事業承継をもっとオープンに。想いや意外性が尊重されるM&Aを実現する

昨今、後継者が見つからず、休廃業に追い込まれる中小企業の増加が課題となっている。小規模事業者と事業を承継したい事業者や個人のマッチングプラットフォーム、クラウド継業プラットフォーム relay(リレイ)を運営する、株式会社ライトライト代表取締役・齋藤隆太。地元・宮崎県にオフィスを構え、地方の小規模事業者の課題解決に挑む。本来秘匿性の高いM&Aの領域で、敢えて事業者の情報をオープンにするサービス設計をした理由や、地方で実現したい未来について伺った。

【プロフィール】齋藤 隆太(さいとう りゅうた)
株式会社ライトライト代表取締役。2012年、取締役を務めていた株式会社サーチフィールドで、地域に特化したクラウドファンディングのプラットフォーム「FAAVO」を立ち上げる。2018年に「FAAVO」を株式会社CAMPFIREに事業譲渡し、自身も同社に転籍。2020年に独立し、ライトライトを創業した。後継者不在の企業と、後継者になりたい人をマッチングする事業承継プラットフォーム「relay」を運営している。

事業への「想い」を大事に、オープンな事業承継を

ー現在行われている事業について教えてください。

事業承継をマッチングするプラットフォーム、「relay」を運営しています。後継者を探す小規模事業者と、継業を希望する事業者もしくは個人の出会いの場を作る場として立ち上げました。背景として現在、年間5万社近くの小規模事業者が後継者を見つけられず、休廃業を余儀なくされているという課題があります。全国的に経営者が高齢になり、経営を続けていけなくなってしまっているんです。現在後継者が未定で、2025年までに経営者が70歳を超えてしまう事業者は127万社にのぼるというデータもあります*。こうした状況で、後継者不在という課題の解決にチャレンジするため「relay」を立ち上げました。

*「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」(参考:中小企業庁

現在事業承継のマッチングに取り組んでいるプレーヤーとして、地方銀行や、M&AブティックといってM&Aをサポートする専門家などがいます。ただ、M&Aは成約した際の売却益から手数料を取るビジネスが主流なので、小規模事業者の案件は扱われづらいんですよね。そこで小規模の事業者が相談できる選択肢として、インターネット上でマッチングを促すM&Aプラットフォームが存在するんです。

「relay」に登録されている、宮崎県高原町の本屋さん


私たち以外にもM&Aプラットフォームの事業をやっているところはあります。ただどのプレーヤーも共通して、従来のM&Aのスキームをそのまま適用した秘匿性の高いマッチングを行っています。
M&Aには「秘密保持から始まり秘密保持に終わる」という原則があり、事業承継は従来情報を漏らさないように行われてきました。事業を買う側の企業は、ノンネームシートという、会社名が特定されないよう作成された資料を元にして買うか買わないかを考えなくてはいけません。もちろん業態や財務状況、従業員数などの基本情報は掲載されているので、その事業を買えば儲かるのかどうかの判断はできるようになっています。ですが、ノンネームシートからは「誰がどんな想いでやってきた事業なのか」を知ることはできませんよね。私はこれがとても勿体ないことだな、と感じたんです。小規模事業者であれば、秘匿性を保つよりも、「あのお店、無くなるんだ」と知った時に生まれる使命感のような感情から承継者が出てきてくれることの方が大事だと思います。そこで、「事業承継をオープンに。」という目標を掲げて従来とは異なるオープンなマッチングサービスを運営をしています。


ー事業を承継してもらいたい経営者の方から相談を受けて、実際に承継が決まるまでのフローはどのようになっているのでしょうか?

様々な方からのご紹介で、事業の承継先を探している事業者から相談を受けたら、まずは経営者の方に今までどんな想いでやってきた事業なのか、取材をして記事を作成します。事業承継を希望する人が現れたら、記事を読んでもらうだけでなく、承継希望者には有料で確認できる営業情報・財務情報まで購入していただき面談のセッティングに進みます。経営状況が厳しい場合などでも、ここでしっかり理解して下さった方が応募してくれるので、承継後の不満なども今のところ出てきていないですね。最後は契約書の雛形をお渡しして、承継の締結まで見守ります。

 

地方出身者が地方に戻ってきても、働いていける環境を作る

ー株式会社ライトライトを創業された動機はどんなものだったのでしょうか?

