喪失経験から始まった企業の物語。自ら人生を切り拓く子どもの習慣を育む、ファミリーテックカンパニー
インタビュー

喪失経験から始まった企業の物語。自ら人生を切り拓く子どもの習慣を育む、ファミリーテックカンパニー

2023-01-28
#教育 #子育て・家族 #テクノロジー

「私たちの何よりの生きがいである家族の未来が、より良いものであってほしい」そう熱い願いを力強く語るのは、株式会社スリー代表取締役の篠田徹也。親子で行動の習慣化を目指すアプリ「Welldone!」を提供している。子どもたちが自ら人生を歩める世界を目指す篠田に、彼自身の原体験から保護者としての教育現場への関わり方などを聞いた。

【プロフィール】篠田 徹也(しのだ てつや)

株式会社スリー(eee, Inc.)代表取締役。1973年サンフランシスコ生まれ、千葉県育ち。
マクロミル、クレイフィッシュの創業期に入社し、両社で東証1部や米国ナスダック上場を経験。事業部門や人事部門責任者を務めた後、海外現地法人や重要子会社の代表取締役を担当。2018年にスリーを設立し、現在に至る。私生活では家族や子どもとの時間を豊かにしたいという思いからPTA副会長・会長を9年連続で務めている。

 

子どもの行動習慣化をサポートするアプリ「Welldone!」

――最初に、「ファミリーテックカンパニー」とはどのような会社なのか教えてください。

創業メンバーにとって幸せの源泉である「家族、さらに言うと子どもたちにとってより良い未来をつくりたい」と思い、eeeを起業しました。事業領域は既存の領域に当てはめると、現在はEdTechやHealthTechを扱っており、「Welldone!」という子どもが行動習慣を身につけるためのアプリを提供しています。

具体的には、親子で身につけたい習慣を相談して登録し、家庭でゲームのように取り組むサービスです。子どもがやることを実行したら、アプリ内でポイントやコインをゲットする。獲得したポイントを使うと、アプリ内のゲームでステージが進んだり、お母さんやお父さんからご褒美をもらえる設計となっており、幼稚園の年中~小学校低学年の利用が進んでいます。

 

――子どもや親子の幸せを願って、起業されたのはなぜなのか教えてください。

事業を始める根底には、私が小学生の頃に両親が離婚した原体験があります。当時の喪失感は非常に大きなものでした。でも、そんな絶望の淵に立たされる中、映画や本に救われた。特に、『ロッキー』という映画のストーリーに励まされたんです。悲しさを乗り越えるきっかけになり、前向きな気持ちで人生を歩めるようになったと思います。

この経験から「自分の人生は、自分で切り拓ける」と思うようになって。だからこそ、子どもたちには主体性を持って未来を切り拓く力をつけてもらいたいと願うようになりました。

 

――スリーを創業する背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

20代の頃、菜園民宿を運営して、寂しい思いをしている子どもたちの場づくりをしたいと考えていました。両親が離婚をした際、友達や友達家族と一緒に過ごしたり、夜ご飯をおすそ分けしてもらったことに、私はとても支えられました。そういう経験もあり、私のような子どもたちが、リアルな場で、楽しんだり、心休める場をつくりたいと考えていました。地元の人たちと一緒に農作業をやったり、一緒に夜の映画会を開催することで、子どもたちの今と未来に役立てればと思い描いていました。ただ、スタートアップでの激動の日々にやりがいを感じていましたので、実際の活動には至りませんでした。

 

ユーザーの声から継続的なサービスのアップデートを

――Welldone!をリリースするまでのスタートアップでは、どのような道のりがあったのでしょうか。

これまでのキャリアでは、マクロミルとクレイフィッシュという企業に所属し、事業部門や人事部門の責任者を務めてきました。ここで東証マザーズへの上場も経験したのですが、テクノロジーを活用することで、より広く価値を提供できるようになるということを身をもって体験してきました。そうした経験から、物理的な距離に関係なく、「より多くの方に届くサービスを提供したい」という想いも強くなり、Welldone!のリリースへと至っています。

 

――行動習慣をサポートするためには、アプリを継続的に利用してもらうことが何より大切だと思います。リリースにあたって、どのような工夫をされましたか?

