コオロギは食料問題と貧困を解決する。カンボジアで作る持続可能な食料生産の形

世界全体の人口増加に伴い、今後特にタンパク質の供給が不足すると考えられている。人工的に繁殖させることが容易で、タンパク質を豊富に含むことで注目されているのが昆虫のコオロギだ。カンボジアでコオロギを生産する農家をまとめ、生産から加工、販売まで手がける株式会社ECOLOGGIE(エコロギー)の代表取締役・葦苅晟矢。数いる昆虫の中でコオロギを選んだ理由や、異国の地でコオロギ生産者の”農協”を作り、農村開発を通して貧困問題にもアプローチしてきた上での苦労について聞いた。

【プロフィール】葦苅 晟矢(あしかり せいや)
株式会社ECOLOGGIE代表取締役。早稲田大学商学部を卒業し、同大学の大学院先進理工学研究科に進学。大学院に在学し、コオロギの研究に携わりながら、ECOLOGGIEを創業した。大学時代に所属したサークル『模擬国連』でのディスカッションを通して、食料問題に関心を持つようになる。現在はカンボジア在住。現地のコオロギ農家の人たちとともに、コオロギ生産ネットワークの構築に取り組み、雇用創出にも成功している。

コオロギは食料問題と貧困を解決する

ーまず初めに、現在の事業について教えてください。

株式会社ECOLOGGIEという会社で、カンボジアで昆虫のコオロギを生産する農家をまとめ、コオロギの生産・加工・販売の一気通貫型バリューチェーンを構築する事業を行っています。農家をまとめる立場なので、”コオロギ農家の農協”のようなビジネスモデルですね。今後人口の増加で、食料不足の問題が起こると言われており、特に栄養素の中でタンパク質の不足が深刻になると見られます。私は大学で『模擬国連』というサークルに所属していて、世界各国の大使になりきって社会課題についてのディスカッションを重ねるうちに、特に食料問題について関心を持つようになったんです。従来の生産方法でさらに大量生産を行うのではなく、持続可能な方法で食料問題を解決できる方法はないかと考えるようになりました。

またお金がなければ食料を買うことができないので、途上国の貧困問題についても関心がありました。そこで思いついたのが、誰もが比較的容易に生産できる代替食品があれば、貧困層が生産者となり仕事を得ることができるというアイデアでした。そうすれば食料問題と貧困問題の両方にアプローチできると考えたんです。コオロギはタンパク質を豊富に含んでおり、また生産が容易ということもあってピッタリでした。

 

ー最初から現在のようなビジネスモデルを思いついていたんですか?

何となく食料問題と貧困問題にアプローチしたいとは考えていました。ただ実際に課題解決ができると感じたのは、現地に行ってからでした。農家さんが作ったコオロギを買い取って、その農家さんがちょっと儲かったような瞬間にようやく確信が持てました。

 

ー数いる昆虫の中で、特にコオロギを選ばれた理由は何だったんでしょうか?

栄養価が高く、持続可能な方法で生産ができるものだったためです。コオロギのタンパク質含有比率は約65%で、ビーフージャーキーの55%よりも高い数値です(乾燥重量当たり)。また環境負荷も低く、牛肉1kgを生産するのに必要な資源量と比べると水が2,000分の1、餌が100分の7の量しか必要としません。排出するCO2の量は1万分の7です。それにコオロギの生産は農村開発とも非常に相性が良いんです。カンボジアでよく生産されている米やキャッサバなどの作物は、1年に多くても2回か3回程度しか収穫ができません。現金収入を得られるタイミングが少ないので、農家さんは貧困に陥りやすいんですよね。その点コオロギは45日で生産が可能なので、僕たちが買い取るタイミングが1年で8回から10回くらいあり、コオロギ農家さんは持続的な現金収入を得られるようになるんです。

ただ私たちはコオロギから事業をスタートさせましたが、今後コオロギ以外に、食料問題と貧困問題を解決できる代替食品を発見できる可能性はあると思っています。今までの資本主義ではスポットが当たらなかった資源を発掘していくことが私たちの役割だと思っているので、可能性のあるものに関しては検討をしていくつもりです。

 

協業を活かし、異国の地に食料生産ネットワークを作った

ーコオロギの飼育環境として、カンボジアを選んだ理由を教えてください。

まず気候条件として、コオロギは暖かいところが好きなので、四季のある日本では飼育が難しいんです。日本で年間を通じてコオロギを飼育するには、冬の暖房設備などにかかる光熱費などのコストが高くついてしまいます。年中気温が高い地域というところで東南アジアが適しており、カンボジアも適している環境の1つだったんです。加えてカンボジアは、文化面でコオロギの生産に適している部分が2つありました。1つは第一次産業の従事者が多いというところで、米ぬかなどが残滓(ざんさ)として発生するんですよね。一方で家畜が少なく、多くの肉類をベトナムやタイから輸入している国でもあるので、農業によって生まれた残滓をコオロギの飼料として活用する余地が大きかったんです。またカンボジアでは昆虫食の文化が元々存在しているということも大きいです。作り手もコオロギを育てることに対して抵抗感がないんですよね。気候条件と文化条件から見てカンボジアがコオロギの生産に最適でした。

 

ー異国の地で、コオロギの生産ネットワークを作っていくのは大変だったのではないでしょうか。具体的に苦労したことや、それを乗り越えるために行ったことなど教えてください。

