2025年がソーシャルビジネスの転換点。ユーグレナ出雲氏が予測する、社会のパラダイムシフトと大企業が直面するニーズとは

昨今の社会課題は細分化・複雑化し、解決にはさらなるリソース流入が求められる。ソーシャルスタートアップのみならず大企業も社会課題への取り組みを求められる中、両者の協業はどのようなシナジーを生み、お互いの事業拡大につながるだろうか。

本企画では、社会課題解決に取り組む人をエンパワーする株式会社taliki代表取締役 中村多伽が、経営者・リーダーとの対談を通じて大企業とスタートアップとの理想のマッチングを探る。

第1回は株式会社ユーグレナ代表取締役社長 出雲充氏に話を聞いた。同社は微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の研究からスタートし、食品や化粧品などのヘルスケアにとどまらず、バイオ燃料やサステナブルアグリテック、ソーシャルビジネス、遺伝子解析サービスなどの事業を展開している。

日本のソーシャルビジネスを牽引してきた出雲氏は、日本社会の転換点は2025年だと語る。2023年現在、そして転換点の2025年を迎えたあと、大企業とスタートアップの間にどんなシナジーが生まれることになるのか。出雲氏のさらなる展望を聞いた。

 

【ユーグレナ社の紹介】

2005年に創業し、同年の12月に世界で初めて食用での微細藻類ユーグレナ(以下「ユーグレナ」)の屋外大量培養に成功。以来、食品等の販売。創業のきっかけであるバングラデシュの栄養問題を解決したいとの思いから、2014年より現地の子どもたちにユーグレナ入りクッキーを無償配布する「ユーグレナGENKIプログラム」を開始。

2019年には、日本企業として初めて国連世界食糧計画(WFP)の事業連携パートナーに採択された。2020年、バングラデシュで取り組む「緑豆プロジェクト」が国連開発計画(UNDP)が主導する「ビジネス行動要請」に採択。

同年、「ユーグレナ・フィロソフィー」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を制定。ミドリムシの会社から、サステナビリティの会社へアップデートした。

【プロフィール】

・株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充(いずも みつる) 写真左

東京大学農学部卒。株式会社東京三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行後、2005年に株式会社ユーグレナを起業する。2012年、世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leadersに選出。2015年、第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。2021年、第5回ジャパンSDGsアワード「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」受賞。

2022年より、内閣官房の新しい資本主義実現会議のスタートアップ育成分科会員を務める。

著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』(ダイヤモンド社)、『サステナブルビジネス』(PHP研究所) 。

 

・株式会社taliki 代表取締役 中村 多伽(なかむら たか) 写真右(写真=岡安いつ美)

2017年に起業家を支援する仕組みを作るため、京都を拠点にtalikiを立ち上げる。創業当時から実施している、U30の社会課題を解決する事業の立ち上げ支援を行うプログラム提供にとどまらず、現在は上場企業のオープンイノベーション案件や、地域の金融機関やベンチャーキャピタルと連携して起業家に対する出資のサポートも行なっている。

 

2025年のパラダイムシフトは、日本の巻き返しのチャンスである

中村多伽(以下、中村):本日は、大企業とソーシャルビジネスエコシステムの連携についてお話させていただきます。私は2017年に起業して、社会起業家としては出雲さんのだいぶ後輩にあたります。その私から見て、ソーシャルビジネスの礎を築いてきた出雲さんはやはり社会起業家たちにとってすごく大きな存在だと思うんです。その出雲さんがこれからのソーシャルビジネスにどのような展望をお持ちなのか、ぜひ伺いたいです。

出雲充(以下、出雲):ありがとうございます。展望として、何度も言い続けていることですが、2025年に前提条件が変わります。2025年には日本社会の中核を担う生産年齢人口*の半数がデジタルネイティブ、ソーシャルネイティブのミレニアル世代、Z世代になります。ここで社会の多数派のマインドセットが変わるんですね。独占からオープンへ。自己の利益から他者とのパートナーシップへ。

