています。マンゴージャムを作るにしても、いろんな産地のマンゴーを混ぜたものを作るのではなく、「この農家さんのマンゴーだから、このジャムができる」というように差別化した商品を作っていく。それにRe.BooooN!ブランドをつけることで、消費者から味や品質が間違いないと思ってもらいたいです。

またその先には、Re.BooooN!が製造を行わず、農家さん自身が商品を製造できる体制を作っていきたいと考えています。開発における許可取りや申請、広報活動など、農家さんの負担となる部分は僕らが引き受け、農家さんにはRe.BooooN!のノウハウやブランド力を活用して、製造に集中してもらう。

そして、完成した商品はRe.BooooN!のECサイトだけでなく、直販など独自の販路でも販売してもらうことで、収益が農家さんに還元される仕組みを構築したいです。これにより、農家さんに新たな収益源を提供すると同時に、彼らが手がける品種をブランド化する手助けができると考えています。その品種の産地の地域貢献にもつながれば嬉しいですね。

 

素晴らしい農作物を育てている農家さんの作る商品が、消費者に「美味しい、楽しい」と受け入れられ、直販やECなどでの取引を増やす。そうやって消費行動を変えていくことで、隠れフードロスの削減を目指します。

 

Re.BooooN! オンラインショップ:https://reboooon.shop/

株式会社トリプルバリュー:https://www.triplevalue.jp/

 

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    企画・編集

    佐藤史紹

    フリーの編集ライター。都会で疲弊したら山にこもる癖があります。人の縁で生きています。趣味はサウナとお笑い芸人の深夜ラジオ。

     

    取材・執筆

    河野照美

    スラッシュワーカー。養育里親。「楽しく笑顔で社会課題と寄り添う」がモットーです。

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