地域のシニアの困りごとをワンストップで解決。ビジネスと社会課題の両輪で急成長するMIKAWAYA21

「全てのシニアに良き隣人を」そう語るのは、シニアの困りごとをワンストップで解決する「まごころサポート」を展開している、MIKAWAYA21代表の青木慶哉だ。青木が新聞販売店の新規事業として始めたまごころサポートは、今や新聞業界にとどまらず全国のさまざまな業種・業界に広がっている。ビジネスと社会課題解決のバランスをどのように保っているのか、今後の事業展開などについて聞いた。

【プロフィール】青木 慶哉(あおき よしや)

1976年、大阪府生まれ。高校卒業後、新聞販売店の営業として関西地区コンテストで2年連続優勝。その後、20歳でリフォーム事業を起業。23歳には、読売新聞販売店の経営を始め、27歳で、当時、全国に11社しかなかった本社直営店の代表に就任。2012年に新聞販売会社を売却し、MIKAWAYA21を創業。

 

シニアのあらゆる要望を解決

ーー最初に、まごころサポートとはどのようなサービスなのか教えてください。

まごころサポートとは、シニアのあらゆるご要望にワンストップでお応えする課題解決事業です。さまざまなシニアの困りごとを聞き、「コンシェルジュ」と呼ばれる地域スタッフがシニアのもとに駆けつけサポートします。

元々、新聞販売店による新聞読者向けのサービスとしてスタートしましたが、3年前から新聞業界以外にもソーシャル・フランチャイズという形で展開しています。現在は、不動産会社、牛乳販売、介護事業者など44業種・182の加盟店さん(2022年12月時点)と一緒にサービスを全国に広げています。

 

ーーシニアからはどのような困りごとが届くのでしょうか?

本当にいろいろなご要望があります。電球交換、庭の草むしりなど簡単な作業から、病院の付き添い、ハウスクリーニング、タイヤ交換、リフォーム。遺言書をつくりたいとか、老人ホームに入りたいから家を売却したいなどの依頼もあります。コンシェルジュだけで解決できるときはコンシェルジュがサポートしますが、リフォームや不動産売却などは専門の業者を紹介することでサポートしています。

最近では、メルカリとの事業提携により、シニアがお家でメルカリを始めるための訪問型のメルカリサポートサービスを実施したり、Googleと提携しシニア向けのスマホ教室を実施したりもしています。まごころサポートを通して、これまで60万件ほどの困りごとを解決してきました。

 

コンシェルジュ、加盟店と一緒に地域に貢献

ーーシニアのさまざまな困りごとに対応するコンシェルジュですが、どのような方がコンシェルジュとして登録されているのですか?

コンシェルジュはそれぞれの地域に住むスタッフで、大学生から定年退職後の方まで幅広い年齢層の方がいます。最も多いのは子育てがひと段落した40〜50代の主婦の方ですね。現在、全国で1,200名ほどの方が活動されています。

コンシェルジュには、完全成果報酬型の有償ボランティアとして活動いただいています。例えば草むしりのお手伝いをする場合、15分500円という料金を設定し、依頼があったシニアから金額をお支払いいただきます。一方で、リフォームなど業者に依頼する必要がある困りごとは、フランチャイズ加盟店が業者を探し、業者からいただいた紹介料をコンシェルジュ、フランチャイズ加盟店、MIKAWAYA21本部で分けるというような仕組みになっています。

加えて私たちは、コンシェルジュ向けに「まちなか大学」という、無料でさまざまなスキルを身につけられる学校を運営しています。コミュニケーション術を学んだり、シニアを取り巻く環境について学んだりしていて、今後も多種多様な授業を計画しています。また、すべてのフランチャイズ加盟店にエアコンのクリーニング方法や、障子や網戸の張り替え方法、簡単なDIYの技術などを身につけていただく研修を行なっています。スキルが身につくと対応できる困りごとも増え、その分、単価が上がっていきます。中には、不動産の資格を取って、リフォームや家の売却なども手伝えるようになったという方もいます。だから、コンシェルジュによっては会社員と同じくらい稼ぐ方もいますね。

ただ、そのように収入を目的にされている方よりも、基本的には、病院の付き添いや買い物代行などちょっとしたサポートをしながらシニアの話し相手になるのが楽しいという、ボランティア感覚で参加してくださる方が圧倒的に多いです。だからみなさん、自分のお仕事の休日や家事の隙間時間などに担当のシニアのところに声をかけにいくというようなイメージです。

 

