訪問美容サービスですべての人に心と身体の健康を。

介護施設や自宅に足を運び、髪の毛のカットやパーマ・ネイルサービスなどを提供する訪問美容。従来は閉鎖的で新たに参入する人も少ない業界だった。そこに25歳という若さで飛び込んだのが株式会社un.の湯浅一也だ。彼が訪問美容に興味を持ったきっかけや、業界課題や今後の展開について聞いた。

【プロフィール】湯浅 一也(ゆあさ かずや)
中学生の頃から美容師を目指す。専門学校在学中に訪問美容に興味を持ち、卒業後は原宿の美容院で修行を積む。約5年後、美容院の閉店を機に独立、訪問美容を専門で行う株式会社un.を立ち上げた。現在はプロダクトの開発・販売や理美容師の育成にも力を入れている。北海道札幌市出身。

ふとした疑問から訪問美容という業界を知った

ー現在の事業内容を教えてください。

外出が困難な方の元にお伺いして美容サービスを提供する訪問美容を行っています。病気や怪我をされている方、ご高齢の方、介護をされてるケアラーの方や妊娠中や乳幼児の育児をされている方など、外出して美容院に行くことが難しい方々が対象です。お伺いする場所は、介護施設や病院、ご自宅とさまざまですが、髪を切ったりネイルをしたりといったサービスを提供しています。その他に、プロダクトの開発と販売も始めました。「カラダも心も潤う。」をコンセプトに現在はシャンプーと入浴剤を扱っています。また、僕らがこれまで8年間訪問美容師としてやってきたことを伝えていきたいという想いから、教育事業も始めました。YouTubeでノウハウを共有したり、僕らの訪問美容に同行して技術を伝えていく実践的な教育事業を行ったりしています。

 

ー訪問美容に特化した会社を始めたのはどうしてですか?

地元の北海道で専門学校に通っていたときに「運営管理」という授業がありました。将来どんな美容室を設計していきたいですか、どんな夢がありますかといったテーマを扱う授業でした。当時僕は、おじいちゃんおばあちゃんと関わる機会が多くて。そんなある日、ふと疑問が湧いたんです。北海道って雪の量がすごいじゃないですか。高齢の方や身体が不自由な方って、こんな雪道の中どうやって美容院に行っているんだろうなと思って。そこから調べていくうちに訪問美容というサービスを知りました。

訪問美容に特化した会社を始めたのは、プロとして働き始めたあとに見た訪問美容のサービスが、学生のときに見たものとほとんど変わっていなかったからです。当時の訪問美容サービスについてはこのあと話しますが、自分自身プロとしてこのサービスを受けたいかと言われれば、絶対に嫌だと思ったし、両親や祖父母に勧められるものでもないなと。そこで訪問美容業界を変えたい、自分なら変えられるんじゃないか、と妙な自信が湧いてきたのがきっかけです。

 

単価が低く閉鎖的だった業界

ー訪問美容にはどのような課題があったのでしょうか?

平均単価が安いので、サービスの種類や質がなかなか変わらないという課題がありました。もともと福祉ボランティアという文脈で始まった業界なので、お金を取ってはいけないのではないかという考えが一般化していたんです。僕らが参入したときの平均単価は500円〜1,000円でした。でも、サービスの向上や設備への投資、スタッフのモチベーションを考えると単価を上げていかなければいけない。僕らが参入したときは「なんでこんなに高いんだ」と断られましたが、価格を上げることでお客様により良いサービスを提供できるようになりました。また、これは始めてから気づいたことですが、お客様からしても価格が低いときは「やってもらっている意識」があるから自分の意見を言いづらいという遠慮があったようです。価格が上がったことでお客様も正当にサービスを受けているという意識になって「こういう髪型にして欲しい」というようなことを言ってくださるようになりました。

 

ーun.で行っている訪問美容は、従来のサービスと違う点があるということですか?

訪問美容というと、ブルーシートを敷いて鏡を置いて髪を切るというイメージが強いのではないでしょうか。僕たちのサービスは、カットだけではなく、パーマや縮毛矯正、カラーなど、美容院でできるサービスは同じように受けてもらえるようになっています。さらに僕たちのコンセプトは「美容院をそのままご自宅や介護施設に持ち込む」なので、空間づくりにこだわり五感で美容院を楽しめるように演出しています。移動式のシャンプー代など、サービスに必要な設備を持ち込むだけでなく、テーブルなどのインテリアも持ち込んで、アロマキャンドルを焚いたり音楽を流したりしています。

 

ー単価を上げていくためにはどのような工夫をされてきたのでしょうか?

訪問美容の重要性とサービスの価値を上げていく必要性を、関係者の方々に理解してもらうための活動を地道に行いました。介護施設に営業に行き、無料もしくは低価格のデモンストレーションを体験してもらうことで、訪問美容を受けたお客さんの感情の変化などを施設の方やご家族にも知ってもらいました。

僕らのような訪問美容のサービスを必要とされている方がたくさんいるというのを事業を始めたときからずっと肌身で感じていて。パーマやカラーができるようになって泣いて喜んでくださるようなお客さんもいらっしゃるんです。車椅子生活だったけど、僕らのサービスを受けて「また自力で美容院に出かけること」が目標となり、リハビリを頑張った方もいました。1年後には歩いて美容院に通うことができるようになったそうです。僕らのサービスを受けることが、お客様さんのモチベーションに繋がることもある。心の部分もそうだし、健康寿命を伸ばすという意味でも僕らができるサポートがあると感じています。

 

ー他に業界が抱えていた課題はありますか?

