エシカル就活が就職活動に切り込み、産業界のサステナビリティ・トランスフォーメーションを推進する

近年、社会課題やSDGsへの注目が高まる中で、就職活動において社会課題解決に本気で取り組んでいる企業を見分けるのが難しくなっているようだ。既存の就職活動のシステムに切り込み、サステナビリティ・ファーストな社会をつくるべく挑戦している株式会社アレスグッド。社会課題解決に取り組みたい学生と企業をマッチングする『エシカル就活』を運営している。日本事業の統括を務める半井翔汰に、就活生は何に困っているのか、サービスの先にどのような社会像を描いているのかについて聞いた。

【プロフィール】半井 翔汰(はんい しょうた)

関西学院大学経済学部卒。学生時代に「トビタテ!留学JAPAN」日本代表としてタイにビジネス留学。帰国後、大学生向けインターンシップ事業を立ち上げる。卒業後株式会社リクルートに入社し、中小零細〜上場大手企業まで多岐にわたって採用コンサルタントを務めた後、事業戦略企画室に異動し、戦略設計・シミュレーション分析・主力商品の推進業務に従事。社外では若手社会人向けにデザイン思考を取り入れたライフデザインプログラムを運営。自身の家族体験から社会課題に対する関心が強い中、代表勝見の想いに共感し参画を決断。趣味はお笑い鑑賞。

 

社会課題解決への本気と”ウォッシュ”を見分ける難しさ

ーー社会課題解決に取り組みたい学生と企業をつなぐプラットフォームのエシカル就活。このサービスは、就職活動のどのような課題にアプローチしているのでしょうか?

まず、今の世代の学生は各教育課程の中で社会課題やSDGsなどについて学ぶ機会が昔に比べて圧倒的に増えています。そのため、将来のキャリアにおいて社会課題解決に携わっていきたいと考える人が多いようです。

そうなると、企業は採用活動において社会課題解決を叫ばざるを得なくなります。叫ばないと認知してもらえない、ブランドの価値を落としてしまう、その結果就職先として選ばれない。この社会的な圧力によって本当に社会課題の解決が推進される場合もある一方で、実態の伴わない綺麗事を並べる、いわゆる”ウォッシュ”と呼ばれるような事態も起こっています。

就職活動において、真剣に社会課題解決に取り組んでいる企業を見分けるのが難しくなっているということが、私たちが1番向き合っている課題です。

加えて、Z世代と呼ばれる今の若い世代は特に、自分たちの将来が国や企業などによって保障されるのか分からないという不安も抱えています。その不安の中で、会社の看板がなくても生きていけるようにならないといけないとか、計画的にキャリアを積み上げていかないといけないといった危機感を持っている人も多いのではないでしょうか。自分の意思でしっかりと就職先を選びたいという学生のニーズと、何十年間にも渡って維持されてきた新卒一括採用制度が噛み合わなくなってきているいうことも課題だと感じています。

 

ーー社会課題解決に携わりたいと考える学生は、就職活動の中で具体的にどのようなことに困っているのですか?

企業の社会課題解決への取り組みを調べるのにはかなりの時間と労力が必要なんです。実際にヒアリングした学生の方は、業界を区切って数ヶ月かけながらどの企業が本気で社会課題解決に取り組んでいるのかを徹底的に調べて、場合によっては企業のイベントに足を運び直接話を聞くというようなことをされていました。

本当かどうかが分かりづらい情報が分散していることで、本来、熱量を持って取り組みたいことに使っていたであろう時間を、必要以上に就職活動にあてなければいけないわけです。自分の活動も続けつつ、就職活動のフローもこなす。こんなに時間と労力をかけなくても、もっと手軽に自分と似たような価値観を持った企業を探したいと多くの学生が思っています。

 

ーーそれを実現・サポートするのがエシカル就活なのですね。

学生はエシカル就活に無料で登録いただけます。サイト内では、業種・業界ではなく、取り組んでいる社会課題のカテゴリーで企業を検索することが可能です。例えば、「気候変動」というカテゴリーを選択すると、業種・業界問わず、気候変動に取り組まれている企業が一覧で表示されます。

また、エシカル就活には私たちが独自の基準で厳選した企業のみが掲載されています。実際にユーザーの方からは、「エシカル就活が選んだ企業だから安心感がある」と言っていただいています。

 

ーー現在4,000人もの学生が登録されていると伺いました。登録されている学生はどのような方が多いのでしょうか?

