サボテンレザーを使ったサステナブルなアパレルブランド。規範に縛られずにファッションを楽しめるように。

京都の島原にてゲストハウスを営む、村上拓司とオヌル・チャムルジュ。2人はコロナ禍で、サボテンレザーを使用したサステナブルなアパレルブランドを立ち上げた。パートナーとしてブランドを運営しながら、日常生活についても発信している2人。彼らが事業を通して伝えたいこと、実現したいことを詳しく聞いた。

【プロフィール】
村上 拓司(むらかみ たくじ)写真、左。
公私共にパートナーのオヌルとともに、LGBTQフレンドリーな宿を2017年に立ち上げる。パンデミックをきっかけに、2020年より循環をデザインするレーベルoffsait studioを立ち上げ、宿にも店舗ギャラリースペースを併設。セクシュアリティーやジェンダー以外にも国籍や宗教、価値観など様々なファクターは、各個人のバックグラウンドの一部であって、本質的なところはきっと皆似た感じで、優しくなんか柔らかい感じでほわっとしたなんかなんだろうなぁという想いで事業をしている。

 

オヌル・チャムルジュ(通称:小野さん)写真、右。
株式会社hachi共同経営。ドイツ出身。ドイツで大学卒業後、半年だけワーホリで滞在する予定で日本に来日。その後パートナーの村上と出会い、一緒に宿を立ち上げ運営を行うようになり、現在滞在7年目。宿の運営と並行して京都大学大学院にて持続可能な経済開発の修士課程を履修し、2020年からは村上と共にoffsait studioを共同で運営している。

LGBTQフレンドリーなゲストハウスから始まった

——京都にてゲストハウスをされているとのことですが、どのような経緯で始められたのですか?

私たち2人は2015年に出会って、「いつか一緒に事業をしてみたいね」と話していました。特にオヌルは旅行が好きで、ゲストハウスによく泊まっていたんですね。2人でも一緒に何度か旅行をしてゲストハウスに宿泊したことがありました。

ゲストハウスってゲスト同士やスタッフの方との交流があるのが一般的で、宿泊するときによく「お二人はどういう関係ですか?」と聞かれることがあって。そこでわざわざ「ゲイカップルです」と説明するのもめんどくさいなって思っていたんです。それを伝えて相手からの反応で嫌な気持ちになったことはないんですが、変に気を遣われてしまったり相手に知識が全然なくて変なことを聞かれたりということがよくありました。

この経験から、LGBQTフレンドリーでゲイカップルが運営しているゲストハウスを作ることで、当事者の方も気軽に宿泊できてコミュニケーションが取りやすいような場所にしたいと思い、ゲストハウスを始めました。

 

——LGBTQフレンドリーにしたいという想いで始められたのですね。他にもこだわられていることやコンセプトとして掲げていることはありますか?

まず、キャッチフレーズにしているのが「Just feel like coming home」です。家に帰ってくるような感覚、アットホームな雰囲気を感じてほしいという想いがこもっていて。お客さんとのコミュニケーションを多く取るように心がけています。

加えて、ゲストハウス周辺に関する情報をお客さんにたくさんお伝えしています。私たちのゲストハウスがある島原という地域は、京都の中心地から少し離れていて、観光地というよりかは京都らしい街並みが残っていたり生活感が滲み出ていたりするような場所です。そのためか、お客さんは、京都はすでにいろんなところを回っていて、あえて島原に滞在を決めた、初めて島原に来たというような方が多いんです。だからこそ、ゲストハウス周辺にあるローカルなお店などをたくさんお客さんに紹介するようにしています。チェックインだけで30分くらいかかることもあります(笑)。

 

——ローカルな生活に溶け込むようなゲストハウスなんですね。2020年にコロナ禍になり、アパレル事業を始められたとのことですが、どのような経緯があったのでしょうか?

