65歳以上に特化した不動産サービス。物件紹介から契約まで徹底サポート

65歳以上が賃貸物件を借りるときの課題に注目し、サービス展開を行う株式会社R65の山本遼。起業時は高齢者が入居可能な物件情報が少ないことが原因だと考えていたが、実は契約までのサポートや、家を貸す側へのサポートが重要だと感じ、事業領域を拡大してきた。入居者の課題だけでなく大家や仲介会社にも寄り添い、業界全体を変えていこうと奮闘する彼に話を聞いた。

【プロフィール】
山本 遼(やまもと りょう)
株式会社R65代表取締役。2016年に法人化し、現在5期目である。愛媛県で不動産会社に就職、のちに東京都に転勤となる。上京してから担当した案件で、ご高齢の方が賃貸住宅を借りにくいという課題に気づき、R65不動産を立ち上げた。1990年広島県生まれ。

物件紹介を断られる高齢者

ーR65不動産の事業内容と起業のきっかけを教えてください。

65歳以上の方を対象とした不動産サービスを展開しています。具体的には賃貸物件の掲載サイト運営、不動産仲介、そして入居者の見守りと万が一の事故の際の保証が一緒になった『R65あんしん見守りパック(以下、みまもりパック)』の提供です。前職も不動産会社だったのですが、そのときのエピソードがきっかけで起業しました。ある夏の暑い日に80代の女性が賃貸物件を探しに来られたのですが、「ここで5軒目の不動産屋です」と言われたんです。高齢者が賃貸を借りるハードルは高く、実は僕自身もお断りしようと思っていたんですが、5軒目ということでお手伝いさせていただきました。200件くらいの大家さんに電話をかけましたが、ご案内が可能だった物件は5つしかありませんでした。そこで高齢の方がお部屋を借りにくいという課題を身をもって実感して、まずは65歳以上の方が入居可能な物件を集めた不動産サイトの運営から始め、仲介事業や見守り事業にも取り組んできた形です。

 

ーご高齢の方が賃貸を借りにくい原因とは何なのでしょうか?

1番わかりやすいのは”孤独死”です。やはり学生さんや社会人の方と比べると、高齢の方の方が居室内で亡くなる確率が高くなります。そうすると、賃貸住宅の価値毀損となってしまうので大家さんとしてはなるべく避けたいんですね。また”認知症”も同様です。入居者さんが認知症になってしまって火事や漏水を起こしてしまったらどうしようという心配から、高齢者に貸すのを躊躇する大家さんも居ます。また、大家さんは高齢者に貸してもいいと思っているけれど、不動産会社がお断りしている例も結構あります。やはり、不動産会社や管理会社がこれまで高齢者に貸した経験がないことが大きな理由です。

 

ー賃貸物件を借りたい65歳以上は多いのですか?

借りたい人の数は正確にはわかりませんが、今実際に賃貸を借りていらっしゃる方は300-400万人くらいです。高齢者の割合からすると12-13%くらいに当たるので、10人中1人か2人は賃貸をかりていらっしゃるということになります。単身でお住まいの方もいればご夫婦でお住まいの方もいらっしゃいます。一昔前は持ち家の割合が高かったですが、近年ではそういうこともなく、本当にいろいろな方が賃貸を選ばれていると思います。

 

ーR65不動産のユーザー数はどのくらいですか?またユーザーからはどういったお声がありますか?

不動産仲介のお問い合わせは月に40件から50件です。そこからお部屋を探して実際に契約まで至るのはもう少し少ない件数になっています。みまもりパックの提供も数は変わってきますが、だいたいそのくらいの数です。65歳以上の不動産に限定してサービスを提供している会社が他にないので、メディアに取り上げていただいて知ってもらうことが多いです。また、医療や介護の関係者さんや、R65不動産の利用者さんが口コミで紹介してくださることも多いです。

ユーザーの方の声としては純粋に「借りられて良かった」という声が1番多いかなと思います。あとは「高齢者扱いされなかったのが良かった」とも言われます。高齢者に対しては病気や介護といったイメージが強くなりがちですが、そんなことは全くなく、働かれている方や趣味に没頭されている方もいらっしゃいます。身体的にはもしかしたらどこか弱っているところがあるのかもしれませんが、精神的には僕らと全く変わらないですね。うちに来られた方の最高齢は94歳だったのですが、紙の情報で見るのと実際に会ってお話しするのとでは、大きく印象が変わるなと感じたことを今でも覚えています。なので会社としても”高齢者向け”という表現は使わず、”65歳以上のための不動産会社”と表現するようにしています。

 

不動産のプロとしてお客様をサポートする

ー物件掲載から始められたとのことですが、仲介事業やみまもり事業に展開したのはなぜですか?

