コオロギのタンパク質量は牛の3倍? サステナブルな昆虫食で、食糧危機に挑む社会起業家

気候変動や食糧危機の救世主として近年注目を集めるクリケット(コオロギ)だが、昆虫食という選択肢が人々の生活に根付くのにはまだまだ時間がかかりそうだ。クリケットプロテインのD2Cブランドを運営する株式会社ODD FUTUREのCEO 長田竜介は、クリケットが食品原料の1つとして当たり前に使われる世界を作りたいと語る。社会課題への危機感と、「昆虫食の領域で世界一になりたい」という貪欲な起業家精神を併せ持つ長田がこの先に目指すものは何か。詳しく話を聞いた。

【プロフィール】長田 竜介(おさだ りゅうすけ)

株式会社ODD FUTURE CEO。新卒で繊維商社に入社し、そこで業界の大量生産大量廃棄や労働環境の課題を知る。人にとって最も密接な食の分野からサステナブルなビジネスを行なうことで、社会へポジティブなインパクトを生みたいという思いから2020年にODD FUTUREを創業し食用コオロギを用いたフードテック事業を展開する。

 

原体験は「畑で昆虫を食べていたおじいちゃん」

ーー前職は商社で働かれていたそうですが、もともと環境問題やサステナブルに対して関心があったのでしょうか?

もともと環境問題やサステナブルの重要性についてすごく関心があったわけではないんです。前職の商社で大手アパレルのOEMを行なっていたときに、アパレルの大量生産、大量廃棄の問題を目にしてから関心を持つようになりました。

これからの時代にそぐわない現状に違和感を感じていたのですが、大きな会社ですでにビジネスモデルも確立していると、すぐに変わることは難しくて。だからサステナブル事業でスタートアップ起業することにしました。

 

ーーアパレルで感じた違和感から、食の領域で起業されたのはどのような経緯からでしょうか?

違和感を感じたきっかけはアパレルでしたが、サステナブル事業でどのようにインパクトを残せるかと考えたときに、より毎日消費されていく食のほうが世の中に与えられるインパクトも大きいんじゃないかと思いました。商売人として成長産業で勝負したいという気持ちもありましたし、さまざまな側面から判断して食領域を選択しました。

 

ーーより大きなインパクトを残せるのはどの領域かを重視して選ばれたのですね。食の中でもいろいろなアプローチがあると思いますが、昆虫食を選んだのはなぜでしょうか?

当時Beyond Meat(ビヨンド・ミート)*やImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)*が上場した時期で、植物性タンパク質市場が盛り上がっていたので、この領域は可能性があるだろうと考えました。ただ、同じように考えるスタートアップはすでにたくさんあって、今から日本発で世界一になるのはなかなかハードルが高いと思ったんです。

そうなると、植物性の次に来るであろう代替タンパク質に目を向けるようになって、昆虫食という選択肢を知ったときにピンと来たんです。実は、地元の伊豆で農業をやっていたおじいちゃんが、お腹が空くと畑にいる昆虫を食べていたという幼少期の記憶がありました。僕も、畑にいる昆虫は食べませんでしたが、食卓に並んだ蜂の幼虫を美味しく食べていた経験があります。

そこから調べてみると、昆虫食のマーケットは大きな可能性を持っていることも知りました。昔から身近にあった行為をサステナブルな事業としてアップデートすることで、大きな可能性を持った市場にアクセスできるところに魅力を感じました。あとは、世界でも昆虫食で上場したスタートアップはまだいないという点も決め手となりましたね。

*Beyond Meat (ビヨンド・ミート)/Impossible Foods(インポッシブル・フーズ):植物由来の代替肉製品を製造・販売しているアメリカの企業

 

胆力や時間と戦いながら、昆虫食の可能性を広げていく

ーー続いて事業について伺っていきます。クリケット(コオロギ)プロテインのD2Cブランド『INNOCECT(イノセクト)』はどのような特徴がありますか?

新しいタンパク質であるクリケットは、100gあたりのタンパク質量が牛の約3倍ほどと多く、アミノ酸も豊富に含んでいます。INNOCECTの食品は、クリケットにさらにビタミンや食物繊維、鉄分など25種類の美容成分も加えているため、既存の健康食品よりも栄養価や機能性が高くなっています。

また、乳製品・グルテン・人工甘味料・遺伝子組み換えを使用しない“4つのフリー”も、もう1つの特徴です。

そして、クリケットは非常にサステナブルな原料なんです。こちらも牛と比較して、同じタンパク質1kgを生成するのにCO2排出量が約30分の1、消費する水の量が約6000分の1と、環境負荷が大幅に削減されます。これも大きな特徴の1つですね。

 

ーーこれまで事業を続けてきた中で感じたハードルを教えてください。

サステナブル領域の多くがそうだと思うのですが、世の中に浸透するまでに時間がかかるんですよね。インターネットビジネスのようにどんどん広まっていくものではなくて、昆虫食が当たり前になるのはやっぱりどうしても時間がかかります。将来確実にマーケットは大きくなっていくと思いますが、時代の波がじわじわと広がっていく事業なので、胆力や時間との戦いだなと思っています。

 

ーー時代の波が広がるという点で、日本と海外で差はあるのでしょうか?

