文化を纏う、D2Cファッションブランド。伝統産業に適正な価値を与えたい
使わ“れなくなった”、作ら“れなくなった”、着ら“れなくなった”という3つの“れなくなった”にアプローチするブランドを運営する、株式会社Dodiciの大河内愛加。日本とイタリアの2拠点で生活する彼女は、衰退している伝統産業の生地を使い、新しい価値を生み出し続けている。伝統文化を新しい形で取り入れるにあたって意識していることや、「文化を纏う」というコンセプトに込められた思いなどを聞いた。
【プロフィール】大河内 愛加(おおこうち あいか)
株式会社Dodici代表取締役社長。1991年横浜市出身。15歳の時、家族でイタリア・ミラノに移住。Istituto Europeo di Designミラノ校卒業。 2016年2月に、デザイナー兼ディレクターとしてブランドrenacnatta(レナクナッタ)を立ち上げた。現在は日本とイタリアの2拠点生活。
もくじ
価値あるテキスタイルに光を当ててあげたい
ーまず現在行われている事業について、それぞれ教えてください。
renacnatta(レナクナッタ)というブランドと、cravatta by renacnatta(クラヴァッタ・バイ・レナクナッタ)というブランドをやっています。「レナクナッタ」というのは使わ“れなくなった”、作ら“れなくなった”、着ら“れなくなった”という3つの“れなくなった”を指しています。
まずrenacnattaは2016年の2月に立ち上げて、現在6年目のブランドです。日本とイタリアで使わ“れなくなった”デッドストックの生地を組み合わせた、スカートなどを販売してきました。立ち上げてからしばらくして、デッドストックの生地だけだと数に限りがあり、販売しては売り切れの繰り返しでお客さんにもストレスを与えていると感じるようになりました。欲しいと思ってくれている全ての人に私たちの商品を届けられるような生産体制に整えたいと思うようになりました。新たに以前より作ら“れなくなった”、斜陽産業の伝統工芸を継承する企業や職人さんとタッグを組んで作るアイテム展開も始めました。西陣織で作る「一生着られるウェディングドレス」や、イタリアのシルクに京都の伝統工芸である金彩を施したイヤアクセサリーなどを販売しています。
cravatta by renacnattaは2021年の4月に立ち上げたブランドで、着ら“れなくなった”着物をアップサイクルしてネクタイを作っています。renacnattaの方は女性向けがメインですが、cravatta by renacnattaは男性向けがメインです。
ー最初にブランドを始められたのは、デッドストックの綺麗な布が使われていないことに対して「もったいない」という気持ちがきっかけだったそうですね。どんな布を使用しているんでしょうか?
価値があるのにもかかわらず、たまたまスポットライトを浴びることが出来なかった生地を買い付けて使用しています。イタリアの布は、価値はあるのにコレクションに選ばれず、卸売に出ているもの。日本の布は、着物の文化が衰退したことで使われなくなり、売れずに残っている反物です。こうしたテキスタイルにちゃんと価値を与えて、光らせてあげたいという想いがあります。
ー以前より作られなくなった伝統工芸の布の産地とコラボをされているということでしたが、コラボされる産地の伝統工芸はどれくらいの危機的状況なんでしょうか?
産地や事業者さんによっても状況が違うので一概には言えませんが、例えば西陣織に関してはここ10年から20年で大きく減少しています。また事業者さんたちの平均年齢も高齢化してきていて、自分たちの代で終わらせる決断をする人も多いように感じます。もちろん「もうやっていけない」という人たちを、私が無理矢理止めることはできません。でも一方で、必死に伝統を残そうとして、例えば着物以外への用途で技術を活かそうとしている方もいらっしゃるので、そういう人たちと一緒にものづくりをしています。
古いものを大事にする考えを、ブランドにも落とし込んだ
ーここまでのお話で、伝統産業の生地に対して、適正に価値が与えられていないという現状の課題が分かってきました。大河内さんがこの問題に取り組む意義について、ご自身ではどう考えていますか?
