飲食店を総合プロデュース。街の活気づくりやコロナ禍での支援も

飲食店の空間プロデュース・企画から建築、運営まで全てを手掛ける、総合店舗プランナーであるスパイスワークスホールディングス。代表取締役の下遠野亘は、飲食業界の”奥深さ”にどんどんのめり込んだと言う。今回のインタビューでは「のれん街」や飲食店におけるデザインの重要性、コロナ禍での生産者・飲食店支援事業などについて詳しく聞いた。

【プロフィール】下遠野 亘(しもとおの わたる)
株式会社スパイスワークスホールディングス代表取締役。建築専門学校卒業後、設計施工会社へ就職。1995年に飲食業界へと転身し、イタリアンやフレンチのレストランで経験を積む。2006年に株式会社スパイスワークスを立ち上げた。飲食店の運営や他社への企画・提案などを行う。特に店舗設計・デザインを得意とし、複数の店舗が集まった「横丁」の企画プロデュースも行うなど、多岐に渡る仕事を手がける。2018年に同社をホールディングス化した。1974年生まれ、千葉県出身。

店舗と街に活気を生み出す『のれん街』

ー現在の事業について簡単に教えてください。

スパイスワークスでは飲食店の運営や店舗の設計を行っています。現在は44業態、全国に87店舗の飲食店と2つの宿泊施設を展開しています。これらのノウハウを生かして、他社様への新規飲食業態やメニュー開発といった企画・提案事業にも力を入れています。また、のれん街をはじめとする横丁系飲食商業施設のプロデュースによって、街や建物を活性化しています。「飲食業に関わることは全てやる」という想いのもと、事業を展開し、現在ではお肉に関する総合サイト『&MEAT.(アンドミート)』や宿泊施設の運営、海外案件などにもホールディングスとして取り組んでいます。食に関わること全てをワンストップで行い、飲食業界で社会的に意味あることを創出することが、僕たちのあるべき姿だと考えています。

 

ー街や建物を活性化という側面で、『のれん街』についてお聞きします。これまでプロデュースされた中で印象的な事例を教えてください。

沖縄県の国際通りのれん街は百貨店の三越さんの跡地でやらせてもらっています。百貨店は、その地域の一番良い場所に建てられているんですね。それがなくなるということは、城下町で例えると城がなくなってしまうことと同義だと思うんです。そうすると地域の人の士気や意気も下がってきてしまう。今、全国どこにでもあった百貨店がどんどん閉店してしまっている状況が各地であると思います。これって空洞化の象徴のように捉えられている部分もありますよね。このように言われている場所で建物を借りて、再生して活気を取り戻していくような事業をやらせていただいています。

百貨店跡地に誕生した沖縄国際通りのれん街

 

ー百貨店だった建物をスパイスワークスさんで借りられているということでしょうか?

今は別の方が建物の所有者になっているのですが、その方からマスターリースという形で建物1棟をまるまる借りている形になります。全部借りて内装を僕たちの方でやり直して、それをテナントさんに貸し出すという方法を取っています。いわゆるショッピングセンター方式ですね。イオンさんのように、場所を持っていて、そこに入ってくれるテナントさんを探す方法です。横丁というのは、お店同士が切磋琢磨して共に売り上げを伸ばしていくというのが良い部分でもあるので、のれん街の中でそういった競争が生まれるようにしています。

 

ー国際通りのれん街は、地域にどのような効果をもたらしたのでしょうか?

テナントの方からは「信じられない。こんなにお客さんが入るとは思わなかった」と言われます。もともと国際通りでこのプロジェクトを始める前は、地元の方に「国際通りなんて地元の人通らないよ」と言われたこともありました。でも百貨店があったということは、地元の方がいらしていたということですよね。現場に立って調べてみると、実際地元の方も通ることがわかりました。だけど、お店が少なかったので、遊んだり食べたりする場所にはなっていなかったんです。国際通りは交通の便も良いのですが、そこにのれん街ができることで人が集まる交差点のような場所を作ることができました。

 

ー横丁を設計する上でこだわったところはありますか?

なるべくパーソナルスペースを小さくして、隣の人と身体や音がぶつかるようにしました。お店の価格帯によって、隣との席間というのはだいたい決まってくるのですが、居酒屋のような形態だと、周りの人の声が大きく聞こえたり、周りの人の動きを近くで感じたりできる狭さの方が、店全体に活気が湧いてきて良いんです。活力に溢れる状態を内装でそれっぽく作ることもできますが、席を近づけるなどの工夫をすることで、物理的に人がひしめき合っている状態を作り出すことができ、ここに来たら元気もらえるというか、活力が湧いてくるような感じを作り出しています。正のパワーだけでなく、時には喧嘩のように負のパワーが生まれることもありますが、こういったお互いの干渉を誘発させることで、人間味を帯びるようなくらいの距離まで持っていくっていうことを意識しています。

国際通りのれん街の店舗の雰囲気

 

飲食店におけるデザインの重要性

ースパイスワークスさんが飲食店の設計やデザインをされる際は、どういったことから始められるのでしょうか?

店舗設計をする前に、クリエイティブブリーフやクリエイティブファイル、コンセプトシートというものをしっかり作っていきます。どうしてこの形態なのか、どうしてこういう料理を出すのかといったところを、店舗を見させていただいたり運営者の方と一緒に話したりしながら固めていきます。単なるデザインではなく、商いを創造するためのデザインであるという気持ちでデザインもやらせていただいています。

 

ー飲食店にとってデザインはどうして重要なのでしょうか?

