“作る”から”手放す”までを気持ちの良い循環にしたい。デニムの産地岡山のアパレルブランドが目指すものづくりとは

デニムの産地岡山にて兄弟でアパレルブランドを立ち上げたITONAMI(旧EVERY DENIM)。「作るから手放すまでの循環の中に選択肢を増やしたい」と語るこのブランドは、他のアパレルブランドとは少し異なった企画を手掛けている。共同代表・弟の島田舜介に、それぞれのプロジェクトに込めた思いやITONAMIが目指すものづくりの理想を聞いた。

【プロフィール】島田 舜介(しまだ しゅんすけ)
ITONAMI共同代表。1994年生まれ、兵庫県出身。岡山の大学に進学後、デニムの産地について情報発信したいという思いで、兄の山脇耀平と共にEVERY DENIMを立ち上げる。クラウドファンディングを実施して製品を作ったり、店舗を持たずにキャンピングカーで全国を回り販売会などを行なったりした。2019年9月に岡山県倉敷市児島地区にDENIM HOSTEL floatをオープン。直営店併設の宿泊施設として運営している。

アパレルが抱える社会課題を、一人ひとりが実感の持てる話へ

—現在の事業について教えてください。

現在は、メイン事業としてデニムを中心としたアパレル製品の企画・販売をやっています。その他にいくつか事業/プロジェクトがあって、その1つ目が『服のたね』です。このプロジェクトでは、全国各地の参加者に綿の種を配布してそれを育ててもらいます。その後回収しオーガニックコットンとブレンドして糸を作り、その糸で製品を作るというものです。プログラムの中で参加者はオンラインサロンのような形で、綿の育て方を学んだり服の生産過程について工場の人に話を聞いたりすることができます。コロナ以前は実際に工場見学なども行なっていました。最終的に作るものは、1年目はシャツ、2年目はスウェット、3年目は靴下で、4年目となる今年はスニーカーと、毎年変わるので何回でも楽しんでいただけます。今期2021年は約150名の方にご参加いただいております。

2つ目は「服と、ヨリを戻そう」というコンセプトの『fukuen』です。汚れちゃったり色褪せたりして着れなくなったけど、大事だから捨てられないというような服を持っている方は多いのではないでしょうか。そのような服を送ってもらい、デニムの製造過程で使う染料であるインディゴ染料を使って染め直し、お客さんにお返ししてまた着てもらおうというプロジェクトです。2021年1月の開始以来、Tシャツ、シャツ、ワンピース、パンツなどさまざまな洋服を、およそ100着以上染めさせていただきました。

3つ目は一番最近始まったプロジェクトの『FUKKOKU』です。皆さんの履かなくなったジーンズを回収して粉砕し、糸に戻してそれで新たな製品を作ります。『服のたね』と共通して、僕らは生産背景や作り手の思いを伝えていきたいと思っているんですが、それを一方的に伝えてもなかなか響かないんですよね。そこでお客さんたちがプロジェクトを通して生産者側に回ることで、生産背景に興味を持ってもらえるのではないかと思い、FUKKOKUを始めました。全国100拠点以上と協力し、6月30日に第1回の回収を終えた時点で約3300本のジーンズが集まりました。

 

—ITONAMIの事業は、アパレルが抱える社会課題にどのように繋がっているのでしょうか?

まず生産過程としては、定番品を作るということを掲げています。シーズン品を作るとそのシーズンが終わってしまえばもう販売しないというように、廃棄が出やすくなってしまいます。だから僕たちは、来年も再来年も販売し続けたいと思えるような定番品だけを作るようにしています。

また、アパレル業界で特に取り上げられる大量生産・大量廃棄のような問題はすごく大きな話なので、それを一人ひとりが実感を持てる小さな話にしたいと思っています。問題意識を持っていても、実際の自分のアクションとしては何をしたらいいかわからないという相談を受けることがすごく多いんです。環境に配慮したり作り手との距離が近かったりするようなブランドは、大量生産しているようなブランドに比べて値段が高いので、「そういうブランドの服はたくさん買えないし…」というような相談もよくあります。僕たちがこのような悩みに対してまず思っていることは、今すでに持っている服を大事にしてほしいということです。この思いがfukuenに繋がっています。あとは、いらなくなった服の出口を作りたいと思っています。服も消耗品ですし、自分の体のサイズが変わって着れなくなるということもあります。そういうときに捨てる以外の手放す選択肢を作っていきたい、という思いで運営しているのがFUKKOKUです。さらに服のたねでは、生産に携わったり生産の背景を知ったりすることで、1着の服に愛着をもって長く大事に着るという意識を育むことに注力しています。

 

起業から現在の『ITONAMI』に至るまで

—起業のきっかけは何だったのでしょうか?

