予防可能な病気による失明を減らしたい。眼科医が開発した医療デバイスとは

世界には眼科医療が行き届いていない地域がある。この課題に注目したのは、眼科医でありOUI Inc.代表である清水映輔だ。スマホに装着するだけで、眼科医でなくても眼の画像撮影が可能になるSmart Eye Cameraというデバイスを開発した。そして、自身の途上国ビジネスでの経験を活かし、このデバイスの海外展開に注力しているのがOUI Inc.中山慎太郎だ。2人に海外とのパートナーシップや事業を通じて実現したい社会について聞いた。

【プロフィール】
清水 映輔(しみず えいすけ)写真、左から2番目。
OUI Inc. CEO。慶應義塾大学眼科医。眼科医としての専門はドライアイと眼アレルギー。2016年にOUI Inc.を起業。眼科医として研究・診療活動を診療を続けながらOUI Inc.の経営を担っている。

 

中山 慎太郎(なかやま しんたろう)写真、右から1番目。
株式会社OUI Inc. 海外戦略部部長。JBIC、JICA、三菱商事で途上国インフラ開発に従事。その後NPO法人クロスフィールズで副代表を務める。2019年にOUI Inc.に参画。

スマホに取り付けるだけで眼科診察が可能に

—現在の事業について教えてください。

清水映輔(以下、清水):Smart Eye Camera (以下、SEC)というデバイスを開発しています。このデバイスをスマホにつけることで、眼科医が眼の診察をする際に用いる細隙灯顕微鏡と同じように、診断時に必要な光を発しながら眼を診察することができます。眼には前眼部という前半分と、眼底や後眼部と呼ばれる後ろ半分があり、SECでは前眼部の病気をほとんど診断することが可能です。私たちはこのデバイスを使い、「2025年までに世界の失明を現在の半分にする」というビジョンを掲げて事業を進めています。

Smart Eye Camera

 

OUI Inc.は2016年に慶應大学発のベンチャーとして創業し、SECの開発を行ってきました。医療機器として実用化されるために研究を重ね、2年前に国内医療機器としての登録を終え、国内の臨床現場で使用できるようになりました。すぐに大規模な販売を開始するのではなく、試用期間としてエビデンスを固めるためにさらに研究を進めたり、眼の画像を撮影し管理するためのアプリケーションの開発をしたりと、ハードウェアとソフトウェア両方の研究・開発を引き続き行いながら、少しずつ展開を広げています。現在は国内外で100台以上のSECが使用されています。

 

—起業のきっかけは何だったのでしょうか?

清水:私を含む慶應義塾大学の眼科医3名で起業したのですが、きっかけは3人で白内障手術ボランティアとしてベトナムに訪問したことでした。ベトナムの農村部に行った際、現地には医療機器がなく、スマホの光を使って眼を見ながら診察しようとしているのを目の当たりにしたんです。眼科の診察は基本的に、患者さんの眼に光を当ててその跳ね返ってきた光を拡大して見るという方法なのですが、当然スマホは眼を見るのに特化したデバイスではないので、診察が正確ではなくなってしまいます。そこで、スマホが普及しているのであれば、スマホの光を、眼科診断に必要な光に変える機構があれば、現地の患者さんたちを救うことができるのではないかと思い、開発に至りました。

 

—中山さんがOUIに参画したきっかけを教えてください。

中山慎太郎(以下、中山):僕自身は大学卒業後ずっと途上国と関わる仕事をやってきました。前職では日本の企業で働いている方を途上国に派遣し、現地の団体の経営課題を解決してもらうプログラムを運営しているNPO法人クロスフィールズにて副代表を務めていました。2年前に独立して活動したいと考え、クロスフィールズを辞めた際に知り合いづてでOUI Inc.から声をかけてもらったのが最初のご縁です。

僕は現在、SECを活用した新しい眼科診断モデルの海外展開を主に担当しています。今はちょうどケニアにいて、プロジェクトを推進中です。ケニア以外にも、アフリカ・アジアを中心に、世界中で医療機関の方や現地のお医者さんとの連携に注力しています。

 

 

途上国の医療スタッフが主役のパートナーシップ

—途上国における眼科医療の現状はどのようになっていますか?