もともと、自分のブランドを持つということは一切考えたことがありませんでした。15歳の時からイタリアに住んでいて、大学卒業後すぐはグラフィックデザインやアートディレクションのお仕事をしていたんです。イタリアに住み始めて10年目の2016年に、私にとって大事な日本とイタリアのものを組み合わせたものづくりをしてみたいと思いました。せっかくものづくりをするなら同時にソーシャルグッドなことができればいいなと思うようになったんです。日本とイタリアで眠っているテキスタイルを使って洋服を作ろうと思ったのには、そんな背景がありました。
自分はなぜ伝統的なものに惹かれるのかよく考えるんですが、古いものを大切にする文化が根付いているイタリアで過ごしていたことが、私にとってのアイデンティティになっているんだと思います。古いものを大事にする考えを、自分のブランドにも落とし込みたいと考えたことが今に繋がっていますね。
シンプルなデザインで、本当に着たいと思えるものを
ー商品開発などの際、アイデアを生み出すために意識されていることはありますか?
使うテキスタイルや加工の手法を、最大限に活かせるデザインにしようということは心掛けています。具体的には、どんな時代でも、さまざまな年齢や体型の人でも着られる、シンプルなデザインにしています。スカートならシンプルなストレートスカートと、フレアスカートの2種類を扱っていて、足し算のディティールがあるようなデザインはしていません。一方で腰からお尻にかけて沿うフィット感や、綺麗なラインが出るようなシルエットにはこだわっています。
あまりデザインが奇抜だったり、トレンド的だったりすると、数年後に着られないということもよくあると思います。決して安いものではなく、できるだけ長く着ていただきたいと思っているので、そうした観点からもシンプルなデザインを心がけるようにしています。
それから、生地はもちろんいいものを使うのですが、その生地のポテンシャルに頼りすぎず、アイテムとして可愛い/かっこいいと思ってもらえるように意識しています。「西陣織を使ったからすごいでしょ」というようなことではなく、自分が本当に着たいかどうかというフィルターを必ず通すようにしていますね。その素材を使っていることだけに満足してしまわないことは大事だと思います。
ー日本とイタリアの生地を組み合わせていいものを作るのはすごく難しそうに感じます。両方の良さを活かすために意識されていることはありますか?
2つが調和するように意識しています。例えばリバーシブルのスカートなら、イタリアのシルクはすごく華やかな物が多いので、日本の着物地の方は濃紺のものや柄の少ないものを使うようにしています。日本の着物でも柄が素敵なものはたくさんありますが、私としては生地の質感を感じて欲しいと思っていて。また金彩アクセサリーでは、イタリアのシルクの上に京都の伝統工芸の金彩を施していますが、その組み合わせがとても好きです。イタリアのシルクの良さも金彩の良さも活かせて、「金彩は和だけのものではない」というアピールができるので、面白いアイテムになっているかなと思います。
協業先とのコミュニケーションについて
ー伝統工芸に携わる人たちとの協業において、気持ちよく協業をしてもらえるよう、意識されている点などがあれば教えてください。
一緒に仕事をさせていただいている方には同年代の方も結構多くて、しばらく他業界で働いてから家業の方に戻ってきて跡を継いだというような人もいらっしゃいます。若くて業界の外も知っているということで、すごく柔軟な考えを持っている人が多いです。なので、協業にあたって何かストレスがかかったりすることはなく、「こういうことをやりたい」とお互いに提案し合いながら協業することができています。
その中で私がうまくやれている理由が他にあるとすれば、完全に外の人間として入っているので「知らないことばかりなので教えてください」というスタンスを取っていることがあると思います。もともと私は関東の出身で、そのあとずっとイタリアにいたので、実際知らないことばかりです。それで先方も色々なことを教えてくださる人が多いので、良い距離感で協業ができていると思います。
ー協業先の事業者さんは、どのように見つけてこられるのでしょうか?
バラバラですが、人づてに紹介していただくことが多いですね。よくお世話になっている京都の金融機関では、地域のビジネスマッチングに力を入れられているので、協業に積極的な事業者さんと何度か引き合わせていただきました。
他には、私がSNSでつながっていた織元さんが夫の実家近くに工場を持っていて、行ってみたらとてもいい生地だったので使わせていただくことになったこともありました。こちらから協業先を探すというよりは、色々なご縁で知り合った人たちのものを見せていただいて、「この生地ならこういうものを作りたいな」という風に考えることから協業が始まることが多いですね。ただその場で即決してしまうのは危ないので、何日か考えてから「やっぱりいいな」と思えたら作るということにしています(笑)。
ー職人さんに対して価値を還元する上で、大事にされていることはありますか?