そもそもはコロナ禍以前より、サステナブルに興味がありました。ゲストハウスのお客さんがサステナブルへの意識が高かったりビーガンを実践されていたりする方が多かったんです。そのようなお客さんとのコミュニケーションがきっかけでサステナブルに興味を持つようになりました。

一方、オヌルはもともとサステナブルへの興味があり、ゲストハウスを始めるのと同時に、大学院で持続可能な経済学について勉強していました。

そこで、2人の興味がサステナブルという点で合致し、オヌルの知識も使えるような事業をやりたいと思って、事業の内容を考え始めたんです。そこから、2人ともファッションが好きだったので、サステナブルなアパレルブランドを作ろうということはすぐに決まりました。

 

“循環”をテーマしたアパレルブランドへ

——続いて、アパレルブランドoffsait studio(オフサイトスタジオ)について伺っていきます。offsait studioとはどのようなブランドなのでしょうか?

“循環”をキーワードに、サボテンレザーのようなサステナブルな素材を使ったアパレルを展開しています。加えて、ただサステナブルな素材を使うだけではなく、いかに視点を変えてサステナブルに取り組んでいくかも意識しています。

例えば、ビンテージのラグをアップサイクルしたり、サボテンレザーのコートもパーツを減らして次にアップサイクルしやすいようにしたりしています。今は、コートを作るときに余った端切れを使ってバケットハットを作ったり、デッドストックになったレザーをたくさん買い取ってベルトを作ったりということを考えています。作って終わりではなく、その先の循環も考えた商品開発を行なっています。

 

——サステナブルな商品を作られているだけではなく、商品が全てユニセックスであることも特徴的ですよね。どのような想いでユニセックスな商品展開にされたのですか?

ユニセックスな商品展開にしたのには2つ理由があります。

1つ目は、商品を作りすぎないようにするためです。男女分けてサイズを展開すると、どうしても生産数が増えてしまいます。今はまだ、これだけの数を作ったら売れ残らないというような予想をして生産数を組むことが難しいので、サイズ展開を絞ることでサステナブルな生産を行なっています。

2つ目は、洋服を楽しむ幅を狭めたくないという想いからです。これは、商品開発をサポートしてくださっているデザイナーの方から言われたことがきっかけとなりました。その方は長い間アパレルで接客をやられてきた中で、サイズ展開が豊富だと、お客さんの見た目から判断した性別や体型に合わせた商品を提案してしまうということに気がついたそうです。ふくよかな体型でピタッとした服が着たいというお客さんがいても、見た目から判断して大きいサイズを提案してしまったり、ボーイッシュな服が着たい女性の方に女性用の商品のみから提案してしまったり。「自分は絶対にこういう格好がしたい」と思っていても、店員さんにそれとは違うものを提案されると、「そっちの方がいいのかな?」と思ってしまうことってよくありますよね。

でも、ユニセックスでワンサイズだと、体型や性別に当てはめて接客することができないので、純粋にお客さんが見て試着して好きかどうか、どういう着方をしたいのかというところに集中できます。今ある規範に縛られずに洋服を楽しんでもらえるのではないかと思っています。

 

——洋服を着る側も売る側も規範にとらわれないということですね。一方で、いろんな方が着られるユニセックスの商品を開発するのは大変そうだと思いました。

ズボンを作るのには苦労しました。ユニセックスのズボンは、ただダボっとして見えるシルエットになりやすいです。ルーズだけど綺麗に見えるようにデザイナーの方とかなり議論を重ねましたね。

デザインに加えて素材にもこだわっていて。例えば、サボテンレザーを使ったパンツの素材違いで、ウールのパンツを作ったのですが、それには柔らかくて落ち感の強いタイプのウールを使っています。そのため、ウエストが細い方が着用して腰回りが余ってしまっても、ベルトで強く締めれば、形は崩れないままクシュっと綺麗に締まるようになっています。

 

——品質にとてもこだわられているのを感じました。品質にこだわると価格が高くなってしまうというのは多くのアパレルブランドが直面している壁ですが、品質と価格のバランスについてはどのように考えられていますか?

