人工土壌で地球の食糧問題を解決。そして目指すのは「宇宙」での農業実現

名古屋大学発のスタートアップとして2020年に設立された株式会社TOWING(以下、TOWING)。植物の多孔体に微生物を付加し、有機質肥料を混ぜ合わせて管理した人工土壌「宙炭(そらたん)」を開発し、通常、畑で3〜5年かかる土作りをわずか約1か月で可能にするほか、同製品を活用して栽培した、地球環境にやさしい「宙ベジ」も販売している。将来はこの技術を応用し、宇宙での農業実現を目指す同社CAO(Chief Administrative Officer)沖 直人氏に、事業展開と今後の展望、採用について聞いた。

TOWINGでは現在採用活動を行っています。詳しくはこちら。https://note.com/towing/n/neb71e25a653a

【プロフィール】沖 直人(おき なおと)

株式会社TOWING CAO(Chief Administrative Officer)。大企業・スタートアップで事業開発に従事。大企業内での社内企業制度の立ち上げ、アクセラレータの企画を経て、労働組合に専従し、事業を生み出すための組織開発に挑む。休日は保有する畑で家族と共に農作業に従事。

 

人が暮らすあらゆる場所で、持続可能な農業と食料生産システムを構築する

ーーまずは御社の事業内容について教えてください。

TOWINGは「土と緑で未来を彩る。」というミッションの元、環境に配慮した人工土壌「高機能バイオ炭」を活用した次世代の作物栽培システムを開発・販売する名古屋大学発スタートアップです。社名はロケットや飛行機を牽引する「トーイングカー」に由来します。私たちが宇宙に向けたワクワクのスタートラインにみんなを引っ張っていくという意味を込めました。

私たちが目指すフィールドは地球のみにとどまりません。日本だけでなく世界中、そして宇宙基地のような地球外の不毛の地でも、自分たちの土壌微生物技術を活用して農業を実現し、高効率かつ持続可能な食料生産システムの展開を目指しています。

 

ーー農業に着目した理由は何だったのでしょうか?

1番の理由は環境課題です。地球上の全産業が排出する温室効果ガスのうち、実は約4分の1が農業分野から排出されていると言われています。

農業は自然に近いイメージがあると思いますが、実際は良いことばかりではありません。例えば化成肥料は作物の成長を促進して効率的に収穫量を上げるメリットがあり、人口増大が加速した1900年代初頭、食料生産が急務になって広く普及しました。しかし、化成肥料を作るさまざまな過程で化石燃料が関係しており、結果的にCO2排出を促しているのです。

世界の人口が増加し続け、温暖化が進む現代では、生産量の向上と環境への配慮を両立させることが非常に大事です。そのため、化成肥料のみに頼りすぎず、有機肥料などを活用してCO2排出を削減し、脱炭素社会の実現を目指しています。

よく農家の方々が「農業は土作りが肝心だ」とおっしゃいますが、有機肥料を使えるような土壌になるまで通常は3〜5年を要します。今の日本の農業は化成肥料を使う農家が大多数ですが、有機肥料への転換には時間もかかるし一時的に生産量が減ってしまう。これが導入の大きなハードルになっています。

 

ーー御社の技術が農業の課題をどのように解決していくのでしょうか?

この課題を解決するのが、私たちが開発した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」です。これはバイオマス資源(もみ殻、畜糞、食品加工残渣、下水汚泥など)を原料とした燻炭に土壌由来の微生物を付加し、有機質肥料を混ぜ合わせて適切な状態で管理したものです。炭には非常に細かい穴が無数に空いているため微生物にとってちょうど良い棲家になり、微生物が活発化することで良い土へと育ちます。

この高機能バイオ炭「宙炭」を土に撒き撹拌させると、わずか1ヶ月ほどで有機肥料を使った栽培が可能になります。これまで3〜5年かかっていた土づくりが1ヶ月に短縮できるのがこの技術の強みです。

 

大学の研究室で学んだ技術をもとに、農家の課題と環境課題の両方を解決する

ーー「宙炭」ならではの特徴や強みはどのようなものがありますか?

