過小評価されがちな規格外野菜。乾燥野菜ブランドで農業の地位向上を目指す

形が悪かったり、余剰収穫された野菜を「規格外野菜」と呼ぶ。食べられるにも関わらず市場で流通しないため、一般的にはフードロス問題として認識されることが多い。しかし農家からすると、安く買い叩かれ野菜の価値が下がることが問題だという。株式会社Agritureの小島怜は、規格外野菜を使った乾燥野菜ブランド『OYAOYA』を運営し、規格外野菜の適正流通に取り組んでいる。規格外野菜にまつわる課題や、農家・ユーザーとのコミュニケーション方法などについて詳しく聞いた。

【プロフィール】小島 怜(こじま れい)

京都生まれ、京都育ち。大学時代に農業地理学を専攻し、農業領域の人材派遣会社でインターンした後にOYAOYA創業。

 

規格外野菜を適正価格で売るために

ーー規格外野菜を使った乾燥野菜を作ろうと思ったのはなぜですか?

最初は規格外野菜を安く買って加工商品を作ろうと思って、農業をやっている友人のおじいさんに話を聞きに行ったんです。そこで規格外野菜は安く買い叩かれてしまうという問題があることを知りました。

最近はフードロスといった観点で規格外野菜を廃棄するのはもったいないから安く買いたい、タダでもらいたいといった動きも増えてきています。そのように、一般的には規格外野菜は廃棄されてもったいないと思われているのですが、農家さんからすると適正な価格で買われずに本来の野菜の価値が下がってしまうことが問題なんです。

友人のおじいさんに、「規格外野菜で事業をやるなら適正価格で買うことを約束してほしい」と言われ、規格外野菜を適正価格で仕入れて加工しています。

 

ーー規格外野菜を適正な価格で流通させるには何がハードルとなるのでしょうか?

例えば京都市内や都市部近郊の農家さんだと規格外品でも道の駅などの直売所に出せば良い価格で売れます。一方で、京都北部や京丹後などの郊外は、そもそもの人口が少ないので直売所でも売れません。かと言って都市部で売ろうとすると送料が高くなってしまうといった立地的な問題もあります。

あとは規格外野菜を使って化粧品や絵の具を作っている事業者もいますが、例えば大手加工業者と取引するのであれば、契約条件として1日の取引量が決められます。でも規格外野菜は収穫してみないとどれくらいあるかわからないというリスクがあって大規模での取引は難しいんですよね。だから小規模取引になるか、自家消費する農家さんが多いです。

 

ーーそのような中で、適正価格で規格外野菜を流通させるための手段として小島さんが乾燥野菜を選んだ理由を教えてください。

話を聞きに行った友人のおじいさんが乾燥野菜の加工をされていて、そこで乾燥野菜の良さを知りました。生野菜はすぐ腐りますが、乾燥させることで半年ぐらい日持ちするんです。加えて、20分の1ぐらいに圧縮されるので、輸送費が大幅に少なくなります。

そして、まだ世間の乾燥野菜に対する認知はあまりないですが、お湯をかけるだけで使えたり、粉末にすれば原料としても使えたりして、すごく便利でニーズのありそうな商品だなと思って乾燥野菜を選びました。

 

OYAOYAきっかけで農家と消費者がつながる

ーー現在提携している農家さんとはどのようにつながったのでしょうか?

今は8軒の農家さんと提携させていただいています。京都で野菜の流通業をされている方に紹介していただいたり、坂ノ途中さんが運営されているサイトの「農家さん紹介」ページから自分で探したり、電車に乗っていてたまたま看板を見つけたり、出会い方はさまざまでしたね。

気になる農家さんには自分からアプローチしてお話させていただきます。規格外野菜を適正価格で頂く分、味の美味しさはもちろんしっかり判断します。その上で、「こだわりがある大規模な農家さんかどうか」を提携基準にしています。乾燥野菜を届けるにあたり、野菜の品質と供給量が安定している農家さんとつながる必要があるため、大規模かどうかを重視しています。

 

ーー「こだわりがある」についても、もう少し詳しく教えてください。

乾燥させると農家さんによってすごく味が変わるんです。だから、どういった想いでどんな方法で育てているかが大事になってきます。例えば、今提携しているエチエ農産という農家さんは、2年くらい発酵させた玉ねぎの皮を肥料にして作った土でもう一度玉ねぎを作っています。そうするとメロンくらい甘い玉ねぎになるんですよ。

ただ大量生産して安く提供されるより、多少高くてもこういった売りポイントがある農家さんが素敵だなと思うので、基準の1つになっています。

 

ーー農家さんとのコミュニケーションで大事にしていることはありますか?

取引をさせていただく前に、一緒に農作業をさせてもらっていて、農家さんがどんな温度感で農業をされているかを知る良い機会になっています。あとは定期的に遊びにも行かせてもらっています。

OYAOYAは今、京都の農家さんとしか提携していません。僕が京都出身なのも理由ではありますが、範囲を広げすぎると手が回らなくなって一軒一軒の農家さんとの関係が薄れるのが嫌だという理由も大きいです。今は、フラッと遊びに行かせてもらえるような関係を築けていて嬉しいです。

 

ーー素敵な関係を築かれているんですね。Webサイトで農家さんについて詳しく紹介されているのも何か意図があるのでしょうか?