なぜかというと、今までの大前提だった儲けや独占、短期志向では絶対に解決できない問題が2つあるからです。それが、環境問題と格差の問題です。これを解決しないと地球に住めなくなってしまうし、地球に住めなくなったらいくら独占して儲けてお金持ちでも意味がないわけです。いくらお金持ちでも、毎週襲来する超大型台風で高台に避難する生活になる可能性があるんですから。そんな考え方を変えようというマインドセットが、一足早くミレニアル世代、Z世代が生産年齢人口の過半数を越えたアメリカとヨーロッパではマジョリティになりました。

日本もいよいよ2025年にはデジタルネイティブ、ソーシャルネイティブのミレニアル世代、Z世代が生産年齢人口の過半数に置き換わりますので、ここからソーシャルビジネスに資金が集まらないということは起こらなくなると思います。

 

中村:2023年現在、日本のソーシャルビジネスに資金が集まりにくいのは、社会や文化の性質ではなく人口比の問題なんでしょうか。

出雲:その通りです。人口動態が、社会のマインドセットやパラダイムの多くを規定すると思います。残りは税制の問題です。日本は欧米諸国と比べると寄付金控除の優遇度がそこまで高くありません。そして寄付の文化も醸成されていない。これらの理由により日本はソーシャルビジネスに関してシビアな部分はありますが、2025年以降は投資家も含めた世の中の価値観が変わってソーシャルサイドに好意的になると見込んでいます。価値観が変われば、寄付を促進する税制ではない問題も取り沙汰されるようになると思うんですね。

今の状況はシビアですが、2025年以降は欧米と同じ土俵です。そのときに日本の得意なものにスポットライトを当てたいですね。日本にはテクノロジーがあるし、渋沢栄一の合本主義といった公益を追求する思想も強みになります。日本が昔から得意だったもので一気にオーバーテイクしていけると思っています。

中村:2025年という転換点を目前にして、ソーシャルビジネスエコシステムを拡大するためにtalikiのような中間支援者に期待することはありますか?

出雲:エコシステムのためには裾野を広げてボリュームを大きくすることが大事です。ソーシャルなアクションを起こすことが当たり前になり、マジョリティになること。つまり周囲の人がみんなソーシャルなアクションを起こしている状態がすごく重要です。talikiさんのような中間支援プレーヤーにはその裾野を広げていただき、2025年からも大いに活躍していただきたいなと思います。

中村:ありがとうございます。

*15歳から64歳までの人口。

写真=岡安いつ美

 

大企業の技術をアントレプレナー人材に結びつけ、Win-Winの連携を

中村:ソーシャルアクションの裾野を広げるためにも、社会への影響力の大きい大企業とスタートアップが連携することは不可欠だと思います。上場を達成し、多くの大企業と連携されてきた出雲さんからご覧になって、どうしたら両者の協業がスムーズに進むと思いますか?

出雲:スタートアップが注意すべきなのは、協業ロジックがスタートアップ側に寄りすぎていないかという点です。大企業はメリットがあれば連携しますから、スタートアップは自分たちが大企業の困りごとをどう解決できるのか、独りよがりでない根拠をきちんと示すことが大事です。

中村:なるほど。大企業はメリットがあれば連携するという点について、大企業にとってのメリットとは一般的にはどのようなことが挙げられますか?

出雲:大企業にとってのメリットは、スタートアップのアントレプレナー人材と連携して自社のアセットを活用できることです。大企業はいい技術を持っています。でも大企業の研究開発の成果はなかなか事業化されないんですよ。なぜかというと、事業化しようという社内アントレプレナーが少ない、ということがあると思います。せっかくいい研究成果が山ほどあるのに事業化されない。

技術はあるのに事業化してくれる人材がいないという課題は、大企業も把握しています。それに対して、一つや二つの研究成果やアイデアをもとに事業化するのがスタートアップです。それがアントレプレナーシップですよね。