60%くらいの方がいわゆる上位校と言われる大学に所属されています。中には、海外大学の方や高校生の方もいますが、共通して自分なりに行動を重ねさまざまな経験を積んできた方が多いのが特徴です

社会課題への興味については、2パターンあります。1つ目は、具体的に取り組みたい社会課題が明確で、就職後もその課題にアプローチしていきたいという方。2つ目は、広く社会課題に対して興味関心があり、今後キャリアを通じて社会課題解決との関わり方を模索していきたいと考えているような方です。エシカル就活に登録されている方はどちらのパターンもいらっしゃるように思います。

社会課題への興味の深さは異なっていても、どちらのパターンの学生もリアリティを求めているという点では一緒だと感じます。綺麗事ではなく実態が伴っているのか、企業の中で働く人の実際の声はどうなのか、など情報の確らしさを求める価値観が強いのが、今の若い世代の特徴なのではないでしょうか。

 

就職人気ランキングに変革を

ーー登録されている学生について伺いましたが、掲載企業についてもお伺いしたいです。企業はどのような魅力を感じてエシカル就活を利用されているのでしょうか?

よく言っていただく大きな魅力は、エシカル就活でしか出会えないような優秀な学生にアプローチできるという点です。社会課題の解決に本気で取り組んでいる学生の多くは、その課題に対して思慮深くリサーチしていたり、社会への貢献意識が高かったり、学生団体やインターンシップを通じて実際にアクションをしているという点で、優秀な方が多いと感じます。

実際にイベントなどで学生と直接触れ合う機会を持っていただくと、「他では出会えなかった学生さんが多い」とか、「企業の取り組みについてかなり込み入った質問をしてくれた」などの声をいただきます。

その他にもエシカル就活では、自社のビジョンやミッションに合致する学生に出会いやすいことや、自社のサステナビリティへの取り組みを社内外に発信できるということなども、魅力に感じていただいています。

 

ーー掲載企業はエシカル就活が厳選しているとのことでしたが、掲載の基準はどのように決められているのですか?

まず、事業自体が分かりやすく社会課題に直接的にアプローチしていなくても、マテリアリティ*を設定し具体的なアクションをされているかという点を見ています。上場企業であればサステナビリティレポートを出されているところも多いので、その内容なども考慮して判断します。この判断基準に関しては、創業時から今日に至るまで元パタゴニア日本社長の辻井さん、一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉さん、国際基督教大学教授の布柴先生など、専門家の方々にアドバイスをいただきながら定め、今も試行錯誤重ねています。

そして、中小企業やスタートアップの企業については、サステナビリティレポートなどがまだないという企業も多いので、その場合、事業そのものが社会課題解決にきちんと結びついているのか、社長を含めてチーム全員で本気で社会課題解決に着手していく意思があるのかなどを、具体的な取り組み情報をご提出いただいたり商談を通じて調べさせていただいています。

*マテリアリティ… 組織にとっての重要な課題

 

ーー”ウォッシュ”ではなく、実態の伴った社会課題解決を推進していくために、企業に対してサポートされていることはありますか?

採用活動以外の部分ではありますが、過去には、株式会社丸井グループさんやAllbirds合同会社さんなどにマーケティングの側面で関わらせていただいたことがあります。最近では、サステナビリティレポートの作成や、入社後の教育・研修の設計などにも知見を貸してくれないかというお声がけをいただくこともありますね。

 

ーー利用されている企業からはどのような声が届いていますか?

