ごみの発生からリサイクルまでを一貫してデジタル管理。プラスチックの資源循環を
近年、プラスチックごみの課題に注目が集まっているが、プラスチックの資源循環を実現するにはさまざまなハードルがある。レコテック株式会社は、ごみの発生から、回収、リサイクル材の販売までを一貫して管理する資源循環プラットフォーム『POOL』を開発・運営している。企業がリサイクル材を使う上での課題や、システムをどのように展開していきたいかなどについて聞いた。
【プロフィール】野崎 衛(のざき えい)
レコテック株式会社CEO。北欧の廃棄物処理設備日本総代理店にて営業責任者を務め、製造、物流、流通などあらゆる業界への設備の導入及び資源循環に関するコンサルティングを行う。その後、2007年にレコテック株式会社を設立。国内外の廃棄物関連ハード、ソフト面のコンサルティング及びしくみ作りに20年間の経験を持つ。
もくじ
プラスチックの資源循環
—現在の事業概要を教えてください。
「ごみという概念のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、廃棄物に関するさまざまな事業を行なっています。例えば、音楽フェスなど大型のイベントを開催するにあたって、廃棄物処理やエネルギー利用について整備し、環境負荷を下げるお手伝いをしています。また、新しく百貨店や商業施設ができる際には、施設内で廃棄物をどのように処理するのかを提案したり、処理のための機械を販売したりします。他にも、インドネシアなど東南アジアの各国で、廃棄物処理のハード・ソフト両方の面からコンサルティングを行なっています。これらの事業に加えて、現在はPOOLという新サービスの開発と社会実装に注力しています。
—どのような経緯で起業されたのですか?
社会人になってしばらく経った後に、環境問題に興味があったので、廃棄物処理機械の会社に転職しました。そこでは、主に工場に対して、どのように廃棄物をリサイクルするか、どのように処理のコストを削減するかなどを提案し、処理機械を販売していました。食品工場、自動車工場などに加え、百貨店、運送会社など、ありとあらゆるごみ置き場に足を運んできました。廃棄物の現場を知っていくにつれ、環境や廃棄物に対する問題意識が強くなっていき、より良いソリューションを自分で提案したいと考えて、起業に至りました。
—特にプラスチックの資源循環に着目されているのはなぜですか?
廃棄物の中でも、プラスチックと生ごみの廃棄は大きな課題を抱えています。これらの廃棄物処理の環境負荷を下げていくだけではなく、資源が循環するような仕組みを作ることが求められています。しかし、現状ではリサイクルするより廃棄する方が圧倒的にコストが安いんです。そこで、このコストを許容しビジネスとして成り立たせるための条件として、社会的な要請や規制をうまく利用する必要があります。近年、SDGsの流れや海洋プラスチックの問題などから、プラスチック廃棄の課題が注目を集めています。さらに、今年4月からはプラスチック資源循環促進法という新たな法律が施行されプラスチックに関する規制が以前より厳しくなりました。このように、プラスチック処理にお金が投じられやすくなった社会的背景を利用して、まずはプラスチックの資源循環に取り組み、仕組みを整えたいと考えています。今後、段階的に他の廃棄物もこの仕組みに乗せていきたいと思っています。
—現在、プラスチックはどのように処理されているのでしょうか?
一部はリサイクルされていますが、現在はほとんど焼却か埋め立ての二択ですね。日本では、8〜9割のプラスチックが焼却されています。そのうち一部はRPFという燃料として利用されます。一方で、東南アジアやアメリカでは埋め立てが主流です。焼却ではCO2排出などの課題、埋め立てではそこからプラスチックが海に流れ出るなどの課題が引き起こされています。
PCR材は足りていない
—POOLについて教えてください。
プラスチックをリサイクルに出したい企業と、プラスチックのリサイクル材であるPCR材を利用したい企業をつなぎ、プラスチックの効率的な資源循環を行なうプラットフォームです。廃棄されたプラスチックの回収から、リサイクル、PCR材の販売までを管理しています。2021年11月にローンチしてから、大手百貨店やアパレルなど10社以上が賛同してくれて、15t以上のプラスチックを再資源化しています。
—企業はなぜPCR材を活用したいと考えているのですか?
