フェアトレードは本当にフェアなのか? 疑問から始まった「三方良し」のサステナブルコーヒーブランド

私たちが何気なく飲んでいるコーヒーだが、生産者に思いを馳せたことがある人はどれだけいるだろうか。コーヒー農家のほとんどは小規模農家で、貧困のサイクルに陥っているという。GOOD COFFEE FARMS株式会社は、環境にやさしい「自転車脱穀機」を用いて、途上国の小規模農家を救うプロジェクトを行なっている。グアテマラ出身で、途上国現地のマネジメントを担当する代表のカルロス・メレンと、日本で事業開発をしてきたバックグラウンドを持つ、事業開発統括の空賀啓輔。2人に、コーヒー生産が生みだす社会課題や、プロジェクトによって生産者にもたらされた変化などを聞いた。

【プロフィール】

カルロス・メレン 写真左
グアテマラ出身。祖国で内戦を経験し、14才からTシャツを売るなどで商売感覚を身に着け、日本人旅行者に会ったことから来日を決意。日本ではグアテマラの高品質なコーヒーが好まれていることから、コーヒーの輸入事業を開始。その後、祖国グアテマラの生産現場を訪ね、コーヒー生産に関する社会課題を知り衝撃を受ける。何とかしたいという思いから2020年にGOOD COFFEE FARMS株式会社を設立。

 

空賀 啓輔(くが けいすけ) 写真右

慶応義塾大学卒業後、三菱商事にて財務職でのニューヨーク駐在を経て、コーヒー事業を含む食品原料事業の戦略企画及び財務経理を担当する部署でM&Aや新規会社設立案件に携わる。個人でも、南米のコーヒー輸入販売を行ったり、コーヒーのラジオ番組を立ち上げたりとコーヒーへの思い入れは深い。さまざまな活動をする中でカルロス・メレン氏と出会い、その志と行動に感銘を受けてGOOD COFFEE FARMS株式会社に参画。

 

貧困のサイクルから抜け出せないコーヒーの小規模農家

ーーコーヒー生産における課題について教えてください。

空賀 啓輔(以下、空賀):生産者の貧困問題が1番深刻です。世界全体のコーヒー農家のうち、6〜7割は小規模農家と言われており、グアテマラでは9割もの人が該当するとも言われています。コーヒーは昔から大量生産されてきた背景があり、輸出入のノウハウや充分な設備がないと大量生産のニーズに応えられません。

小規模農家はそのようなノウハウや設備には基本的にアクセスができないため、設備を持っているところに原料のまま安価で売ることしかできません。それが貧困の大きな要因となっていますお金がないので設備を持つことができない。その結果マーケットにアクセスすることもできず、ずっと貧困のままという負のサイクルが働いています。歴史的にずっとそのサイクルが根付いているので、金銭的な負債も貯まりますし、子どもたちの教育面にも影響を及ぼしています。

 

ーー負のサイクルから抜け出せないことが貧困の原因になっているんですね。その他にはどのような課題がありますか?

カルロス・メレン(以下、カルロス):環境面でもいろいろな課題があります。まず、コーヒーチェリーを収穫したあとに、精製する工程があるのですが、水洗式という主流の脱穀方法では大量の水を使用します。さらに、ゴミを含む排水が川に流れ込むことで環境汚染につながっています。

 

ーーそれらの課題への解決方法として、スペシャルティコーヒーやフェアトレードコーヒーが最近増えていますが、カルロスさんたちは具体的にどのような方法で課題解決されているのでしょうか?