僕たちは飲食店に来てくださるお客様に満足していただくことを最重視しています。お客様の満足度が高ければ、自社の店舗であれクライアント様の店舗であれ、店舗の売り上げに繋がっていきますからね。ではどうすればお客様の満足度を高められるかというと、料理だけでなくお店の雰囲気も重要だと思っているんです。お店の雰囲気を作るのに重要なのがデザインです。イタリアンならイタリアン、フレンチならフレンチ、居酒屋なら居酒屋のイメージってありますよね。それぞれの空気感が空間からも伝わるようにしないといけないんです。僕らはデザインも施工も提案させていただいているのですが、デザインは工夫次第で何とかなるけれど、施工をケチるのは辞めた方がいいとお伝えさせていただいています。万人受けする店舗づくりを目指している方も中にはいらっしゃいますが、僕らはターゲットをセグメンテーションして、100人いたら2〜3人の方に100%刺さるものを目指しています。そういった意味でも、絞ったターゲットに満足していただける空間を作るためのデザインを行っています。

 

ー施工と違ってデザインは工夫する事で費用を抑えるアドバイスができるとのことですが、具体的にどのようにすれば良いのでしょうか?

例えば家具1つを取っても、装飾が施されているだけで随分と印象が違いますよね。ただ、取っ手の金具をつけたり、模様を彫ったりするだけでも値段が高くなってしまうんです。そういうときは、絵で描いてしまえばそれだけでかっこいいし素敵になります。ものにもよりますが、価格も5分の1程度に抑えられることもあるんです。施工は机の配置だったり照明の数だったりとなかなか削るのが難しい部分なので、こういった細かいデザインの部分でコストダウンを図ることができます。

海外輸入で行燈を安く仕入れて、タイの新聞などで壁を仕上げた

 

コロナ禍での取り組み

ー続いて、コロナ禍で生産者・流通業者と飲食店の両方を支援された取り組みについてお伺いしたいです。具体的にどのようなことをされたのでしょうか?

飲食店の時短営業や休業によって売れなくなった農作物を、生産者さんや流通業者さんから買い取り、飲食店で売っていくことを積極的に行いました。飲食店にはランチのノウハウなども提供し、普段は夜しか営業していなかったようなお店も時短要請の範囲内で営業できるようにしました。余ってしまう食材を各飲食店に捌きながら、飲食店は昼営業だけでも売上を確保し経営も維持できるようサポートしています。また飲食店だけでなく、飲食店のプロデュースを行っている方にもアプローチして、そのノウハウをさまざまな飲食店にシェアすることを促すなど、業界全体でこの状況に立ち向かっていく体制づくりも行いました。

 

ーどういった目的があったのでしょうか?

普段お世話になっている生産者さん、流通業者さんを支援するという目的です。普段飲食店向けに卸されている高級・中級の農作物というのは、一般の方には扱いづらいですし、特殊なものもあるのでスーパーマーケットではなかなか売れません。となると、飲食店で一生懸命売るしかないなと思ったんです。生産者さんや流通業者さんには日頃からお世話になっていたので、協力したい一心で始めました。

あとは、飲食店に来てくださるゲストの方々に「飲食店に行くという楽しい記憶」を忘れてほしくないと思っていたので、夕方まで頑張って営業することで、コロナ禍でも外食の楽しい体験を届けたいという目的もありました。

 

ースパイスワークスさんが他社に先駆けてこのような取り組みを実行できた要因はどこにあるのでしょうか?

普段から飲食店の方だけでなく、生産者さんや流通業者の方とも交流があったことが大きいと思います。飲食店を総合プロデュースする上で、関係者みんなが幸せになれるようにするにはどうしたらいいのか考えると、現場に出向くのが一番なんです。そういった想いから頻繁に現場に顔を出す機会があったので、生産者さんや流通の方にもお話を聞く機会がありましたし、逆に彼らに相談する機会もありました。飲食に関わるみなさんが仲間だと思っているので、仲間を助けるということで今回の取り組みを始めるのはある意味当たり前の流れでした。

あとはアイデアのストックがたくさんあったことも大きいでしょうか。飲食の仕事が好きだからこそ、人に強制されなくともアイデアを考えついては頭に留めておくということをしていたんですよね。今回の、夜営業しかしてこなかったお店に昼営業のノウハウを伝えるというアイデアも、その1つでした。

生産者応援プロジェクトを行った小浜水産8

 

飲食業の奥深さにハマって

ー下遠野さんが、長年熱量を持って飲食業に取り組み続けられているのはどうしてですか?

この領域って「食”文化”」と言われるくらい深い領域なんです。最初に飲食業に転身したときからどんどん泥沼にハマってしまって面白くなっちゃったんです。深みにハマってしまうし、さして儲からないので、自分の子どもたちにも「飲食はやめておけ」って言うくらいなんですけど(笑)。僕自身はどっぶりハマってしまって、次から次へとやりたいことが出てくるので、それを続けている感じです。

 

ー今後やっていきたいことや事業を通じて社会に与えたいインパクトについて教えてください。

僕はやりたいことをやってるだけなんですよ。世の中が少しでも良くなることに貢献することしか考えたくないなと思ってるんですけど、行き当たりばったりですから(笑)。アイデアを思い付いて「いいな」と思ったらやりたくなるし、今の段階じゃないなと思えばそれはアイデアの引き出しに仕舞っておく。そしてまた必要なときに取り出せばいいかなと思っています。飲食店の運営だけでなく、デザインや施工、そしてお肉屋さんや宿泊施設といった幅広い事業に今後も取り組み続けていくつもりです。

スパイスワークスホールディングス https://www.spice-works.co.jp/

 

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interviewer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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