特に大手企業がPCR材を活用したいと考えているのには、法的な規制が厳しくなったことや社会的な要請が高まっているという背景があります。
多くの企業がプラスチックを商品に使用していますので、それが販売した先でごみになります。また、廃棄の過程でCO2の排出や海洋プラスチックの問題を引き起こすなど、間接的な環境汚染に加担しているとも言えます。そのため、企業にとって自分たちが出したプラスチックが資源循環の仕組みに乗り、リサイクルされるということが、社会的な責任としてとても重要です。世界的にはすでに、ユニリーバやペプシなどが「2025年までにPCR材を自社の製品に何%入れる」というような宣言をして取り組みを進めています。日本企業もグローバルに戦っていく上で、より熱心な取り組みが求められるでしょう。
加えて近年、大手企業にとっては特に、サプライチェーンにおけるCO2排出量の見える化が非財務情報として重視されるようになってきました。多くの企業が、自分たちが調達した材料の環境負荷、つまりCO2の排出量を可視化し、より環境負荷が小さい材料を仕入れることを目指しています。投資家は、このように企業が環境問題に取り組んでいるかを表す環境指標を重視していて、この評価は株価に影響を及ぼします。そのため、プラスチックを使用する場合、PCR材を利用する方が環境負荷が小さくなるので、企業はPCR材を活用したいと考えるわけです。
そしてさらに、若い世代では環境に配慮した商品かという点がものを買う判断基準として重視され始めています。そのため、今から本気で取り組んでいかないと今後競争に負けてしまうという意識も、PCR材の活用需要が高まっている背景の1つです。
—PCR材を活用する上で、どのような課題があるのでしょうか?
多くの大手企業がPCR材を活用したいと考えていますが、需要に対して供給が足りていないのが現状です。これは、ただごみとして出す方がリサイクルに出すより安いし、きちんと分別するのも面倒くさいと思う人がほとんどで、リサイクルに出す人が少ないためです。一方で、環境への意識が高く、細かく分別してリサイクルに出したいという人も少数ですがいます。しかし、例えば一般家庭や個人経営のお店が自治体の指定よりも細かく分別したところで、1つの素材の量はとても小さくなりますから、それをわざわざ集めにきてくれる業者がいないんです。このように、リサイクルしたいと考えている人がいてもそれを受け止められるインフラが整備されていないのも、PCR材が足りない理由の1つです。
—POOLは上記の課題をどのように解決するのでしょうか?
リサイクルの中で最もコストがかかるのが物流なんです。現状、容器リサイクル法によって、プラスチックの分別が義務付けられているにも関わらず、分別していない自治体も多くあります。これは、プラスチックごみの収集・運搬は自治体の役割なのですが、自治体にとってはきちんと分別すればするほど回収の物流効率が悪くなり、割に合わないからです。だったら分別せずにまとめて全部焼却炉に持っていこう、という考えになってしまうわけですね。
そこで、まずはこの物流効率を上げる必要があります。POOLは、どこにどのようなごみがどのくらい発生しているのかを地域ごとに可視化しています。1つずつの場所で発生している量は小さいけれど、地域ごとに量を可視化することで、物流の手配を組みやすくなります。
また、PCR材を活用する側の人にとっても、いつ・何が・どのくらいの量を確保できるのかがわからない材料はとても使いづらいですよね。特に製造メーカーは緻密な製造計画の中で動いているので、量や品質がわからない材料を使うのは不可能です。そこで、製造計画になるべく寄り添った形で情報提供を行ない、POOLを介せばPCR材が活用しやすくなるような仕組みを作っています。
プラスチックの回収からPCR材の販売まで
—サービス利用の流れを教えてください。
お店からプラスチックが出たら、まずは分別をします。そして、POOLにプラスチックの量を登録します。お店のプラスチックが一定量溜まったら、回収依頼ボタンを押し、回収を依頼します。そうすると、物流を担当する業者に回収依頼が送られます。物流側は回収依頼の通知を見ながら、プラスチックの回収を行ないます。「依頼はまだだけどルート上にあるから今日回収してしまおう」というように、物流効率を考えた判断がなされることもあります。回収したプラスチックは倉庫に集め、そこでも一定量溜まったら圧縮して、今度はリサイクル工場に運びます。リサイクル工場では、プラスチックが溶かされ、PCR材として生まれ変わります。PCR材を活用したい企業はPOOLを通じてPCR材を購入します。
プラスチックを出す側の企業からは処理費用としてシステム利用料を、PCR材を活用する側の企業からはPCR材を買うときにその費用を支払ってもらいます。そして、運搬やリサイクルを委託している企業に委託費用を支払うというようなビジネスモデルです。
—POOLのシステム利用料と廃棄処理費用はどちらが安いのですか?
