環境移送技術で都市にサンゴ礁生態系を再現する。100年後も自然と共生できる世界をテックで実現する

海洋生物の4分の1が生息する、生物多様性の中心的存在であるサンゴ礁。今後20年でサンゴの9割が死滅してしまうと言われている。サンゴ礁を水槽内に再現する高度技術を活かして、研究支援や教育事業を手がける株式会社イノカの高倉葉太CEO、竹内四季COO、増田直記CAO(Chief Aquarium Officer)。サンゴ礁が持つ魅力や、自然環境を再現する「環境移送技術」によって環境保全にアプローチする方法について聞いた。

【プロフィール】
高倉 葉太(たかくら ようた)
株式会社イノカCEO。幼少期からものづくりと、熱帯魚やサンゴ飼育を行うアクアリウムに関心があった。東京大学に進学し、落合陽一を輩出した暦本研究室に学ぶ。在学中の2016年には株式会社Makership創業メンバー及びCOOとして参画。システムの受託開発などに携わる。2019年に大学院を卒業し、株式会社イノカを設立。1994年、兵庫県明石市生まれ。

 

竹内 四季(たけうち しき)
株式会社イノカCOO。東京大学経済学部卒業。新卒でメガベンチャーに入社、年間200名超の経営者に対するコンサルティング営業、事業開発に従事。2020年2月、COOとしてイノカにジョインし、ビジネスサイド全般を管轄。AI受託開発事業、ESG経営コンサルティング事業の立ち上げを指揮。同年11月、取締役就任。イノカの持つサイエンス / テクノロジーの知見と自身のビジネス開発力を活かし、「環境保全」と「経済合理性」を両立する事業開発を推進中。1994年生まれ。

 

増田 直記(ますだ なおき)
株式会社イノカCAO(Chief Aquarium Officer)。水槽の管理全般を担当する。宇都宮工業高校卒業後、火力発電所の精密部品等の鋳型を作成する工場にて10年勤務。幼少の頃から様々な生き物の採取や飼育を趣味とし、サンゴをはじめとした様々な生き物を愛する熱い男で、自宅に総水量1トンの巨大サンゴ水槽を所有。 専門家でも難しいサンゴの継続的な飼育に成功している。2019年にCAOとしてイノカにジョインした。1990年生まれ。

環境移送技術で、日本の科学研究を加速させる

ーまず、現在の事業内容について教えてください。

高倉葉太(以下、高倉):弊社が取り組んでいるのは、特定地域のサンゴ礁や生態系を切り取って陸上(水槽内)に再現する、「環境移送技術」*の開発と、この技術を活用した事業です。サンゴを飼育するということはかなり難しく、継続的に飼育できている人は専門家でもなかなかいないという現状があります。どんな問題があるかというと、研究者の方がサンゴの研究をしようと思った時に、わざわざ沖縄まで行かないといけないというようなことになるんです。僕たちの環境移送技術を使うと東京や大阪でもサンゴの研究をできるようになるということで、ブレイクスルーを起こすことができたと思っています。また環境移送技術を使うと、同じ条件を揃えて1つのパラメーターを変える対照実験も行いやすくなります。自然環境には天候などのコントロールできない条件が入ってきてしまいますが、室内の水槽ならそういった条件を排除できますよね。それに従来は夏にしかできなかった実験を一年中行うことができるのも強みです。このようにして、日本の科学研究を加速させるということをやっています。

*環境移送技術・・自然と同じようにたくさんの生物が生存する環境を、人間によるメンテナンスを必要とせずに自立・循環しいつまでも維持される形で、都市空間(ひいては宇宙空間)に再現する技術。水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係など、多岐に渡るパラメータに依存しており、実現が難しかった。(参考:環境ベンチャーイノカが目指す、「環境移送」とは。

 

ー増田さんの飼育技術をIoT・AI技術を利用して再現されているということですが、高倉さんと増田さんはどのようにして出会われたんでしょうか?

