3日穿いても臭わないパンツ。穿き心地へのこだわりや丁寧なコミュニケーションで、愛されるブランドづくりを

海外でも愛されるアンダーウェアブランド『One Nova(ワンノバ)』。「3日穿いても臭わない」というキャッチコピーが印象的だ。機能性だけでなく環境への負荷が少ない素材を使っているところもこだわりのポイントである。しかし過去には、思うように売り上げが上がらず、苦しんだ時期もあったという。株式会社One Nova CEOの高山泰歌と、共同創業者兼広報の金丸百合花に、開発や販売におけるこだわりについて、またOne Novaが愛されるブランドになった理由についても聞いた。

※情報開示:One Novaはtalikiファンドの出資先企業です。

【プロフィール】

高山 泰歌(たかやま たいが)

株式会社One NovaのCEO。慶應義塾大学環境情報学部4年生。中学の頃から「社長になりたい」という夢を持ってきた。大学1年生でOne Novaを創業。共同創業の金丸と2人で、Forbes 30under30 Asiaや、CAMPFIRE AWARD 2018のファッション賞を受賞。会社は創業4期目に入った。

 

金丸 百合花(かねまる りりあん)

株式会社One Nova共同創業者兼広報。慶應義塾大学総合政策学部4年生。高校まではフェアトレードの活動に取り組み、高山に誘われたことがきっかけでOne Novaを共同創業。高校時代に琴の部活動に入っており、現在はTRiECHOES(トライエコーズ)というチームで琴のパフォーマンスをすることも。

機能性、環境負荷の低さ、包括性の全てを大事に

ーお二人でOne Novaを創業したきっかけを教えてください。

高山 泰歌(以下、高山)僕は中学1年生の時から、漠然と「社長になりたい」という目標を持っていました。大学受験では、起業家を多く輩出しているという理由で慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)を目指すことにしました。無事合格し、大学で出会った仲間を起業に誘っていたんですが、かなり断られましたね。金丸に声をかけたのは、アルバイトをしていた塾で、シフトが被った日のことでした。金丸とは大学受験の時に通っていた塾も一緒で、SFCを目指す仲間だったので、その日は一緒にラーメンを食べに行ってお互いに近況報告をして。金丸も、高校まではフェアトレードに関する活動に取り組んできたものの、大学で何をするのか決めかねているということが分かって、起業に誘いました。

金丸 百合花(以下、金丸):9番目に誘われました(笑)。それで結成してから、具体的にどんな分野で起業するかを話し合っていきました。

 

ー現在の事業について教えてください。

高山:『One Nova』と『sponge』という2つのブランドをやっています。One Novaはアウトドアやキャンプなどの外遊びで活躍するようなアンダーウェアを製造・販売しているブランドで、「3日穿いても臭わない」というキャッチコピーを掲げています。素材へのこだわりによって、連日穿いても臭いが発生しづらいようになっているなど、穿いたときの快適さを追求して開発をしています。また遊びに出かけるときの快適さを追求するだけでなく、遊び場である地球にも配慮するべきだというのがOne Novaの考え方です。製品からパッケージに至るまで、なるべく環境負荷の少ないサステナブルな素材を選ぶようにしていますね。また多くの方々に選んでもらえる状態にしたいので、幅広いサイズ展開を意識しています。現在取り扱っているのは男性向けのアンダーウェアですが、2022年には性別の選択肢も用意できるように準備を進めているところです。

もう1つのspongeというブランドはローンチしたばかりで、女性ならではの生理や尿漏れといった不快を軽減するための吸水ショーツを製造・販売しているブランドです。こちらは女性のエンパワーメントにつなげたいという想いで立ち上げたものですが、男性の中にも尿漏れに悩んでいる方はいますから、将来的には男性向けにもお届けしていきたいと思っています。

金丸:下着というものはあまり注目されませんが、衣食住の“衣”の中では一番身近にあるものですよね。そこに注目して、それぞれのアイテムに必要な機能をあてがっていくのが私たちのやりたいことです。このやりたいことを実現する過程で地球にフレンドリーであることや、お客様の選択肢をなるべく遮らず、生きていく上で起こる変化に対して、なるべく包摂していけるようなブランドであろうと取り組んでいます。

 

ー事業を始めるにあたってパンツに着目された理由はどんなものだったのですか?

