ウガンダ人中心のチームで成し遂げる。外部支援に頼らない、アフリカ農村住民が自走できる井戸管理費回収システム「SUNDA」。
インタビュー

ウガンダ人中心のチームで成し遂げる。外部支援に頼らない、アフリカ農村住民が自走できる井戸管理費回収システム「SUNDA」。

2023-10-12
#国際協力

「国際協力」の一環として、アフリカ諸国に設置された無数のハンドポンプ井戸。良かれと思い作られたハンドポンプは、一度壊れると修理されずに放置されることも少なくない。一時的な支援では途上国の本質的な課題解決にはつながらないことを物語っている。「7億人に安全な水へのアクセスを実現」をビジョンに掲げるSunda Technology Globalは持続可能な技術を用いて、ハンドポンプ井戸の維持管理に取り組む。同社はウガンダ人を中心としたチームで、お互いの「当たり前」が通用せず苦労したこともあったという。代表の坪井彩にバックグラウンドや考え方が異なるメンバーと築くチームビルディングの方法を聞いた。

【プロフィール】坪井 彩(つぼい あや)
2013年パナソニック株式会社に入社し、IT部門でデータ分析コンサルタントとして勤務。その後、青年海外協力隊としてウガンダの地方県庁の水事務所にて活動。1年間の活動を通してウガンダ農村部の水問題に触れ、そのソリューションとして「Sunda」を考案。現地エンジニアやその他協力隊員とSunda開発・設置活動に取り組む。21年に第6回日本アントレプレナー大賞受賞。

 

国家事業として取り組むも、改善されない井戸設備

ーーまずは、ウガンダが抱える水の問題について教えてください。

ウガンダの農村部では、安全な水を供給する水源が不十分であり、住民の約30%*1は野生動物や家畜も使う、大腸菌だらけの泥水を飲料水にしています。病気を引き起こすだけでなく、子どもの場合は生死に関わる深刻な問題です。

彼らが安全な水にアクセスできない要因は、2つあります。第1に、水源となる井戸の数が足りていないこと。第2に、設置後のハンドポンプ井戸の持続可能な維持管理の仕組みづくりができていないことです。現状ウガンダには6万基という多くのハンドポンプがある一方、ハンドポンプ井戸の稼働率は50%程度であるという報告*2もあります。

*1:4500万人の人口のうち安全な水へのアクセスがある人は65%。http://wsdb.mwe.go.ug/index.php/reports/national
*2:現地調査で得られた第一次無償で建設された井戸の稼働率は50%と非常に低かった。https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/1000022689.pdf


泥水を汲む子ども達の様子

 

ーーハンドポンプ井戸のメンテナンスにはどのような難しさがあるのですか?

一番の課題は修理費回収の難しさです。そもそも井戸の管理は、利用者であるウガンダ農村部住民の役割です。井戸が壊れた際の修理費として、村の代表者が毎月定額を回収する仕組みがとられています。ですが、家庭によって異なる水の利用量に対して、定額であることへの不公平感や、現金回収者の横領に対する恐れが、集金を困難にしています。結果的に壊れたハンドポンプ井戸が放置されることに。

 

ーーウガンダ政府としては、その状況をどう捉えているのでしょう?

政府はこれまでも、JICAや国連などに「農村部のハンドポンプ井戸の維持管理におけるフレームワーク作り」の支援要請を出しています。このように水インフラの整備とその維持管理は、国の発展のためにも最重要課題の1つとして捉えられています。

都市部や地方都市を中心に、水設備の維持管理を行うためのフレームワークは整備されてきつつあり、それを担う公的組織も存在しています。しかし、最も利用者が多く、より収入の少ない方々が利用するハンドポンプ井戸に関しては、維持管理問題に対する取り組みはまだまだ少なく、解決には程遠い状況です。ハンドポンプならではの技術的な難しさや収益化のハードルがあり、過去何十年と状況が大きく変わっていません。

 

仕組みを整え、自立循環型の運用に。

ーー国家レベルでも難しい課題をSunda Technology Globalではどのように解決できるのでしょうか?

