昔ながらのしょっぱくてすっぱい梅干しで、梅農家のやりがいを支え、新規就農をサポートする

昔ながらの甘くない梅干しを残したい。そう語るのは、100年以上続く梅農家に生まれた、山本将志郎だ。梅農家を5代目として継いだ兄が「やりがいを感じられない」と嘆いていたことをきっかけに、梅干し屋を開業することを決めた。現在は、梅干しの販売だけでなく、梅農家の後継者不足の問題にも取り組んでいる。販売における工夫や、新規就農者のサポートについて聞いた。

【プロフィール】山本 将志郎(やまもと しょうしろう)
株式会社うめひかり代表。和歌山県日高郡みなべ町にて、梅干しや梅干しを使った加工品の生産・販売を行なっている。北海道大学薬学部卒業後、北海道大学生命科学院に進学。大学院在学中の2019年に起業。実家は100年以上続く梅農家。

昔ながらの梅干しで、梅農家のやりがいを支えたい

—現在の事業概要を教えてください。

株式会社うめひかりは、和歌山県日高郡みなべ町という梅の生産量日本一の町を拠点に、塩と紫蘇だけで漬ける昔ながらの梅干しの生産・販売をしています。梅干し以外にも、梅酢や梅塩など、梅干しを使った加工品も作っています。また、地域の若手梅農家と僕の7人で梅ボーイズというブランドを立ち上げ、梅の栽培や梅干し作りの過程について情報発信をしています。これらの活動を通して、みなべ町に移住して梅農家に新規就農する人が増えることを目指しています。

 

—どのような経緯で起業されたのですか?

僕の実家は100年以上続く梅農家で、現在は兄が継いでいます。一方、僕は北海道大学、大学院にて薬学を学んでいました。たまに地元に帰省していたんですが、兄が「梅を育てても全て同じ調味液の味になる、やりがいを感じられない」と嘆いていたんです。梅農家は梅を栽培して塩漬けをした後、問屋さんを介して梅干し屋さんに卸しています。その結果、農家さんは自分の梅がどの梅干し屋さんに流れているのか、どんな商品になっているのかが全く分からないということを知りました。また、梅干しには昔ながらの梅干しと調味梅干しの2種類があります。調味梅干しとは、塩漬けした梅干しを一度塩抜きし、調味液で味をつけたり、日持ちするように防腐剤を加えたりした梅干しのことです。塩分が抑えられたり長持ちしたりしますが、塩を抜く過程で梅の成分や本来の味が抜けてしまいます。減塩ブームによって、塩分をいかに下げるかが重視された結果、調味梅干しが主流となり、現在、スーパーで見かける梅干しはほとんどが調味梅干しとなっています。自分が大事に育てた梅がどのようにお客さんに届いているのか分からないということ、味にこだわっても結局は調味液で味付けしてしまうことなどによって、兄はやりがいを感じづらくなっていたんです。そこで、兄が納得するような梅干しを作りたいと思って、大学院を中退し、梅干しの事業をすることに決めました。

加えて、どの梅農家さんにも共通して大きな問題となっているのが、後継者がいないことです。日本一の梅産地であるみなべ町で行なった調査でも、23%の農家さんにしか後継者がいないということがわかっています。梅農家さんがお客さんと繋がり、農家さんのこだわりを詰め込んだ梅干しを直接お客さんに届けることができたら、やりがいも感じられるし、梅農家になりたいと思う若い人も増えるのではないかと考え、今の事業に至りました。

 

—梅干しを商品化した後、トラックで日本一周されたんですよね。全国のお客さんとコミュニケーションする中で、どのような気づきがありましたか?