これまでも籾殻や植物残渣は畑にまくなどして活用されていました。しかし、土中でバクテリアが分解することで、結果的に大気中にCO2が排出されてしまいます。「宙炭」は分解が進みにくく炭素が地面に固定されるため、CO2排出を抑えるメリットがあります。

また、一般的なバイオ炭は土壌のpHを上げてアルカリ性に傾かせる性質がありますが、植物はやや酸性寄りの環境を好むため、バイオ炭を撒きすぎると作物の栽培に向かない土になってしまいます。「宙炭」は土壌のpHを変化させず一度にたくさんの量を土に撒くことができますし、極端ですが「宙炭」100%の土壌でも栽培が可能です。

これまで化成肥料を使っていた土壌に有機肥料を使うと一時的に生産量が下がってしまう課題もありましたが、「宙炭」を使うと逆に収量が向上したという実験結果も出ています。

今、世界全体で「脱炭素」が注目されており、国も「2050年のカーボンニュートラル達成」を目指して有機肥料栽培を拡大させたい意向があります。一方で、農家さんが求めているのは収穫量の確保や安定性、収益の向上です。「宙炭」は有機肥料への切り替えのハードルを下げ、CO2削減に貢献できる。農家さんと社会の両方に応えられるプロダクトです。

 

ーー環境課題と農家の課題を解決できる一方で、農家さんにとっては費用面も大きな要素になるのではと感じました。そのあたりはどのような状況でしょうか。

導入障壁を下げるべく、なるべく手に入りやすい価格帯にしています。例えば宙炭を使って育てた苗「宙苗(そらなえ)」はホームセンターで売られている苗と価格帯はほとんど変わりません。

 

ーー現在のソリューションにたどり着くまでの過程について教えてください。

「宙炭」の開発技術は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)が開発した技術がベースになっています。開発者の教え子がTOWINGに在籍しており、社会実装を進めているところです。

代表の西田宏平氏

 

ーー開発の過程で大変だったこと、苦労されたことは何でしょうか?

立ち上げ当初は色々と苦労しました。研究を社会実装していく大変さ、特に資金繰りには苦労しました。研究にはある程度大きい農園や実験装置が不可欠ですので、21年の12月にプレシリーズAで資金調達しました。

実験用のハウスを建てたときも、何百という栽培用の土嚢袋に土をいっぱい入れて、一つひとつ手作業でハウスに運んでいました。本当にはじめは何もかも手探りでしたね。

 

将来的には資源の限られた宇宙空間で農業を実現したい

ーー事業に関して、もともと代表の西田さんが宇宙領域に興味があり、農業と宇宙を掛け合わせた事業へのご関心からTOWINGがスタートしたと聞きました。そのような背景がありつつも、現在地上での活用から取り組まれている理由はありますか?

理由は2つあります。1つ目は西田の原体験があります。彼の祖父母は農家で、西田も小さい頃から採れたての野菜を食べさせてもらっていました。そのおいしさは今も忘れられないと言っています。彼にはいつか「農業に恩返ししたい」という思いがあり、これが現在の事業を推進する理由でもあります。

2つ目は資源の問題です。私たちは月面での農業を目指していますが、宇宙は閉鎖空間であり、資源が限られます。資材を何もかも地球から持っていくのは非常にエネルギーコストがかかるため、例えば月面の砂や、宇宙飛行士の糞便や食べ残しなど、なるべく現地で調達できる資源を使い作物栽培できる畑を作る必要があります。実際に、2022年2月には大林組さんと共同で、月の砂を植物栽培が可能な土壌とするための技術を開発し、コマツナの栽培に成功したことを発表しました*。

でも、地球上にも同じ課題があることに気づいたんです。最近ではウクライナ侵攻で引き起こされた原油価格の高騰により化成肥料の資源の価格も高騰していて、中長期的には枯渇する可能性もあります。加えて、有機肥料への転換の必要性も高まっているので、宇宙で使える技術(有機肥料を高効率に分解できる土を人工的に作る技術)をまずは地球上で発展させていこうと今地球上でのビジネスを展開しています。

*プレスリリース:宇宙農業の実現に向けて月の模擬砂を用いた植物栽培実験に成功

 

ーー複合的な理由からまずは地上で事業を進められているんですね。次にサービスについて、開発された技術を応用して農家さんや企業、自治体などにさまざまなサービスを提供されていると思います。各サービスはそれぞれにどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

私たちが提供しているサービスは「宙炭」と、「宙炭」で栽培した苗「宙苗」があります。それと並行して「宙クレジット」や「宙ベジ」にも挑戦しているところです。

「宙炭」や「宙苗」のターゲットは、有機肥料を使える農地に転換したい農家さん、あるいは新規事業で農業に取り組みたい大企業などです。最近ではオフィスの屋上緑化や壁面緑化といった活動も増えており、都市部での需要にも応えていきたいと考えています。

