お坊さん4人が始めたエネルギー会社。サービスや経営には仏教的思想が根付く
インタビュー

お坊さん4人が始めたエネルギー会社。サービスや経営には仏教的思想が根付く

2022-02-05
#環境 #エコシステム

2016年4月から始まった電力の小売全面自由化によって家庭や商店が電力会社を選べるようになった。新規参入する電力会社「新電力」も一気に増加している。そんな中、自分が選択した団体に電気料金の一部が寄付される「寄付つき電気」という仕組みを作ったテラエナジーの竹本了悟。寄付つき電気の着想や、再生可能エネルギー由来の電力へのこだわり、経営の中に生きる仏教思想などについて話を聞いた。

【プロフィール】竹本 了悟(たけもと りょうご)
テラエナジー株式会社代表取締役社長。奈良県葛城市・西照寺の住職でもある。小学生のときにいじめられて自殺を考えた経験から「京都自死・自殺相談センター」(愛称Sotto〈そっと〉)を10人の仲間と2010年に設立。電話やメールで年間約4千件以上の相談を受けてきた。NPOの運営を通じて、ソーシャルセクターがお金を集める難しさを実感。寄付つきの電力サービスを思いつき、テラエナジーを起業した。

NPOなどにお金が流れる仕組みを作りたい

―現在の事業について教えてください。

想いだけでお金が集まる仕組みを作りたいと思い、寄付つき電気というサービスを提供しています。お客さんには1年に一度、寄付先団体の中から自分が寄付したい団体を選択してもらいます。そして毎月の電気代の2.5%を、お客さんが選択した団体にテラエナジーから寄付する仕組みになっています。また、再生可能エネルギー由来の電気を使用し、原子力発電のものは使わないという電力構成へのこだわりもあります。2018年に僧侶4人で起業した会社で、宗教者がビジネスをするという点で注目されることもあります。 

 

―起業の経緯を伺っていきたいのですが、竹本さんは元々SottoというNPOで活動されていましたよね。NPOを運営する上でどのような難しさを感じていたのでしょうか?

2010年から「京都自死・自殺相談センター(Sotto)」という窓口を運営しています。研修プログラムを提供したり、実際にメールや電話、対面で相談員がお話を伺ったりするという活動をしています。活動内容自体には自信を持っていますし、居場所を提供できているという自負はあるのですが、一方でマンパワーが圧倒的に足りていないという課題もありました。例えば窓口はパンク状態で全ての方への対応が難しくなっていたり、本当はもっと広報に力を入れて、情報を必要としている人に届くようにしたいけれどそこまで手が回らなかったりします。しかも、夜間の電話相談など身体的にもハードな仕事もあり、相談員がボランティアで継続して関わるのは難易度が高いのです。10年間活動を続けてきて、本当の意味で継続する組織にするためには、これを生業としてやっていく人を中心に据えないと難しいのかなと感じるようになりました。そのためには相談員を雇う必要があるのですが、今の団体のお金の状況では、雇用も難しい状態です。周りを見てみると、同じような悩みを抱えているNPOがいくつもありました。お金集めが上手い組織は、お金集めと活動の二軸を切り離して活動しているのですが、そうでない組織はそもそも人員が足りず、お金集めにコストを割けないケースも多い。こういった想いを持って動いている団体に、自然にお金が流れる仕組みが作れたらいいのにと数年間模索していました。

 

―そこからどのようにして電力会社を立ち上げることになったのですか?

ドイツにシュタットベルケ*と言われるものがあって、地方の地域住民が集まって電力会社を作り、電力事業での利益を使ってバスを走らせて、地域内でお金が循環する仕組みを作り、しかもそれが継続していると言うのを聞きました。日本でも電力が自由化されたタイミングだったので、めちゃくちゃチャンスじゃないかと思ったんです。しかも電力は22兆円の市場がある。こんなに大きい市場にチャレンジできるタイミングってそうそうあるものではないと思い、現在の事業での起業を考え始めました。

*ドイツにおいて、電気、ガス、水道、交通などの公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業(公社)のこと(アミタ株式会社「おしえて!アミタさん」より https://www.amita-oshiete.jp/qa/entry/015041.php

 