私たちは壊れて放置されている井戸を修理するだけでなく、持続的に利用できる状態にするアプローチが必要だと考えています。そこで、これまで問題点になっていた、修理費回収の解決策として、「人」に依存しない自動化された料金回収の仕組みを構築しました

「SUNDA」と名付けたそのサービスは、モバイルマネーをプリペイド式でIDタグにチャージし、汲んだ水の分だけが残高から差し引かれるというもの。水の利用量がわかるメーターが井戸に設置されており、正確に水の利用量を計測できるため、住民の不公平感を解消しています。

また、農村部でも携帯電話やモバイルマネーが普及している点を活かし、現金回収を撤廃しました。現金よりも不正リスクがないため、住民たちは安心して支払いができます。価格は20Lあたり1円弱の低価格。現在150基のSUNDAが設置されており、約1万世帯が毎月利用してくれています。井戸の維持管理に十分な額が回収できるようになりました。

 

ーーすでに存在している井戸とテクノロジーを組み合わせたんですね。SUNDA考案までの経緯を教えていただけますか?

最初は私自身がメンテナンス費を肩代わりして修理したこともありましたが、それでは持続可能な支援とは言えないと痛感したんです。一時しのぎの対策では放置された井戸の本質的な解決にならない」と思っていた私は、住民が修理費を払いやすくなる方法を模索しました。

そこで、住民が不公平感を感じずに利用できるよう、「利用量のシステム化」をしようと思ったのがSUNDA考案のきっかけです。

 

ーー時的な資金援助ではなく、農村住民自身で修理できる仕組みが必要だと。実際に利用した住民の反応はいかがですか?

近くの井戸が継続的に使えるようになったことで、生活に良い変化が起きていると聞いています。SUNDA導入前は一度壊れたハンドポンプの修理まで数ヶ月~数年かかることもあり、修理期間中は3時間かけて別の井戸まで水汲みに行っていたそう。その分の時間を勉強や仕事の時間に充てられるようになったと話してくれました。また、蔓延していた下痢の症状がなくなったと、みんなが口を揃えて言っていますね。

こうした変化に喜んでくれている様子を目の当たりにして、それがまた私の活力になっています。「この人たちの生活がかかっているんだな」と実感が湧き、難関と言われる農村部の井戸整備に取り組むための力を与えてくれます。

 

「それが当たり前」は通用しない。「ゴール共有」と「ロジカルな説明」でチームを1つに。

ーー150基の井戸にSUNDAの設置が完了したとのことですが、ここまでの過程で一番苦労したことはなんですか?

今の共同創業者でもあるウガンダ人エンジニア2名と出会うまでに時間がかかったことです。SUNDAの開発にはハードウェア、ソフトウェア両方のエンジニアが必要。ハードウェアと一言に言っても、バルブ、水量計、通信、電力関係などさまざまな分野の専門技術が求められます。想像するだけで難しそうですよね。でも出会ったウガンダ人の多くが「1週間でできる」と回答するんです(笑)。実際には1週間で作れるようなものではなく、半年間で約5人のエンジニアが入れ替わり立ち替わり挑戦しましたが、なかなか完成しませんでした。いつになったらSUNDAができあがるのかと、不安が大きかったのを覚えています。

 

ーー日本のエンジニアを呼んでチーム編成をする選択肢はなかったのでしょうか?

ウガンダ現地で使われる「モノ」なので、実際に現場を見ないと必要とされるモノを作ることはできない。遠隔での開発は難しく、現地でモノづくりを始める必要がありました。しかしSUNDAのプロトタイプ作りを始めた2018年当時、協力隊という限られた時間の中では日本からウガンダに来てもらえる技術者の方を見つけるのは困難でした。その結果、ウガンダでエンジニアを探すことに。

現地のニーズをくみ取りデザインを考えることは、現地の技術者が一番向いている。しかし、ハードウェアの量産化という、より商品の信頼性が重視されるプロセスにおいては、日本のモノづくりの技術やノウハウを活かす必要があると考えています。

 

ーーウガンダと日本、役割が棲み分けされることでプロダクトの精度が向上していくんですね。難しい開発でも「1週間でできる」と回答するウガンダの人は、新しい挑戦に対してポジティブな印象を受けました。

行動のファーストステップはとても早いと思います。じっくり計画を立て、実現可能性が見えてようやく動き出す日本人。それに対してウガンダ人は「とにかくやってみる」というスタンスなんです。

都市部出身のエンジニアたちには「農村部の人たちの暮らしをよくしたい」という想いがある。また、農村部の人たちは「貧困から脱却したい」という想いがあり、ハングリー精神を感じます。

 

ーー日本人の慎重さと、ウガンダ人の行動力がマッチすると良いチームになりそうですね。文化や価値観が異なるメンバーをチームとしてまとめる際に、意識していることはありますか?