カルロス:スペシャルティコーヒーやフェアトレードコーヒーには、消費者にはあまり見えていない課題があります。例えば、よく見るフェアトレードやレインフォレスト・アライアンス*といった認証なんかは大規模農家しか取れないんです。ノウハウもコネクションもない小規模農家は取得できないですし、そもそもマーケットにアクセスすることもできないので、認証を取得できても意味がない。

あとは認証を持っていても、認証料の支払いや多岐にわたるモニタリング作業など、実際は農家側に負担がかかっているケースもあります。他にも、透明性を担保していると言っても、1つのプロセスだけにフォーカスしていて、バリューチェーン全体をカバーできているとは言えない場合もあります。フェアトレードが本当にフェアなのか、どこまで届いているのかという疑問があり今の事業を始めました。

私たちは小規模農家を対象に、生産から販売までの透明性を一貫して担保することで課題解決に繋げています。質の高いコーヒー生産のノウハウを教えて、自転車脱穀機を無償提供し、できたコーヒーを通常のマーケットより高い値段で買っています。このようにバリューチェーンの最初(生産)から最後(販売)までカバーしています。生産者にも、ここまで一貫してできているのは見たことがないと言われます。

*レインフォレスト・アライアンス認証:農園の環境、土壌・水を含めた天然資源、生態系や生物多様性を守り、労働者の労働条件やその家族・地域社会を含めた教育・福祉などの厳しい基準を満たした農園に与えられる。

 

ーーそれが他のスペシャルティコーヒーやフェアトレードコーヒーとの差別化になっているんですね。自転車脱穀機はどのような経緯で思いついたのでしょうか?

カルロス:一般的な大きな脱穀機は何千万もするほど高く、事業を始めた当時はそれを買えるほどお金がありませんでした。それに、お金もノウハウもない小規模農家に大きな機械をあげることが正しいとも思いませんでした。

他の手段を探していて、自転車脱穀機があることを知りました。もともと稲の脱穀などで使われていたのですが、これを応用してコーヒーの精製にも使えるのではないかと思ったんです。いろいろ試行錯誤をした結果今の形に辿り着き、GOOD COFFEE FARMS用にデザインも自分で考えました。

自転車脱穀機はメリットがたくさんあります。コストが低いうえにメンテナンスが簡単です。また、他の手段と比べて精製できる量も多いです。同じ1時間でも、手回しのものはだいたい100kgほど、同サイズのエンジン脱穀機でも300~500kgほどの精製量ですが、自転車だと700~900kgほど精製することができます。そして、水も電気もガソリンも使わないので非常に環境にやさしいです。

 

ーーそんなにたくさんのメリットがあるんですね。自転車脱穀機を使うことでコーヒーの品質や味にも影響はあるのでしょうか?

カルロス:自転車脱穀機では水を使わないので、コーヒーチェリーの果肉と果汁をキープしたまま精製できます。だから、コーヒー豆からすごくフルーティーな香りがします。

あと、ちゃんと熟しているコーヒーチェリーじゃないとうまく皮がとれないので、生産者はコーヒーチェリーを摘むという最初のステップから質の高い仕事をするようになります。

自転車脱穀機だけが味に良い影響を与えるのではなく、精製したあとの発酵や乾燥といったプロセスも含め、1つ1つの丁寧な仕事の積み重ねで良い品質に繋がっています。もちろんノウハウも必要ですが、最初のプロセスから丁寧に行うことで良い結果が出るということを私は日本で学びました。それを生産者たちにも伝えています。

 

GOOD COFFEE FARMSの一員であることに誇りを持つ生産者

ーー日本式の礼儀や働き方を現地でも取り入れているとのことですが、なぜそうしようと思ったのでしょうか?

カルロス:私は18歳のときに日本に来て、日本の仕事の文化を学ぶことで自分の生活が変わりました。日本の素晴らしい文化を生産者に教えたいとずっと思っていたので、みんなで「頑張りましょう」と声をかけ合うようにしたり、お揃いのユニホームを身につけたり、最初のプロセスから質の高い仕事をするように教えたりしました。

そして、質の高い仕事をするにはルールが必要です。でも、グアテマラの生産者にルールを説明するだけではついてこないので、なぜルールを守ることが大切なのか話しました。「日本が戦後大変な状況からすぐに復興して豊かな国になったのは、こういう仕事の文化をみんなで頑張ってきたからだ」という話をすると、みんな納得してルールを守るようになりました。日本の素晴らしい文化でグアテマラの生産者の生活も変わったと感じます。

 

ーー日本の文化を教えるのはユニークなマネジメント方法ですね。普段は、現地の生産者に対してどのようにマネジメントしているのですか?