美容業界の中でも訪問美容業界は閉鎖的だという課題がありました。訪問美容業界は先駆者の方たちが自分たちが経験してきたことを隠してきた業界でした。美容師資格を持っていれば誰でも簡単に参入できますし、美容師って基本的には技術や人が売りになるので、なるべくライバルを増やしたくないという考えがあったんでしょうね。なので、事故や事件だけがクローズアップされがちになり、結果的に新しく参入する人が少ない状態が続いていました。入ってくる人が少ないと業界に変化が起きづらいので、先ほど話したサービスや価格の変化というのもなかなか変わってこなかったという具合です。だからこそ、僕たちは業界への敷居を低くするためにも教育事業も含め、訪問美容の業界について積極的に発信するように心がけています。

 

課題を解消していくためのサービス展開・拡大

ー個人向けの訪問美容で工夫されていることはありますか?

もともと、訪問美容はどんな美容師が来るか分からないという問題がありました。そこで僕たちはホームページにスタッフの顔写真を載せて、お客さんから指名もできる仕組みにしたんです。でもこれは、店舗型の美容室だと当たり前のことですよね。美容師ってリピートしてくださるお客様をどう増やしていくかが大事なので、「次もあなたに担当してもらいたい」と言われるようなスタッフを育てていきたいなと思っています。

 

ー商品開発を始められたのはどうしてですか?

施設などに訪問して、お客さんの髪や頭皮を見ていると、状態が良くない方が一定数いらっしゃいました。どうしてだろうと思って普段使っているシャンプーを聞いてみると、安価な洗浄力が高い業務用のもので。施設としてもあまりお金をかけられる部分ではないというのは分かるのですが、僕だったら使いたくないよなと。じゃあ僕たちが作る必要があるんじゃないかと思って作り始めました。僕たちが扱っている商品は、シャンプーなんですけど全身洗うことができるんです。そうすれば施設側もシャンプーやボディーソープをそれぞれ購入する必要がなくなるので、結果的にコストが抑えられるんじゃないかと思ったんです。しかも、浴槽に置くボトルも1本でよくなるので、ごちゃごちゃしないし、介護する側にとっても仕事が楽になるというメリットがあります。施設の方に使っていただいているのはもちろんですが、一般の方の購入もあります。これまで訪問美容のことは知らなかったけど、商品から僕たちのことや訪問美容のことを知ってくださる個人のお客様も多くて、商品を作って良かったなと感じています。

 

お客様だけでなく関係者の課題にも寄り添う

ーお客さんのご家族や、施設の方にも寄り添っているのが印象的でした。

そこは意識している点ですね。僕らの使命は、訪問美容を卒業してもらい、美容院に通えるようになることだと思っています。例えば、個人向けの訪問美容で障がいを持つお子様のカットを担当することがありました。この場合、サービスを受けられるのはお子様ですが、お母さんが課題を抱えているケースが多いです。本当は美容院に連れていきたいんだけど、美容院に行くとお子さんがパニックを起こしてしまうので自分で自宅でカットするしかないという悩みを持っている方がいらっしゃいました。子どもはいつもと違う環境だと落ち着かないし、ましてやハサミを持った知らない人がいると恐怖心が生まれますよね。そこで僕たちの訪問美容を利用して徐々に慣れていってもらうことで、将来的には美容院に通えるようになってもらえてればいいなと思っています。また、介護施設では職員の方にシャンプーやドライヤーの仕方をレクチャーするような活動も行いました。お客様の周りの方々を精神的にも技術的にもサポートすることで、それがお客様さんにとってもより良い環境に繋がります。今後もお客様をサポートしている方々にも寄り添ったサービスを展開していきたいです。お客様が卒業することでリピートの仕事は減ってしまいますが、新規の方にサービスを届けることでお困りの方の力になれるし、経営の面でも補完できると考えています。より多くの方がサービスを卒業し、そこからより困っていらっしゃる方へ口コミなどで「訪問美容サービスというものがあるんだよ」ということが広がっていくことを望んでいます。お客様が卒業することでリピートの仕事は減ってしまいますが、新規の方にサービスを届けることでお困りの方の力になれるし、経営の面でも補完できると考えています。より多くの方がサービスを卒業し、そこからより困っていらっしゃる方へ口コミなどで「訪問美容サービスというものがあるんだよ」ということが広がっていくことを望んでいます。

 

ー今後の目標や目指したい社会について教えてください。

今年の僕の目標は「傾く(かぶく)」です。本来は、斜に構えるや、風変わりなという意味を指すのですが、「美容師の枠を超える」という意味で使っています。サービスを実際に受けるお客様はもちろん、その家族の方や介護施設の方も僕らにとってはみんなお客様なんです。サポートしている方々の心も健康じゃないと、お客様も幸せになれないケースもあるので。だからこそ、訪問美容を通じてご本人のケアと、周りの方々のケアを一緒に行っていきたいと思っています。

trip salon un. HP http://c-b-un.com/
UN. GLOBAL.PRODUCT ECサイト https://tripsalonun.stores.jp/
湯浅 一也のトリスクch【訪問理美容TRIP SCHOOL.】 https://www.youtube.com/channel/UCdnC9SiY_QMpTuoDho1anMg

 

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interviewer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

 

writer
細川ひかり
生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。