表層的なPRで社会を変えることはできない。本質を問い続ける、社会課題解決に特化したPR会社

解決したい社会課題があっても、どこを目指して何をすれば良いのか、自分がやっていることが正しいのか、迷いや不安が生じることもあるだろう。そんな人たちに寄り添い、本質的な社会課題解決に向けて伴走してくれるのが、社会課題解決に特化したPR支援を行なう株式会社morning after cutting my hairだ。表層的なPRだけしていても社会は変わらないという信念を持つ彼女たちは、日々クライアントと丁寧な対話を重ね、インナーブランディング支援にも取り組む。代表の田中美咲と共同発起人の中西須瑞化に、社会課題解決のPR支援で大切にしていることや、組織について詳しく聞いた。

【プロフィール】
・田中 美咲(たなか みさき)写真左
株式会社morning after cutting my hair 代表取締役。奈良県出身。東日本大震災を機に防災・自然災害に関する非営利団体「一般社団法人防災ガール」を8年運営、事業継承済み。2018年フランスSparknewsが選ぶ「世界の女性社会起業家22名」に日本人唯一選出、世界1位に。同年国際的PRアワードにて環境部門最優秀賞受賞。人間力大賞経済産業大臣奨励賞受賞。2017年2月より株式会社morning after cutting my hair創業、2021年にはオールインクルーシブファッションブランド「SOLIT!」を立ち上げる連続社会起業家。

 

・中西 須瑞化(なかにし すずか)写真右
株式会社morning after cutting my hair 共同発起人。1991年生まれ、兵庫県出身。幼少期より文章表現に励み、2015年より「一般社団法人防災ガール」の事務局長を務めながらライター業(PRライター、コピーライター等)も兼務。「生きづらさ」に向き合い続けてきた中で、社会課題解決の支援に行き着く。2018年には作家活動も開始。見えないものに目を凝らし、耳を澄まし、誰かにとっての「一点」を残すことが人生の指針。言葉の力で人を生かすひとであり続けたい。

上流の意思決定サポートからアウトプットのケアまで

ーー元々運営されていた一般社団法人防災ガールを解散して、morning after cutting my hair(以下、morning)を立ち上げられたのはなぜでしょうか?

田中 美咲(以下、田中):防災ガールでは、さまざまな企業とともに防災の普及啓発事業を行っていました。活動を続けるうちに「災い」自体をもう少し拡大解釈して、「いかにしてこの社会を生き抜くか」という問いに行き着きました。そして、防災だけやっていても社会は変わらないと思うようになりました。

私たちは非営利団体として初の国際的なPRアワードを受賞したり、日本以外のフィールドでも積極的に活動をしたり、当時の非営利団体としては珍しい経験をしていました。その知見やつながりを多くのスタートアップや非営利団体に伝えて、一緒に社会を変えていく仲間が増えたら良いなと思ったんです。それで、プレイヤーだった防災ガールから一歩引いて、頑張っている人たちのPR支援に注力しようと考えました。

 

ーーそこから会社を立ち上げられたんですね。morningではどのようなPR支援をされているのでしょうか?

田中:morningは社会課題解決に特化した企画・PR会社です。私たちが「パートナー」と呼ぶクライアントの半分は、非営利団体や社会課題解決に特化したスタートアップ、もう半分はCSRやサステナビリティ、D&Iに関する事業を行なっている企業です。

私たちは、いかにしてPRの本質的な意味合いである「パブリックリレーション(関係構築)」を行ない、社会的インパクトを起こしていくかに注力しています。いわゆる“バズらせる”であったり、単にプレスリリースを書くだけといったPRではなく、多くのステークホルダーを巻き込み、本質的に社会を変えていくためにはどうしたら良いかを一緒に考えます。PR・企画会社でありながら戦略コンサルのような形で支援しています。

 

ーークライアントであるパートナーは具体的にどのようなことに困っているのでしょうか?

田中:パートナーの課題はだいたい2パターンです。1つは、事業がすでにスタートしているが、どうやってPRすれば良いかわからないという課題。パートナーはどうやって利用者や受益者を増やすか、どうしたら広く伝えられるかということを考えているのですが、対話を重ねるうちにただ顧客が増えるだけじゃ意味がないと原点回帰することが多いです。その場合は事業計画の立て直しをしたり、既存顧客との関係構築プログラムを開発したり、会社の研修づくりやチームづくりをしたりと、SNSやプレスリリースに終始しない本質的なソリューションを一緒に考えていきます。

もう1つのパターンはもっと手前の段階で、社会課題解決に取り組みたいけど何をしたら良いかわからないという状態で依頼される場合もあります。そういうときは、一緒に現場を見に行ったり、今あるリソースで何の社会課題を解決できたら良いかといった会社の意思決定のサポートをしたりすることもあります。

このように、上流からアウトプットまでのサポートと、アウトプットしたあとのケアまで含めて関わることが多いです。

 

ーーパートナーについて、コーポレートサイトでは「恋に落ちるくらい好きになった相手としか仕事をしない」と表現されていますが、「恋に落ちる」とはどういうことなのでしょうか?