自分が作った梅干しへの反応を見たり、販路を確保したりするために日本一周をしました。まず、自分たちが届けたいと思っていた昔ながらの梅干しは、多くの人にとっては全く馴染みがないものであるということを感じました。実食販売をしていたんですが、食べた瞬間、そのしょっぱさにびっくりして怒られたり、吐き出されたりすることもありましたね。僕たち梅農家にとっては当たり前に馴染みのある梅干しが、一般のお客さんには全然知られていないことにまずとても驚きました。一方で、僕たちの梅干しのファンになってくれる方もいたんです。「何十年も前に食べたおばあちゃんの味がする」、「子どもの時に食べていた本当の梅干しの味のままで涙が出ます」と言ってくださる方もたくさんいました。みなさん共通して、この梅干しを探していたけど、スーパーには全然置いていなくてやっと出会えたと言っていて。この昔ながらの梅干しを熱烈に求めている人がいるということがわかり、ただシンプルに美味しくて日常的に食べられる梅干しを作っていこうと心に決めました。

日本一周されたとき

 

 

こだわりが詰まった梅干しと梅干しの加工品

—うめひかりで販売している梅干しについて教えてください。

僕たちが拠点を置く和歌山県日高郡みなべ町で作られた梅のみを使っています。現在は、塩のみで漬けた梅干しと、塩と紫蘇で漬けた梅干しの2種類を販売しています。調味梅干しとは異なり、すっぱくて、しょっぱい梅干しになります。

生産過程においては、2つ特徴があります。1つ目は、梅を塩漬けして干してから、最低半年間は寝かせていることです。干したてはかなりしょっぱいため、半年間寝かせることで、その本来の味は活かしつつもまろやかさが出て食べやすくなるんです。そして2つ目は、小さいロットで紫蘇漬けしていることです。大手の梅干し屋さんでは何百キロ単位で紫蘇漬けするのが一般的なのに対して、僕たちは20kgくらいの樽で紫蘇漬けしています。小さいロットで漬けることで、梅干しの色づきがよくなるしムラも少なくなります。

 

—梅干し以外に、梅干しを使った加工品も販売されているのにはどのような背景があるのでしょうか?

現在、梅干しを作る過程で取れる梅のエキスを抽出した梅酢や、種を取って果肉をチューブ状にした梅のチューブ、梅酢で色づけた梅塩などを生産・販売しています。日本一周した際に昔ながらの梅干しの認知の低さを感じたので、梅干しに馴染みがない人にも知ってもらえるように商品を開発しました。あと、梅干しは皮が柔らかいので潰れちゃうものも多くて、梅干しとして販売できないものをチューブなどの加工品にしています。最近では、銭湯さんとコラボすることで、梅干しの種湯を展開していて、種も含めて基本的に廃棄は全くない状態が実現できています。

 

—現在は順調に売り上げを伸ばされていますが、商品が売れるようになるまでどのような苦労があったのでしょうか?

最初の1年は全然思うように売れなくて、自分たちが作りたいものとお客さんが欲しいもののギャップを感じていました。最初は卸し売りをしてくれる新規店舗の開拓に力を入れていたのですが、もっとお客さんの声を聞く必要があると思い、方向転換をして、すでに販売をしてくれていた店舗さんでの販売に注力したんです。店頭に立って、いろんな方に試食してもらったり、自分たちで売り場作りをしたりして、お客さんの声を直接聞き、その声を活かして商品やパッケージを改善してきました。その結果、認知が広がり固定のファンも増えて、徐々に売り上げが伸びていきました。

 

EC、卸し売り、ポップアップ、全てでお客さんに寄り添う

—昔ながらの梅干しを求めている方に対して、どのように情報を届けているのでしょうか?