高山:元々、金丸がフェアトレードについての活動をしていたり、僕は当時広まり始めていた“エシカルファッション”という概念がかっこいいなと思っていたりという要因があって、2人の興味関心が重なる部分がエシカルなアパレルのブランドだったんです。ただ自分たちは服の素人でしたから、服をデザインすることはできないだろうな、と思いました。それで、パンツくらいの小さな面積のデザインなら自分たちでもできるだろう、というシンプルな考えから始めたというのが1つの理由です(笑)。それからもう1つ、エシカルファッションにはまだまだ固いイメージがあったので、パンツそのものが持っている“ポップ感”で固いイメージを軽減できるのではないかとも思っていました。

 

商品展開を狭める理由はないから、どんなお客さんにも届ける

ーパンツの材料や繊維を調達して製造し、お客様のところに届けるまでの流れはどのようになっているんでしょうか?

高山:提携する商社さんや工場さんと一緒に調達や製造をして、できたものを販売しています。パンツを作り始めた時は、「透明なパンツ」というキャッチコピーで、素材や製造工程を透明化(可視化)することを最も重視して作っていました。ですがいわゆる”エシカルな素材”を使えばいいという安易な考えでオーガニックコットンを選んでしまっており、下着というアイテムの特性を考えると最適解ではないのではないかという疑問がだんだんと生まれてきたんです。エシカルな素材を使って作りたいという願望だけでは、お客様が求めるものになっておらず、思うように売り上げも上がりませんでした。それで最適な素材を探していった結果、メリノウールという動物の毛と、ブナの木からできた植物由来の再生繊維を使うことにしたのです。当時そういった生地はなかったのですが、協力してくれている工場さんに相談したところ、商品化まで漕ぎ着けることができました。

金丸:地球への負荷が少ないものを作りたいという軸が最初にあって、お客様とのコミュニケーションの中で「穿いていて気持ちがいいもの」という軸が足されたという感じです。

 

ー工場さんとのコミュニケーションの中でこだわっているのはどんな点ですか?

金丸:高山が商品開発を担当していて、工場さんとのやりとりをしているのですが、工場さんと私たちはお互い業界も専門性も異なっていて、だからこそのコミュニケーションが生まれているのが印象的です。最近でも高山が他のブランドの新しい商品を買ってきて、工場さんに「この商品はこんな素材を使っていてこんな特徴があるんですが、再現やこんな改善はできませんか」というような話をしにいっていました。このように、自分たちで開発している商品以外についてもずっとコミュニケーションをしているんですよね。

高山:僕はブランドオタクで、世界中の最先端のブランドを探すのが好きなんです。新しい商品が出たらとりあえず買ってみて、工場さんとも議論をすることで新しいアイデアを得られることが多いです。

 

ー幅広いサイズ展開をされていたり、性別の選択肢も増やすことを検討されていたりするとのことでした。展開が多くなると在庫管理にもコストがかかるかと思いますが、それでも穿く人へのホスピタリティを意識されているのはなぜですか?