岡山の大学に進学して初めて、岡山がデニムの産地だということを知りました。大学に入ったころは、起業でなくても自分の好きなこと・やりたいことをやっていきたいとなんとなく思っていました。そこで東京や大阪に足を運んで、学生団体をやってみたりインターンに参加してみたりする中で、なんかもったいないなと、もっと岡山に住んでいるからこそできることをやりたい、やった方が良いと思うようになりました。昔からジーンズやデニム製品が好きだったので、その産業に何か携われないかなと考えていて。でもいきなり事業にするというイメージは湧かなかったので、まずはデニム産業のことをちゃんと知ろうと思い、工場に取材をして情報発信をするところから始めました。このタイミングからずっと兄と2人で活動を続けています。

2015年にITONAMIの前身である『EVERY DENIM』を立ち上げ、店舗を持たずに全国で展示会を開いて販売を行なっていました。2018年から2019年には、1年半かけてキャンピングカーで47都道府県を回ったりもしました。

 

—2020年10月に『EVERY DENIM』から『ITONAMI』に名前を変えられたんですよね。『ITONAMI』にはどのような思いが込められているのでしょうか。

最初に『EVERY DENIM』という名前を付けた時はメディアをやっていこうと思っていて、事業化しようとは考えていませんでした。そこから数年間事業を進めていく中で、事業領域が広がったり、ホステルをオープンして拠点を構えたりしたこともあって、ブランドに込めたい思いがどんどん変化していったんです。個人事業主から法人化するタイミングでもあったので、そこで思い切ってブランド名を変更することにしました。ITONAMIには複数の意味がこもっています。まず、ito(糸)とnami(波)に分けて、糸・繊維産業に関わっていくということ、穏やかな波がある瀬戸内海で事業をやっていくということを表しました。さらに、i(アイ)とto(→)とnami(波)に分けて、思いのあるものづくりをしている人たちの、思いそのものやプロダクトを波のように広げていきたい、たくさんの人に届けていきたいという思いも込めています。

 

「みんなで作ってみんなで使う」ものづくり

—FUKKOKUではゲストハウスや酒店などアパレル以外の拠点とも多く連携されています。どのように連携を進められたのでしょうか?

FUKKOKUでは、僕たちのもとに直接ジーンズを送ってもらうだけでなく、全国各地にある回収拠点にて拠点ごとに発信をしてもらい、その店舗の近隣のお客さんがそこにジーンズを持ち込む、という形でも回収を行いました。カフェ、ゲストハウス、酒店、お菓子屋さんなど、アパレル以外の店舗さんにもたくさん参画いただきました。この理由として、まず僕たちが持っている「使い手一般の人を巻き込んだものづくりがしたい」という思いはアパレルに限った話ではないので、アパレル以外の方も共感し参加しやすかったというのがあると思っています。また、FUKKOKUでは集めたジーンズで僕たちだけが何か製品を作るのではなく、できた生地をシェアして回収に関わってくれた人たちも何か作るという仕組みになっています。例えば銭湯だったらのれん、カフェだったらエプロンを作るという感じです。これは自分たちもFUKKOKUを始めてからわかったことなんですが、いろんなお店がオリジナルでグッズを作りたいと思っていて、でも素材や作り方の選択肢をそこまで知らないんですよね。何かストーリー性のあるものづくりをしたい、環境に配慮した作り方をしたいなどと思っても、どうしたらいいかわからないというお店がすごく多くて。その点、今回のFUKKOKUプロジェクトでは、この仕組みに共感して参加することで、自分たちのお客さんから集めた不要なデニムでオリジナルのものづくりができることを喜んでいただけたんです。加えて、この取り組みは全体として1つのプロジェクトでありながら、それぞれの回収拠点単体で見ても1つのプロジェクトになっています。それぞれのお店に普段来る人、ファンの人たちがジーンズを持ってきてくれて、それを素材にそのお店の製品を作る。でも1店舗では足りないので、みんなで持ち寄ってみんなで生産ロットをクリアしようというプロジェクトなんです。この仕組みに魅力を感じて関わりたいと言ってくださる店舗さんがすごく多かったですね。

 

—ジーンズを届けてくれた方からはどのような声が上がっていますか?