従来の廃棄処理費用と同じくらい、もしくはそれより少し安いくらいに抑えられています。一時はプラスチックを中国に輸出し、人力で分別をしてもらうということが盛んに行なわれていました。しかし、中国がごみの輸入を全面禁止したので、国内に大量に廃プラスチックがあり余ってしまったんですね。その結果、プラスチックを処理するインフラが足りなくなり、規制が厳しくなったことも相まって、プラスチックの処理費用が高騰しているんです。このような背景があって、結果的に従来の処理費よりコストを下げることができています。
—企業は導入後、スムーズにPOOLを活用できているのでしょうか?
PCR材を活用する側の企業さんは自分たちの必要なものを必要な量だけ買うという流れなのでシンプルです。一方で、プラスチックを出す側のお店は、最初は苦戦しているところも見られます。例えば、百貨店や商業施設ではテナントに分別を徹底してもらうように依頼しないといけません。しかし、テナントは別の経営主体なのでうまく協力を得られず、最初のうちは決められた分別が守られないということがよく起こります。私たちも、POOLの説明やどう環境にいいのかなどをポスターにして掲示したり、直接テナントさんに対して説明会を開いたりして、活用のサポートをしています。処理費に対してコストメリットが出る可能性があることや、リサイクルに出すことで廃棄におけるCO2排出量を削減できることなどを、テナント側のメリットとして説明しています。また、回収したものの中にどのような異物が入っていたかなどのレポートをお返ししているので、そのレポートから分別が徹底されていないテナントさんを推定し、再度お願いに行く場合もあります。
あとは、これまで適当にごみを置いておいたら業者さんが持っていってくれるというような仕組みだったところでは、ある程度きちんと管理をしないといけないので、新しいオペレーションに慣れるまでに2〜3ヶ月がかかるようですね。
多様なセクターと協力し、全国展開へ
—自治体と積極的に協働しているのには、どのような背景があるのでしょうか?
そもそもPOOLの前身のシステムは、2016年に東京都から支援をいただいて開発を始めました。自治体は地域でプラスチックの資源循環を積極的に行ないたいというミッションを持っていますし、リサイクルに出されず自治体の焼却炉に運ばれてしまうごみを減らしたいと考えています。その想いが私たちが目指すミッションと重なり、一緒に事業を推進してきました。
また、私たちが自治体と協業したい大きな理由の1つに、遵法性の担保があります。廃掃法という法律上、廃棄物を取り扱うのには免許が必要です。そこで、私たちは自治体のミッションと目指したい方向性が同じこと、また十分に管理された状態で確実に材料として流通することを理解頂き、東京都から私たちのソリューションで扱うプラスチックを試験的に資源物として指定をいただいています。POOLを利用する企業は大手企業が多く、遵法性はとても重視されます。自治体と協業することで、遵法性を明確にすることが企業が安心してPOOLに参加する意思決定に繋がります。
—レコテックの強みは何だと思いますか?
まだまだ競合が少なく、先行優位性は強みだと思っています。廃棄物業界は規制の壁が高いこと、廃棄物という業界が馴染みがないということから、参入しあぐねている企業が多いのではないでしょうか。ただ、今後参入してくる企業は増えていくとも思います。静脈のサプライチェーンはとてもわかりづらく、かつ、関わるセクターが多岐に渡ります。その中でレコテックは、それぞれのステークホルダーに対して必要な情報やシステムを割り当てていくという総合力、コーディネート力も強みだと考えています。
—事業を運営する上で課題に感じていることはありますか?
日本では、「資源循環をしなければいけない」という意識がまだまだ低く、コストを削減できるかが最も重視されています。事業が一定規模に成長すればPOOLを利用する人にとって確実なコストメリットが出せるのですが、そのためにはまず一定規模まで利用者を増やし事業を大きくする必要があります。社会の資源循環に対する意識が高くなる、規制がより厳しくなるなどの可能性もあり得ますが、そうすると参入障壁が下がってしまいます。だから、POOLが先行優位性を保ちながら事業規模を拡大するために、今のうちにアクセルを踏むということが現在取り組むべき課題だと思っています。
—今後の事業展開を教えてください。
現在は東京がメインなので、全国の大都市圏に広げていきたいと思っています。今契約してくださっている企業さんはほとんど全国展開しているので、全国に広げて欲しいという声もたくさん届いています。そして、今は一部自治体とも協働してシステムの導入をしていますが、これから全国展開できるシステム・物流のソリューションを構築し、事業を加速していきます。
レコテック株式会社 https://recotech.co.jp/
interviewer
張沙英
餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。
writer
堂前ひいな
心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。
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