僕がこのブランドで目指しているのが、ただ野菜を仕入れるだけでなく農家さんと密につながって、消費者の方には野菜それぞれの美味しい食べ方を教える八百屋さんみたいな存在になることなんです。だから、ブランド名も八百屋に京都っぽく「お」をつけてOYAOYAにしました。

サイトで農家さんを紹介しているのも、どんな農家さんが作っているのかを消費者の方に知ってもらいたいからです。農家さんの声は届きにくいですし、消費者の方と直接関わる機会もあまりないので、ユーザーさんにとって農家さんと交流するきっかけの1つになれば良いなと思っています。

実際に、ユーザーの方がOYAOYAを使ったレシピをサイトに投稿していたり、OYAOYAきっかけで農家さんとSNSでつながって旬の野菜を直接買うようになったりなど、農家さんとユーザーさんの橋渡しができている事例もあります。

 

長期保存ができて、手軽に使える乾燥野菜

ーー乾燥野菜はあまり馴染みがない方も多いと思いますが、消費者の方が取り入れやすくするためにしている工夫はありますか?

最初のころは規格外野菜を使っていることをアピールしたり、手の込んだ使い方を伝えていたりしたのですが、あまり興味を持たれなかったんですよね。だから今は「ひと手間で使える」ことをしっかり訴求するようにしています。お湯をかけるだけで使えるとか、普段作っている料理に“ちょい足し”でできるレシピとか、手軽に使えて美味しくなる方法を提案するようにしています。そうしたら売れる量も変わってきましたね。

 

ーー確かに、手軽に使えるのは取り入れやすい大きなポイントですね。そもそも、ユーザーにはどんな方が多いのでしょうか?

大きく3つに分けて、京野菜や乾燥野菜が好きな方、無添加・有機に惹かれる方、規格外野菜やフードロスといった文脈でOYAOYAを知る方という感じになります。

最近は他の地域の方も増えてきましたが、基本的には都内の方が多いです。中でも40〜50代の方が多くて、自分で切り干し大根など作ってある程度乾燥野菜に馴染みがある方が、「京野菜を使った乾燥野菜」というところに興味を持って買ってくださることが多いです。

あとは無添加・有機に惹かれる方として、妊婦さんや出産初期の女性が増えてきています。買い物に行くのが大変だったり、料理する時間もなかったりする中で、でも体に優しいものを食べたいということでOYAOYAを買っていただくことが多いです。

僕も意外だったんですけど、最初の2つの層がほとんどで、OYAOYAのユーザーさんは規格外野菜かどうかはあんまり気にしていらっしゃらない印象です。

 

ーー消費者が乾燥野菜を使うメリットは何でしょうか?

まず、乾燥野菜は半年くらい日持ちするので腐る心配もないですし、使いたいときに使えます。あとは、例えばカップラーメンを食べたいといったときでも、乾燥野菜を入れてお湯をかけるだけで手軽に野菜が摂れるのもメリットだと思います。

他にも、ギュッと凝縮されているのでお出しが出やすかったり、食感もにんじんのきんぴらなどレシピによっては乾燥野菜のほうが良かったりすることもあります。

 

ーーいろいろなメリットがあるんですね。小島さんがユーザーさんに1番届けたい価値は何でしょうか?

長期保存ができて、食の選択肢が広がるというのは1番価値に感じてもらいたいです。例えば唐辛子など、普段あまり食べない野菜を乾燥野菜で取り入れて食べるきっかけになるとおもしろいなと思っています。

 

ーー小島さんおすすめの乾燥野菜の使い方を教えてください。

トマトは大玉のものを使っていて酸味が強いのが特徴なんですけど、お味噌汁に入れると酸味が出て美味しくなります。あとはごぼうを鶏肉やサラダチキンと一緒に炊き込みご飯にするのもおすすめです。

個人的な好みで言うと、僕はカップ焼きそばのペヤングが好きなんですけど、そこに白ねぎと伏見唐辛子を入れると美味しいです。乾燥野菜はカップ麺とすごく相性が良くて、意外とOLの方に人気の使い方です(笑)。

 

京都から次世代の農業を作る

ーー今後の事業展開における目標を教えてください。

長期的には、乾燥野菜の社会的認知を広げて身近なものにしていきたいです。あと、規格外野菜を安くしてでも捨てずに消費したほうがいいという考えが一般的に広がっていますが、それでは農家さんにとっては対等ではない取引になってしまうと感じます。その対等ではないビジネスの在り方を是正できるような事業を作っていきたいです。

そして、今農家さんは70〜80代の方がボリュームゾーンで、あと10年もしたら世代交代が起こると思うんです。そのときに、提携している若い農家さんを中心に、京都から次世代の農業を作っていける事業ができれば面白いなと思っています。

株式会社Agriture https://oyaoya-kyoto.com/

 

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    interviewer

    梅田郁美

    和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
    猫になりたい。

     

    writer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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