ボードゲーム型研修で効率的な学びを提供。良質な研修を届けるための工夫とは

企業向けにボードゲーム型研修を提供する株式会社NEXERA。NEXERAの研修は、テーマに沿った講義とボードゲームでの擬似体験を交互に受けることで、インプットとアウトプットを効率的に行うことができる設計だ。CBO(最高ボードゲーム責任者)を務める山本龍之介は、「ボードゲームは効果的かつ効率的な学びの手段。単なるボードゲームを作っているわけではない」と語る。『Marketing Town(マーケティングタウン)』の前回インタビューからの変化や、新規事業『CAREER MAKER(キャリアメーカー)』について話を聞いた。

【プロフィール】山本 龍之介(やまもと りゅうのすけ)

1994年生まれ。兵庫県出身。株式会社NEXERAのCBO(最高ボードゲーム責任者)を務める。家族の影響で幼少期からボードゲームに慣れ親しむ。大学時代にフランスやアフリカ、中東などを旅行中、ボードゲームを通して旅先の人と仲良くなれたことをきっかけにボードゲームの魅力を再認識。帰国後に自身でボードゲームを作る中、現在の代表である飛田恭兵と出会い2018年に(株)NEXERAを共同創業。現在はNEXERAで企業研修を行う傍ら、自らもボードゲームクリエイターとしてボードゲームの制作を手がける。

インタラクティブなオンライン研修という新しい在り方

ー前回のインタビューから会社全体として変化したことを教えていただけますか?

前回のインタビューはコロナになって、新しい研修の在り方としてマーケティングタウンのオンライン対応を始めようとしていたころだったと思います。だんだん企業の集合研修でもオンラインは当たり前に定着してきて、一時期はほぼすべての研修をオンラインで提供していました。従来の企業におけるオンライン研修は、座学で講師の方のお話を一方的に聞く形式がほとんどで、インタラクティブなものはほぼなかったんです。対してマーケティングタウンでは、会社経営の疑似体験をチームでも行なうことができるので、オンラインでも参加者同士で対話ができて、主体的に学べる仕組みがあります。そこに魅力を感じてくださった多くの企業さんに導入していただきました。時代の変化に合わせて柔軟に対応したことで、しっかり事業成長に繋げられたと思います。また、マーケティングタウンの成長に伴って、メンバーが増えたりオフィス環境が変わったりして、組織が拡大したことも大きな変化ですね。

オンライン研修の様子

 

ーこの1年半で、日本のボードゲーム文化において感じる変化はありましたか?

1つはボードゲーム自体の認知が広がったなと感じています。今まではマーケティングタウンの説明をするときに、ボードゲームの概念から説明しないといけないことが多かったのですが、最近は遊びのボードゲームが人気になってきたこともあってほとんどの方が知っている状態になりました。あとは、作り手とプレーヤーどちらも増えている印象です。コロナ禍におうち時間を充実させるためのツールとしてテレビやYouTubeなどのメディアでけっこう取り上げられたのが大きいと思います。

 

ボードゲーム学習は最も効率的に学べる手段

ー大手企業の導入実績も多いですが、企業はどのような経緯でマーケティングタウンを知るのでしょうか?

広告やWeb検索で知っていただくこともありますが、影響が大きかったのはNewsPicksさんに記事を書いていただいたことです。NewsPicksさんの読者は積極的に新しい情報に触れようとする人が多いので、マーケティングタウンと相性が良かったのと、「Newspicksに取り上げられている」という事実が信頼感に繋がりました。NewsPicksさんとは、『NewsPicks Learning』という最先端のビジネステーマを題材にした動画配信プラットフォームとマーケティングタウンを掛け合わせた研修プログラムの共同開発*もさせていただいていて、提供コンテンツやユーザー層がお互いに相性がいいと感じています。

*共同開発のリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000040127.html

 

ー研修内容を受講者に合わせてカスタマイズをされているとのことですが、どのように行うのでしょうか?

まず、プランナーが企業の課題をヒアリングします。マーケティングタウンは経営思考を鍛えるゲーム研修なので、ビジネスの全体像や経営についてわかっているプランナーが、その企業さんのビジネスを理解したうえで受講者に必要な学習は何かを考えます。プランナーのヒアリング結果をもとに、業界や課題によってルールや講義内容をカスタマイズします。ベースのルールやゲームバランスを壊していないかとか、ゲームに登場する数値調整などの検証は入念にします。

 

ー受講後のフィードバックをもとに改善することもあるのでしょうか?

受講直前、直後とその1ヶ月後にアンケートを取っていて、研修による行動変容が受講者に起きているかはチェックするようにしています。アンケートをもとに改善することもありますし、足りないと感じる部分がありそうだったらフォローできるような別の研修を提案することもあります。

 

ー現在さまざまな企業から注目されるようになってきていると思いますが、マーケティングタウンを広げていく中で意識していることはありますか?

