育休中の女性を中核人材へと育成する。フルオンラインサービスで女性の社会進出を
出産後の復職は多くの女性が悩みを抱えるタイミングであり、この不安へのケアが仕事へのモチベーションを左右する。ダイバシティや女性進出を訴える企業は今でこそ多くあるが、2011年の創業当初から女性進出に注力をしていたのが株式会社NOKIOOだ。自社の男女比率は3:7を達成した。そんなNOKIOOでは、育休中の女性が復職後に必要なビジネススキルを身につけるフルオンラインのビジネススクール『育休スクラ』を展開している。今回はどのように女性の活躍社会を実現しようとしているのかを伺った。
【プロフィール】
小川 健三(おがわ けんぞう)
株式会社NOKIOOの代表取締役。1977年静岡県生まれ。2001年神戸大学を卒業後、日本電気株式会社に従事。2006年に静岡・浜松にUターン後、IT系の企業でマーケティング支援に携わる。2011年株式会社NOKIOOを創業。「地方×IT×女性」をテーマに次世代の人材育成に力をいれる。
小田木 朝子(おだぎ ともこ)
株式会社NOKIOOの取締役兼育休スクラ事業責任者。育児と仕事の両立やキャリア・学びにおける自身の経験を活かし、2013年、女性の社会参画支援事業『ON-MOプロジェクト』を立ち上げ、会員6,000名を超えるネットワークを育成。2020年、オンライン・スクール事業『育休スクラ』を立ち上げ、経験学習による人材育成、オンラインを活用したキャリア開発をサービス化。
もくじ
育休中だからこそ、人材育成プログラムを
ーまず、現在の事業内容について教えてください。
小田木朝子(以下、小田木):育休者向けのフルオンラインのビジネススクール『育休スクラ』を運営しています。育休スクラのコンセプトは「育休期間中に“仕事のある人生を楽しむための”ビジネススキルを学ぶ」です。同じ育休中というライフステージにあり、多様な価値観や経験を持つ仲間と、オンラインでつながり、お互いの気づきや着眼点を共有しながら進める学びは、一人では得られない視野の広がりと深い考察をもたらしてくれます。様々なバッグラウンドを持った人たちと共に学習する中で、多様な環境に適応していくことを身に付けてもらっています。
ー具体的にどのようなプログラムを運営されているのでしょうか。
小田木:育休スクラでは、自身のキャリアを見つめ基本的なビジネススキルを身につけるプログラムをおこなっています。ビジネススキルは働く人にとっては重要な資産で、「専門能力」と「基盤力」に分解されると思っています。
専門能力は、業界や職種固有の知識・技術・経験のことです。一方で基盤力は所属する会社や職種が変わっても使える、いわば持ち運びできる力で、育休スクラで磨かれるのは基盤力のスキルになります。育休中は、専門能力と基盤力のうち、基盤力の方を磨くことこそ重要だと考えています。専門能力は実業務の現場の方が磨きやすい一方、育休は、実業務を離れて自分のために使える貴重な時間です。こういうときこそ、基盤力という目に見えない資産を体系立てて学ぶことで強化し、且つ環境の変化に合わせてアップデートできる機会になるんです。例えばどんな仕事でも問題はつきものです。問題に向き合う際、何が問題の本質かを考えるプロセスでは、論理的思考力や考え抜く力が必要になりますし、関わる人と問題認識を共有するための対話力も不可欠です。多様な立場や考え方の人がいますので、多様性を受け入れる力や、そうした人たちを巻き込む力も必要だと思っています。あくまで一例ですが、こうした業界や職種に関わらず必要な力を基盤力と定義します。マネジメント・スキルや、リーダーシップも基盤力に該当します。
育休スクラのカリキュラムは、受講者が、主体的にキャリアを描き、チームで成果を上げられるようになる内容です。さらに役職の有無にかかわらず、組織やチームという一段上のレイヤーで物事を考え、周囲と連携し、自律的な仕事ができる意思とスキル仕事を実践できるようになることを目的に、効果的な順番で構成されています。
長年の女性支援の中でたどり着いた「量より質」という考え方
ー女性の育休を支援する事業を行うようになったきっかけを教えてください。
小川健三(以下、小川):きっかけは、自社株式会社NOKIOOを立ち上げた2011年にあります。朝の8時に出勤をして18時に退社する男性中心の組織のあり方に疑問をもち、自社らしい働き方を作っていこうと考えていました。創業当時からリモートワークを併用したり、オンライン上で仕事を管理してきました。そのような働き方を行っている中で、地域の優秀な女性が組織に入ってくることがありました。彼女たちは能力もやる気もあるんですけど、子育てとの両立で時間的制約だったり場所的制約だったりがあり、他の会社では退職するしか道が残されていなかったんです。私たちはデジタルを駆使し、自社の中でダイバーシティを体現していました。これを自社だけでなく他の会社にも届けたい、その思いから女性支援を行うことを考えました。
小田木:この事業は、実は私の原体験からきているんです。前職で第1子を出産して、育休を取りました。もともと仕事が好きだったこともあり、復帰してからギャップを感じさせないように中小企業診断士の資格を取りました。しかしいざ、復帰してみると以前のように成果をあげられなくなっていたんです。そもそも今までの仕事の仕方は、21時や22時まで残業して成果を出すような仕事スタイルでした。しかし、私は育児によって時間的制約が生まれ、そのような働き方ができなくなっていたんです。そんな中でも周りの同期は今までと同じように成果を上げていて、まるで自分だけがハンディキャップを背負っていると勘違いしてしまい、結局は好きだった仕事に楽しさを見出せなくなりました。今冷静に考えてみれば、気合と根性と長時間労働に依存した仕事のやり方が失敗だったな、と反省しています。しかし、そういうケースに陥る人は自分だけではないんです。女性活躍にはもちろん環境や企業の改善も必要ですが、当事者自身の意識・働き方の変化が必要だと考えています。