ジーンズと一緒に手紙を添えて送ってくださる方も結構いて、捨てるのもなんか嫌だけど、値付けして中古として販売するようなものでもない服があって、その出口があるのがすごく嬉しいというようなメッセージをよくいただきます。そのような服が何か違う製品に変わってくれるんだったら気持ちよく差し出せるとか、今までは気持ちのいい出し方がなかったからずっとモヤモヤと持っていたというような方からは、第3の選択肢として再利用されるのが面白いし嬉しいと言っていただくことが多いです。

寄付するという選択肢もあるとは思いますが、差し出した服がどこかに行ってしまうというのは、それが何かのためになっているという実感が持ちづらいんですよね。あくまで循環して自分たちの手元に戻ってくるということが大事だと思っていて、それで出来たものをまた長く愛用してくれたら良いなと思っています。

 

地域密着のブランドを目指す

—2019年の9月にはDENIM HOSTEL floatをオープンされました。ブランドと宿泊施設はどのように繋がっているのでしょうか? 

元々アパレルブランドをやりたいと思って始めたわけではなく、工場での生産背景や作り手の思いについてもっと多くの人に知ってほしいという思いが僕たちの起業の原点です。だから、宿泊施設を作ることで、そこに泊まり工場を見学に行くというようなプログラムを実現したいと考えていました。それに、キャンピングカーで全国を旅する中で印象的だった地域には、ちゃんとその土地のことを案内してくれる人がいたりその土地のことを知れるような宿があったんですよね。でも、僕たちが拠点としている倉敷市児島地区にはそういう地域性のある宿は全然ないのではないかと思っていて。それなら自分たちで作ってしまおうということで、2019年に直営店を併設する形でホステルをオープンしました。

 

—地域の産業を発信していくにあたって、岡山のデニム産業の方々とはどのように関係を築いていったのですか?

産地のメリットとして工場が密集しているので、色んな工場に訪問しやすかったんです。でも、やっぱりそれぞれの工場が競合同士ではあるので、全ての工場と一緒に何かを進めていくというのが難しいのが産地のデメリットでもあります。なので、最初からブランドを立ち上げて特定の工場と仕事をしていくのではなくメディアとしてスタートし、フラットな立場で色んな工場と関わりを持てたのは良かったなと振り返って思います。たくさんの工場を取材できたので、生産の段階でどこの工場と一緒にやりたいかを考えることもできました。実際にブランドを作ってからも、そうやって関係を築いた工場の方々に、素材のことや染めのことなど色々教えていただきながら、自分たちの製品を作っていきました。

 

服を大事に長く着てほしいから

—目指したい理想のブランド像はどのようなものなのでしょうか?

お客さんにとってより実感のある形のものづくり、みんなが生産に携わってできたものをみんなで身につけるというのが理想のものづくり像、ブランド像だと考えています。また、世の中の流れとして、アパレルの抱える社会課題に関する報道が増えていたり、環境に配慮したブランドが増えていたりするので、多くの方はすでになんとなくでも知識があるし、逆にブランドとして社会課題だけを前面的に押し出すのは少しトレンド的過ぎるような気もするんです。もっと根本的に「服を大事に長く着たい」という服への愛着って、こうやって大量生産とか言われる前の時代からあることで。そういう感情を思い出すような取り組みをブランドとして目指していきたいですね。

 

—今後の事業展開について教えてください。

今後やっていきたいことは、「作るところから手放すところまでを気持ちの良い形で手掛ける」ということです。今の事業でいうと、『服のたね』で作ることに携わってもらい、『fukuen』で服の寿命を伸ばし、『FUKKOKU』でいらなくなった服を手放してもらっています。この作るから手放すという循環の中の選択肢をもっと増やしていきたいと思っています。例えば、リメイクやリペアをしたり、長く着るためのお手入れの方法や普段どうやって服と付き合うかを考えたり。作るところから手放すところまでの色々なプロジェクトをデザインし、それをより多くの方に楽しんでもらえたら嬉しいですし、結果的に社会課題の解決に繋がっていけばいいなと思っています。

 

ITONAMI HP https://ito-nami.com/

 

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interviewer

掛川悠矢

記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

 

writer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。