まず大変だったのが農家さんとの信頼関係の構築という部分です。信頼関係構築のためには、農家さんが作ったコオロギをきちんと全量買取することが大事な要素でした。ですが他にもコオロギのバイヤーはいるので、こちらが買いたいと思っても、他のバイヤーに売ってしまったというようなケースもあり苦労しましたね。そこで私たちはまずはバイヤーよりも高くコオロギを買い取るようにしました。また現地で提携している、NGOの職員さん達にも助けられながら信頼構築を進めてきました。初めてのカンボジア滞在で、農家さんに接触するためのネットワークもなかったので、農村開発を一緒に進めるパートナーになっていただけたのが大きかったです。

それに当然ですが、コオロギの食品としての質を一定に担保する必要もあり大変でした。元々の現地の農家さんたちのやり方は尊重しながら、コオロギの品種や使う飼料は統一するという形をとってきました。信頼とコミュニケーションを大事にしながら、現場での品質研究などを循環させて、より良い製品になるように取り組んでいます。

このようにコオロギ農家との最初の立ち会いから、実際に買い取るまでのこのプロセスを2019年から何度も泥臭くやってきたことが、今の信頼関係のベースになっています。特にコロナ禍になってカンボジアの交通・物流が不安定になり、既存のバイヤーが買い取りに行けない時であっても、私たちは継続的買い取りをしてきたことで「あの日本人は信頼できる」と思ってもらえるようになったのだと思います。

 

ー提携されているNGOの話が出ましたが、その他にも大学など様々なステークホルダーと提携をされていますね。これまでどのように各所と関係を築いてきたのでしょうか?

大学に関しては、私は現在も早稲田大学に籍を置かせていただいており、密にコミュニケーションをしてきています。コオロギを効率的に生産する方法を研究で追求して実際のビジネスに活かすというところは新規性があって評価されている部分だと思いますし、自社単独ではできなかった部分なので、ご縁に感謝しています。

農村開発の部分では、食料安全保障や農村開発に強い老舗の国際NGOであるDan Church Aidさん(デンマーク本部)をパートナーに迎えています。提携のきっかけは日本のNPOであるクロスフィールズさんが新興国に若手起業家を送り込むプログラムをやっていたことでした。プログラムに参加させていただけただけでなく、Dan Church Aidさんとの間にうまく入ってくださり、パートナーシップを獲得することができました。もちろん自分たちでアプローチして提携したステークホルダーもありますが、いろいろなご縁のあった方がうまく繋いでくれたことが大きいので、感謝しています。

 

動物の飼料と人向けの食材、両方としての普及を目指す

ー現在日本の食文化では、昆虫を日常的に食べるようなことはあまり普及していないですよね。今後昆虫食の事業を広げていく上で、どんな見せ方を考えていますか?

将来的には、コオロギを動物の飼料として扱うことを考えています。現在水産業の養殖において使われている魚の餌は、イワシなどを乾燥させて砕いた魚粉が主流です。限られた水産資源を使って魚を養殖しているので、持続可能性の観点からは問題があるんですよね。コオロギで代替することで魚粉の削減につながり、水産資源の保護につながります。この領域では抵抗感なく受け入れられていくと思っています。

 

並行して、人向けの食材としてのゴールも見ています。コオロギは高タンパク高栄養なので、アスリートの方などに向けて、健康的な効能があるものとしてアピールしていけたらと思っています。実際にカンボジアのアスリート向けに商品を販売しており、日本でもアスリートの方とのコラボを計画中です。また粉末にすることで、味噌や醤油などの調味料として応用展開していくことも進めています。元々、味噌や醤油ってタンパク質豊富な大豆を基にしているので、同様にタンパク豊富なコオロギを発酵させて作ることで面白い付加価値がつくのではないかと。九州の会社さんとコラボレーションして、開発を進めているところです。

 

ー消費者や、飼料の販売先からはどんな声がありますか?

「意外」という反応をいただくことは多いですね。例えば、「意外と美味しい」「意外と栄養が豊富なんですね」「粉にしたら意外と抵抗ないですね」といった反応があります。昆虫原料がまだまだ無意識の中で敬遠しているものなのだと感じています。また品質も高く評価していただいています。生菌数といって食品の微生物汚染の程度を示す最も代表的な数字が良かったりと、食材として高い衛生基準をクリアしていることで、好印象を持ってもらえていますね。加えて価格は日本で他社が販売しているものの半値ほどで販売しており、量に関してもトンレベルでの対応が可能なので、これまでのちょっとしたビジネスではなく、大きなビジネスのパートナーとして認識していただけることが多いです。

 

ー最後に、今後の事業における目標を教えてください。

定量的な目標としては、提携する農家さんの数は今よりも増やしていきたいと思っています。今は50名くらいの農家さんと提携しているんですが、この規模ではまだまだ”コオロギ農家の農協”は名乗れません。数千人の規模まで増やしていきたいと思っています。また今後は、コオロギ生産を始めたことによる現金収入の向上で、例えばお子さんが学校に通えるなどの副次効果が生まれればと考えています。学校に通い始めたお子さんの文房具にECOLOGGIEのロゴが入っている、みたいな(笑)。まだ実現はできていないんですが、そんなストーリーをイメージしながら事業をやっています。

定性的な目標では、昆虫食の分野の中でブランドを確立していきたいですね。「コオロギといえばECOLOGGIE」と思われるくらいに、私たちの会社が認知されている状態を目指してブランドコミュニケーションをやっていきます。2025年の段階で、”コオロギ農家の農協”の完成と、あらゆる生き物の食料資源としてしっかり私たちのコオロギが普及する基盤を作るところを見据えて事業を進めていきます。

 

株式会社ECOLOGGIE:https://ecologgie.com/ja/home/

 

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interviewer

馬場健

アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。

 

writer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。