田中:創業当初に決めたことなんですけど、それには2つの意味が込められています。1つは創業メンバーが全員、応援したいと思えない人のために働くことはできない性格なんです。だから、自分たちがヘルシーに働き続けるためにも、本当に応援したいと思える人とだけ仕事をしようと決めました。

もう1つは計画の話で、私たちが携わらせていただくスタートアップや非営利団体は、最初の依頼時から情報や計画がどんどん変わっていきます。ピボットするのが当たり前だし、事業計画は崩れて当たり前なので、そういう意味ではプロダクトやサービスが好きというよりも、「計画がどんなに変わろうと、この人(企業)をサポートしたい」と思えるかどうかが大事だと思っています。

 

ーー確かにスタートアップ支援においてその人を応援したいかどうかは大事ですね。恋に落ちたパートナーとはどのように関係を深めていくのでしょうか?

中西 須瑞化(以下、中西):恋に落ちたからと言って変に自分を取り繕わず、私たちから先にお腹を見せるようなコミュニケーションを取っています。「裏表がない」とよく言われるのですが、裏表を感じさせてしまったら心理的安全性が無くなってしまって良い関係が築けないので、ストレートでオープンなコミュニケーションを大事にしています。でもそれは意識しているというより、元々の性格的にみんな自然とそうしている気がします。

田中:あとは、対話の中ですごくいろいろなことを聞きます。事業や事業計画のことももちろん聞くのですが、本当にそれをやりたいのかどうか、その人の真髄を聞きまくるんです。最終的にその人がやりたい事業って数あるアウトプットのうちの1つでしかなくて、どんな背景があってそれをやりたいと思ったのか、100年後も続けたいのかといったことを聞いていきます。それだけではなく、家族や健康状態、セクシャリティや障害、感情面など、パーソナルなことをたくさん聞くこともあります。もちろん心理的安全性の上でですが、相手も聞かれたからこそ気づくこともけっこうあって。初めはみなさん驚かれるんですが、長年連れ添った夫婦のような関係性でサポートすることはよくあります。

 

問う力、考える力を養う

ーーアウトプットのサポートをするだけでなく、社会課題について考える土壌づくりから丁寧にサポートされているのはなぜでしょうか?

中西:一般社団法人防災ガールの活動をしているときに、本質的な課題解決になっているか考えないまま社会課題に取り組む人たちを見てきて、これじゃ誰も幸せにならないという状況を何度も経験しました。そもそも社会課題は、本当に純粋にその課題を解決したくて活動していても、その活動が新たな課題を生んでしまっていたり、良かれと思ってやっていることが誰かを傷つけてしまっていたりということがすごく起きやすいセンシティブな領域です。そういう中で、自分の頭で考える力や1つの事象を多角的に捉える力、活動によって誰かが傷つく可能性がないか想像する力などがないと、絶対にどこかで上手くいかなくなると思っています。

morningと関わってくれる方々に私たちの知見やエッセンスを渡すことで、考える力を持ったプレイヤーが増えていくことにつながると思うので、土壌づくりや考える力、問う力を養うというプロセスはかなり大事にしています。

 

ーーパートナーと対話をしていく中で、社会課題に取り組みたい理由や解決手段がまだ深められていないなと感じたときは、どのように示唆するのでしょうか?