ーーソーシャル・フランチャイズに欠かせないのが加盟される企業や店舗ですよね。仕組みについて教えてください。

フランチャイズ加盟店がそれぞれの地域のコンシェルジュの活動を取りまとめています。具体的には、コンシェルジュと加盟店は業務委託を締結し、採用面談やサポート依頼の連絡も加盟店が行なっています。

加盟店さんはいろんな業界・業種の企業や店舗さんがいますが、共通点は地域に密着した事業をされているということです。その中で、地域がどんどん高齢化していくので自分たちも何かシニアに向けて貢献できる事業がしたいという想いから、まごころサポートを導入してくださっています。

実際の導入後は、やはり顧客の客単価が上がったことや、他社との差別化ができるようになったということを魅力に感じていただいています。加えて、行政と連携ができるようになったというケースや、若い世代を採用できるようになったというケースも多くあります。特に街づくりなどに興味を持つ若い世代と、まごころサポートを通した地域貢献や社会貢献を目指す企業とのマッチングにつながっています。

 

フラットな信頼関係の上に成り立つビジネス

ーーこれまでまごころサポートのサービス概要について伺ってきましたが、そもそもどのような経緯でまごころサポートの開発に至ったのですか?

私は以前新聞販売店の経営をしていました。その中で、スマホの普及などの時代の流れと共に、新聞が売れなくなっていくのを目の当たりにしました。そこで、新聞購読をしているメイン層である地域のシニアがいかに新聞を読み続けてくれるかを考え、購読者にたくさんヒアリングしにいきました。

ヒアリングをすると、「別に、野球のチケットとか、洗剤とかいらんよ。それよりも草むしりしてくれたり、電球交換してくれたりの方がよっぽど助かる。」というシニアの方がたくさんいることに気がついたんです。それで始めたのがまごころサポートの前身となるサービスでした。

新聞販売店として3年半ほどまごころサポートを展開し、4000件ほどのサポートをしました。例えば、ジャムのふたが開けられないリウマチを患っているおばあちゃんや、入院のたびに大事に育てていたお花が枯れてしまうから悲しかったというおばあちゃん。本当に感動的なエピソードがたくさんありました。スタッフも最初はとにかくライバル社を倒すというようなモチベーションで差別化のためにやっていたまごころサポートでしたが、これは純粋に地域のお客さんのためにやる事業だと次第に雰囲気が変わっていったんです。日々の活動の中で社会性や地域貢献の大切さをお客さんから教えてもらい、それがこのまごころサポートを全国に広げたいという志につながっていった気がします。

 

ーーその後、まごころサポートを全国に広げるために新聞販売店を辞めて独立されたんですよね。

2012年にMIKAWAYA21を創業しました。その際に2つのことを決めました。1つは、シニアからの依頼は法律に触れないことは全て引き受け、たらい回しにしないということです。

そしてもう1つは、社会保障費を使う介護保険適用のサービスはやらないということです。社会保障費をどんどんシニアのために使っていくのではなく、次の世代のために投資できる国にするためには、政府や行政ではなく、民間でシニアを支える仕組みが必要なのではないかと考えています。そのために持続可能なビジネスモデルの確立を模索しました。

独立後はまず全国の新聞社・新聞販売店のコンサルをしながら、まごころサポートの導入を進めていきました。新聞販売店が地域貢献の拠点となれば、新聞業界も地域もアップデートできるのではないかと思ったからです。しかし、新聞業界ではあまり受け入れられず、3年前から他の業界にも広げる形になりました。自分自身がもともと新聞業界で成功したことや、創業から7年間は新聞業界にまごころサポートを広げるために活動していたこともあって、新聞業界全体を変えるのは難しいと気がついたときはショックも大きかったですね。

 

ーー事業を持続可能にする上で工夫されていることはありますか?

シニアはお金を使うことに対して抵抗がある方が多いんですね。日々いろんなことを我慢していて、これくらい壊れても大丈夫だろう、これくらい痛くても我慢すればなんとかなるだろう、腰の調子が悪いけど草むしりは人に頼まず自分でやっちゃおうとか。だから初めは、「お金払うんだったら我慢するよ」「介護保険使えないんだったら我慢するよ」って言われちゃうんです。でもそうやって最後の最後まで我慢して、結局どうしてもサポートが必要になったときに悪徳業者に騙されてしまうというケースがとても多いです。

そこで私たちは、シニアにとって良き隣人であることを大切にしています。何度か訪問し、丁寧なサポートを重ね、たくさん会話をする。そうすることで多くのシニアが心を開いてくれます。中にはコンシェルジュを娘や息子、孫と呼んでくれる方もいてセンシティブなお金や体調の話ができるほど、シニアとの強い信頼関係を築けています。