あると思います。特にヨーロッパは全体的にサステナブル意識が高いので、昆虫食も日本より浸透しています。

ただ、サステナブル意識の問題以前に、日本市場だけではフードテック領域で世界の競合に勝つことは難しいです。だから海外展開は前提で、最終的に日本は注力市場のうちの1つという捉え方になっていくと思います。

 

ーー世の中に浸透するのに時間がかかるとのことですが、売上が立ち始めるまでの試行錯誤はありましたか?

そうですね、やはり自社ECのD2C販売のみだと啓蒙コストがかかったり、認知されるまでに非常に時間がかかるという課題がありました。だから、D2Cという手法にこだわらずに、最初から小売展開もしていました。

今も全国のドン・キホーテさんに置いていただいているのですが、店頭に並んでいるだけでINNOCECTを知らない方にも認知を広げられるし、選択肢に入る可能性も高まりますよね。単純ではありますが、これはやってきてよかったなと思う試行錯誤です。

 

大事なのは、世の中にとって実利があるかどうか

ーー昆虫食というと、食べる前にイメージで敬遠されることも多そうだなと思いました。そのハードルはどのように乗り越えられていますか?

もちろんそのハードルもあって、それに対して私たちができることは3つあると思っています。1つは、見た目は他の食品と何ら変わりない状態にすることです。視覚から昆虫を感じさせないだけでも、食べるハードルは低くなると思います。

2つ目は、圧倒的に栄養価や機能性が高い状態を作ったり、お求めやすい価格にしたり、食品として消費者に実利のあるものにすることです。

3つ目は、クリケットが食品原料の1つとして当たり前に使われる世の中にすることです。栄養価と機能性が高く、サステナブルな食品原料であることがクリケットの価値なので、昆虫かどうかということに人々の意識が向いてしまうのはもったいないですし、本質的ではないと思っています。

既存食品に使われている原料も、名前はよく見るけど実際どういうものかわからないまま摂取している人は多いと思うんです。クリケットも、わざわざ昆虫であることを出す必要もないと思っているので、人々が意識せずとも当たり前に使われるような世界線を作っていきたいです。

 

ーー現在の購入者も、栄養価や機能性など食品としての価値に魅力を感じてINNNOCECTを買っているのでしょうか?印象的だった購入者の声があれば教えてください。

クリケット以外にも栄養価が高い自然由来の原料を組み合わせているので、健康意識が高い方々には主に栄養価や機能性といった点に魅力を感じていただいています。それに加えて、サステナブルな商品である点も評価を頂く指標になっています。

また、既存のプロテインよりも癖がなく、クリケットを使っているほうがむしろ飲みやすいという声もたくさん頂きます。クリケットを使うと、昆虫が混ざってまずくなると直感的にイメージされる方も多いかもしれませんが、実はナッツみたいな淡白な風味なのでとても馴染みやすい原料なんです。だから既存品よりも味が良く飲みやすいと言っていただくことが多くて、非常に印象的ですね。

 

ーー代替タンパク質といえば大豆や細胞培養といった選択肢もありますが、それらと比較した場合の昆虫食の優位性は何でしょうか?

まず大豆は植物性のタンパク質ですが、昆虫は牛や豚などと同じ動物性タンパク質なので、そこが大きな違いです。動物性タンパク質のほうがより体に吸収されやすい点でメリットがあります。

細胞培養で作られる肉などのタンパク質は、現時点でコストの高さが課題になっています。しかし昆虫食は市場に流通できる価格になっているので、その点で優位性があります。

 

サステナブル産業の総合商社を作る

ーー今後の事業展開について、どのように考えていますか?

最初は人向けの昆虫食から始まりましたが、動物の飼料に使えるような商品なども作っていきます。そうやって昆虫を軸としてアプローチできるマーケットをどんどん増やしていくというのが直近の展開方法です。

昆虫軸で事業展開したあとは、僕が商社出身ということもありますが、サステナブル産業の総合商社を作りたいと思っています。世の中のビジネスモデルやプロダクトをサステナブルなものに置き換えていくような事業を複数展開して、サステナブル産業全体でインパクトを与えられる会社にしていきたいなと思います。

 

ーーサステナブル産業の総合商社、新しいビジネスの形ですね。現時点で特に気になっている分野を教えてください。

今ってサステナブルなプロダクトはたくさん増えているけど、消費者のニーズが供給量に追いついていないという課題があると思うんです。それはやはり、サステナブルやエシカルであるだけでは人々がモノを選ぶ理由にはならないということです。

人々の行動に変化を起こすためには、消費者のサステナブルな行動を可視化したり、その結果インセンティブが発生する仕組みを作ったりする必要があると思っています。具体的には、サステナブルな消費行動を可視化することで消費者の承認欲求が満たされるようなサービスや、独自トークンやWeb3を活用した金銭的なインセンティブです。こういった取り組みはすごく魅力的だなと思います。

 

ーー最後に、事業を通して社会にどのようなインパクトを与えたいですか?

今やっているフードテック事業で言うと、「人類の食の選択肢を増やす」挑戦をしています。その挑戦を続けることで、気候変動や食糧危機に対して良いインパクトを与えていきたいです。

株式会社ODD FUTURE https://www.oddfuture.net/

 

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interviewer

梅田郁美

和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
猫になりたい。

 

writer

張沙英

餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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