清水:特に途上国では眼科自体があまりメジャーではなく、ご高齢の方は「失明しても仕方ない」というようなマインドがあります。その結果、世界では治療できる病気が原因で失明する人が非常に多く、その中でも失明原因の半分以上が白内障だと言われています。白内障は手術をすれば視力が回復するため、日本では失明原因の3%程度であるのに対し、ベトナムでは失明原因の75%が白内障です。このような問題が起きている理由として、医療機器が絶対的に不足していること、そしてお医者さんが少ないことが挙げられます。
まず、医療機器が少ないことに対しては、SECを使うことで眼科医ではなくても眼の画像を撮影し、遠隔の眼科医に判断を促すようなプレ診断を可能にしたり、眼の画像を分析し診断を補助してくれるようなAIの開発をしたりしています。

中山:加えて、現地の医療機関などとパートナーシップを組み、診察した患者さんを実際に治療してもらうことも重要です。例えば我々がパイロットを行っているアフリカのマラウイ共和国という国は、人口が1800万人ですが、眼科医は14人しかいません。さらに、その14人も都市部に集中しているという現状があります。途上国で治療可能な病気で失明してしまう人の多くは、このような都市部の眼科医療にアクセスできない田舎の農村に住んでいて、ほぼ貨幣経済に組み込まれていないような生活をしている人たちなんです。そんなマラウイで、こうした患者さんたちに眼の医療を届けるNGOを創業して活動しているクンボ先生という眼科医が私たちと一緒にやりたいと言ってくださったことで、マラウイでのSECの展開が始まりました。

僕がOUI Inc.に参画して最初に取り組んだ仕事がマラウイ訪問でした。実際に現地に行ってみると、やっぱり本当に困っている人がたくさんいて、SECを使うことですごく喜んでくれる患者さんがたくさんいることに感動したのを覚えています。また、クンボ先生と一緒に活動されているお医者さんとナースの中間職のような、パラメディコやコメディカルと呼ばれる医療従事者が現地の医療機関にいるのですが、彼らがSECを使って、ものすごく喜んでくれて。このデバイスを使って患者さんたちの人生を明るくするような取り組みが一緒にできることがとても嬉しかったです。同時に僕も途上国の仕事を12~13年やっていますが途上国の失明の問題、眼科医療の問題について今まで注目したことがなかったし知らないことばっかりだったんだというのを感じたんです。世界にはまだまだクローズアップされていない課題ってたくさんあって、クローズアップされていないから救われていない人って本当にたくさんいるんじゃないかなと思って。この失明の課題、眼科医療の課題を僕たちの活動を通して知ってもらえたら良いなという思いでOUI Inc.で活動を続けています。

 

—海外の医療機関や医療従事者の方々とはどのように提携していったのでしょうか?

中山:OUI Inc.は眼科医の患者さんを救いたいという純粋な思いから始まった事業なので、この思いをちゃんと伝えれば共感してくれる人が必ずいるんですよね。最初はメンバー皆で国際機関・財団や色んな国の眼科医・医療機関・NGOに、「協業しませんか」とたくさんメールを送って、そうしたらクンボ先生が「ぜひ試してみたい」と反応してきてくれたんです。それで実際に現地に行ったら「本当に来ると思ってなかった」って言われたんですけど(笑)。実際に足を運んで、SECを使ってみてもらったりこっちが本気でやりたいと思っていることを示したりすることで、一緒にやりたいと思ってくれる人は必ずいるし、そういう人はどんどんコミットしてくれるようになりますね。あとは、特に途上国だと眼科医の人数が少ないので、眼科医同士の繋がりがすでにあることも多いです。だからその世界にまず飛び込んでみて、共感してくれた人たちと一緒に良いプロジェクトをやって関係性を作ってきたことが、現在の展開に繋がっていると思います。
もう1つ僕が途上国で感じる強みは、清水が”眼科医”だということです。ただの医療機器ベンダーではなくて、眼科医をしながらこの事業を本気で推進しているということを伝えると、やっぱり相手の共感度が大きく変わるなと思っています。

 

—提携する上で苦労などはありましたか?

中山:僕らはそれぞれの地域で治療活動をされている方々の思いややり方を最大限リスペクトするということを大事にしているので、文化の違いなどで困ったことは今のところないですね。SECはあくまで診察機器なのでそれを治療に繋げることが重要で、主人公は現地の先生方や医療スタッフの方だと思っています。

清水:我々は眼科で治療を受けられる人を増やしたいと思っていて、現地の医療機関はより多くの患者さんを治療することでビジネスとして成り立たせたいと思っている。両者のニーズはすごくマッチしています。あと、彼らは病院のオペレーションを大幅に変えるというような提案には賛同しないので、現地のやり方をリスペクトしながらプラスアルファの提案をするということを意識しています。

 

 

日本の離島での早期診断に

—SECは日本でも使用されていると伺いました。どのように使われているのでしょうか?