高倉:元々CTOの栗田と2人で立ち上げた「チームイノカ」で、自分のアクアリウムを管理するアクアリスト向けのポータルサイトを運営するところからスタートしました。当初は海洋生物の飼育方法のデータをたくさん蓄積してビッグデータにしようと考えており、サイトに登録してくれた人にヒアリングを行っていたんです。そのヒアリングの中で、初期のユーザーとして出会ったのが増田でした。それで宇都宮にある増田の自宅に訪問したら巨大な水槽の中に生き生きとしたサンゴ礁が数十種類いて、飼育技術の高さに驚きました。まずはこの人の技術を再現可能にするだけでもイノベーションが起こせるのではないかと思い、3人で会社を立ち上げたという経緯です。

増田さんの自宅の水槽。サンゴだけで約40種類、生き物は約100種類住んでいる

増田直記(以下、増田):私が自宅に置いているアクアリウムはマリンアクアリウムといって、海水を使っているものなのですが、特にサンゴを飼育するのは難しいんです。サンゴの飼育の情報というのはWebでもあまり得られず、たくさんの人が飼育に挑戦しては夢破れていくような状況がありました。元々私も海洋系の大学で学んでいたとか、水族館の飼育員だったというわけではなく、趣味としてWeb上で情報収集をしながらサンゴの飼育を行ってきました。ただそんな中でも継続的にサンゴが飼育可能な環境を作ってこられたので、飼育技術を活かして一緒に会社をやらないか、と高倉から誘われたことでジョインすることに決めました。

高倉:サンゴを飼育できることで、サンゴ礁が作る生態系を自然に近い形で再現することができるというのが弊社の強みなんです。ただそれは元々増田の技術のみによるところで、継続的に科学研究に貢献していくことができません。そこで私が機械工学を学んできたバックグラウンドを活かして、環境移送技術の永続的なシステムを開発してきました。

創業エピソードに関しては、こちらの記事で詳しく説明されています
: Inoca 高倉 葉太:主人公でいることを諦めない

 

経済合理性や情緒面に訴え、環境保全にアプローチする

ー竹内さんは、イノカで事業開発を担当されているそうですね。具体的にはどんなことをされてきたのでしょうか?

竹内四季(以下、竹内):私がやってきたのは、事業の見せ方を変えていくということです。元々高倉と増田と、CTOの栗田が考えていたのはサンゴの水槽をどう売っていくかということで。おしゃれなオフィスに水槽を置いてもらったらいいんじゃないか、みたいな方向性で、環境保全の文脈は薄かったですね。でも、イノカにジョインして営業戦略について色々調べながら進めていく中で、私たちのやっていることはSDGsやESG*といったことが注目されるようになった流れのど真ん中に刺さることだと気づいたんです。今後20年でサンゴ礁の9割が海の中で死んでしまうとも言われており、サンゴを扱う上で環境保全の文脈は切っても切り離せないものであるということも再認識しました。それで、2020年からの1年半くらいで、環境保全の方面に事業を広げていく指揮をとってきました。

*ESG・・「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った略語。環境や社会への配慮、企業統治の向上を通じて企業価値の拡大を目指す考え方。(参考:日本経済新聞

高倉:元々は「俺たちのサンゴを見てくれ」という気持ちの方が強かったです(笑)。生き物の魅力や価値を伝えたいという目的を、竹内が動き回って、企業との共同研究や教育事業という見せ方に変えていきました。例えば飲料メーカーとの共同研究では、とある飲料を生成する際の副産物を使って、サンゴの白化現象を止める薬の開発を行っています。企業にとっては経済合理性があり、飲料が売れれば売れるほどサンゴも守られるという形で、協力を取り付けることができています。また商業施設に水槽を置いて、子供たちにサンゴを植え付けてもらう事業もやっています。商業施設にとっては施設のロイヤリティを高めることにつながりますし、子供たちは「自分の植えたサンゴが、将来見られなくなるかもしれない」という情緒的な部分で、どうしたら海を守ることができるのか考えるようになりますよね。水槽を設置するビジネスモデルでは、オフィスなどにも設置することで、子供のみならず大人にも海の生き物に親しみを持ってもらえます。このようにして、経済合理性と情緒面の両方から訴求することで、環境保全にアプローチできるのは弊社の強みです。

 

海の生態系の中心アイコン・サンゴ礁の魅力を知って欲しい

ー増田さんがサンゴを育て始めたきっかけは何だったんでしょうか?