「宙クレジット」は「宙炭」や「宙苗」の利用量に応じてカーボンクレジットを売買できる仕組みです。売却益の一部を生産者様や研究開発に還元し、環境貢献による付加価値向上が狙いです。

「宙ベジ」は私たちの技術で栽培した野菜です。一般消費者に向けたショッピングモールでの販売や、レストランへの卸なども視野に入れ既に販売開始してます。

そのほか、企業や自治体が排出するバイオマス資源を回収して高機能バイオ炭に転換する取り組みも実証実験を進めているところです。

 

ーー今後、特に注力していきたいことはどのようなことでしょうか?

まずは「宙炭」の生産体制を強化するため、製造プラントを立ち上げたいと考えています。

最近では多くの農家さんや企業からお声をかけていただき、チャレンジが広がっています。さらなるサービス拡大に向けて、自社の営業基盤を整えていきたいと考えています。販売を通して顧客の要望を聞き、次の事業を作っていくことも今後の課題です。

それから、より強い土をつくるための耐病性の研究や、バイオマス資源の活用など研究活動も今後加速させていく予定です。

 

ゼロから何かを生み出し、農業の分野に革命を起こしたい人と一緒に働きたい

ーーここからは採用活動についてお伺いできればと思います。現在、研究者とBizDev(営業)、プラントエンジニアを募集されているそうですが、仕事のやりがい、どんな人が向いているかを教えてください。

私たちのコアの1つは研究です。研究室での研究だけでなく、それを実際のフィールドで実証できるよう、愛知県の刈谷市には実証農園を構えています。机上で積み上げた理論を、現場で試すことができるので、一気通貫の研究が可能となっています。その後、研究部門で実証したエビデンスをBizDev担当が活用し、協力してくださる農家さんや農業法人に営業をかけて、社会実装していくという流れです。そのため研究と農園、BizDevが三位一体で動いています。

研究者については、ご自身で研究計画の立案から、実行、振り返り、レポート作成までを回された方や、1人ではやりきれないような研究を、チームでやってきた方が向いていると思っています。栽培管理や土壌作りには約10名のパートスタッフに協力をいただいているため、マネジメントスキルが求められます。一般的な研究職ではチームのマネジメント業務が少ないケースもあるので、武器にもなるしとてもやりがいを感じられる仕事ではないかと思っています。

BizDevは、農家さんを訪問して地道に話し合いを重ねて提案しているので、こういった泥くさいことを丁寧にやってくれる方に加わってほしいですね。クライアントも農家さんやJAさん、企業、行政などレイヤーも幅広く、フレキシブルに順応していただける方が向いていると思っています。

プラントエンジニアに関しては、プラントの立ち上げにゼロから一緒に動いてくれる方。よく「気概」とも表現していますが、既にあるものをコピーするのではなく、まだないものを作りたい強い心意気のある方が必要だと思っています。

各職種に共通するマインドでもありますが、自分たちのサービスはtoC、toB問わず全ての方がターゲットでありステークホルダーです。ですから、全ての方に価値を届けるんだというマインドが非常に大切だと思っています。まだ世の中にないものを生み出し、広げていきながら、地球の農業自体をもっともっと良くしたい。農業の分野に革命を起こす仕事はやりがいになるんじゃないかなと思います。

 

地球の農業を良くして宇宙を目指す、強い“ウィル”を持ったチーム

ーープラントエンジニアや研究者など、専門性がありながらベンチャーマインドを持っている方を求めてらっしゃるということですね。現在のメンバーが共通して持っているマインドはありますか?

「農業を良くしたい」、「宇宙を目指したい」という思いは共通しています。加えて、みんな「自分はこれをやりたいんだ」という“ウィル”が強いですね。採用面接でもよく「あなたが将来やりたいことは?」と質問するんですが、「私は将来、●●●を目指したい。だからTOWINGを志望しました」といった強い思いがある方とは一緒に働きたいなって思いますね。指示された仕事をこなすのではなく、自分からどんどん動きたいという方にとっては活躍できる環境があると思います。

CEOの西田宏平とCOOの木村俊介、私の3人は、前職でエンジニアとして出会いました。CEOの弟であるCTOの西田亮也、CMOの岡村鉄兵を合わせた5人が立ち上げメンバーで、なんと全員技術畑出身でしたが、最近では文系出身のメンバーも増えています。営業でキャリアを積んだ人や金融業界出身、女性の研究者などバックグランドはさまざまで、だんだんと多様性が生まれています。

 

ーー勤務拠点はどのような体制でしょうか?