都市部に出ていってしまう地方出身者と地域をつなげることで、彼らの「いつかは地元に戻って働きたい」という願いを叶えられる環境を作りたかったからです。私自身、宮崎県出身で、大学進学を機に東京へ出ました。東京の友人たちと話す中で、地元のことが好きで「いつか地元のために何かしたい」と考えている人が非常に多いということを感じてきました。ただ想いはある反面、動くに動けないという状態で。地方への貢献の受け皿が存在していなかったので、何をしたらいいのかが誰も分からなかったんですよね。2012年には、当時取締役を務めていた会社で地域に特化したクラウドファンディングのプラットフォーム「FAAVO*」を立ち上げたのですが、「受け皿さえあれば、地方を応援したい人たちからの寄付が集まるのではないか」という想いからの立ち上げでした。

*「FAAVO」の立ち上げ経緯については、齋藤さんのnoteで詳しく解説されていますhttps://note.com/rutasai/n/n23bc2ffe8dfb

「FAAVO」は初め、宮崎県のプロジェクトからスタートしました。宮崎県の新しいチャレンジに宮崎出身者が支援をする場を作っていく中で、延長線上に考えていたのは、宮崎のために働きたい人が戻って来やすい環境を作るということでした。当時自治体などの「移住定住施策」が盛んになってきていましたが、「自然が綺麗」「ご飯が美味しい」といった誘い文句を使うんですよね。でも日本全国に自然が綺麗でご飯の美味しい土地はありますし、関係値やコミュニティがない場所にそれだけの理由で飛び込めないじゃないですか(笑)。「いつか地元に戻って働きたい」と思いながらも戻ってこられない人って、いつの間にか都市部に知り合いや大事な人が増えてしまって、コミュニティから分断されるのを恐れてしまうケースが多いと思うんです。そうならないためには、若いうちに地元の新しいコミュニティとのつながりを作って、そのつながりを濃くしていくことが重要で。そのための第一段階として、宮崎のプロジェクトと出身者の若者が出会う場を作ろうと取り組んでいました。

やがて事業が成長し、CAMPFIREへの「FAAVO」事業譲渡後の統合が完了に近づくタイミングで、小さなつながりを作る「FAAVO」から次の段階にチャレンジしたいと思うようになりました。小さなつながりやコミュニティに加えて大事なのは、その土地で働いていけることですよね。そこで地方出身者にUIターンをして経営者になってもらうところに挑戦しようと思い、ライトライトの設立を決意しました。

 

マッチングの意外性を大事にする

ー事業承継をオープンにする中で、意外性があったマッチングなどがあれば教えてください。

どのマッチングも意外性はありましたね。例えば宮崎県の高原町で、町に一店しかないパン屋さんの承継者を募集したのですが、求人紹介のTURNSさんと連携して雑誌の誌面に載せてもらったところ千葉県の主婦の方から応募があったんです。実はこの方は高原町の隣の小林市出身の方で、パン屋さんのお客さんだったので、「自分しかいない」と思ったそうなんです。従来のルートで承継を行っていたら、県内のパン屋に興味のある製造小売業に声をかけるやり方しかできなかったはずです。他にも宮崎県のバーを、日南市のローカルローカルというベンチャー企業が引き継いだという例もあります。ローカルローカルは日南酒造会館という事業者を引き継いでいて、酒類の販売免許を持っていました。バーのスペースを、自分たちの取り扱う焼酎を宮崎市内の飲食店に卸す拠点にしたいというニーズがあったんです。バーの引き継ぎは通常だとバーをやりたい人につないだり、大きな飲食店の一部門にする形になるでしょう。ですが承継をオープンに行ったことによって、想像もしていなかった巡り合わせを実現できました。