ここまで品質にこだわると価格は高くなってしまうということは最初から理解していました。だからこそ、ブランドの背景にあるストーリーを伝えて納得感を生むことが重要だと考えています。

また、サボテンレザーのバッグに関しては、素材を工夫することで価格を下げられるようになりました。サボテンレザーにも色々な種類があって、最初は1.1mmの一般的なサボテンレザーを使用していました。しかしそれだと加工がしづらく、綺麗に加工しようとすると費用がかさんでしまいます。そこで、服に使っている0.5mmのサボテンレザーをバッグに使用するのは一般的ではないのですが、試行錯誤の末に、このレザーをバッグにも使用することで、価格も下げられるし工場さんの負担も減らせるということがわかり、現在の形になりました。

 

純粋にファッションを楽しんでもらうために

——offsait studioでは、どのような方が多く購入されているのですか?

多くのお客さんに共通しているのは、サステナブルに興味があるということです。また、ビーガンの方や純粋にファッションが好きという方も多いですね。年齢層では20代後半から30代の方が多いです。

最近は、私たちのTikTokYouTubeチャンネルから、私たちカップルに最初に興味を持ってくださり、そこからブランドにも興味を持ってくださるという方が増えてきました。

 

——今後もサステナブルに興味がある方にブランドを広げていきたいと考えられているのでしょうか?

これからは、サステナブルにはそこまで興味がないけどファッションは大好きという方たちにリーチしてみたいと思っています。

サステナブルな商品ってどんどん増えてきているし、ファッションや世の中の流行に敏感な方でサステナブルに一切興味がない人ってあまりいないような気がするんです。だから、わざわざサステナブルであることを前面に押し出していかずに、ファッション性で勝負してみたいと思っています。

 

——ファッションに興味がある方たちに認知を広げていく上で、考えられている施策などはありますか?

オフラインでは、他のブランドさんと定期的に合同でイベントをやっていきます。サステナブルなブランドに限らず、空気感が合うようなブランドさんと一緒に、コミュニティ形成をしていくイメージです。そこで、他のブランドさんのお客さんに私たちのことも知ってもらって、地道に広げていきたいと思っています。

オンラインはまだまだ模索中ですが、今後はいろんな方向からブランドを知ってもらいたいと思っていて。offsait studioのInstagramアカウントは少し無機質なイメージにしている一方で、私たちカップルのアカウントは商品だけではなく、私たちの日常についても発信していきます。他にもTikTokやYouTubeでの日常の発信にも力を入れていき、いろんな方向からブランドに辿り着けるようにしていきたいです。

 

——さまざまな方面からお客さんにファンになってもらう上で、お客さんにはどのような価値を一番に感じてほしいですか?

お客さんには一番に、私たちが作ったものを身につけて気持ちが上がると思ってほしいですね。今日の私かわいいなとか、素敵だなとか。

そのときにやっぱり、「環境破壊につながっていたりしないのかな?」とか、「この服が作られた労働環境はどうなっているんだろう?」とかっていう不安があると嫌じゃないですか。だから、そのような心配をなくして純粋にかわいい、嬉しいと思ってもらえるようにしたいんです。

私たちが作った服を純粋に楽しんでもらう上で、サステナブルであるという前提が大事で、お客さんにも同じように感じてもらえたら嬉しいです。

 

2人で事業をやることの意味

——パートナーとして2人で事業をやられていますが、そのことが事業自体に与える影響は何かあると思いますか?

良くも悪くも私たち2人の好きなことや思想が前面に出ているなと思います。その結果、事業自体が属人的になりやすくて、offsait studio = 私たちというイメージを持ってもらいやすいんです。もちろん今後事業を大きくしていく上で非属人的にしていかなければいけない部分もあるかもしれません。でも、属人的であることで、お客さんと繋がりやすいし、ファンになってもらいやすいと感じています。

 

——属人的であることがポジティブな影響を与えているのはとても面白いですね。お二人が個人的に、2人で事業をやってきて良かったと思うことはありますか?