みんな物件情報がないから困っているんだと思っていたので、物件掲載サイトの運営から始めました。しかし始めてみると、確かに情報も必要なのですが、一緒になって物件を探してくれる人が必要なんだと気づきました。「65歳以上でも借りられるのだろうか」「私は身寄りがないけど大丈夫だろうか」とい不安に寄り添い、「過去にはこういった例があったので大丈夫ですよ」と言ってあげられる第3者がいることが利用者さんにとっては大きな支えとなります。行政や介護のスタッフではなく不動産のプロとしてサポートすることが大事なのかなと思います。またこれは利用者さんだけではなく、大家さんに対しても同じです。65歳以上の方を受け入れる際に入居者さんとの間に立ち、65歳以上の方を受け入れるときの注意点やノウハウを提供することで、高齢者を受け入れる大家さんの体制をサポートすることも行っています。

 

ーこれまで65歳以上向けの不動産サービスに取り組むプレイヤーがいなかったのはどうしてなのでしょう?

手間がかかるし、手間を掛けたからといって儲からないからだと思います。例えばみなさんがお部屋を借りるときって、申込書の作成や不動産会社とのやり取りはネットやメールが多いと思います。でも高齢者の場合は電話や郵送でやり取りすることが多い。物件探しも若い方はサイトで目星をつけていらっしゃることが多いですが、高齢者の場合、来店いただいて一緒に探して内見に行くことが多いです。なので必然的に若い方の3倍くらい手間がかかるんです。手間を掛けたからといって物件が見つかりやすいわけでもないので、不動産屋からするとなるべく担当したくないのがこれまでの傾向かなと思います。

ただ、人口減少や少子高齢化の影響でそもそも賃貸物件を借りたい人の母数が減っているので、入居率の維持のためにも大家さんや管理会社からするとそろそろ高齢者も入れていかないといけない時期に来ています。ご高齢の方は若い方と比べて入居年数が長かったり、1階の物件でも借りてくれたりするので、貸す側としても一定のメリットがあるんです。しかい、仲介会社はこれまで経験がないのでどうしたらいいかわからないという部分がネックとなり、なかなか積極的にご案内できないわけです。僕たちとしてはそこをサポートして課題をクリアしていきたいと思っています。

 

ー手間が掛かるという課題をR65不動産ではどうクリアしたのですか?

正直僕らもこれまでは赤字を垂れ流しながらやってきました。手間がかかる部分も気合を入れてやるという感じです。例えば、若い方であれば2週間くらいで決まるところを3ヶ月かけてユーザーさんと一緒に頑張ったり。手間が掛かるところにきちんと手間を掛けて、効率ではなく質を重視してやってきました。そうすることで1人1人のお客様の満足度を高めることができ、それがご紹介や大家さんからの共感に繋がっているんだと思います。もちろん効率化できるところには取り組んでいますが、手間を掛けてでもやるというスタンスを大事にしています。

 

物件を貸す側の不安にも寄り添う

ー提供されている『みまもりパック』について教えてください。

入居者さんの電気使用量を分析して見守りを行うサービスと、万が一孤独死などが起こった際のリスクを軽減する保証がセットになったものです。月額980円で加入いただけるようになっています。「R65不動産に物件を載せてもいいんだけど、何かあったときに心配だ」という大家さんの声を元に作りました。入居者さんのプライバシーが守られること、大家さんにとって設置や維持の負担が少ないことにこだわりました。

 

ー開発においてどのような苦労がありましたか?