特に印象に残っているのは、よくメディアで報道される就職人気ランキングのようなもので、業界3位以下を取られていた企業のお話です。その企業いわく、学生がその企業と就職ランキングで1位の企業両方に内定をもらった場合、過去10年間ずっとどの学生も1位の企業に就職を決められていたそうです。でも、エシカル就活に掲載いただいてから、ランキング1位の企業に内定をもらいながらもランキングの低かった企業に就職を決められた方がいたんですね。就職を決めた理由も、サステナブルへの取り組みに魅力を感じられたからだったそうです。

これはまさに私たちがやりたいことです。企業がサステナビリティへの配慮や社会課題解決への取り組みをしっかりとアピールすることで、かつての就職人気ランキングに変革を起こすことができた素晴らしい事例だったと思います。

 

社会課題解決に携わるキャリアのリアルを届けたい

ーー続いて、学生へのサポートについてより詳しく伺いたいと思います。学生はエシカル就活のサイト内で企業を選びエントリーされるという流れですが、その後の選考プロセスには何か違いがあるのですか?

選考プロセスに関しては企業によって異なります。エシカル就活ユーザーの方限定のイベントや面談、一般応募とは異なるインターンシップの選考フローなどを設計いただいている企業もあります。他方、既存のイベントや取り組みについてエシカル就活で発信いただいている企業もあります。

ただやはり、エシカル就活ユーザー限定の機会を設けていただいた方が、学生の納得度も高くなるので、そのような機会を設けていただくためのサポートを現在強化しているところです。

 

ーー就職活動のプロセスの中で、学生の意思決定を個別にサポートすることもあるのでしょうか?

一人ひとり個別にコンサルティングをするのはなかなか難しいので、社会課題解決に携わる人の多様なキャリアを見ていただける、エシカルキャリアストーリーという機能をつくりました。社会課題解決にパッションを持っている人たちが、どのようなきっかけで社会課題に出会い、どのような選択肢を検討したのか、その結果今どういうことを考えているのかなど、一連のストーリーを見ることができるメディアです。多様なキャリアの選択肢を見ていただくことで、共感できるところ、自分には当てはまらないところなどが見つかり、学生自身のキャリアを選ぶ際のヒントになってほしいと思っています。

 

ーー企業としては社会課題解決やサステナビリティへの意識が高くても、日々の業務との乖離があったり社員さん一人ひとりも同じ意識であるとは限らなかったりと、入社後のギャップを感じることもあるのではないかなと想像しました。

現状すでに、サイト内にそれぞれの企業の社員さんの声を掲載するなど、なるべく企業のリアルな声を入社前から届けられるように工夫しています。

ただ、エシカル就活のサービスをローンチして初年度のユーザーさんが23年卒の方なので、次の4月からご入社されるんですね。そのため、よりリアリティのある入社後ギャップに関する情報はこれから集まってくると思います。今後はこうした学生さんの声を掲載したり、掲載の判断基準に反映させたりしていきたいと考えています。

 

サステナブルな組織づくり

ーーここまでエシカル就活の事業について伺ってきましたが、半井さんはなぜアレスグッドに参画されたのですか?

私は新卒でリクルートに入社して、採用コンサルタントや事業戦略の設計などを担当しました。同時に、自身の経験から家族に関する社会課題に強い関心があり、ゆくゆくは起業したいと思っていました。

そんなとき、元々、代表の勝見と知り合いだったことから、サービスができて1年ちょっとのタイミングから勝見と連絡を取り合うようになりました。その中で、スタートアップだからこそのスピード感や世の中にないサービスをつくり出していく感覚、自分を必要としてもらっている感覚などを実感しました。それで、アレスグッドで挑戦したいと思い、リクルートから転職する決意をしました。また、同時期から関わっていた、現在のアレスグッドCSOでex-Googleの村田さんが、当時働いていた会社をやめて参画すると聞いたことも大きかったと思います。会社が大きくなってから、サービスができあがってから参画するのは遅い、今じゃないといけないと思いましたね。

もちろん自分の関心ある社会課題領域で起業したいという想いは変わらずありましたが、自分と近い想いと圧倒的に尊敬できる仲間がいて、自分を必要としてくれているこの環境を選びたいと思ったんです。

 

ーーアレスグッドには多様な経歴のメンバーが集まっていますが、半井さんから見た組織の魅力は何だと思いますか?