マッチングが成立したバーの元オーナーさんと買い手さん


「FAAVO」の時から、意外性という点は大事にしていました。プラットフォームは、「このアイデアは成功しないからやめた方がいい」ということは言いません。評価するのは自分たちではなくユーザーだと考えているので、どんな突飛なアイデアでも表に出すようにしているんです。事業承継をオープンにするのも同様の感覚から生まれたアイデアで、仲介する私たちが売れるか売れないかを判断しないということです。
ストーリーや想いの部分をオープンにすることで意外なところから手が挙がるかもしれない、と考えて作り上げた設計が、実際に実を結んできています。


ー「relay」で事業者の想いを尊重されているのは、「数字に現れない魅力が尊重されずに事業承継が行われるのは勿体ない」という考えだけでなく、自分たちの想像もつかないような発想を大事にしたいからという理由があったんですね。

そうですね。発想力を大事にすることのメリットは、買い手側を「自分だったらこの事業をこう変えていけるな」「もっとこういう風に盛り上げていけるな」という未来志向に変えることができるところです。一度県外に出た主婦の方にパン屋の案件が届いたり、地方の新しい盛り上げ方を考えている事業者にバーの案件が届いたりしたことがいい例ですよね。過去の実績や財務状況だけを見れば「この事業は儲からないな」と思われてしまう案件でも、アイデア次第でできることは沢山あると思います。

 

「日本全国各地に、面白い人がいる社会」を目指して

ー事業における、経営判断の軸などがあれば教えてください。

地方をいい方向に進めたり、ツールを新しく導入したりする際に、早すぎも遅すぎもしない最善のスピード感を意識しています。私は宮崎県出身で、宮崎県にオフィスを構えて事業をやっている分、「人よりも地方のことを分かっている」というところが強みだと思っていて。例えば地域の方々に、超最新のスケジュール管理ツールを導入しましょう、と提案してもポカンとされてしまいますよね。一方で今のまま何とか踏ん張りましょうという根性論では何も変わりません。いい塩梅で地域の方々がついてこられる速度というものがあるんだと思っています。

あとは一次情報を自分で取りに行く、というのを何よりも大切にしています。そうすると、旧来のM&A事業者の常識とは異なる考え方が地域の現場にあるケースが多く見られます。秘密保持が鉄則だったものを「オープンにする」ことによって新たな可能性が生まれたように、古い商習慣によって選択肢の幅が狭められているだけという状況があるので、地域のリアルを把握することが大事だと考えています。


ー今後、どれくらいの時間軸で、どれくらいのマッチングやUIターンを実現するかなど定量的な目標はありますか。

2025年までの目標として、全国で6,300社くらいの事業承継のお手伝いをすることを掲げています。経済産業省は今後10年で、家族以外の第三者への事業承継を60万社分実現したいと目標を立てています。この数字をもとに大まかに計算をすると、2025年で第三者承継に占める私たちのシェアは3割ほどになります。そしてこの目標実現のために、まずは2021年の間に100件くらいのマッチングを実現させられればと思っています。


ー最後に、今後事業を通して目指したい社会や地方の理想像について教えてください。

都心部や地方大都市などの人口が多いところだけが突出した、ボコボコした社会ではなく、平坦で滑らかで色とりどりな社会を目指したいと思っています。今は面白い取り組みをする人は大都市に集まる傾向があると思いますが、そういった「面白い人」がどんどん地方に行くようになって欲しいんです。転職が当たり前になったのですから、都市から地方への転居が当たり前になってもいいですよね。そうして日本全国各地に、面白い人がいる社会になって欲しいなと思います。

そのために、目下は事業承継の分野をオープンにして、事業承継に対する価値観を変えていきます。現在事業承継というと、「休廃業をしてしまわないように行う」というようなネガティブなイメージが先行してしまいます。ですが事業承継にはネガティブな意味だけでなく、イノベーションのチャンスというポジティブな意味もあると思っていて。地域の事業をそのまま継ぐのではなく、これまでを尊重した上で「リノベーション」してガラリと変えてしまうようなお店が出てくると面白いですよね。先ほどもお話ししたように、「relay」をやってきて、オープンな事業承継は私たちの想像もつかないような発想を生み出しうることも分かってきました。今やっていることが、地方の面白い未来につながっていると感じ始めています。

 

株式会社ライトライト https://light-right.jp/

relay https://relay.town/

 

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interviewer

馬場健

アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。

 

writer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。