カルロス:2017〜2018年あたりは私も現地に行き、農園を訪問したりセミナーを開催したりしていました。そのときに現地の生産者の中からリーダーを選んで、彼にいろいろなことを教えました。そして日本に帰ってきて2019年には初めての輸入ができるようになりました。

2020年以降はコロナの影響で渡航できなかったのですが、良いリーダーを見つけられたので、コロナ禍でもテレビ電話でけっこうコミュニケーションを取っていました。収穫時期になるとリーダーだけじゃなく、何人かと毎日2時間くらいは話してましたね。ビデオで映してもらいながら、指示出しをしていました。

最近はグアテマラの生産者のレベルも上がってきて、コミュニケーションの密度は以前より減ってきました。今は新しい生産国の開拓に注力していて、グアテマラのときと同じように、直接現地に行ってコミュニケーションを取っています。

 

ーー実際にGOOD COOFEE FARMSに参加した農家さんの生活にはどのような変化がありましたか?

カルロス:1番は、仕事に対するマインドセットが変わりました。日本の仕事の文化を取り入れることで、確実に仕事のクオリティも上がっていますし、ユニホームを着ていることで「自分たちはGOOD COFFEE FARMSの一員だ」というプライドが芽生えます。そのプライドで、仕事に対してポジティブに取り組めるようになりました。今まで生産者に言われて1番嬉しかったのは「もしいつかGOOD COFFEE FARMSがなくなっても、もらったノウハウはなくならないので自分で何か始めたい」という言葉です。もっと頑張ろうと思いました。

あとは、これまで生産者の子どもたちは親の仕事を見てきて、絶対コーヒー生産はやりたくないと言っていました。でもお父さんやお母さんが海外のお店のWebサイトや新聞に載っているのを見て、「コーヒー生産はかっこいい」という認識に変わりました。その言葉を聞いて生産者も喜びますし、未来に対する希望が生まれています。

 

口コミで繋がった100社のロースター

ーー日本での展開についても伺っていきます。現在国内で約100社と取引されているとのことですが、どのようにつながりを作っていったのでしょうか?

カルロス:最初の輸入時はお客さんが誰もいませんでした(笑)。プランも何もなく、でもあのときはやるしかないとがむしゃらだったので、自分のやっていることを信じていました。本当にコーヒーが好きな人、トレーサビリティ*や環境のことが気になる人には間違いなく刺さると思ったんです。

だから、まず日本で1番大きなコーヒーの展示会に、コーヒーと自転車脱穀機1台を持ち込んで参加しました。やはり展示会にはたくさんの人が来ますし、自転車脱穀機にも興味を持ってくれる人が多くて。そこでいろいろなお店の人たちとつながりました。その人たちの口コミからまた新しい人たちともつながって……今までほとんどのロースターさんは口コミでつながってきました。

日本の有名なロースターさんたちが、GOOD COFFEE FARMSのコーヒーを「美味しいね」と言って使ってくれることが本当に嬉しいです。生産者に伝えるとみんなも喜んでいます。

*原材料の生産から流通・販売までのすべてのルートが追跡可能なこと

 

ーー100社のほとんどが口コミで繋がってきたのはすごいです。ロースターと一般消費者ではそれぞれどのようなところに価値を感じて買っているのでしょうか?