バリューの1つでもある「リスペクト&トラスト」を一人ひとりが体現しているところです。コミュニケーションの最初に「ありがとう」を伝えたり、お互いの働き方の違いも尊重したりと、信頼して尊重しあっているからこそのコミュニケーションが当たり前に浸透しています。

サステナビリティ・ファーストな世の中をつくる上で、それを体現した組織づくりを自ら実行していることが1番の魅力だと感じます。

 

サステナビリティ・ファーストな世の中へ

ーー今後サービスを拡大していく上で、現状、課題だと感じていることはどのようなことがありますか?

大きく2つの課題があると思っています。1つは学生サイドに関する課題で、特に社会課題解決に熱量高く取り組まれてきた学生に利用いただくにはどうしたらいいかという点です。そして、もう1つは企業サイドの課題です。企業にエシカル就活の登録をお断りされる理由で最も多いのが、「今そのような熱量を持った学生に入社いただいても実際にできる業務などがなく、ミスマッチになってしまう」という理由なんですね。1つ目の課題にも通じますが、行動を重ねてきた方や具体的なパッションを持っている方が、就職後も安心して想いを持ち続けられる環境や、経験をそのまま活かせる仕事がまだまだ足りていないと感じます。業界全体のサステナビリティ・トランスフォーメーションを推進していく上で、どうすれば企業の背中を押せるのかというのは大きな課題です。

私たちが事業成長していくためには、より多くの企業に参画してもらう必要があります。ただ、ウォッシュにならないように参画していただく基準も大事にしなければいけません。ここのバランスをとりながら成長していくというのが、今後乗り越えていくべき課題ですね。

 

ーー具体的には今後どのような事業展開をお考えですか?

社会課題解決を皮切りに、今の就活のあり方そのものにメスを入れていきたいと思っています。途中にもお話しさせていただきましたが、今学生が求めているのは企業のリアルな情報です。それに、キラキラしたエントリーシートを作り上げることにうんざりしている学生も少なくありません。また企業側も同様に、着飾った自己PRや経歴よりもその人だからこそのストーリーや熱意を求めています。

就活そのものを今の時代にあった形でアップデートすることで、学生時代に抱いた社会に対するパッションや将来のビジョンを入社後も持ち続けられる、自分と近しいベクトルの熱量を持った仲間に出会える、積み重ねてきた経験が就職後も活かせる、そんな循環つくりたいと考えています。そしてそれらを国内に閉じず、世界に広げていくチャレンジをエシカル就活を通じて行いたいと思います。

 

ーー最後に、事業を通して目指したい理想の社会像について教えてください。

私たちがつくりたい社会を一言で言うと、サステナビリティ・ファーストな世界です。これまで置き去りにされてきた社会課題や、不利益を被っている人がいるという事実などに対して、ちゃんと配慮が届くということ。儲かるんだけどその裏ではこれだけ過重労働を強いられている人がいるとか、これだけ地球環境を破壊してしまっているといったことがちゃんと考慮された上で、意思決定がなされるべきです。経済合理性の観点のみではなく、サステナビリティの観点も考慮して判断される世の中に変えていきたいと思っています。

そこで、私たちは就職活動という、4つの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の中でもヒトの要素からアプローチしたいと考えています。企業の中と外の両方から流れを変えていくためには、サステナビリティ・ファーストな企業に優秀な人が集まる、その企業に注目が集まる、さらに優秀な人が集まるという循環を作っていく必要があると考えています。

さらに、その循環をつくるためには、やりたいことを実現できている、つくりたい世界をつくることに携われているという実感を持っている人を増やすことも同時に重要です。エシカル就活を通して、より多くの人がやりたいことを実現でき、その結果、資本主義の中で置き去りにされてきた社会課題に目が行き届くようになる循環を生み出していきます。

 

株式会社アレスグッド https://www.allesgood.jp/

エシカル就活 https://ethicalcareerdesign.jp/

 

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interviewer

張沙英

餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

 

writer

堂前ひいな

心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

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