ちょうどSottoの活動で、NPOのお金集めについても考えている時期だったので、ふと「寄付つき電気」というアイデアを思いついたんです。電力会社に協力してもらって、電気代の一部が寄付に回る仕組みができたら、市場規模から考えても相当のお金をNPOに流すことができる。しかも一度仕組みを作ってしまえば、賛同する方々の電気代の一部がずっと寄付されるので、かなり安定した資金源となり、活動の基盤を作ることができると思いました。そこで、エネルギーの地産地消を掲げていらっしゃる「みやまスマートエネルギー」さんにご相談に行きました。僕らはお寺の関係者なので、お寺同士の繋がりや檀家さんといった既存のネットワークを使って電気の使用者とエネルギー会社の仲介をし、この仕組みを広めていけたらいいと思っている話などもさせていただきました。すると当時の社長であった磯部さんが「そこまで想いがあるのであれば、自分たちでやった方が納得のいく仕組みが作れると思いますよ」と提案してくださったんです。磯部社長に背中を押してもらい、そこからトントン拍子で起業と事業づくりが始まりました。

Sottoでのご活動の様子

 

想いを共有する人との繋がりを増やしていく

―どのような団体が寄付先になっているのでしょうか?また、寄付先の選定基準はありますか?

現在は、応援できる団体として41団体を登録しています。NPOや社団法人、企業にお寺など、そのジャンルはさまざまです。テラエナジーのホームページで、団体が取り組んでいるジャンルや、活動地域で寄付先を探していただけるようになっています。寄付先の選定基準ですが、僕たちの想いに賛同してくれる方であるかどうかが大きな基準となっています。自分たちもSottoと同じような困りごとがあるから活用していきたいというような団体さんにはぜひ一緒にやりましょうとお伝えして、登録させてもらっています。基本的には団体から申請してもらって登録する形式を取っていて、僕らから積極的にお声がけすることはしていないのですが、寄付つき電気という仕組みを見つけて、賛同してくださった方々と進めています。

 

―お客さんとしてはどのような方が利用されているのでしょうか?

SPINNSなどを運営されているヒューマンフォーラムさんや、佛光寺にあるD&DEPARTMENT KYOTOさん、和菓子屋の梅園さんなど、京都だと顔の見える関係で広がっています。みなさんそれぞれ想いを持って商売をされている方が多い印象です。それ以外にも、お寺繋がりで三十三間堂さんをはじめとするお寺や、お寺が運営する幼稚園、福祉施設などでご利用いただいています。

4割くらいが今挙げたような法人や団体のお客さんなのですが、残りの6割は一般家庭のお客さんです。関西や広島、徳島が多いのですが、各地域でバランスよくテラエナジーを使っていただいています。一般家庭のお客様は、登録されている寄付先団体の繋がりからテラエナジーに切り替えてくださる方が多くなっています。例えばSottoのサポーターの方々が電気を切り替えてくれて、寄付先にSottoを選んでくださって、Sottoもテラエナジーも応援してくださるような感じです。「電気会社を変えただけなんだけれど、寄付つき電気を通じて元々好きだった団体を応援し続けられて嬉しいです」というお声があります。他にも「原発反対派だけど、なかなかアクションできなくて大手電力会社から買っていた。テラエナジーに変えてから気持ちよく電気を使えています」というお声もいただいています。

  

―最初はお寺同士の繋がりや檀家さんといったネットワークを使って拡大していくことを目指していたと伺いました。現在のように一般家庭や事業者をターゲットにしていく方向性に転換した理由を教えてください。

事業を始めた頃は僕たちのつながりがお寺関係しかなかったので、お寺のネットワークを利用することを考えていました。しかし起業して、ソーシャルセクターの方や経営者の方とお会いするうちに、自然と重点が一般家庭や事業者に向いていったという経緯があります。テラエナジーの仕組みと僕らの想いをお話しすると、めちゃくちゃ共感してくれて、すぐにテラエナジーに変えてくれる方もいて。一方でお寺をはじめとする伝統教団は、保守的で新しいものを取り入れにくいという性質があります。そういった背景もあって、まずは想いに共感してくださる事業者や一般の方から広めていって、ある程度大きくなったらお寺のネットワークにも広めていければと考えています。

  

―お金の循環を実現するために、テラエナジーのコミュニティがどうなっていくことが理想ですか?