空賀:ロースターさんに関しては、もちろん品質を評価してくださっているのは前提ですが、業界全体でSDGsの意識が高まっており、環境への配慮や生産国側へのインパクトというところで注目していただいています。そういった側面でも価値を感じていただいていますね。

一般消費者も同様に、SDGsの意識が高い人や環境問題が気になる人、生産国への貢献をしたい人が多いです。あとは、スペシャルティコーヒーが好きで新しいものを試したい人も買ってくださっています。それらの要素に加えて私たちが力を入れているのは、生産者の顔が見えるようにすることです。定期便を送るときは生産者のストーリーを添えて送ったりしているので、コーヒーを飲むことでグアテマラという異国を近くに感じることができます。代表がカルロスというのもありますし、海外に興味がある人、海外と繋がりたいと思っている人にも多く購入していただいています。

消費者の方が「美味しい」というコメントとともにSNSにシェアしてくださることがあるのですが、それを見て生産者もとても喜んでいます。

 

ーー今事業を運営している中で感じている課題はありますか?

カルロス:もっとコーヒーの販売量を増やしてスケールしていかなければなりません。そのために生産量を増やす必要があるので、今私は新しい生産国の開拓に力を入れています。加えて、インタビューなどで認知を広げて、もっと多くの人たちに私たちのストーリーを届けることが重要だと思います。

空賀:スケールしていくにあたって生産管理コストも増えていくので、できるところからシステム化していく必要があります。その部分においてはまだまだリソースが足りていないので、今後生産量が10倍になったとしてもサステナビリティを維持したまま拡大していけるようなシステム化が大きな壁かなと思います。

 

「みんなのコーヒー1杯」で世界を変える

ーー今後の事業展開について教えてください。

カルロス:日本ではもっとたくさんのコーヒーショップに卸していきたいです。また、今年はヨーロッパや韓国での取引もスタートしていて、日本以外のマーケットにももっと広げていきたいです。対消費者については実店舗のカフェもオープン*しますし、SNSでももっといろんな人とつながりたいと思っています。あとは、今も行なっている生産国の開拓を頑張っていきたいです。

空賀:日本国内について補足すると、今100社くらいと取引をさせていただいていてある程度の関係性が築けているので、次のステップに少しずつ移行し始めています。「My Farm契約」という中長期的な購買契約です。一般的な取引だと、中間流通業者が輸入してきた数あるコーヒーの中からロースターさんが選んで、生産者の情報も業者を介してアクセスするといった単年契約が普通なんです。

でもMy Farm契約では、中長期的にGOOD COFFEE FARMSの農園の一部を「My Farm」として利用できるようになっています。中長期契約になることで生産者は安定的な収入を確保できますし、ロースターさんは生産者側の情報にアクセスしやすい、かつ生豆の原料を自分たちにあった方法で精製することができるので、両者にとってメリットのある契約なんです。今年は10社ほどのロースターさんと契約させていただいたのですが、今後はより拡充していきたいです。

対消費者に関しては、これまでオフラインの場で販売する機会があまりなかったので、今後はそういう機会をどんどん増やして、生産側でどんなことが起きているのか認知を広げていきたいです。

*10月1日より東京・日本橋に初の実店舗をオープン https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000058169.html

日本橋にオープンしたカフェの様子

 

ーー最後に、ビジネスを通して社会にどのような影響を与えていきたいですか?

カルロス:私たちは“Coffee Changing The World”(コーヒーで世界を変えよう)というスローガンを掲げています。コーヒー1杯で世界を変えることはできませんが、その1杯がたくさん集まったらできると思うんです。世界中の人たちがGOOD COFFEE FARMSの美味しいコーヒーを飲むだけで、生産者や環境に対してインパクトを生むことができます。そのような未来を作ることが私たちのコアですし、会社がスケールしていってもこのコアからは離れないように頑張っていきたいです。

GOOD COFFEE FARMS株式会社 https://www.goodcoffeefarms.com/

 

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    interviewer

    堂前ひいな

    心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

     

    writer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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