ー育休スクラという事業発足までには、どのような支援を行っていたのでしょうか。
小田木:2013年には、子育てママのコミュニティであるON-MOを立ち上げ、「育勉セミナー」を始め、女性の社会参画を目的にボランティアの勉強会を行っていました。それから2014年にはCSR型女性ネットワークというものを構築しました。これは、地域の女性の声を聞きたい、育休中の女性の声を聞きたいという企業と女性をマッチングするサービスです。その中で自分の経験からも、女性がキャリアを築くことを最も大切にすべきだと考えました。その切り口で事業を模索していた際に行ったのが2015年の行政との提携事業です。その提携事業で女性活躍・就労促進をすごく力を入れ、女性のキャリア開発や就労支援という事業で収益を得ながら、女性がどうしたら自ら主体的にキャリアを歩んでいくのかとか、組織の中で活躍しうる人材になるのかという知見を溜めてきました。ある程度、その知見が溜まった状態で企業に対して直接、人材育成の機会として提供しようと考えたものが、育休スクラでした。
ー様々な支援を行われる中で、女性の社会進出において最も大きな課題はなんだと思いますか。
小川:私たちは女性が社会や組織において意思決定に関わるシーンに少ないところだと考えています。数年前までは、結婚や出産を機にいったん離職し、育児が一段落したら再び働きだす女性が多いという日本の特徴を表した”M字カーブ”が問題視されていました。しかしこれは現在は解消されはじめていて、これからは女性就職の量よりも質にフォーカスした問題解決、組織構造変化が必要になってくると考えたんです。「質」の向上によって、よりマネジメントができる人材が増え、そういう人材が意思決定に関わる「場」に参画すること。女性起点から行われる社会構造改革こそ、私たちが目指すものです。私たちのサービスでは、キャリア面談等を備え、企業様に代わり受講者ひとりひとりをサポートし、受講生ネットワークで相互サポートの仕組みを備えているんです。その結果、結果受講した人の82%が「より上位の仕事に就くこと」への意識が変わったと回答しています。
育休者にとっての心のよりどころ
ー育休スクラはどのような人が利用しているのでしょうか。
小田木:主に30代前後の大企業に勤めている育休中の女性が多く利用しています。ユーザーの地域は首都圏だけで4割から5割を占めていますが、近年では全国的な広がりも見せています。地方の方はもちろん海外の方も参加されています。前述の通り様々なバックグランドを持つ人の中で学習を行いたいので、今後も規模を拡大していきたいですね。
ー受講している人の反応はどのようなものがありますか。
小田木:受講を行う全ての方が不安や心配から、このプログラムに参加されます。これまで通り仕事できるか不安だ、今までの成果が出せるのか不安だというように育休者は不安と心配を抱えているんです。でも実際、受講した全員が育休前よりも仕事が好きになったと話しており、満足度も100%を保っています。また私たちのプログラムでは離脱者が0で、ここで仲間とつながり、学ぶことで成長実感を持てることが、毎週の癒しになっているという声をいただくほどです。不安や心配をなくすだけではなく、育休前から+αになっている状態を目指しています。
「支援」という考え方をやめ、育休当事者の女性から変えていく社会へ
ー今後のビジョンや起こしたいインパクトについて教えてください
小田木:”女性支援モードの女性活躍”を、”女性起点で組織を変えていける”ようなインパクトのある女性活躍の広がりを目指しています。会社組織の中で立場が弱くて、何もしなければ仕事の継続すら困難だから女性支援をしよう、という考えをなくしたいと思っています。育休時期には支援やサポートではなく、女性が自身のキャリアを見つめ直し、ソフトスキルを養う必要があります。確かに会社の仕組みをアップデートしていくことも必要ですが、育休者自身が変化することで所属チーム・周囲のメンバーも共に変化し、会社自体に良い影響をもたらします。だからこそ手厚く支援制度を整えるというより、女性から始める女性活躍の場を作っていくことが重要だと考えていますし、そのような社会を作りたいと思っています。
小川:『育休スクラ』のビジョンとして「女性が個性を活かし、組織内で中核人材として活躍すること」を掲げています。育休から復帰して仕事を始めると、実務面で悩んだり、乗り越えるのが困難な壁に直面したりすることがあります。育休スクラを卒業して、キャリアを見つめ直してもそれが本当に達成されるかは別の話です。だからこそ受講中であろうが、卒業していようが関係なく継続的な伴走支援を行うべきだと思っています。それが最終的には社会的なイノベーションに繋がり、女性進出の大きな一助を担うと考えています。今後は育休スクラの卒業生のコミュニティを作り、そこでのマッチングサービスを行いより継続的なキャリアサービスや、法人向けのサービス開発をしていくことで社会的なインパクトを起こしたいと思っています。
育休スクラ https://schoola.jp
interviewer
掛川悠矢
メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。
writer
馬場健
アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。
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