寄付つき電気の仕組みは、お金の現在の性質を変えていくチャレンジだと考えています。現在のお金は貯めることができ、持てる者がより有利なルールを設定できるという特徴があります。そうではなくて、シンプルに「応援したい」という気持ちによってお金が動くようになればいいなと思っています。寄付つき電気のユーザーは電気代を支払うだけで、プラスの出費なしで団体を応援できる。寄付先、ユーザーを増やしてこの流れを大きくしていきたいです。また、クラウドファンディングやファンドレイジングでお金を集めることができる世の中になってきましたが、お金が集まるかどうかが見せ方次第になっているという課題も感じています。冒頭でもお話しした通り、広報などにコストを割けないNPOなどもたくさんあります。そういった団体が、お金のことは気にせずメインの活動に注力できるようになればいいなと思っています。

 

 

広島のお客さん方とのお写真

 

電力構成へのこだわりと、テラエナジーの強み

―テラエナジーは再生可能エネルギー由来の電力にこだわり、また原発由来の電力は販売しないということを明記されています。電力構成を強く意識する理由についてお伺いしたいです。

僕は元々環境問題への知識もなく、むしろ環境問題に対して個人で取り組むなんて無理でしょという気持ちを持っていました。でも、起業してから本気で環境問題に挑んでいる経営者や活動しておられる方々に出会って、考えが変わっていきました。僕は昔、自衛官をしていたのですが、自衛隊の任務の中にシーレーン防衛といって石油の輸送ルートを守る任務があるんですね。でももし日本がエネルギーを国内で循環させて石油に頼らない生活ができれば、シーレーン防衛は必要なくなる。自衛隊の方の危険な任務が一つ減るし、国防費が一部浮くわけです。わざわざ遠い国から運んできて、それを燃やして空気を汚したり、地球温暖化を加速させてしまったりしている現状に、違和感を持ったんです。また原発についても東日本大震災の時に、人間がコントロールできないエネルギーを日々の生活で使っているんだと怖くなったことを思い出しました。そんな風に色々と考える中で、知れば知るほどちゃんとした選択をしたいと思うようになりました。一緒に起業した本多くんは仏教と環境を専門とする研究者ですが、彼の想いもあり、テラエナジーでは電力構成にこだわっています。

 

―電力の卸元としてみんな電力さんを選ばれたのはどうしてですか?

起業初期にみんな電力の真野さんをご紹介いただいて、寄付つき電気についてご相談させていただいたことが大きなきっかけでした。サービス概要についてお話ししたら「ぜひ一緒にやりましょう。応援しますよ」と言ってくださったので、そのままお願いした感じです。今考えると調査も何もせず、行き当たりばったりで意思決定をしていて怖いですね(笑)。でも、僕らとしては人と繋がって想いを共有して、信頼をベースに一緒にお仕事していければいいなと思っているので、本当にいいご縁をいただいたなと感じています。こういうところから「お前はビジネス向いてない」と言われたりもするんですが、信頼ベースの関係であれば共感してもらえる方には前向きにご協力いただけるし、失敗してもフォローしてくださる方が多いです。

 

―季節や天候によっては電力が高くなってしまうことがあると思います。これはテラエナジーにとってもユーザーにとっても痛手だと思いますが、どのようにリスクヘッジをしているのでしょうか?

正直いうと、僕たちのような小さな会社がリスクヘッジで取り組めることは本当に少ないです。例えば、少し割高ではあるけれど、先物取引で固定価格の電気を事前に買っておくだとか、新電力の会社さんと一体となって国に制度について提言していくなどが挙げられます。

またお客さんに向けては、新しいプランをご提供し始めました。というのも、2020年の1月に電力価格が高騰して、お客さんに負担を強いることになってしまったんです。最初は市場連動型のプランしかなかったのですが、固定単価のプランも用意しました。市場連動型だと通常時は大手電力会社から購入するのと比較して40%くらいの価格でご利用いただけるのですが、やはり急に価格が上がってしまうリスクもあります。そこで2つのプランを用意し、お客さんに説明した上で、どちらかのプランを選んでいただく形になりました。

 

―電力自由化で、環境に優しい電力会社や寄付つきの電気も増えてきていますが、テラエナジーの強みはありますか?