高山まず前提として、展開を狭める理由はないと思っているんですよね。お客様から「One Novaのパンツを穿きたいけど、私のサイズがない」「自分の体の特徴的に合わない」いったお問い合わせが届くこともあり、そのお客様たちに届けない理由はないのでどんどん展開を増やしていっています。

在庫の問題に関して、確かにサイズもカラーも増やしていくと在庫を多く抱えなければいけないという課題はあります。ただ、自分たちは普通のファッションブランドのように毎シーズン新しいコレクションを出さなければいけないブランドではないので、定番商品さえ生み出せれば売り続けることができるんです。やっていくうちに需要の予測もだんだんできるようになってきていますので、廃棄のない売り方ができると思っています。

 

ーコンセプトづくりやマーケティングにおけるこだわりや工夫について教えてください。

高山生活の中でのシチュエーションやシーンに合わせて言葉を選び、伝えることは大事にしています。素材にこだわってものづくりをしている作り手側は、素材の特徴や機能にとても詳しいのですが、それをそのままお客様に伝えてしまうことが多いんですよね。でもお客様からしてみればどうでもよかったり、理解できなかったりということがほとんどです。One Novaで今使っている「3日穿いても臭わない」というコピーも、例えば「消臭抗菌パンツ」みたいな伝え方では想像がつかないですよね。旅行やキャンプでは2泊3日のシチュエーションが多いと思うので、具体的な数字を入れることで使用シーンをイメージしてもらいやすいように工夫をしたものになっているんです。

 

ブランドへの愛を寄せてもらえたことで、続けられた

ー最初「透明なパンツ」というキャッチコピーでクラウドファンディングをして資金調達をされたあと、思うように売り上げが上がらなかったとのことでした。それ以降どんなことに取り組まれてきたんでしょうか?

高山:商品の作り直しと、リブランディングに取り組んできました。金丸と僕以外に手伝ってくれていたメンバーもいたのですが、一旦解散をして2人の状態に戻してから、改めてスタートしました。

金丸:サプライチェーン周りも含めて全て変えましたね。パンツに必要な機能とは何なのかということを、改めて考え直していました。

 

ー苦労した時期もある中、One Novaを続けることができた理由や原動力はなんですか?

高山:正直リブランディングの際に、One Novaというブランドを閉じて全く別のブランドとしてやるというアイデアもあったんです。そこで続けられた理由としては、大学やお客様からの期待があったことが大きいです。教授やゼミの人たちも知ってくれていて、このブランドを閉じたら寂しいと言ってくれていましたし、One Novaというブランドは存続させたいと思ったんです。

金丸:お客様からも「今One Novaのパンツはどこで買えますか」とか、「元気ですか」とか気にかけてくれているメッセージが届いていました。それに対して状況を説明して、ブランドを閉じることも検討していることもお話しすると、「閉じるのも選択肢の一つだと思うけど、続けてくれたら嬉しいです」とお返事をいただけたりして。期待してくれている、必要としてくれているということをずっと感じていました。顔の見える人からも見えない人からも、ブランドへの愛を寄せてもらえたことが続けてこられた理由の根本にはあると思います。

 

ーユーザーからの声で、印象的なものがあれば教えてください。

金丸:1人で30枚くらいOne Novaのパンツを持ってくれている人がいたのは印象的でした。あと、結婚式の引き出物に使ってくれたという人もいらっしゃって、とても嬉しかったですね。結婚式という人生の一大イベントに、One Novaが使ってもらえたんだという。

高山:個人的に一番嬉しいのは、「これを穿いたら某大手アパレルメーカーのパンツには戻れない」という声ですね(笑)。僕はそのメーカーのものづくりやデザインがすごく好きなので、それよりも良いという評価をお客様からいただくのはとても嬉しいです。

 

ーOne Novaがユーザーからそこまで愛される理由は、どんなところにあると思われますか?

高山金丸のコミュニケーションの取り方が良かったというのが大きいと思います。InstagramやWebサイトでお問い合わせしてきた方に対して、全て金丸が対応していて、他のアパレルブランドでは見られないような丁寧な返事をしているんです。そこの丁寧さでファンになってくれるお客様は多いですね。

金丸:お問い合わせへの対応って、一般的にはコストと捉えられてしまうことが多く、メッセージ対応は外部の業者に委託するというブランドさんも少なくないです。でもそこはブランドのあり方を映す鏡のようなものだと思っているので、対応は自分の手で丁寧にするようにしていますし、お問い合わせから得られる意見も吸い上げて大事にするようにしています。

 

互いを知り尽くした役割分担だから、意思決定で衝突しない

ー共同創業における、お二人の役割分担はどのように行われていますか?