梅ボーイズはメンバーそれぞれがInstagramをやっていて、梅栽培の現場や梅干しを漬けるところなどの情報を発信しています。昔ながらの梅干しを求めている方の多くは、探しているけど買える場所が見つからないという状況なので、うめひかりを認知してもらうことが重要です。あとは、YouTubeや自社メディアでの発信にも力を入れています。毎年6月に梅仕事と言って、自分で梅干しを漬けたり梅酒を作ったりする方が多いんですね。昔は梅仕事と言えば、何十キロもの梅で1年分の梅干しを作るのが一般的だったのですが、最近は趣味の一環として1〜2キロくらいの少量の梅干しを漬けるという方が増えているんです。そういう方は、梅干し好きなので、自分で作った梅干し以外に日常的に食べられる梅干しを探していることが多いです。それで、YouTubeにて梅干し作りのポイントを発信しているので、その動画からうめひかりを知ってもらい、日常用としてうめひかりの梅干しを購入いただくこともよくありますね。Youtubeでは、自分たちの発信したい内容ではなく、お客さんが見たいと思う内容を発信するように心がけています。

また、僕たちは生梅も販売していて、それを使ってご家庭で梅干しを漬けられる方もいます。梅仕事をする中で、疑問点やトラブルがたくさん生まれます。そこで、生梅を買ってくださった方限定でLINEグループを作っていて、お客さんからの質問にフランクに答えるような取り組みもしています。

 

—全国いろんなお店で卸し販売をされていますよね。卸し販売においてはどのようなことを意識されているのですか?

規模の小さな個人商店さんがほとんどで、それぞれのお店に足を運んだり梅干しも直接送ったりという形で、直接契約をしています。お米屋さん、八百屋さん、酒屋さん、カフェなどですね。個人商店のお店って、店員さんの商品についての知識量が豊富で、熱意も高くて、なぜこの梅干しを取り扱っているのか?みたいなことまでお客さんに話してくれるんです。かつ、お客さんの声も直接聞いて、僕たちに伝えてくださいます。卸し売りはお客さんとのコミュニケーションが取りづらいからやらないというD2Cのブランドさんも多いと思いますが僕たちはお店の方と密に関係性を築くことで、卸し売りでもお客さんとの親密なコミュニケーションが可能になっていると感じます。だから、営業においても自分で足を運ぶことを重視しています。よく梅干しを3粒とかだけ持って、飛び込み営業をしています(笑)。営業するお店は、そこで扱われている商品にこだわりを感じるかという点で選んでいます。どうしてこの商品を置いているのか、この商品がなぜ良いのかを教えてくれるお店にご提案するようにしています。また、契約した後もお店に行って、固定のファンがつくように売り場作りもします。

 

—続いて、販売会やポップアップでの工夫があれば伺いたいです。

すでに商品を取り扱ってもらっている店舗さんでイベントをやることが多いですね。例えば、大阪の類農園さんという八百屋さんでは梅酢を取り扱ってもらっています。類農園さんでは、梅酢を使ったからあげの露店を出して、お客さんに梅酢の美味しさを体験してもらいました。また、工夫している点としてイベントを開催する場所付近にある取り扱い店をお客さんに紹介するということがあげられます。例えば、先日は札幌駅付近の商業施設にてポップアップを開催しました。北海道からECサイトでご注文いただくと、送料が1000円かかってしまうんですね。僕たちとしては日常的に梅干しを食べて欲しいので、より安く手軽に購入していただきたいと思っています。そこで、ポップアップで配るチラシには僕たちのECサイトの情報を載せるのではなく、札幌市内の取り扱い店舗一覧を載せて、お客さんが僕たちの商品を買いやすいように工夫をしています。

 

やりがいを支えることが新規就農に繋がる

—梅農家さんと関わる中で意識されていることはありますか?

僕自身は、農家さんは自分の梅がどのような商品になってお客さんに届いているかが分かればより強くやりがいを感じることができて、それが若手の新規就農者が増えることにも繋がっていくと考えています。しかし、この想いを農家さんに押し付けないということを意識しています。今、協力してくださっている農家さんは生産した梅のごく一部をうめひかりに卸しているだけなんですね。うちに卸すものとそれ以外のものを分けるのもかなり手間がかかることです。だから、僕の想いを農家さんに押し付けて協力してくださいとお願いすることはしていなくて、農家さんが自主的にやりたいと思ったら参加できるようなコミュニティでありたいなと思っています。

 

—農家さんからはどのような反応があるのでしょうか?