「ゴールの共有」と「ロジカルな説明」が重要です。私たちは「アフリカの人たちが安全な水にアクセスできるように」を大きなゴールとして掲げています。そのゴールの手前に「機器の信頼性を上げる」、「コストを下げる」などの小さなゴールがある。これらのゴールを共有できていないと、ただ「とりあえずやってみよう」となってしまい、建設的な議論になりにくいのです。

また、ゴールの認識を合わせた後はロジカルにプロセスを説明することです。たとえば「SUNDAの設置台数を年間10台から100台に増やす」という目標を設定すると、現地エンジニアは「できる」と即座に答えます。それは計画性がないのではなく、製造ラインの担当専門家だから。製造以外の部品調達や事前会議など、プロセスの難しさを説明すると、より実現性のある話し合いになります。

日本から見ると、ウガンダでのやり方を不思議に感じることがあります。でも、ウガンダの人たちにとってもそれは同じこと。私たちが納得するためには、なぜそれが良い方法なのかを頭でしっかり理解しないと難しい。だからこそロジカルな説明が大切なのです。

 

ーー「ゴールの共有」と「ロジカルな説明」。多様な価値観を持つ組織はもちろん、組織拡大フェーズにおいてはどのスタートアップでも大事なことのように思います。同じゴールを向くにあたってすれ違いやギャップを感じたこともありましたか?

代表である私は、政府関係者や国際機関の人と話をする機会が多い。そんな中で、必然的に先のゴールを説明する機会も増えます。すると、現場のエンジニアたちとギャップが生じてくることがあるんです。

そこを埋めるために、広報用の動画撮影の場などで、将来のゴールについて彼ら自身の言葉で語ってもらうようにしています。人から言われるより、自分自身でアウトプットをすることで、より具体的なものになる。最終的に、会社として定めたゴールが自らの「意思」になると思っています

 

「安全な水」を通じてアフリカを元気にする

ーービジョンである、「サブサハラアフリカ農村部に住む7億人に安全な水を」を叶えるためにどのようなことが必要だと思いますか?

個々に活動するアフリカのさまざまな支援団体が、共に協力しあう必要があると思います。みんな目的は同じであるにもかかわらず、各団体ごとに活動しており、非効率的だと感じます投資する金額もインパクトも大きくできると思うのです。

長年ウガンダで井戸を掘る活動をしていたNGO団体から連絡をいただいたことがあります。彼らは掘った井戸の維持管理に悩み、SUNDAにたどり着いたとのことでした。資金が限られていた中で、修理費回収に困っていましたが、SUNDAの設置で課題は解消されました。

今後、こうした連携がより活発になることを願っています。

 

ーー「安全な水」を届けて、アフリカ社会にどのようなインパクトを生みたいと考えていますか?

農村部には優秀で真面目な若者がたくさんいますが、貧困や生活環境などの外部要因によって、さまざまな機会に制限が生じています。

そんな彼ら一人ひとりが、平等に安全な水を手にする世界を作りたいと考えています。安全な水が当たり前になったその先、住民がより良い生活ができるよう、SUNDAで雇用創出にも取り組んでいきたいです。

SUNDAに使用する材料を輸入に頼らず、アフリカ内で製造すれば、アフリカに新しい産業を作り出すことも夢ではないと思います。ただ雇用を生むのではなく、個々の能力を最大限発揮でき、そこで働くことが「幸せ」だと感じられる組織を目指したいですね。

 

株式会社Sunda Technology Global https://www.sundaglobal.com/

 

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    企画・編集
    張沙英
    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

     

    取材・執筆
    河野照美
    スラッシュワーカー。養育里親。「楽しく笑顔で社会課題と寄り添う」がモットーです。

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