中山:実は日本の離島にも途上国と同じように、眼科医療にアクセスしづらいという課題があるんです。僕たちの途上国での活動について日本の眼科医の先生にお話ししたら、「日本の離島でも似たような状況があって、東京都の浜松町とかは小笠原諸島からの船が着く場所があるから、島の人が眼科の診察を受けに来るよ」という話をしてくれたんです。その話をヒントに東京都の離島の医療機関にコンタクトしてみたところ、眼科医がいない中で、限られた情報と知識で眼科の診断を行っているという島がほとんどだということがわかりました。そこから東京都の離島11島のうち9島にSECを配り、現地のドクターに使ってもらって、その画像などをもとにコンサルテーションをして遠隔診療を行なっています。

清水:東京都伊豆諸島と本土をつないだDtoD(Doctor to Doctor)コンサルテーションの事例をご紹介します。眼の異物感があるという島の患者さんに対して、SECで眼を撮影しその動画から本土の眼科医が診断を行って、薬の処方についてアドバイスをしています。以前は、離島では判断ができない症例があれば、フェリーで2~3時間、もしくは飛行機で30分かけて本土まで来てもらう必要がありました。また、一刻を争うような症例の場合、ドクターヘリで都立の病院に運んで治療を行うのが一般的です。しかし、このコロナ禍で本土に来づらかったり、ドクターヘリの場合はかなりお金がかかったりします。なので、まずは島の中で解決できるものなのかを判断するために、SECが非常に役立っています。実際、この症例はステロイドの点眼を使わないと治らないのですが、ステロイドではない点眼で様子を見ていた結果、1週間後さらに悪化していました。今回の事例では、幸いにもSECを使った結果、島内でステロイド点眼を処方でき、後遺症になることはありませんでしたが、離島では一旦様子を見て悪化したら本土に行き、そこで治療が開始されるというパターンが非常に多く、これでは後遺症が起こる可能性が高まってしまいます。このような使い方が途上国でも可能になれば、お医者さんがいないような地方でもパラメディコ/コメディカルの方々にSECを使ってもらい、治療が必要な人を医療機関へ誘導することができるようになるのではないかと考えています。

 

世界の失明を半分に

—今後の事業展開について教えてください。

清水:まず日本では、眼科を受診した時には手遅れだったというような方を減らすために、予防医療としてSECの利用台数を増やしていきたいです。海外では現在、東南アジアとアフリカで合わせて50台以上使われていますが、より多くの国と地域で使われるように広めていきたいですね。ベトナム、インド、ネパール、ケニア、マラウイ、ブラジル、オーストラリアなどですでに使われていますが、シンガポール、ギニア、スーダン、エチオピア、などにも広げたいと考えています。一方で、宇宙ステーションに持っていくというような話もあって、ポータブルかつ3Dプリンターでどこでも開発できる機器なので、世界中に広げていけたらなと思っています。
また現在は試用期間で、今後現地の医療機関や国に対してSECを販売していくことを計画しています。3Dプリンターで作ることで一般的な医療機器と比較するとかなり安価になっていますが、途上国での販売を考えてさらに低コストで開発できるように改善していきたいと思っています。

 

—事業を通して作りたい社会を教えてください。

清水:予防可能な病気で失明する患者さんがいなくなる世界を作りたいです。まずは、2025年までに世界の失明を半分にすることを掲げています。それを達成した後には、家庭に一台SECがあるような社会を想像しています。夜に子どもが眼に怪我をしても、SECで撮影するだけでコンサルテーションの結果を受け取れる、というような社会ができれば素敵だなと思っています。

中山:僕自身は、この眼科医療、失明の課題というのはもっと注目されるべき社会課題の一つだと思っているので、自分の力で最大限貢献したいなと思っています。それに加えて、困っている人がたくさんいるのにまだまだ手が届いていないような課題はたくさん存在します。僕達が今やっているみたいに、周囲から「無理だ」と言われても突き進んでいくことで、その課題が解決に近づいたり、色んな人に共感されたり応援されたりする、そういうことがもっと色々なところで起きたらいいなと思います。清水も眼科医をやりながら研究もやりながらクリニックも経営して、その上でOUI Inc.も全力で推進していて、普通に考えると「そんなの無理でしょ」って言う人多そうじゃないですか。でもやりたかったらやっちゃえばいいと思うんですよね。そんな風に色んなことに挑戦しながら新しい価値を作っていくというこれからの時代のスタンダードを、OUI Inc.が作っていきたいと思っています。

 

OUI Inc. https://ouiinc.jp/