子どもたちが楽しんで続けられるUI/UX設計は強く意識しました。例えば、「ゲームの時間を延長30分」というように、ご褒美にはモノだけでなく、時間も設定できるんです。続けられないことには、楽しめる環境を作ることをサポートできればと思っています。

 

――楽しくできるから続けられて、習慣化に結びつくんですね。

そうですね。いかに「ゲームを楽しんで、やってもらえているか」がインサイトになっています。小学3年生以上になると、「楽しい」に加えて実利的な要素もより求められます。そのため、ゲームの中で貯めたポイントをお小遣い代わりにしてご利用いただくUXを検討するなど、ご褒美の形を年齢とともに最適化することも検討していきたいです。

その他、データでさまざまなユーザーの利用状況を知ることはもちろんできるのですが、私たちはユーザーインタビュー」を実施することも大切にしてきました。

Welldone!を使って生まれた変化や、使わなくなってしまった理由をユーザーの方に直接伺い、アプリのアップデートに活用させていただいています。最近だと、「ゲーム内のキャラクターを増やす」仕様変更を行いました。楽しめる要素は取り入れ続けたいところです。

 

――ほかに、ユーザーヒアリングを通して気づかれたことはありましたか?

お話を伺う中で、ユーザーの約25%がADHD(注意欠如・多動症)の特徴を持つ子どものご家庭ということが分かりました。ADHDの特徴である「衝動的に行動してしまう」「いろんなことが気になり、集中できない」といった特性を持つ子どもたちにWelldone!が有効的に活用されていたんです。

ヒアリングを通して、「できないことを叱るのではなく、できたことを褒める機会が増えた」「子どもの話を優しい気持ちで聞けるようになった」など効果を実感したユーザーの声を聞くことができています。ついつい「やりなさい!」と言ってしまうような行動を、Welldone!によって親子で楽しめる雰囲気につながっているのかなと感じました。

 

学校と家庭の双方向から、子どもを知って見守る

――事業展開をするうえで、現在注力していることはありますか?

より広く価値を届けるために、学校など「公の教育」と家庭を連携できないかと動き始めています。具体的には、Welldone!とデータ連携ができる教育機関向けの「Welldone! for  SCHOOL」というクラウドサービスを検討しています。

これにより、学校と保護者、スクールカウンセラーなどをつなぐ機能をつくれたらと思っています。学校と家庭、2つの環境から子どもたちを見守ることで、日々の生活の理解度が深まり、精神疾患や家庭内暴力など子どもの二次障害を抑止する効果があると考えています。

 

――toC向けにアプリを展開するのと違い、教育機関にサービスを届けるのはまた違ったご苦労があると思います。どのようにアプローチをされているのでしょうか。

私自身、1人の親としてPTAの副会長・会長を9年続けてきました。その中で、教育機関に携わる方々のさまざまな意見を知ることを大切にしています。例えば、校長先生など現場の声を聞いたり、他市町村や海外の取り組みを学んだり。そのうえで、まだまだ道半ばではありますが、教育委員会や議員さん、PTAの方々など教育に関わる方々と未来のために何かできないか一緒に考え、巻き込みながら、サービス展開を進めるようにしています。

 

――ありがとうございます。最後に、Welldone!の今後の展開を教えてください。

子どもたちがより良い習慣を身につけていくサイクルを、企業さんと一緒につくりたいと思っています。例えば、出版社や印刷会社に協力してもらいつつ、Welldone!を使う子どもたちが、読書や勉強の習慣を実行すると、企業からNPO団体に対して寄付される仕組みづくりを考えています。寄付されたお金や学習教材は、アフリカの子どもたちに届けられるなど、自分たちの習慣が社会の何かに役立つような体験をつくりたいです。子どもたち自身に「日々の習慣が未来をより良くする」ということを感じてもらえたらと思っています。

あと、Welldone!をスキルマッチングプラットフォームとしても拡張させていきたいです。Welldone!で習得したスキルや興味のあることを登録し、両親だけではなく、習い事の先生など違う人からものごとを学んだり、一緒に楽しめる仲間と出会えるようにしたいなと。子どもの興味は体験から始まると考えているので、「子どもたちの未来に対して何かをしたい」という企業さんと子どもたちを繋いでいくような役割をWelldone!が果たしたいです。

株式会社スリー https://eee-inc.co.jp/

 

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    interviewer

    梅田郁美

    和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
    猫になりたい。

     

    writer

    庄司智昭

    編集者・ライター。用事があるとき以外は家に引きこもり、映画・読書・ゲームに時間を費やす。

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