100年後も続く「森と地域」を地元宮崎に作りたい。地元愛あふれる林業の挑戦

宮崎にある「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」は、1階がカフェで、2~3階がコワーキングスペースである。兄弟で経営を行う今西猛は、宮崎県美郷町渡川地区で生まれ育った。親の代から受け継ぐ林業を行う傍ら、「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」では町おこしと林業のPRを行う。今回は、そんな今西猛さんの地元に対する思いを聞いた。

【プロフィール】今西 猛(いまにし たけし)
宮崎県美郷町渡川地区で生まれる。2007年に保育士として働いていた福岡からUターンを行い地元に。2016年に渡川に原木椎茸の栽培を行う。当時はまだ珍しかった体験型のイベントと販売をセットにした原木椎茸のオーナー制度を導入する。2017年に「山と街を繋ぐ」をコンセプトに、「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」をオープン。2019年にHUTTE FOREST WORKSを立ち上げ、持続可能な林業を行う。※若草HUTTEは2021年10月末でお兄様に事業譲渡。

宮崎の現状、森林伐採と人手不足の深刻化について

ー現在の事業について教えてください。

「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」というカフェとコワーキングスペースが併設された施設を運営しています。1階がカフェで、2~3階がコワーキングスペースとなってます。「山と街を繋ぐ」をコンセプトにしており、多くの人に林業や地域を知ってもらう場所として提供しています。どうしても林業は専門的な知識を必要とするため一般の人の関心が向かないということがあります。「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」は、道の駅みたいに観光を押し出すというものではなくて、あくまでカフェという形を取りました。来ていただいたお客さんには、お店に貼ってあるビラやフリーペーパーによって間接的にに森林伐採や人材不足などの林業に関する問題を知ってもらうきっかけになればと思います。また、「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」で提供する食材は、美郷町のジビエや椎茸を使っています。この場所を通して、地元の魅力が伝わればいいなと考えています。

コワーキングスペースはこれまで宮崎中心市街地にありませんでした。山と街を繋ぐ拠点というからには、山に必要な場所としてだけではなく、「街にも必要な場所」である必要があると感じていました。それが当時はコワーキングスペースだったんです。co-ba*(㈱ツクルバ)の共同創業者の中村真広さんとの出会いもあり、宮崎中心市街地初のコワーキングスペースは林業家がやるという面白いスタートを切りながら、3年間で累計2000人を超える人が集まるイベントスペースとまでなりました。いろいろな価値観・職業・年代の人がつながることで様々な可能性が広がり、街にとっても山にとってもいい影響が及ぶ場所と思っています。

*co-ba・・「あらゆるチャレンジを応援する」をコンセプトに、全国に広がるコワーキングネットワーク。株式会社ツクルバでの事業であり、2019年12月サービスをスタート。創業準備期から創業期までの起業家が集い、新しい事業やサービスを生み出していく場を目指している。(参考:co-ba

 

ー事業の着想のきっかけはどんなものだったんでしょうか?

もともと美郷町で渡川地区の方で体験型の農業イベントをしてきて、様々な方から原木椎茸を評価していただきました。しかし、渡川地区の本質的な問題解決の効果があるという実感がなかったんですね。一方で5年以内には人手不足の問題に関してどうにかしないと、渡川地区は本当に衰退してしまうと思ったんです。特に最近の林業は、森林伐採と人材不足という大きな問題を抱えているんです。どういうことかというと、バイオマス発電所が宮崎にできたこともあり、木を持っていけばお金に変わるという状況がここ何年か続いたんです。それで、宮崎の山から木々が消えていって、土砂崩れや水害の危険が高まりました。そんな山々に対して、植林をし森林のサイクルを回していくことが大事なのですが、林業に携わる人も減少し、高齢化しています。やはり、免許のいる専門職なので一般の方が入るには敷居が高く、入ってからもそのハードワークからすぐにやめてしまいます。結論、担い手が減少しています。この状況を一人でも多くの人に知ってもらいたい。そういう想いから、林業のこと、美郷町のことを知ってもらう場を作ろうと思ったんです。

 

発信、誰かに伝えるということ

ー美郷町のことを発信されて、今までどんな反響がありましたか?