お客さんの声を農家さんに届けるとすごく喜んでもらえますね。うめくらべという商品があって、6つの農家さんが作った同じ品種の梅を食べ比べることができるという商品です。塩も同じもので漬けています。品種も塩も同じなのに土や栽培方法が違うと、梅干しの味が全く異なったものになるんです。うめくらべを買ったお客さんから、「全部美味しかったけど、◯◯農園さんの梅干しが一番好きでした」という声をよくもらうので、それを農家さんに伝えると、「モチベーションが上がります」と喜んでくれます。あと、梅干しを海外に送ったことがあって。それを農家さんに伝えたら、「自分の梅が海外に行ったらしいぞ」とご家族に自慢されたとおっしゃっていました。農家さんが自分の仕事に誇りを持てることが、若い人にも「農業ってかっこいい」と思ってもらうことに繋がるのではないかと思っています。

 

—新規就農者のサポートもされているとのことですが、現状どのような方がいらっしゃるのですか?

みなべ町には、この2年間で4人の新規就農者の方が来てくれました。例えば、去年新規就農でみなべ町に引っ越してきた大原くん。彼は、とにかく梅干しが大好きで梅に携わる仕事をしたいと思っていたそうです。以前は梅干し屋さんの店頭で販売のお仕事をしていました。Twitterで連絡をくれて、見学に来たいとのことだったので、去年の6月に1ヶ月ほどうちで収穫のアルバイトをしてくれました。それで、「収穫も草刈りも大変だけど、これが美味しい梅干しに繋がっているなら全然苦じゃない」と言っていましたね(笑)。アルバイトなどの体験を経て、現在は梅農家として働いています。

 

—新規就農者の方に対して、具体的にどのようなサポートをされているのでしょうか?

僕たちは、うめひかりという梅干し屋と、梅ボーイズという梅農家が完全に連携しているので、お客さんが商品に興味を持ってくれたらその梅を生産した農家さんと直接繋がることも可能です。だから、大原くんも商品を買って美味しいと思った商品の農家さんと繋がって、実際にその農家さんの農園で体験したり研修をしたりしてもらいました。直接農家さんと繋がれるというのは、新規就農者にとって魅力的だと思います。一方で、新規就農できても、その後独立したり長く続けたりするのはハードルが高いということも1年目で感じました。そこで、2年目から取り組み始めたのが、新規就農者が自分で実践できる畑の確保です。地域で担い手がいない畑をお借りしてみんなで耕し、新規就農者が自由に使える畑にしました。新規就農者は基本的に梅農家さんの元で研修をするのですが、最初はなかなか梅の収量に関わる重要な作業は任せてもらえないことも多いんですよね。なので、週1くらいは自由に使える畑で自分が学んだことを試せるようにしました。農家さんのもとで雇われながら基本的な仕事をしつつ、自主的に畑を耕すこともできるという仕組みになっています。

 

全国で、梅文化を次世代に

—今後の事業展開について教えてください。

みなべ町では新規就農者が増えてきて、良い循環が生まれていると感じます。一方で、梅農家の後継者不足の問題は全国の梅産地に共通しています。和歌山以外にも群馬や福井、神奈川などが梅の産地として有名で、それぞれの産地特有の品種などもあります。だから、これからは和歌山だけではなく、全国の梅産地を盛り上げていく活動をしていきたいと思っています。その第一弾として、全国の梅農家さんの梅の食べ比べができる商品を開発中です。今年は、群馬、福井、愛知、和歌山の5県の梅干しを食べ比べできる予定です。全国の梅産地で梅文化を次世代に繋げるということに今後取り組んでいきます。

 

うめひかり https://umenokuni.com/

 

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer

堂前ひいな

心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

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