私たちは、何軒のシニアを訪問できたかというような効率化を求める目標をコンシェルジュに伝えることはありません。多くのコンシェルジュが、なるべく多く稼ぎたいというより、シニアとお話しするのが楽しいというモチベーションで活動してくれていることも、世界観をつくる上で重要だと感じます。

その上で、しっかりとビジネスマインドを持つことも意識しています。例えば、いつも値切ってくる、高圧的に命令する、暴言や怒鳴ったりするといった人もいるかもしれません。でも、対等なリスペクトを持った関係の中でビジネスをしているので、そういう嫌なことに耐える必要は全くなく、どんなことでもお店に相談してくださいと伝えています

また、シニア向けだからといって破格の価格設定にはしていません。例えば、エアコンの清掃の相場は安くて5000~6000円くらい、高くて1万5000円くらいの価格帯ですが、私たちは1万2000円で設定しています。とても高いわけではないけどそれなりの金額をいただく。その代わり、1日5~6軒も訪問するのではなく、午前中に1軒、午後に1軒というような余裕を持ったスケジュールにしています。そうして、清掃の前後にたくさん会話をできるような仕組みをつくっています。

 

ーービジネス拡大と社会課題解決の両立は容易ではありませんが、MIAWAYA21さんはすごくバランスが良いと思いました。日々意識されていることがあればお伺いしたいです。

ビジネスマインドを持ち続ける上では、VCや株主のみなさんと定期的にコミュニケーションをするのが効果的だと思います。普段から自分たちの状況を丁寧に発信したり、自分たちが弱いところを伝えておいたりすると、よりためになるミーティングができるのではないでしょうか。私たちはとにかくハードなミーティングをしてください、耳の痛い話をしてくださいということをお願いしています。

その一方で、社会課題解決は変数が多く、自分たちではどうにもならないことにも多く直面します。机上で描いた事業計画では予想していなかった壁にぶつかったときには、この課題に取り組まないといけないという使命感、感情的なエネルギーが必要です。そのために私は社会の中で起こっていることのリアルを見るということを大事にしています。

日本では高齢者の虐待、高齢者のうつ病や自殺も増え続けています。高齢者が家族や親戚に頼ることができなかったり、ときには家族が加害者になってしまうこともあります。近所同士のサポートなども年々薄くなっていると言われています。これらの背景には、介護保険や社会保障制度が充実しすぎてしまっているという一面もあるのではないかと、日々シニアと接する中で感じるんです。さまざまなニュースやデータの裏側にあるリアルを現場に出てシニアと話すことで直視し、パッションを燃やし続けることが重要なのではないでしょうか。

 

コミュニティづくりやまちづくりへ展開

ーー今後の事業展開について教えてください。

私たちはずっと顧客管理システムにコンシェルジュとシニアの会話を蓄積してきました。このシニアの生の声をデータ解析することで、シニアが何を望んでいるのか、どんな生活をしているのかをリアルに把握することができ、それをもとにサービスや商品を開発しています。

今までは、例えばIoTデバイスの「まごころボタン」として、薬を飲む時間をお知らせしたり2回押すとまごころサポートのコールセンターにつながったりするボタンを開発しました。他にも、最近では、「ジーバーFOOD」という、おばあちゃんたちがお弁当をつくり、おじいちゃんたちが車でオフィスに運ぶというオフィス向けお弁当サービスを始めました。今後は、ジーバーFOODの裏で、ジーバーFARMというおじいちゃんを中心にした農業のサービスも準備中です。まごころサポートでシニアを支えるだけではなく、活躍してもらう、やりたいことを実現してもらうお手伝いにも注力していきたいです。

また、現在シニア向けのコミュニティアパートを開発しています。サービス付き高齢者向け住宅が今後足りなくなっていく中で、昔建てられたアパートをリノベーションする形でシニア向けのアパートをつくりたいと考えています。そこにコンシェルジュも住み込み、住民の方をサポートします。また、見守りデバイスなども利用しながら、安心して暮らしていただける環境をつくります。今後は、まごころサポートを通じて、シニアにとってのワンストップ課題解決事業者を目指しながら、コミュニティづくりやまちづくりにも力をいれていきたいです。

 

MIKAWAYA21株式会社 https://mikawaya21.co.jp/

まごころサポート https://magocoro.me/

 

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interviewer
張沙英
餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

 

writer
堂前ひいな
心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

 

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