増田:私は生き物全般が好きで、生き物が暮らせる環境や多様性に優れている場所が好きなんです。そんな場所が、陸上で言えばアマゾンやジャングルであり、海の中ではサンゴ礁でした。サンゴ礁は海の面積に対して0.2%ほどしか存在しないのですが、そこには全種類の海洋生物のうち4分の1にもあたる生き物が関係していると言われているんです。私の水槽の中だけでも、たくさんの種類の魚やエビ、カニが生息しています。そんな海の生態系の中心になっているサンゴ礁に魅力を感じて、水槽の中で再現するようになったのが始まりです。

ー増田さん個人の飼育技術の中には、言語化しづらい感覚的な判断に委ねられる部分も存在するのではないかと思うのですが、そうしたことをIoT・AI技術で再現可能にするために意識されている部分などがあれば教えてください。

増田:感覚と言っても、突き詰めていけばロジックが存在することが多いので、私が何かを感じた根拠をなるべく伝えるように意識しています。例えば「魚の肌艶がない」といった話をわかりやすく伝えるために、比較した画像を見せたりすることによって理解してもらえたことがあります。それから、他の社員にも本当の意味で生き物に興味を持ってもらうということも大事だと思っていますね。社内にも水槽が設置してあるのですが、各社員が自分で選んだ生き物を1種類入れてもらうようにしています。そうすることでみんなが水槽を見るようになるので、どんどん目を養ってもらうことができます。

竹内:最近では画像認識の領域で、サンゴの白化状態を定量的にグラフで示せる技術を開発しました。確かに職人技術を誰でも分かるようにするシステムを作るのは難しいんですが、確実に1つ1つ進めていっているところです。

 

技術開発を進め、自然と人の距離を近づける

ー今後環境保全にアプローチされていく上で、事業開発と研究開発のどちらに重きを置いて投資していく予定でしょうか?

高倉:やはり弊社の強みは、独自の技術を使って海洋環境を人々の目の前に持ってくることができることなんです。ですから、まずは研究開発に予算を投じて、強みを伸ばしていくことになると思います。

竹内:会社としては、現時点では外部からの資金調達はあまり入れず、できる限り内部でキャッシュを稼ぎながら自分たちの研究投資に当てていくような形で走ってきました。というのも、今まではここぞというところまで方向性を絞り込むための、探索的な研究開発を中心にしてきたんです。いよいよ今後の研究開発の方向性も絞られてきたので、今年くらいからは大型の調達も検討していこうと考えています。

ー最後に、お三方が今後事業を通して目指したい社会へのインパクトはどんなものか教えてください。

高倉:物理的にも精神的にも、自然と人の距離を近づけたいと思っています。例えば、Apple Storeの全面ガラス張りになっている部分がサンゴ礁の海になっているような未来を作るのが理想ですね。今まで日常生活から遠かった海の生態系が、都市の中に再現されれば、物理的にも精神的にもグッと近いものになると思うんです。今の環境保全の考え方には「〇〇をしない/なくす」というようなネガティブなものが多いですよね。私たちが目指したい環境保全はそうではなく、犬や猫を人間の大事なパートナーとして認識して大事にするような、ポジティブな考え方です。人々が自発的に環境保全に動けるように、自然と人が近くなるような社会を目指していきます。

竹内:イノカをサンゴ礁の保護に関して、世界共通のルールを作ったり、経営感覚をイノベートするリーディングカンパニーにしたいです。世界的な環境保全のルールづくりに関して、今まではヨーロッパ諸国が主導で動いてきていますよね。ですが、実は世界で800種類ほど存在するサンゴ礁のうち450種類ほどは日本沿海に生息しているんです。サンゴの保護に関して日本がイニシアチブを取っていける可能性は十分にあると思っています。最先端を走る企業として、国際的なプレゼンスを高めていきたいですね。

増田:私は生き物に関して、今まで見たことのなかった魅力的な側面を見たいし、人々にも見せたいと思っています。そうすることで、生き物の魅力をより多くの人に感じてもらえたら嬉しいです。また私と同じように、生き物が好きな人たちがやりたいと思える仕事を生み出していければと思います。

 

ーそれぞれに目指すものが少しづつ違う一方で、同じビジョンの下に集っているのが面白いですね。

竹内:イノカという会社は漫画「ONE PIECE」の船と同じだと思っていて。海賊王になりたいルフィがいて、「オールブルー」を見つけたいサンジがいて・・と個人としてやりたい夢はそれぞれ違うけれど、お互いの夢に対して「いいじゃん!」と言い合える。それでどうやったら皆の夢を実現できるか考えているうちに、集団としても前に進んでいるところが似ているなと思います。そうして皆でやりたいことを実現しながら、ビジョンである「人と自然が、100年先も共生できる世界を創る」を目指していきます。

 

株式会社イノカ https://corp.innoqua.jp/

 

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interviewer

馬場健

アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。

 

writer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。