日本全体でもアントレプレナー人材というのは希少です。これから大切になるのはアントレプレナー人材ですから、社内にいないのであれば、スタートアップのアントレプレナー人材を活用するのが、お互いにとってWin-Winの形になります。

 

スタートアップのアントレプレナーシップが求められる2025年以降

中村:先ほど2025年のパラダイムシフトのお話がありました。その変化によって、大企業とスタートアップの連携のニーズは高まるでしょうか? ソーシャルネイティブがマジョリティになると、アントレプレナー人材が増えるようにも思うのですが。

出雲:いえ、アントレプレナー人材は2025年以降も増えないと思います。2025年にミレニアル世代とZ世代がマジョリティになるだけで、アントレプレナー人材が自然とマジョリティになるわけじゃないですよね。

アントレプレナー人材が育つには3つのきっかけが必要です。1つは「コンフォートゾーン(居心地のいい場所)」を飛び出して、自ら挑戦すること。挫折と立ち直りを何度も経験することで、「やるっきゃない」というアントレプレナーシップマインドを獲得していきます。2つ目は、周りにアントレプレナーシップを持って行動を始めた人がいること。3つ目は学生のうちに「アントレプレナーシップ」を啓発・普及するようなアントレプレナー教育を受けること。現状ではこの教育が充実していないので、2025年からすぐにアントレプレナー人材が増えるわけではありません。

大企業では今以上にアントレプレナー人材が必要になることが明らかです。そこはやはりスタートアップとの協業で解決していくことになるでしょう。

中村:今後のソーシャルアクションや、ソーシャルセクターとアントレプレナー人材の関係性について、出雲さんの展望はいかがでしょうか?

出雲:社会課題解決にはアントレプレナー人材が必要です。ここは密接にリンクしています。今までは、アントレプレナーシップを持ったチェンジメーカーが足りませんでした。

これは展望というより私の取り組みの話になりますが、新しい資本主義実現会議スタートアップ育成分科会のメンバーとして、海外に飛び出していく若者を増やしたいと思っています。

そしてソーシャルセクターに回ってくるリスクマネーも約10倍、今の8,000億円から10兆円に増えて国内のソーシャル市場が拡大すれば、あらゆるコミュニティでポジティブな変化が生まれてくると思います。

 

出雲さんがソーシャルビジネスのリーダーに求める「HERO」

中村:出雲さんが強い気持ちで言ってくれることは、すごく大事だと思います。最後に、ソーシャルビジネスのプレーヤーに期待することを教えてください。

出雲:リーダーには「HERO」になっていただきたい。これは4つの単語の頭文字を取ったものです。1つ目で一番大事なのは「Hope」です。わくわくするような夢や希望をセッティングすることです。2つ目が「Efficacy」です。日本語では自己肯定感、自己効力感などと言いますね。「私はできる」という自己効力感が大事です。メンバーにも「あなたたちならできる」「あなたたちはやれば必ずできる」とメッセージを送り続けることが良きリーダーの仕事です。3つ目は「Resilient」。何があってもしつこく続けていくこと。4つ目が「Optimistic」。楽観的でポジティブであること。

4つ合わせて「HERO」のような魅力的なリーダーが、希望を提示して「私たちならできる」としつこく明るくポジティブに発信する。そんなリーダーがたくさんの仲間に支えてもらって「Better society」、よりよい社会をつくっていく。それを思うとわくわくしますし、私もそのリーダーの一人でありたいと思います。

中村:私も今日お話を聞いて、改めてそういうリーダーでありたいと思いました。

出雲:中村さんにはそういう力があると思っているので、ぜひ頑張っていただきたいです。

中村:頑張ります。本日はありがとうございました!

株式会社ユーグレナ:https://www.euglena.jp/

 

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    企画・編集

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

     

    執筆

    泉田ひらく

    短歌を詠み、東大で哲学を学ぶエシカルライター。雑草ウォッチと銭湯巡りにハマっています。

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