田中:基本的には問いを投げ続けます。そうすれば自ずと思考を巡らせて深まっていく人もいます。それでも深まらない人は、特に社会課題の現場を見たことがない人がほとんどなので、現場に連れて行くことが多いです。

例えば、石井食品という老舗の食品メーカーは、新しいカタチの非常食を作りたいという依頼を頂いたのですが、被災地域の現場は行ったことがないということでした。だから実際に現地まで一緒に行って、現場の方の声を聞き、その声をもとに商品開発をしました。他にも、文房具メーカーのコクヨは、障害がある方やセクシャルマイノリティの方でも使いやすい文具やオフィス家具を作りたいけど、当事者と話したことがないという方が多くて。個別性の高い情報はデータではわからないので、チームの中に当事者の方も入れましょうという提案をしました。

そのように、実際に現場を見てもらったり当事者の方と話してもらったりすると、徐々に社会課題への理解や取り組みへの深度が深まっていく方が多いですね。


石井食品と共同開発した、日常でも災害時でも食べられる新しい非常食『potayu』

 

ーーインナーブランディング支援にも注力されている印象ですが、PRにおいてインナーブランディングが重要だと思う理由を教えてください。

田中:元々はサービスやプロダクトのPRをずっとやっていたのですが、結局のところそのアウトプットは関わっている人の感覚や知識、意思決定がどうであるかに左右されるということをより一層感じるようになりました。当たり前のことではありますが社内のあるべき姿が変わるとアウトプットも変わるというのが実感値としてわかったので、アウトプットの前に自社の体制や社内のコンテクストを変えていきましょうという提案をよくしています。

 

ーー社会課題に取り組む企業や団体がインナーブランディングでつまづくのはどのような場面でしょうか?

中西:多いのは、自分たちの立ち位置を決めるのがすごく難しいということかなと思います。取り組んでいる社会課題に対して、どのようなアプローチがあって、数ある選択肢の中でなぜ今このアクションを選んでいるのかなど、なぜ自分たちが今これをやるのかを自己認識できないと、中にも外にも伝えられないと思うんです。

このやり方が良いと思っていて自分なりに言語化ができていたとしても、人には伝わらないとか、より深掘りしてみると自分でもよくわからなくなってしまうみたいなことはけっこう多くて。ゆっくり時間をとって自分の考えを精査するタイミングがなかなか取りづらい中で、1回立ち止まって掘り起こしたり再整理したりして固めていくという作業自体が負荷が大きいですし、1人だと心が折れてしまうこともあります。あとは、なぜ今これをやるのかを言語化できたとしても、メンバーが理解や共感を示してくれるかどうかを悩まれる代表の方もいます。メンバーへの伝え方、見せ方もサポートに入って一緒に考えています。

 

ーーこれまで支援してきたパートナーで印象的だった事例を教えてください。

田中:伸和印刷株式会社という印刷会社です。伸和印刷は、印刷そのものが環境負荷を与える行為であることを理解されていて、お客様や環境にとっての最善な印刷を考えながら、時には印刷しないことも提案する筋の通った企業でした。代表が、環境負荷がかかっているとわかった上で印刷したいものを印刷する、同時に環境にも最大限配慮すると決めている方だったのですが、「自分はこれがきっと良い方法だと思ってきたけど、なかなか外部の人に伝わりづらくて賛同を得られない。本当に良いことなのかわからなくなってきた」とおっしゃっていました。

だから、どう在りたいかを代表と一緒に言語化をするところからスタートして、その言葉に合わせてWebサイトを修正していきました。それができると、代表だけでなく社員の皆さんも、自分たちが本当に伝えたいことを言葉とイメージで捉えられるようになります。その結果、外部への伝え方や営業スタイルもどんどん変わって成果につながったり、日本で今すごく注目されている環境系スタートアップとのコラボレーションが決まったりしたんです。少しずつブランディングや関係構築の仕方を変えたことで、本来在りたかった姿に戻れたという案件でした。「自分が良いと思っていたことはやっぱり正しかったと再確認できた」と代表の方がおっしゃっていて、すごく印象に残っています。


伸和印刷のWebサイト

 

多様性と心理的安全性が両立されている組織

ーー組織についても伺っていきたいのですが、メンバーにはどのような方が多いですか?

中西:自分の人生において大事にしたいことがあったり、自分が心地よく生きていくためにいろいろ模索したりしている人が多いなと思います。あとは納得できないよくわからないルールには従いたくないみたいな、やっぱりmorning内部も対話を通じて納得して生きていきたいという人が多い気がします。

元々社会課題に興味があったという人もいますが、持っているスキルを社会課題に活かしたいと最近思うようになったという人もいて、社会課題に対する熱量というよりはそういったカルチャーと強くマッチする人が長く続けている感じですね。

 

ーー中西さんから見たmorningの魅力は何でしょうか?