宮崎の全市町村で持ち寄りのグルメコンテストがあり、私は美郷町代表として出たんです。ジビエのお肉を使って挑んですが、他のチームは宮崎牛やマンゴーを使ったものを出していたんですね。美味しさでいったら、宮崎牛とかマンゴーの方が断然美味しいはずで、勝ち目ないなと感じました。ただ、美郷町のジビエにも自信はあったので、Facebookを使ってたくさん発信しました。そうしたら、友達はもちろん県外のお客さんも自分のお店に並んでくれたんです。大半のお客さんがジビエを食べるのは初めてとのことだったのですが、どの方からも「美味しい」という声をいただきました。結果的にコンテスト自体も全体で2位に輝くことができました。

 

ー発信するきっかけはあったのでしょうか?

2018年の末に「宮崎県が無人ヘリで除草剤を散布する実証実験を開始した」という記事を目にして、第一に思ったのが宮崎の自然に影響が出るということです。確かに、農業においても人手不足ですが、除草剤を撒いていくのは逆に宮崎の自然を悪化させていくと思っていたので、その思いをブログに書いたんです。そうしたら、オーガニック農家の方からの応援をいただいたり、一般の方から「宮崎で除草剤の実験が行われていることを知らなかった」という声をもらったりと本当にたくさんの反響がありました。また、多くの人の応援もあり、除草剤反対のイベントもHUTTEで行いました。100人ほどの方が参加されて、県庁の方も出席され活発に意見を交換されていました。皆が地元のために、様々な視点から議論している。その光景を見た時に「誰かに発信する」ということの大切さに気付きました。結局、除草剤の実験は打ち切られたんです。自分たちには、何もできないと思うのではなく、何か発信してみる。それだけで、世の中を動かすことができると感じました。

 

地元宮崎の想いを継ぐこと

ー今西さんは一度福岡の保育園で勤められていたとのことですが、地元に帰って来られたきっかけは何だったのでしょうか?

福岡の生活も本当によかったんです。たくさん友達はできるし、交通も便利でした。ただ、小学校の全校生徒が5人だったとか、川で遊んでたとか、自分にとっての当たり前を福岡で共感してくれる人がいなかったんですよね。そして、宮崎に大人になって帰ってきた時に、今まで見えてなかった問題が見えるようになったんです。子どもの時には何気なく食べていた椎茸の値段がこんなにも安くしか売れないのかとか、可愛いと思ってた鹿が実は畑を荒らす害獣だとか。ただ、人手不足ということで誰も解決する人がいない。それが悲しくもあり、自分を動かすきっかけにもなりました。

林業している人は、子どもに「継がなくてもいい」って口では言うんですが、実際に帰ってきたら嬉しそうな顔をしてくれたんです。やはりそういう地元の人の想いを繋いでいくことは大事だなと改めて感じました。なので、自分もできれば子どもに、そして孫にも継いでもらいたいです。強制はしないですが、魅力には気付いてもらいたいですね。

そして、なんといっても「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」に来てくれる若い人には、林業を担うような人が出てきてくれるとありがたいと考えているのでそれを目指しています。

 

これからの宮崎の未来について

ー「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」は新型コロナウイルスの影響はどうでしたか?

「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」でのイベントはほとんど中止になりました。ただ、それでも発信するということは止めずに行っていました。梅干しをゼロから作れるようなイベントをオンラインで開いたり、農家の方にスポットライトが当たるような取り組みをやっていました。オフラインの温かさも大事にしていたので、できればオフラインでイベントをしたいんですが、やはり難しいというのが現状ですね。ただ、カフェ自体は空いてるのでそこに来てくださるお客さんを大事にしています。

 

ー今後の事業展開の構想について教えてください。

「若草HUTTE&co-ba Miyazaki」を開いて3年が経つんですが、これらもたくさんの人に届けたいと考えています。発信ももちろん続けていくのですが、実際に自分が問題を解決するために事業を動かしていきたいと思います。自分の姿をみて、林業に少しでも興味を持ってくれる人が増えるといいですね。私のビジョンは「100年後も持続する森と地域を生み出す」というものです。そのために林業の価値観をガラッと変えるようなものを打ち出していきたいと思います。止まらず、チャレンジをし続けていきたいですね。

co-ba Miyazaki https://co-ba.net/miyazaki/
※若草HUTTEは2021年10月末でお兄様に事業譲渡済み。

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer

馬場健

アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。