高山:ざっくりとした分類ですが、事務周りや生産、製品の管理などは僕がやっていて、お客様とのコミュニケーションやSNSの運用、メディア対応などは金丸がやることが多いです。

金丸:会社としての意思決定は高山が担当して、見せ方や美意識などは私が担当しているという感じですね。もっと細かいところでは、視覚的なデザイン周りは高山がやっていて、言葉遣いなどを整えるのは私がやる、というような分類もあります。なんとなくの得意不得意を分けています。

 

ー共同創業だったからこその、意思決定における良かったことや悪かったことなどはありますか?

高山:実は、意思決定で衝突することはほとんどないんです。お互いが決めるところが決まっているので、例えば金丸は銀行からいくら調達するといった話や、売り上げをどう作っていくといった意思決定には関わりません。一方でどんな商品を作るべきかといった話や、どんな言葉を使って発信するべきか、写真の撮り方はどうするかといったことは金丸に任せています。

金丸:私が会社の美意識に関する部分を担っているので、例えば商品を1つ作るか作らないかの決定は、高山が私にアイデアを投げて、私の反応を見て決めることが多いみたいです(笑)。

高山:金丸に「ないな」って言われたらその商品はないんですよね。僕の中では占いみたいな感覚で、ないと言われたら諦めてます。そんな感じで、よっぽどのことがない限り意思決定でぶつかることはないですね。

金丸:大学で高山と私は、社会問題などについての同じ授業をとることもあって、その中で生まれた問いに対してお互いがどんな意思決定をするのかというような話をしてきたので、お互いがどんな価値観を持っているのかが共有されているんです。そんな要因もあって、うまく意思決定の分担ができているんじゃないかと思います。

 

唯一無二の「ここでしか味わえない心地良さ」を届けていきたい

ー2021年7月にOne Novaさんは、talikiファンドからの出資を受けて下さっていますが、なぜこのタイミングで投資を受けようと思われたんでしょうか?

高山:事業を練り直した結果、しっかり実績が生まれてきたので、これを機にリソースを調達して、より多くの人に商品を届けたり商品展開を増やしたりしたいと考えたためです。talikiファンドを選んだ理由としては、数字だけでなく、「なぜこの事業をやりたいのか」「どんな過程を経てきたのか」「どんなチームでやってきたのか」といった定性的な部分を評価いただけたことが大きかったです。いい関係性で投資が受けられそうだなと感じたのでお願いさせていただいたのですが、毎月の定例ミーティングでも素直に悩みを打ち明けたりすることができています。

 

ー最後に、今後の事業における目標を教えてください。

高山:One Novaというブランド名は、“唯一無二”を意味する「One of a kind」が語源になっています。自分たちは唯一無二なものを届けていきたいと考えた時に、One Novaの唯一無二な部分というのは「ここでしか味わえない心地良さ」だと思うんですよね。今販売しているのはパンツのみですが、One Novaでしか味わえない心地良さを、いろいろな商品を作って届けていくブランドになるというのが目標です。

金丸:ブランドとして、人の選択肢を遮るということは絶対にしたくないという想いがあります。人に対しても地球に対してもフレンドリーなブランドとしてOne Novaがあり続けることで、新しい選択肢として手に取ってもらえる機会が増えればいいと思っています。

高山:人や地球に優しいブランドが増えれば増えるほど、いいものづくりの環境が整えられたりして、お客様もそういったブランドのものを自然と手に取れるようになってくると思うんです。One Novaは一つのロールモデルとして見てもらえるようになるというところも目指していきたいですね。

One Nova https://onenova.jp/

 

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