中西:「すべてはわかり合えないけど、わかり合いたいと思っている」という前提がみんなにあるのがすごく良いなと思っています。私たちは全員他の仕事もしていて、かつリモートで住んでいるところもバラバラなので基本的にSlack*でコミュニケーションしています。自分が気になったことや興味がある社会課題のトピックについてSlack上でシェアすると、コメントの中で「私もそう思う」とか「これって何でなんだろうね」とか、議論が起こるんですよ。そうやって自分の思想をまったく臆することなく出せる安全性が担保されている場所ってあまりないなと思っています。関心もスキルも立場も違う人たちが集まっていますが、全員が「すべてはわかり合えないけど、わかり合いたいと思っている」というスタンスなので、良い温度感で議論できるのが面白いです。

*ビジネスチャットツール

 

ーー中西さんが今後morningを通して実現していきたいことはありますか?

中西:私は、リーダーじゃなくても自分の頭で考えられるプレイヤーが増えていかないと、これから加速していく社会課題に解決リソースが追いつかないと思っていて、以前そういう人を育てる研修プログラムをやったことがありました。

そのプログラムでも私たちとの対話を重ねて自己理解を深めていくのですが、実際にプログラムを経てソーシャルセクターに転職された方も複数いらっしゃいました。そういったリーダー以外の社会課題に関わる人を増やすという活動はこれからも重要になっていくのではないかなと思います。

一方で、そうしたプログラムを経て結果的に社会課題に関わらなくても、それはそれで良いとも思っています。私たちとの対話を通して自己理解ができて、ちゃんと自分を受け止められている状態になること。その上で、morningのメンバーやクライアントなどいろいろな方との関わりを通して、さまざまな価値観で生きている人たちがいることを知ってもらうこと。「自分の生きる環境は自分で作っていける」ということを信じられる人が増えていったら良いなということが、一番強い想いです。

 

誰かのサポートだけでなく、意志を持ったPRを

ーー社会の中で、morningはどのような存在でいたいですか?

中西:最近は社会課題解決に取り組みたい人が増えてきて、いろいろな人がいろいろな想いを持って取り組みたいと思っています。でも、何をやったら良いのか、何を目指せば良いのか迷う人もたくさんいます。morningは、そのような迷える人たちがとりあえず相談することができる、波止場のような場所だと思っています。

私たちは対話をすごく大事にする組織です。社会課題という難問に対して私たちも答えを持っているわけではないので、対話を通じてパートナーさんがやるべきことだったり本当にやりたいことだったりを導き出すのが私たちの役割だと思っています。迷ったり不安になる部分を私たちが伴走しながらサポートしたり導いたりして、模索しながら頑張っている人が安心して委ねられるような存在なのかなと考えています。

田中:あとは、数字では表せられない変化や成果に対してフォローできる、ないしは一緒に歩ける存在でいたいなと思います。

売り上げを上げるスタートアップは経済は回しているけど、必ずしも社会課題解決をしているわけではないと思うことはけっこうあって。でも資本主義の現代で、評価されたりお金が流れたりするのは、そういう数字で評価できる人たちなんですよね。もちろん数字的な評価も大事なのですが、私たちはどちらかと言うと、たった1人でも誰かの命を救ったとか、たった1人でも誰かを幸せにしたということもすごく価値があることだと信じたいですし、そういう人のことを多くの人にPRしたいと思っています。

だから、n=1の変化や成果も評価できる評価シートを最近作りました。アンケートやヒアリングなどで定性的な変化を集め、自社や顧客だけでなくステークホルダーや社会環境も含めて、どのような変化が起きたのかを徹底的に聞き続けるということをよくやっています。


n=1を大切にする事業評価シート

 

ーー数字で表すことができないインパクトを大事にされている姿勢がとても素敵だと思いました。最後に、morningが社会に与えたいインパクトを教えてください。

田中:私たちも日々悩みながら、小さくプロトタイプを回して行ったり来たりしているので、現時点での結論としては「答えはない」です。でも、社会を変えるためには目の前のことをやってるだけではなく、社会のシステムを変えなければならないということはすごく感じていて。

だから、誰かのサポートをするだけでなく、意志を持ったPRをしていきたいと思っています。平和や気候変動、D&I、人権など、私たち自身がPRしたいことの旗を掲げ、一緒に活動してくれるスタートアップや団体を探すような、従来のPR会社の在り方を逆転することもできるんじゃないかなと考えています。枠組みは私たちが作って、似たような思想を持っていたり活動を行なったりしている人たちに乗っかってもらって一緒に課題解決するなど、できることがたくさんありそうだなと思っています。そのために、私たち自身も勉強し続ける、足を止めない、思考停止しないことをこれからも続けていきたいです。

株式会社morning after cutting my hair https://macmh-inc.com/

 

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    interviewer

    梅田郁美

    和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
    猫になりたい。

     

    writer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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