絶対に値切らないということです。職人さんや織元さんが提示してくださった金額は飲み込んで、それを踏まえて上代を決めるようにしています。職人さんや織元さんと私たちの利益だけ確保すれば、中間手数料を挟まずに価格を抑えながらもお客さんに上質な商品を届けることができるので、このスタンスを崩さないでいることができています。これはD2Cブランドの強みなのかなと思いますね。
丁寧なコミュニケーションをしながら、認知も広げていく
ー受注生産をされており、お客さんに待ってもらうことが多いということで、ポップアップへの参加も慎重だったとご自身のnoteで仰っていました。認知を広げることと、お客さんとのコミュニケーションがトレードオフになることもあるのではないかと思いますが、バランスを取る上で意識されていることはありますか?
お客さんを広げたい気持ちはもちろんありますし、認知が一気に広がりすぎて大変だった時は、今考えると自分が生産背景などを伝えきれていなかったなと思います。丁寧にコミュニケーションをとれば、認知を広げる上での問題はクリアしていけると最近は考えています。私がメディアに出させていただく機会も増え、それを見てお客さんになってくださる方も最近は増えています。新たに知ってくださった方達にとって難しいブランドにはなりたくないので、しっかりと生産背景やブランドの特徴を伝えていこうと思っています。
ーファンの方たちに応援、購入し続けてもらうための工夫があれば教えてください。
renacnattaの巻きスカートはサイズが1つなので、1回買えば次からはサイズ感が分かっていて、ECでの購入に相性がいいと思いますね。また工夫としては、商品を出すたびに、毎回生産背景をしっかり伝えるようにしていることがあります。どういう歴史があってどんな人が作っているかといった、商品を見ただけではわからないところまで伝えることで、より商品を魅力的に感じてもらえるようにしています。またSNSでお客さんたちとコメントでやりとりをしたり、インスタライブで新作が出るたびに商品紹介をしてその場で質問に答えたりもしています。
産地全体を盛り上げられるブランドへ
ー今後、アパレルブランドとして拡大していく上での展望を教えてください。
日本の伝統産業がなくなってしまうのは本当にもったいないと思っているので、私たちが関わることで少しでも生産が伸びるように取り組んでいきたいです。またそれで職人さんたちに仕事がきて、後継者が見つかって…という循環が生まれたらいいですね。将来的に、「renacnattaと組めば産地全体が盛り上がる」と思ってもらえるくらいのブランドとして認知されるよう、頑張っていきます。
また、renacnattaとcravatta by renacnatta、今後もこの2つのブランドを大切に育てていきたいと思っていますが、BtoBやプロデュースにも興味があります。renacnattaで培ったノウハウを、今後、他の企業や人と共有して地場産業で活用するようなこともしていきたいです。ただ、私の関心は常に伝統産業や日本に昔からあるものに向いているので、この領域で活動し続けられればいいなと思います。
ー今後、事業を通して社会にどのような影響を与えていきたいですか?
現在renacnattaでは「文化を纏う」というコンセプトを掲げていますが、ブランドを立ち上げた時にはこのコンセプトは存在しなかったんです。最初は伝えたいことがたくさんあって、でもある時、結局私は何を伝えたいのか改めて考えるようになりました。そこで結局私が売っているのはファッションではなく文化だな、と気づいたところから今のコンセプトが生まれました。だから、renacnattaというブランドでは今後も文化を売っていたいと思います。
「文化を纏う」を掲げ始めてから、このコンセプトの余白のあるフレーズがすごく好きです。読む人によって、伝統産業や伝統工芸の文化を想像してもらってもいいし、作り手や歴史のことを想像してもらってもいいと思います。このフレーズを色々な人が好きに解釈するように、纏う人や見る人が好きに捉えてくれるようなブランドでありたいですね。
renacnatta https://www.renacnatta.com/
cravatta by renacnatta https://www.cravatta-by-renacnatta.com/
interviewer
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。
writer
掛川悠矢
記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。
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