確かに寄付つき電気を取り入れる会社も出てきましたが、電気代の最大2.5%という割合で寄付しているのはテラエナジーくらいだと思いますそう言った意味で、ソーシャルセクターにお金が流れる仕組みを作りたいという想いが強く、実際にサービスの中でそれを実現しているというところが僕たちの強みではないかと思います。個人的には、他社であっても寄付つき電気と同じような仕組みを取り入れる会社が増えて、お金の循環が大きくなるなら、それはそれですごくいいなとも思っています。

イベント出展時のお写真

 

サービスとビジネスに根付く仏教思想

―最初は宗教者がビジネスを行うことへの反発もあったと伺いました。

基本的に新しいことを始めると、良くも悪くも反応は必ず来るので、今では批判がないと「ちょっとパンチ弱かったかな、エッジ効いていないのかな」と思うようになりました(笑)。会社を始めた頃の批判に対応するのは大変でしたけど、想定していた部分もあったのでそれほど何も思いませんでした。逆にポジティブな意見も同じくらい、もしくはそれ以上にいただいていたので、そっちを見ていました。元々あまりネガティブにならず、なんでもポジティブに受け取る性格なので、それが良いように作用しているんだと思います。今は宗教者がビジネスをやることに対する批判も少なくて、むしろ面白がってくれることが多いです。僕の場合は、起業までの明確なストーリーがあるので、そこを聞いていただければ「なるほど、だからお坊さんがビジネスをやるんですね」という風に納得してくれる方が多いですね。

 

―仏教的な思想が経営の中で生きていると思う点はありますか?

寄付つき電気というモデルそのものが、実はめちゃくちゃ仏教的な考えに基づいています。仏教には「身口意(しんくい)の三業」というのがあって、身業・口業・意業の3つをいい、人間の行為を身体・口・心の3つに分類したものです。その中でも意(心)が一番大事だと言われるくらい、仏教は想いを大切にしている宗教です。テラエナジーはお金が循環する仕組みを生み出したいという想いから形になったサービスなので、その過程やサービスそのものが仏教思想とリンクするんじゃないかと思います。それに、寄付先団体やユーザー、起業にあたって相談させていただいた方々などとも、思いの部分で繋がってきた。こういうところは、すごく仏教的かなと思っています。また、仏教には1人で独占するのではなく、シェアした方が幸せになりますよという考え方もあります。寄付つき電気という仕組みは、電気料金の一部を団体にシェアするという思想なので、これも仏教の考えを体現していると言えると思います。僕ら4人は仏教者なので、生き方そのものに仏教軸がある。なので必然的に考えや行動も仏教的になるし、ビジネスとして取り組んでいるテラエナジーも仏教的な仕組みになっているんでしょうね。

 

プラットフォーム化していきたい

―今後の事業展開について教えてください。

共感コミュニティ通貨の「eumo(ユーモ)」を導入できないかなと考えています。eumoは仮想通貨なんですけど、使わないと3ヶ月で腐っちゃうんですね。腐ったeumoはeumoユーザーに再配布され、循環していく事になります。僕がお金に対して抱いている貯め込まれてしまうという課題を解決する仕組みなんじゃないかと思っています。なのでeumoで電気代を支払えるような仕組みを作っていきたいです。あとは、テラエナジーがプラットフォーム化して、寄付先の団体さんやお客さまが持っている素晴らしいプロダクトやサービスがコミュニティの中で広がるようになればいいですね。

  

―改めて、事業を通じて実現したい社会はどういったものでしょうか?

Sottoで相談センターをやっていても感じることですが、自分自身小さい時からこの世界のあり方に違和感というか、居心地の悪さをずっと感じて生きてきました。現在の資本主義や近代国家をベースとする仕組みももちろん大事だと思っているのですが、そこから外れた在り方も良しとされるような価値観を提示していきたいです。また、実際にそこを外れた人たちが中に入れるコミュニティを作っていきたいなと思います。

  

テラエナジー株式会社 https://tera-energy.com/post/donation/

 

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    interviewer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

     

    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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