入居者さんに寄り添った方法を見つけて開発することでしょうか。例えばお部屋の中に監視カメラやセンサーをつけるようなサービスもあるのですが監視されている感じがして心地よくはありませんよね。入居者さんが健康であればあるほど嫌がられると思いますし、僕も部屋にカメラをつけると言われたら嫌だなと思うので。それに高齢の方が全員部屋にWi-Fiを設置しているかといえばそうではないと思いますし、入居者さんの年齢によって機器をつけたり外したりするのは大家さんにとっても大変です。また、毎日決まった時間に音声案内の電話がかかってきて安否確認をするものもありますが、こちらも味気ないですよね。そういった問題を解消するために電気使用量を使うところに辿り着くまでが大変でした。国内外、大手ベンチャー問わず100社くらいの方にお会いして最終的に一緒にやってもらう会社さんを決めました。
また、いざ見守りサービスのテストを始めてからも、精度の向上には苦労しました。見守りサービスなのでアラートのメールが飛んでこないなどという事態があってはいけません。データの取り方や解析の方法を試行錯誤しながら進めてきて、やっと販売できる状態になりました。

 

ー『みまもりパック』について入居者さんや大家さんの反応はいかがですか?

大家さんからは「これをつけておけば安心だ」と言われますし、同業他社さんと比べても見守りと保証がセットで月額1,000円を切るところは珍しいので「安くて助かります」という声も多いです。その上で、設置のしやすさから入居中に契約の切り替えも簡単なので、大家さんや管理会社さんには喜ばれています。入居者さんからは「見張られている感じがないのですごくいいです」と言っていただいています。機能を削ぎ落として、最低限のシンプルなものにすることは開発段階から意識していたことなので良かったです。

 

ー掲載サイトに載せる物件はどういった基準で選んでいるのでしょうか?

特に選ぶことはしておらず、掲載したいと言ってくださる方の物件をどんどん載せています。なるべく様々な物件を取り扱うことで、いろんな方の需要に応えられるようになると思うので。65歳以上の方が入居可能な物件のみを扱うサイトです、ということをオープンに発信することで、当てはまる物件の方々からご連絡いただいています。

 

ー『パートナー企業』という制度も持たれていますが、こちらは具体的にどういったものなのでしょうか?

パートナー企業さんには日本全国、それぞれの地域での契約までのサポートをお願いしています。R65不動産では全国の物件を扱っていますが、全ての物件を僕たちが仲介することはできないので、内見や契約といった部分を担っていただく形です。現在30ほどの会社さんに協力いただいています。僕たちからはパートナー企業さんに対して大家さんを紹介したり、新しい法案が通りましたよという情報をお伝えしたりして、連携強化と65歳以上の不動産仲介におけるノウハウの共有を行っています。全国全てのお問い合わせを自分たちだけでなんとかするのは永続性がないですし、最終的には全国の不動産屋が65歳以上の賃貸も積極的に取り組んでR65不動産が必要なくなることが理想だと思っているので、こちらはこれからもどんどん拡大していきたいです。

 

生活の基盤となる”住”の選択肢を増やすために

ー今後はどのような事業展開を考えられていますか?

1つは、見守りと保険を強化していきたいです。大家さんの中にはまだまだこういった仕組みがあることをご存知なくて、何か起きてから困られる方もまだまだ多いです。『あんしんパック』をご利用いただければ、孤独死に関してはほとんど問題ないところまで来ているので、多くの方に広めていきたいと思います。2つ目は、パートナー企業を増やすことです。1,000社くらいになると、僕たちの活動が行き渡ったと言えると思っているので、その数字を目指しで、全国どこでも65歳以上の方が賃貸を借りられるようにしたいです。3つ目は認知症の方の住まいを考えることです。これは賃貸あるいは全く違う施設なのかまだわかりませんが、どのような状態になったとしても住まいがある状態を目指したいです。地域医療や地域介護とも連携しながら、モデル事業ができるような場所を探しています。

 

ー最後に、山本さんが理想とする社会について教えてください。

僕はそれほど社会のためを考えて事業をやっているわけではありません。ただ自分や家族、友達がいくつになっても自分の住みたい家を選べたらいいなと思っています。例えば自分が事故に遭って障がいを持つかもしれないし、自分が産んだ子が障がいを持っているかもしれない。そうなったとしても、生活の基盤となる衣食住の”住”の選択肢がたくさんある環境であればいいなと思います。

R65不動産 https://r65.info/
あんしんみまもりパック http://r65.sunnyday.jp/

 

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interviewer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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