マーケティングタウンの特徴的に、どうしてもボードゲームありきの研修だという印象が前に出てしまいがちです。でも僕たちとしては、いろいろな学びの手段がある中で、より効果的に、効率的に学びを定着させられるのがボードゲームであるという意識なので、“研修ありきのボードゲーム”を作っているんです。だから、ボードゲームがいかに効率的な学びに適しているかであったり、研修としてどれだけより良い学びを得られるかといった、効果の部分を理解してもらえるような発信を心がけています。

 

擬似体験を通した学びでキャリアを「自分ゴト」化に

ー新規事業『キャリアメーカー』の概要を教えてください。

キャリアメーカーは、キャリアデザインについて学べるボードゲーム型研修です。ゲームで体感して学ぶ点はマーケティングタウンと同じです。キャリアデザインとは、仕事だけでなく、余暇や心身の健康などのバランスを考慮して、人生におけるキャリアの行動指針を主体的に決めることを意味します。今は「VUCA*の時代」と言われることもあり、こうした考え方は近年重要視されてきて、キャリアデザインを意識する人が増えてきています。キャリアメーカーでは、事前理解としてキャリア設計の思考法や軸について講義を受け、5年後に目指すキャリア像を考えます。そして、その過程で発生するさまざまなイベントをボードゲームで擬似体験して、自分が立てた目標が達成できそうかどうかなどを体感したうえで、今後のキャリア設計を考えていく研修です。

*VUCA:Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語。先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態を指す。

 

 

ーどのような課題を感じてキャリアメーカーを立ち上げようと思ったのでしょうか?

マーケティングタウンで人事の担当者さんとお話していると、「若手のキャリア設計もゲームで学べたらいいよね」というお声が多かったんです。僕も、従来のキャリア研修はワークをやって、仕事における目標を考えるだけで、自分の人生にしっかり結び付けられていないのではないかという課題を感じていました。だから、もっと体系的にキャリア設計について学び、ゲームでライフイベントを擬似体験することで、キャリアを自分ゴト化できる研修を作りたいと思いました。社会的にもキャリアデザインに対する意識が高まってきていたころでもあったので、事業の立ち上げに至りました。

 

ーキャリアに対する行動変容は時間がかかるのではないかと思いますが、キャリアメーカーを通して受講者にどんな変化を与えたいですか?

キャリアデザインの難しさって、全体像がイメージできないところだと思うんです。キャリアについて考えようと思っても、何をどう考えたらいいのかわからない。キャリアメーカーでは、例えば部署異動や、結婚など将来のライフイベントに合わせて考えるべきことや、人生を逆算してキャリア設計ができるようになるフレームワークなどを習得できます。そういった思考法を知ってもらうことで、受講者のキャリアデザインに対するハードルを下げていきたいです。

もう1つは、擬似体験の中で、そのときどきの状況で使える会社の制度に気づけるような設計になっているので、現実で同じ状況になったときにうまく活用できるようになってもらいたいですね。

 

ー実際にキャリアメーカーで研修を受けた企業からの印象的な声はありましたか?

複数人で一緒にゲームをやるので、「自分の考えを擬似体験の中で人と比較できるのが良かった」という声があって印象的でしたね。具体的には、「この悩みは自分だけかと思っていたけどこの人も悩んでいるんだ」といった共感であったり、逆に「そういう考えもあるんだ」といった発見であったり、人と比べることでいろいろな気づきを得られるようです。開発時には想定していなかった楽しみ方だったのでとても印象的でした。

 

ーキャリアメーカーはどのようなプロセスで作られたのでしょうか?

キャリアメーカーに限らず、僕がボードゲームを作るときに大事にしているのは、伝えたいことがしっかり伝わるか、という点です。楽しいだけのゲームも好きですが、プラスで情報や学びを得られるかどうかが大事だと思っています。だからプロセスで言うと、まず「このゲームを通じて何を学んでほしいか」を考えることにほとんどの時間と労力を使います。キャリアメーカーだとキャリアに関する論文を20〜30本読んで、全体像が体系的に理解できた段階でゲームに落とし込んでいきました。ルールの全体図を構造的に作るまでが1番大事で、プロセスの7割くらいはこの作業に使っていると思います。あとは、類似のゲームを研究したり、楽しみ要素や数値の調整をしたりしていますね。

 

目標は「世界を代表する研修会社」

ー最後に、今後の事業展開や目標を教えてください。

いずれマーケティングタウンのデジタルゲーム版も作りたいと思っています。ボードゲームの場合、複数人でやるので臨場感を楽しめるのがいいところですが、個人の空き時間にできる手軽さもほしいなと思っています。

そして今後の目標としては、「研修会社といえばNEXERA」という認知を得て、将来世界を代表する研修会社になりたいと思っています。理想は、ボードゲームだから選ばれるのではなく、研修の質の高さで選ばれる会社になっていきたいです。そのために、もっといろいろなテーマの体験型研修を作って、それぞれの学びがシナジーを生むような事業展開を目指していきたいです。

マーケティングタウン https://marketingtown.jp/

キャリアメーカー https://www.careermaker.jp/

 

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    interviewer&writer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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