3つの拠点があり、本社は名古屋市、農園が愛知県刈谷市、研究拠点が名古屋大学内にあります。もちろん農作業をする方々は農園へ、研究者は大学内がベースですが、在宅勤務もOKです。実際、COOの木村は東京在住なので、東京からリモートで参画しています。

 

ーー組織のカルチャーにはどのような特徴がありますか?

もともと「ワクワクすることがしたい」と意気投合したメンバーが集まった会社なので、「TOWINGという箱を使って何かを成し遂げたい」という組織風土があると思います。「農業を良くしたい」という思いの先に、自分自身実現したい目標がある。自分のウィルと会社のパーパスを重ねるカルチャーがあるようにも思います。

基礎研究から社会実装まで、一気通貫で携われる面白さがある

ーーとても素敵な組織ですね。現在、新たな事業にも取り組まれていますが、大学発×アグリテックベンチャーといった側面での魅力があればお聞きしたいです。

大学発の研究活動はとても重要ですが、なかなか世の中に目に見える形で広まっていきにくいんです。でも私たちには研究成果を実装できる農園があります。作った「宙炭」を農家さんにお届けして栽培の成果も見ることができるし、「宙ベジ」を販売して消費者に届けることもできる。基礎研究から社会実装のその先まで一気通貫で携われるのはTOWINGならではの魅力だと思います。

 

ーー本当にゼロから1が生み出される瞬間に関われるということですね。今、この段階でTOWINGにジョインする魅力は?

私たちはまだ何かを成し遂げたわけではなく、これから成し遂げていくフェーズです。だからこそ、このタイミングで入っていただければ、農業を変えていく挑戦に一緒に関わることができます。とてもやりがいが感じられる仕事ですし、他ではなかなか経験できないことも多いと思います。それから、アルバイト・パート含めても40人程度と小さい組織なので、個人の裁量も大きい環境だと思います。

 

ーー今後、社会に対してどのようなインパクトを残していきたいとお考えでしょうか?

まずは地球の農業の未来を切り開いていくこと。日本で有機肥料を使った栽培を増やしていくことで社会的に貢献していきたいと考えています。

実証実験を進めていますが、捨てられてしまう残渣をアップサイクルする農業についても実績を上げていきたいですし、脱炭素に向けた取り組みでもインパクトを残したいと思っています。

これらはすべて地球上での話ですが、この実績は宇宙にもつながっていくことだと思います。日本と世界の農業を変え、やがて宇宙という不毛の地でも農業を実現させることでもインパクトを残したいと思っています。

宇宙で農業をする“スペースファーマー”を目指したい

ーー現時点で宇宙を目指すタイミングは決まっていらっしゃいますか。

人が住めるようになると言われている2040年に向けて準備を進めていきたいと考えています。その時には、僕らの「宙炭」を使った土壌栽培が月面で当たり前に使われる未来を実現できたらと思います。

CTOの西田亮也は「将来はスペースファーマーになりたい」と語っています。人類が月に向かう際には彼がメンバーになるんじゃないかなと思いますし、なってほしいという期待も込めています。

漫画『宇宙兄弟』で描かれているように、西田兄弟は本当に2人で宇宙を目指しているんです。そこに私たちが共感してTOWINGがスタートしているので、本当に“リアル宇宙兄弟”なんですよね。

 

ーー本当に少年漫画になりそうなストーリーですね。最後に、候補者に向けてメッセージをお願いします。

TOWINGにジョインしていただけたら、成長も実感できると思いますし、ベンチャーのマインドを身につけることができます。それが土台にあれば、TOWINGを卒業してもどこでも通用するような人材になれるのではと思います。農業にとどまらず日本中を活性化させたいと熱い思いを持つ方と一緒に成長していきたいと考えています。

TOWINGでは現在採用活動を行っています。詳しくはこちら。https://note.com/towing/n/neb71e25a653a

株式会社TOWING https://towing.co.jp/

 

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    interviewer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

     

    writer

    星久美子

    フリーランスのライター。最近は食の領域と場づくりに関心があります。

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