お互いの存在が心の支えになっているなと思います。やっぱりすごく忙しいときや売上が思うように上がらないときなど、1人でやっていたり他の人と一緒にやっていたりしたら、心が折れていたかもしれないというタイミングって結構あるんですよね。そういうときに、プライベートも全て共有している相手と支え合えることは、お互いにとってポジティブだなと思います。

もう1つは意思疎通がすごく早いです(笑)。お互いがどのようなものが好き、嫌いっていうのがわかっているので、合意形成に時間をかけなくてもいいのは楽ですね。

 

多くの人にとっての気づきのきっかけに

——今後もゲストハウスは継続されていくと伺いました。ゲストハウスとアパレルの間で、どのようなシナジーがあると思いますか?

ゲストハウスに泊まったお客さんが、お店で商品を見て買ってくれるという流れは今も生まれています。

さらに今後は、ゲストハウスとお店の雰囲気に統一感を持たせていきたいと思っています。例えば、ゲストハウスにサボテンレザーの端材を集めて作ったソファを置くなどです。offsait studioとは、ブランドでもありお店でもありゲストハウスでもある。私たちのやっている事業がoffsait stuidioとして一体化しているように見てもらえれば面白いかなと思っています。

 

——ゲストハウスとアパレルのシナジーが生まれていくのがとても楽しみです。アパレルブランドとしては今後どのような事業展開を考えていますか?

いつかはドイツで店舗を出したいと思っているんです。個人的な理由ですが、オヌルはドイツ出身でしばらく家族に会えていないので、日本とドイツの2拠点で事業できるようになったらいいなと思い描いています。

ヨーロッパの市場で挑戦してみたいというのは、事業の観点からも考えていることです。私たち2人はともに複数言語が話せるし、全く異なるバックグラウンドを持って一緒にやっていて、これは私たちの強みの1つだと思っています。そして、この強みは日本国内では活かしきれないとも思っているんですね。それで海外でも挑戦してみたいと考えているんですが、オンラインだと送料や税金などのハードルがすごく高いんです。だから、ドイツに拠点を構えることができたら、ヨーロッパ市場にも展開しやすくなるので、いつかもっと大きくなったら挑戦してみたいですね。

 

——最後に、事業を通じて残したい社会へのインパクトについて教えてください。

1つは、サステナブルな選択肢に貢献したいということです。ドイツではサステナブルへの意識が高い方が多いんですが、全てを絶対にサステナブルにしないといけないというよりは、自分ができるところから始めたらいいと思っているそうなんです。例えば食においてサステナブルであることはすごく意識していても、服に関しては特に意識せずファストファッションを着ているとか。私たちのブランドでも、ファッションに関してサステナブルであることを意識したい、まずはファッションから始めてみたいと思った人に対して、選択肢となることで貢献したいと思っています。

そしてもう1つは、LGBTQについての気づきのきっかけになりたいということです。私たちは2人とも性的マイノリティであることが原因で嫌な経験をしたことがほとんどないんですね。でも、それはたまたまラッキーだっただけで、嫌な経験をされた方もたくさんいるということは理解しています。だからこそ、私たちは私たちのやり方として、「辛い経験をしたから世の中はもっとこうなってほしい」という発信をするのではなく、ただ普通に自分たちの生活を発信したいと思っていて。ゲイカップルとしての日常や事業のことなど、自分たちにとっての当たり前を通して、当事者の人もそうではない人も、「こういう人たちもいるんだね」、「こういう生活もあるんだね」ということに気づいてもらえたらいいなと思っています。

 

offsait studio https://offsaitstudio.com/

 

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    interviewer

    梅田郁美

    和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
    猫になりたい。

     

    writer

    堂前ひいな

    心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

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